医学界新聞

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基礎教育からDNPまで,求められる学びと役割

対談・座談会 森本明子,浅田美和

2026.07.14 医学界新聞:第3587号より

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 医療の高度化や患者ニーズの多様化が進む中で,看護職には経験や慣習のみに依存しない,科学的根拠に基づく実践(Evidence-Based Practice:EBP)の重要性が広く認識されるようになってきた。一方で,研究によって生み出された知見を日々の臨床にどのように生かしていくのかという点には,なお課題が残されている。このたび『EBP in Nursing――科学的根拠に基づく看護実践』(医学書院)を上梓した森本氏は,その鍵を握る存在としてDNP(Doctor of Nursing Practice,MEMO)に注目する。基礎教育から臨床実践までを見据えながら,EBPを根づかせるために必要な視点について語り合った。

DNPは,高度実践看護師の最高学位であり,研究成果の実践的な応用と高度な臨床スキルを持ち,臨床現場の変革を担う実践家を育成する教育課程である。米国では約20年前から大学院教育の変革の中でDNPへの注目が高まり,高度実践看護師の新たな博士教育として発展してきた。日本でも,看護実践の複雑化や医療ニーズの多様化を背景に,臨床でEBPを推進し,変革を牽引する人材としてDNPへの期待が高まっている。

森本 昨年開かれた第27回看護国際フォーラムで「臨床現場での医療・看護の質改善におけるDNPの役割」について浅田さんが発表されている姿を拝見し,ぜひ一度お話を伺いたいと思っていました。このような機会をいただきありがとうございます。EBPの意義に異論を唱える方は少ない一方で,実際に取り組むのは容易ではなく,現場との隔たりを感じることも少なくありません。そうした中で,浅田さんが修了されたDNPは,EBPを臨床実践へと結びつける存在として,今後ますます重要になると感じています。

浅田 そう言っていただけてうれしいです。当院はマグネット®ホスピタル認証を受けており(),その基準の一つとして,エビデンスに基づく実践と,その成果をアウトカムとして示すことが常に求められています。自分たちはよい看護をしているつもりでも,それを実証,言語化することの難しさを感じ,研究と実践をつなぐ視点を学ぶためにDNPコースに進学しました。ちょうど同じ時期に当院QI(Quality Improvement)センターの職務も担うことになり,DNPでの学びをそのまま業務に生かせる環境に身を置くことができました。

森本 医療は高度化・複雑化し,患者さんの価値観も多様化しています。限られた医療資源の中で,より質の高い看護を実現するために重要なのがEBPです。EBPとは,研究によって得られた信頼性の高いエビデンス,医療者の専門知識・技術,そして患者さんの好みや価値観を統合し,質の高い看護を実践するためのアプローチを指します。世界的にも看護実践の基盤として位置づけられており,日本でも教育・臨床の双方で重要性が高まっています。

浅田 医療の質向上のためにEBPの考え方が必要であることは,臨床ではもはや前提になりつつあります。私が所属するQIセンターでは,医師や薬剤師,セラピストなどさまざまな専門職と議論しながら意思決定を進める際,EBPが「何を根拠に判断するのか」の共通軸であり,多職種連携における共通言語になっています。

 またEBPを実装したことで介入と評価の基準が明確になり,以前であれば「最近転倒が少ない気がする」「褥瘡の発生率が減ったかもしれない」と感覚的にとらえていたことが可視化されるようになりました。成果が見えることは純粋にうれしいですし,「看護は面白い」「自分たちの仕事には価値がある」との実感にもつながっています。

森本 高齢化や在院日数の短縮,より重症度の高い患者さんの受け入れなど医療を取り巻く環境が変化している今,これまでと同じ水準の成果を維持することさえ容易ではありません。そんな中,成果が見えているのは素晴らしいことです。

 そうした成果を生み出すためにも,限られた時間や人員の中で「何を優先して実践するのか」を見極める視点が非常に重要だと思います。EBPは,あれもこれもと看護実践を増やすのではなく,患者さんにとって本当に必要で,効果が期待でき,価値のあるケアを選択する,あるいは十分な効果が認められない実践については思い切ってやめる。その判断を支えるものでもあります。

浅田 EBPは,プロセスの難しさや大変さから一見すると遠回りに見えます。しかし実際には,エビデンスに基づいて実践を見直すことで,効果の薄い取り組みに時間を費やさずに済みます。患者さんのアウトカムにつながるだけでなく,限られた資源の中で看護師の力を効果的に発揮できる環境づくりにも資するのではないでしょうか。

森本 臨床現場で働く看護師さんと話していると,EBPに関するいくつかの誤解に遭遇します。一つは,看護研究とEBPとの混同です。看護研究は新たなエビデンスを生み出す営みであり,新規性が求められます。一方で,EBPは診療ガイドラインやシステマティックレビュー,介入研究など,既存のエビデンスを活用しながら目の前の実践をよりよくしていくプロセスです。両者は看護の質向上をめざす連続した営みですが,同じものではありません。

