医学界新聞

書評

2026.07.14 医学界新聞:第3587号より

《評者》 堺市立病院機構 理事長
前阪大大学院 教授・婦人科学 / 前日本産科婦人科学会 理事長

 以前,関連病院の部長から「うちの病院の他科は妊婦を診てくれないんですよ」という愚痴を聞いた。「妊婦も人間やろ。何で診られない,などと言われなあかんのや!」と思い,これは学生・初期研修医から教えないといけないと考えた。学生には「妊娠と薬・放射線」の講義は一番試験に出るところ,と言い続けた。初期研修医には,将来どの分野を専門にしようとも,合併症妊婦の多い阪大病院産科病棟での研修目的は「妊婦に多種の薬剤を安全に使う必要があることを知る」ことだ,と言い続けた。若者たちに「せめて,自分の専門領域の女性患者が妊娠したい,あるいはすでに妊娠して君の外来に来たら逃げるな。妊婦も人間や」と檄を飛ばし続けた。

 この『内科医と産婦人科医をつなぐ 妊産婦診療ガイド』を,私が飛ばしてきた檄をコンパクトに具現化していただいたと感謝しながら読ませていただいた。妊産婦に対する薬剤投与とその結果を丁寧に収集され,日本の薬剤の添付文書から科学的根拠に基づかない「妊娠禁忌」を外すことに尽力されてきた村島温子先生,三島就子先生をはじめとする先生方の集大成と言える力作である。日本の全ての大学医学部では学生に薬害をテーマとした講義が行われている。学生に最もインパクトを与えているのはサリドマイド禍であり,あのような悲劇を二度と繰り返してはならない。しかし,妊産婦への投薬自体を,根拠なく恐れるのではなく,催奇形性やその他の胎児への影響,授乳中の薬物動態と新生児への影響などを具体的根拠を持って「正しく恐れ,正しく行う」ことが母と子の幸せにつながることを改めてこの本から学ぶことができた。疾患を持つ女性に妊娠前から正しい情報を与え,妊娠する前に薬剤の調整を行うこと,妊娠特有の病態の鑑別,あるいは投薬の際の説明の仕方なども随所に「母性内科TIPS」として書かれ,妊娠前相談(プレコンセプションケア)から妊娠中,授乳中にも役立つ知識となっている。

 薬剤添付文書の「妊娠中・授乳中は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」という何の役にも立たない一文を乗り超え,真に必要な薬剤に関する情報を得て,疾患が妊娠に与える影響・妊娠が疾患に与える影響をコンパクトに学ぶことができる一冊である。また,その根拠となる重要な研究成果が“文献”として網羅されている点もありがたい。

 先生方がご覧になる患者の半数は女性である。少子化とはいえ出生+流産で年間約80万人の妊婦がおられ,20~45歳女性(1600万人強)の受療率はかなり低いので(10万対2000~4000程度),先生方を受診されるこの年代の女性患者のそれなりの割合が妊娠中または妊娠したい人であろう。この方々がよりよい医療を受けられるための座右の書物として,ぜひ全ての診療科の先生方にご一読をお薦めしたい一冊である。


《評者》 東北文化学園大学 医療福祉学部長
一般社団法人日本理学療法学会連合 理事長

 本書の第一印象は,“読み物として楽しい”である。それでいて解剖学の知識も整理される。しかも,解剖学者の生の声を聴くことができ,「専門家でも知らないことがあるんだ」と,読者は安心して学習を進められる気持ちになれる。

 解剖学者の素朴な疑問を反映した各節のタイトルも楽しい。「脊柱起立筋は本当に『脊柱を起立させる筋』なのだろうか?(p.18)」などは,読み手の心を揺さぶるフレーズである。著者いわく,「腸肋筋,棘筋,最長筋の中で,横突起の後方に付着し,上下方向に収縮できるのは最長筋だけであり,それこそが脊柱起立筋といえる」という。身体運動学を専門とする者からすれば,腸肋筋も左右が同時に求心性収縮すれば,体幹伸展を生じさせるので,重要な脊柱起立筋だと考えるが,解剖学者との見方の違いを知ることができ,それはそれで新鮮で面白い。

 所々に出てくる語源も理解を深める手助けになるし,ユーモアも忘れていない。「大転子の語源は,trochanter(転がるもの)がそのまま『転がっている子ども』という意味で『大転子』となっている。Big angel(大天使)と答える学生もたまにいるが,そこに天使はいない(p.50)」などは,解剖学を学ぶ者たちへの愛情が溢れ出ている。

