医学界新聞

サルコペニアの予防・早期介入をめざして

寄稿 若林 秀隆

2026.03.10 医学界新聞:第3583号より

 2025年11月にアジアにおける新しいサルコペニア診断基準であるAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS) 2025が公開された1)。今後のサルコペニア診断には,従来のAWGS 2019ではなくAWGS 2025を使用することになる。診断基準変更の背景には,サルコペニアの国際的なグループであるGlobal Leadership Initiative in Sarcopenia(GLIS)の存在がある。2024年にGLISから,サルコペニアの概念的定義に関するコンセンサス論文が発表された2)。この中で,筋肉量と筋力はサルコペニアの構成要素のままだが,身体機能はサルコペニアの構成要素ではなくアウトカムと見なされることとなった。AWGS2019では低筋肉量に加えて低筋力もしくは低身体機能を認めた場合にサルコペニアと診断していたが,GLISによるコンセンサスを受けてAWGS2025では低身体機能が診断基準から除外され,低筋肉量および低筋力の場合にサルコペニアと診断する。

 AWGS2025のサルコペニアの診断アルゴリズムを1)に示す。サルコペニアのスクリーニングは,AWGS2019と同様に2つのセッティングに分かれている。プライマリ・ケアまたは地域の予防医療の現場では,危険因子がある場合もしくは症例発見に該当する場合に評価へ移行する。急性期から慢性期の医療または臨床研究の現場では,症例発見に該当する場合に評価へ移行する。

 

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図 AWGS2025のサルコペニアの診断アルゴリズム(文献1より転載)

 評価の指標となる握力においては,AWGS 2025ではサルコペニア診断の対象を50~64歳に拡大し,年齢別のカットオフ値が新設された。これらのカットオフ値は,アジア人コホート研究の統合データで,下位20パーセンタイルに相当する数字として設定された。握力低下の場合にはサルコペニアの可能性ありと診断し,筋力は正常だがサルコペニアの危険因子が陽性の場合は,サルコペニアのリスクありと診断する。

 サルコペニアの可能性ありと診断された患者は,確定診断のために四肢骨格筋量を測定する。測定方法は二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)か生体電気インピーダンス法(BIA)である。AWGS2025では,身長の2乗で補正したカットオフ値とは別に,BMI補正のカットオフ値が新設された。日本人ではBMIが24以上の場合,身長の2乗での補正した四肢骨格筋量では,低骨格筋量と診断されることがほとんどないためである。四肢骨格筋量のカットオフ値も筋力と同様,年齢別で新設された。

 AWGS2025の論文タイトルには“A focus shift from sarcopenia to muscle health”つまり,サルコペニアからマッスルヘルス(Muscle Health)への焦点の移行と冠されている。マッスルヘルスには,年齢・性別に応じた最適な筋量と筋力,効率的な代謝機能,適切な筋線維タイプ分布と可塑性,核移動機構を含む強固な再生能,神経筋接合部における効率的な情報伝達,健全なミトコンドリア機能,均衡の取れたタンパク質代謝回転といった複数の生理学的特性が含まれる。高齢期以前から早期にサルコペニアと診断することも重要であるが,AWGS2025では診断にかかわらず今からもしくは50歳から有酸素運動やレジスタンストレーニングなどの運動,または栄養摂取を行うことによるマッスルヘルスの促進をめざしている。

 AWGS 2025の大きな特徴は,WHOが提唱するアプローチ「高齢者のための統合ケア(Integrated Care for Older People:ICOPE)」をマッスルヘルスの促進に適応させた点にもある。ICOPEの目的は,高齢者が身体的・精神的な能力をできるだけ維持し健康寿命を延伸することであり,ここで鍵となるのが内在的能力という概念だ。ICOPEにおける内在的能力とは,個人のすべての身体的・精神的能力の合計であり,移動能力,認知機能,視力,聴力,心理機能,活力の6つで構成されている。このうち,マッスルヘルスは移動能力と活力の維持に直結する。そのためAWGS2025では,ICOPEが提唱するケアの流れ(基本的評価→詳細な評価→個別化されたケアプランの作成→実施・モニタリング→再評価)に沿って,サルコペニアの診断や介入などを行うことを推奨している。

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 診断アルゴリズムを参考に介入を進めていただきたいが,実臨床において,四肢骨格筋量をDXAやBIAで測定できず診断をつけるフェーズまでたどり着かない場合がある。サルコペニアの可能性ありのケースでは,原因を臨床推論した上で原因に見合った運動と栄養の介入を行ってほしい。さらに意識障害などで握力測定も困難な場合には,ふくらはぎの一番太いところの周径である下腿周囲長を測定して,男性34 cm未満,女性33 cm未満の場合には,サルコペニアの疑いとして運動と栄養の介入を行う。また入院患者の場合には,50歳未満でも50~64歳のカットオフ値を使用して握力が低下していれば,サルコペニアの可能性ありとしてリハビリテーション栄養の介入を行うことが重要である。

 2025年に「サルコペニア・フレイルの予防・改善に関するデジタルヘルスのためのガイドライン」3)と「サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025」4)が作成された。デジタルヘルス介入のエビデンスは限定的であるが,レジスタンストレーニングや複合運動が強く,栄養補充または運動に栄養補充の併用が弱く推奨されている。後者は,栄養素ごとの栄養・食事介入や,臓器不全や疾病に伴うサルコペニアへの栄養・食事介入の有用性をまとめている。特に入院患者は,急速にマッスルヘルスが悪化して入院関連サルコペニア5)となりやすいので,入院後早期からの適切なリハビリテーション・栄養・口腔連携でマッスルヘルスを悪化させないように実践してほしい。


1)Nat Aging. 2025[PMID:41188603]
2)Age Ageing. 2024[PMID:38520141]
3)サルコペニア・フレイルの予防に関するヘルスケアサービスのためのガイドライン開発研究班(編).サルコペニア・フレイルの予防・改善に関するデジタルヘルスのためのガイドライン.ライフサイエンス出版;2025.
4)日本臨床栄養学会,他(編).サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025.南江堂;2025.
5)J Gen Fam Med. 2023[PMID:37261047]

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東京女子医科大学病院リハビリテーション科学講座 教授・基幹分野長

1995年横市大医学部医学科を卒業後,2016年慈恵医大大学院医学研究科臨床疫学研究部を修了。横市大附属市民総合医療センターリハビリテーション科准教授等を経て21年より現職。日本サルコペニア・フレイル学会理事。日本カヘキシア・サルコペニア学会副理事長。Society on Sarcopenia, Cachexia and Wasting Disorders理事,およびAsian Working Group for Sarcopenia2025メンバー。著書に『生活期におけるリハビリテーション・栄養・口腔管理の協働に関するケア実践マニュアル』(医学書院)など。

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