 また,「EBPとはエビデンスを機械的に当てはめることだ」と誤解されることも少なくありません。しかし,EBPにおけるエビデンスは,あくまで患者ケアの意思決定を支える一要素です。研究によって得られた最良のエビデンスを,医療者の専門性や患者さんの価値観と統合しながら実践に生かしていくことが大切です。日々の看護実践と切り離された特別なものではないと知っていただきたいです。

浅田 「EBPを実装・標準化するとケアが画一化してしまう」との声も現場では聞きます。けれども,標準化とは,患者さんに届けるべき効果が認められているケアを,誰もが提供できるようにすることです。その土台があってはじめて,医療者の経験や患者さんの個別性を反映した,より質の高い看護が実践できるのだと思います。

森本 EBPの実践において,DNPはどのような役割を担っているのでしょうか。

浅田 PhDが新たなエビデンスを生み出す役割を担うとすれば,DNPはそのエビデンスを患者さんに届けるために,現場へ実装していくリーダーです。実践につなげる仕組みをつくり,スタッフへの教育を行い,取り組みやすい環境を整えることが求められていると感じます。

 具体的には,当院ではEBPの5ステップ1)をもとに,半年ほどかけて実際のプロセスを経験してもらう「ケアの質改善研修」を2021年から開講しています。参加者は,日頃気になっている臨床疑問をPICO/PECOの形に整理し,文献検索,エビデンスの統合,実践への落とし込み,評価までを行います。1人で全プロセスに取り組むのは負担が大きいため,4~5人のチームで取り組み,修士・博士課程を修了した看護師にファシリテーターとして支援してもらっています。座学で終わらせず,患者さんに届けるところまで経験することを大切にしています。

森本 そこまで体系的に取り組まれているのは本当にすごいと思います。基礎教育でも看護研究の文脈でPICO/PECOを学ぶことはあっても,EBPを実践につなげる形で学ぶ機会は十分とはいえません。実践への落とし込みは,現場のスタッフにとって相当大変なのではないですか。

浅田 ええ。特に難しいのは,論文の批判的吟味のようです。統計や研究デザインの知識が必要になるため,「この結果をどう解釈すればよいのか」「自分たちの対象患者さんに適用できるのか」と悩む姿を見かける場面は少なくありません。現場の忙しさもある中で,体系的な理解には高いハードルが存在することも事実です。

 それでも,ファシリテーターの力を借りながら研修の最後までたどり着くと,「大変だったけれど面白かった」と話してくださる方が多いです。EBPの難しさを実感しながらも,自分たちの実践を見直し,改善につながる手応えも感じてもらえているのではないかと思います。

森本 EBPのプロセスを辿るには,最初はとても時間がかかります。しかし,繰り返し実践することで,少しずつ日常の思考として身についていくはずです。素晴らしい取り組みですね。

 さらに,私はDNPにもう一つ重要な役割を期待しています。それは,EBP実践の中で生じた問いを研究へとつなぐ役割です。現場で生じた「本当にこの患者さんにも当てはまるのだろうか」「参考にできるエビデンスが見当たらない」といった疑問や課題こそが,新たな研究の出発点になり得ると思うのです。

 実践との往還がなければ,研究成果は患者さんに十分還元されません。現場の声を研究者に届けることで,実践に根ざしたエビデンスが生まれ,それが再び現場へ還元される。DNPは,そのような好循環を生み出すキーパーソンだととらえています。

浅田 確かにその視点は重要ですね。せっかくのエビデンスを臨床側が十分にキャッチできていないこともありますし,研究者側からの発信も欠かせないと思います。お互いが協働することで,もっと実践につなげていけるはずです。そのためにも,まずは現場でEBPを広め,研究と実践が往還する土台をつくることが求められています。今回,森本先生らが上梓された書籍は,EBPを一部の専門家のものではなく,学生や臨床家が日常的に活用するものとして学べる点が大きな魅力だと感じました。

浅田 森本先生は,今回の書籍を基礎教育の段階から使うことを視野に入れて執筆されたのですよね。

森本 はい。基礎教育の段階からEBPを取り入れていく必要があると思っています。米国では基礎教育や臨地実習にも組み込まれていますし,日本でもようやく令和6年度改訂版の看護学教育モデル・コア・カリキュラムで「患者ケアのための臨床スキル(CS:Clinical Skill)」として「根拠に基づいた看護実践」が明記されました。今後,全ての看護職に共通する看護の基盤になっていくでしょう。

 けれども,EBPを実践するには,さまざまな力が必要です。看護実践に適用するエビデンスの多くは介入研究に基づいているため,研究デザインやバイアス,統計指標について一定の理解が必要ですし,英語論文を扱う場面も少なくありません。また,それ以上に大切なのは,「もっとよい方法はないだろうか」と問いを立てる力です。今の実践を当たり前だと思ってしまえばEBPは始まりません。目の前のケアに疑問を持ち,よりよいケアを考えようとする姿勢こそが出発点になります。