 さて,本書の一番の特徴は,著者と運動器理学療法のエキスパートとの対話であろう。超音波画像装置を用いて,生体の内部を観察しながら臨床に取り組んでいる専門家とのやりとりは,解剖学を臨床に活かすための懸け橋になっている。第5章には「臨床に活かせる解剖学」として,そのまとめがしっかりとなされているのもありがたい。加えて,わからないことはわからないとしっかり記載されている点は,学問を究めた者だけが表明できる特権であり,逆に信頼できる。例えば,次のような記載がある。「表層の腰背腱膜から起こる多裂筋もあります。それは椎骨に起始していないので,何と呼称していいのかわからない(p.25)」。心の中で,“ええっ,そうなんですか!!”と叫びたくなる。交わされる会話にすっかり入り込んで,一緒に突っ込みながら読んでいる自分がいるのに気付く。特に,解剖学の知識をベースに,痛みの原因を深掘りしたい人にとって,本書は有益な情報が埋蔵されている宝の山のように感じられるのではないだろうか。

 本書が,これまでの解剖学書にはない,非常に刺激的な内容であることは間違いない。そのなかで,著者へ要望するとすれば,比較解剖学的視点であろう。進化論の観点から,他の動物との差異について触れてもらえれば,さらに物語性のある解剖学として読者の心に刻まれるのではないだろうかと期待するものである。

 本書は,初学者はもとより,日々悩みながら治療に向き合っている臨床家にこそ,手元に置いてもらいたい一冊である。


《評者》 東北公済病院 看護部長

 本書は,2005年1月から2025年12月までの20年間にわたり医学界新聞に連載された「看護のアジェンダ」251編の後半部分を収録したものである。本書のタイトルでもある「看護のアジェンダ(検討課題)」について,臨床と教育のそれぞれで多くの経験を持つ著者が,看護の課題のうち自身のアンテナに触れたものを取り上げ,さまざまな角度から論じている。

 月に一度,医学界新聞が届くと,私は真っ先に「看護のアジェンダ」のページを開く。私が勝手に師と仰ぐ著者の看護を吸い込むためだ。著者の言葉は,時に私の背中を押し,またある時は立ち止まらせて正しい道を示してくれた。

 たとえば「看護師長会議の議長は誰がすべきか」(p.237,本紙第3483号)を読んだときには,はっとさせられた。というのも,当院の看護部でもいつの頃からか,師長が持ち回りで「司会」を行うようになっていたからである。師長会議の前には司会と議題を確認し,司会が会議を進行する。しかし司会は時間通りに進行することに重きを置いているため,ここはもっと深く議論したいと思っても,時間で切り上げられてしまう。私はその状況にもやもやを感じていたものの,自分が師長会議の議長をするという決断はできずにいた。そんな折,著者から背中を押していただき,ようやく変化への一歩を踏み出すことができたのである。

 また,「本当の看護を求めて」(p.33,本紙第3225号)は,私の迷いを払拭してくれた。この回は,著者が「看護の危機という悪魔がひたひたと近づいていて」と危機感を述べるところから始まる。そして,その危機の四つ目として,「看護管理者は経営に貢献すべきであるという風潮があり」と指摘している。確かに私自身,看護部長として病院経営に参画しているため,多くの時間を診療報酬改定への対応などに費やしている。そのことに,自分の仕事は看護師ではなかったのかと自問することが何度もあった。これに対して著者は,「看護管理者の最も大きな使命は,自分の組織において提供される看護サービスの質に注目し,患者の尊厳や安楽が脅かされていないかに腐心することである」と力強く訴えていた。「本当の看護を求めて」を再読した私は,病棟に赴く時間を増やし,スタッフと看護を語る時間を増やすことを始めたのである。

 新型コロナウイルスの感染拡大を背景に,人との接触が厳格に制限される中での看護師の在り方,看護の本質を説いた「世間話の値打ち」(p.205,本紙第3442号)は,私にとって看護の原点となる体験と重なった回であった。共にその場にあることで,お互いを認め合い,尊いと思える。そして,そのことが人を人として生きることを支えるのではないかと私は思っている。そのため私は,新任の師長・主任にオリエンテーションを行う際,「世間話の値打ち」を読んだ感想と今後の課題をまとめることを課している。

 新任管理職たちは,「世間話の値打ち」を読むことでこれまでの自身の看護を振り返り,看護観とこれから磨きをかけていきたいことを書いて提出する。提出された課題の一部をここでは紹介したい。「常々,患者の思いに寄り添うことを大切にしてきた。(中略)がん末期の患者とのかかわりで,これから残された時間をどう生きていくのかの選択をする必要があった。患者のつらく,悲しく,どうしようもないという思いを,ただ一緒に過ごす。何も言わずただ寄り添う,それしかできなかったが,その時間があったからこそ,患者が自分に心を開いてくれたのだと思う」。「看護のアジェンダ」の力を借りながら,このように新しい管理職のこれからの実践を言語化してもらうことが,毎年の私の楽しみである。

 このほかにもたくさんのストーリーがあり,著者の描く人物は,温かみがあり色がある。いずれも愛情をもって描かれているのを感じる。

 これからもこの本が,アジェンダと向き合う私たち看護職のそばで伴走してくれる一冊であり続け,広く読まれることを期待している。


《評者》 慶大内視鏡センターセンター長・教授

 著者の平澤欣吾先生(以下,親しみをこめて欣吾先生とお呼びする)は,私より少し上の世代に当たるが,個人的に深い信頼を寄せ,現在最も敬愛する内視鏡医の一人である。欣吾先生は言うまでもなく,日本を代表する卓越した技術を有する内視鏡医である。しかし真に特筆すべきはその,技術にとどまらない広い視野と科学的思考である。常に客観的な裏付けを重んじ,根拠に基づいた判断を冷静かつ謙虚に下す姿勢こそが,『平澤欣吾』という内視鏡医を最も的確に表している。

 本書のタイトルに掲げられた「こだわらない」は一見するとマニアックな細部への執着を捨てた,標準化された没個性的な治療を思わせる。しかしその実,本書では術前診断から鎮静法,切除手技,トラブルシューティング,術後管理,果ては検体の取り扱いに至るまで,あらゆる局面において多様な手法の長短を熟知し,その時々に最適な選択を導く姿勢が全編に貫かれている。すなわち,特定の手技やデバイスに執着することなく,患者にとって最良の結果を導くために自由で柔軟な判断を貫くという,極めて高次元の「こだわり」の凝縮された一冊なのである。

 また本書は単なる技術解説書にとどまらないメッセージに溢れている。欣吾先生が重視するチーム医療の理念,根拠に基づく教育の在り方,若手育成への熱意が随所に感じられる。症例を通して語られる洞察には,経験の裏付けとともに,後進に伝えたい哲学がにじむ。教育者としての欣吾先生の真摯な姿勢が垣間見えるのも,本書の大きな魅力である。

 これから内視鏡治療の扉を開けようとする若手医師には,新たな発見と刺激を。少しずつ手技の奥深さを理解し始めた中堅医師には,次のステップへの指針を。そして自らの「こだわり」を確立しているベテラン医師には,そのこだわりを再考する契機を与えてくれるだろう。世代や経験を問わず,全ての内視鏡医に自信を持って推薦できる一冊である。


《評者》 京大病院消化管外科

 この書評を書くにあたり,最初に断っておきたいことがある。

 タイトルにある「ライフハック」という,一見ありきたりなワーディングに決して騙されてはいけない。よく見るライフハック本とは一線を画し,仕事の時短術や生活の知恵,裏技のような単なるテクニック集とは程遠い高みにある。本書の正体は,著者の圧倒的なインプットに裏付けられた,究極のナラティブレビューである。書店の話題書コーナーでよく見かけるビジネス書や自己啓発本の「医師向けバージョン」だと侮ってはいけない。

 「ナラティブレビュー」と書いたのは,それが医師にとって,一つの発信の形態を表すなじみ深い言葉だと思うからである。というのも本書では,キャリア論や学習法,発信,教育,組織論と多岐にわたるテーマにおいて,全39冊もの書籍が紹介され,それらを出典として引用しながら,医師に必要な知識が体系的に整理されている。著者はおそらくこの数十倍の書籍を読んでいるはずで,中でも選りすぐりの作品を選び,大事なエッセンスを抽出して展開しているのだろう。この本を読むことそのものが,各分野のオピニオンリーダーの脳内を「時短」的にのぞき見て,血肉にできるという点で紛れもない「ハック」である。

 むろん本書は単なるレビューにとどまらず,39歳の若さでリーダーとなった著者の豊富な経験で絶妙に味付けされているために,唯一無二の作品となっている。誇張抜きに,「この類の」(とあえて書く)作品の中では,群を抜いて後輩に薦めたい書籍である。

 また私が感じた本書の優れた点は,著者の豊かな人柄,多様性を重んじる寛大さが随所に表れていることである。一般的に「ハック」をうたうビジネス書は,ともすると著者の強い思想や揺るぎない信念が読者に「圧」となって迫るものが多い。この種の本は得てして相性があり,「刺さる人には刺さる」一方,読者を選ぶ作品が多いと感じる。またその「圧」は一時的には読者の心を動かすのだが,その実,特段の行動変容につながらないケースも少なくない。

 ところが本書は,「人によって合う合わないがあると思います」として読者に寄り添い,持論から導いた「ハック」を決して読者に押し付けない姿勢を貫いている。読者は,著者から与えられる豊富な情報から自分に合うものを選び取り,自身の人生を自分仕様に豊かにすればよい。そういう著者の優しさが心地よいのである。

 なお本書は,医療界ではなじみの薄い用語を多種多様に紹介してくれる。バッチ処理,MECE,VUCA,グロースマインドセット。「知らない」と思った人は,必ず本書を読んだほうがいい。「言われてみればそうだ」と思えるような,日頃出合う困難やその解決策,うまく言語化しづらい感情や事象にも実は「名前がついている」と知り,そのタームを使えるだけでも思考は断然はかどるからである。私自身,「名付け」は問題解決の効率性を高めるツールだと日々感じているが,それが本書を読めばよく実感できると思う。

 特に若手の医師は,キャリアの早いうちに本書を読み,人生設計に生かしてほしい。その上で引用元の書籍を読み,さらに関心を広げるのがおすすめである。