 今回の書籍では,そうした個人のEBP能力の土台づくりに焦点を当てました。組織としてEBPを実装するためにも,まずは一人ひとりが基本的な考え方とプロセスを身につけることが大切だと考えています。

浅田 この書籍の内容を学部教育の段階で学べるとしたら,本当に贅沢なことだと思います。学生には,まずどのあたりまで身につけてほしいと考えているのでしょうか。

森本 本学では,2年生を対象に,EBPに必要な基礎知識を教えています(2)。学生の段階で論文をしっかりと批判的吟味できるようになる必要はありませんが,「この研究はどの程度信頼できそうか」「どこに注意して読めばよいのか」といったポイントを押さえられるだけでも,その後の実践は大きく変わります。

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表 EBP「基礎」の到達目標の例(『EBP in Nursing』,4章とびらより転載,一部改変)

 看護過程などと同じように,科学的思考としてのEBPに学生のうちから触れておくことは,将来,「よりよいケアとは何か」を臨床で考え続ける土台になると確信しています。

浅田 同感です。多くの学生が何のために学んでいるのか実感しにくい統計学も,実はEBPを支える大切な基礎なんですよね。

森本 基礎教育における統計学は,これまで卒業研究のための準備としてとらえられがちだったと思います。しかしEBPの視点に立てば,統計学は目の前の患者さんにエビデンスを適用する際に欠かせない知識です。学生が統計学で得た知識をEBPにつなげられるよう,工夫しながら教えています。

浅田 生成AIの登場によって文献検索や要約のハードルは大きく下がりました。ただし,AIが論文の妥当性まで批判的に吟味してくれるわけではありません。「これは本当に信頼できるのか」「この患者さんに適用してよいのか」を判断することはEBPの本質的なプロセスであり,最終的には人間の役割です。

 DNPの立場からすると,そうした知識を基礎教育の段階から身につけた方々が現場に入ってきてくださると本当に心強いです。一方で,今まさに現場で働いている方々が新しい考え方についていけず疲弊してしまわないよう,時代の変化に応じて学び続けられる環境を整えることも大切にしたいですね。

森本 教える側にとっても学ぶ側にとっても,EBPは確かにハードルがあります。それでも,EBPを学ぶことは,看護の専門性や自律性を高めることにつながると信じています。近年では,看護の価値を社会に示し続けていくことが求められています。先人たちの努力によって築かれてきた看護学をさらに発展させていくためにも,看護師一人ひとりが科学的な思考を身につけ,目の前の患者さんにとって最善の実践を主体的に考えられるようになることが大切だと思います。EBPは,そのための手段です。

浅田 結局,看護を実践するのは人です。どれほど優れたエビデンスがあっても,患者さんに届けるには人と人をつなぎ,周囲の理解を得ながら,合意を形成していくプロセスが不可欠です。つまり,EBPは知識だけで完結するものではなく,現場での対話と調整の中で初めて実装されるものであり,そこにDNPとしての役割があるはずです。

 また,現場で生まれた問いを研究に届けるという役割も,あらためて意識したいと感じました。臨床と大学,つまり実践者と研究者が共に学び,その成果を社会へ還元する。私自身も,DNPとして学会発表や論文執筆にさらに力を入れていきたいと思いますし,そうした循環がこれからもっと広がっていくことを願っています。

森本 ぜひ,多くの方にEBPを学んでていただき,よりよい看護実践につなげていただけたらうれしいです。本日はありがとうございました。

(了)

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:米国看護師認証センターが卓越した看護および質の高い患者ケアを提供する医療機関を認証するもの。聖路加国際病院は2019年11月に日本で初めて認証され,2024年8月に認証を更新した。

1)Melnyk B, et al.Evidence-based practice in nursing & healthcare: a guide to best practice(5th ed.). Wolters Kluwer. 2023.
2)森本明子,園田奈央,古木秀明.EBP in Nursing――科学的根拠に基づく看護実践.医学書院;2026.

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聖路加国際病院看護部 副看護部長 / QIセンター医療の質管理室

聖路加看護大(当時)卒業後,聖路加国際病院の外科病棟で勤務。修士課程で看護管理を学び,2023年3月に聖路加国際大大学院看護学研究科博士後期課程DNPコースを修了する。現在は聖路加国際病院看護部にて副看護部長として勤務し,QIセンター医療の質管理室を兼務。DNPコースでの学びを生かした医療の質改善活動に関する取り組みを行っている。

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大阪公立大学 学長特別補佐 / 看護学研究科 教授

循環器・呼吸器・救急病棟で看護師として勤務後,阪大大学院にて博士(保健学)を取得。専門は基礎看護学,看護情報学,看護データサイエンス。2020年より大阪府立大教授,2022年より大阪公立大教授。2025年より同大学長特別補佐,2026年より同大SX共創センター長を務める。AMED科学技術調査員,厚生労働省委員なども歴任。著書に『EBP in Nursing――科学的根拠に基づく看護実践』(医学書院)など。