- 医学
教育の再設計に挑戦する
薬剤師の臨床能力を育むために
対談・座談会 平田收正,亀井美和子,石井伊都子
2026.07.14 医学界新聞:第3587号より
薬剤師の将来的な供給過剰が予測される中,薬剤師業務の充実と資質向上が急務となっている。このような社会の変化を見据えて,2022年度改訂の薬学教育モデル・コア・カリキュラム(以下,コアカリ)では責任ある薬物療法を実践できる薬剤師の養成をめざした「臨床薬学」領域が新設された。さらに2024年には卒後臨床研修の到達目標や研修の方略を規定した薬剤師臨床研修ガイドラインが公表されるなど,薬剤師の教育制度は卒前・卒後ともに過渡期にある。本座談会では,コアカリや国家試験の基本方針の策定に携わる平田氏と亀井氏,現場での卒後研修の体制構築に尽力する石井氏を招き,現在の課題をひもときながら,現場で真に活躍できる薬剤師をいかに育成していくか議論した。
過剰予測をどう乗り越えるか
平田 厚生労働省による今後の薬剤師の需給推計では,将来的な供給過剰が予測されており,文部科学省や厚生労働省から薬学部定員の適正化に関する方針が示されています1)。先生方はこの現状をどのようにお考えでしょうか。
亀井 定員割れを起こす大学が増加している現状を見れば,入学定員の抑制自体は避けられない問題だと認識しています。一方で単に定員,つまり供給を減らすという数的議論だけでなく,社会に求められる薬剤師をどう輩出していくかをもっと議論すべきだと感じています。一番危惧しているのは,薬剤師過剰や定員削減という言葉ばかりが先行し,薬剤師という職業の魅力が低下してしまうことです。薬剤師が魅力的な仕事として認知されなければ,薬学部も薬剤師業界も共に沈んでしまいます。
石井 おっしゃる通りです。そもそも薬剤師の仕事は外から見えない部分も多く,魅力が伝わりづらい側面があります。例えば病院では,病棟に配置されている薬剤師は圧倒的に人数が少なく,患者さんとかかわれる時間は限られています。コロナ禍においては,薬剤師は院内の情報整理や法律に則ったルールの構築など,患者さんに見えない院内の裏側で膨大な交通整理を行っていました。
亀井 地域に目を向けても,患者さんになかなか知られていない役割がありますよね。薬局やドラッグストアを拠点に健康支援や予防医療を担うことも薬剤師の重要な役割です。病気になる前の段階からかかわれる職種は限られており,私たち自身がその役割を自覚し,健康維持・増進から重症化予防まで幅広く職責を果たしていくことが,社会的なニーズを高めることにつながります。
石井 薬剤師の主な役割は周知のとおり薬物治療のマネジメントと言えますが,そこを起点とした多岐にわたる役割をどう発揮し,かつ社会にどう伝えていくかは大きな課題です。
平田 お二人の話を伺って,薬剤師業務の充実とその役割の周知こそが重要だと再認識しました。薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会のとりまとめ資料(提言概要)では2045年における薬剤師の需給推計が示されています2)。18歳人口減少などによる薬学部への進学者数の減少を考慮した供給推計と,薬剤師業務が現行のまま維持される場合の需要推計では約10万人が過剰となる予測です。ただ,在宅業務や健康サポート機能,急性期病床での業務などが拡大した場合は2~3万人ほどに需給のギャップが小さくなると予測されています。薬剤師が魅力的な職種であり続けるためにも,数値上の定員削減などで供給を抑えることだけでなく,需要を高めることでギャップを狭める方向で考えるべきですね。
実務実習のさらなるアップデートをめざす
平田 とりまとめを受けて,2022年度に改訂されたコアカリでは,大学初年次から疾病の予防や個々の患者の状況に適した責任ある薬物療法が実践できる薬剤師の養成をめざし,「臨床薬学」という大項目(註)が設けられています3)。臨床薬学では①実務実習前に大学で行う患者個別の薬物治療を中心とした学修,②医療現場等で患者・生活者から学ぶ実務実習,③実務実習終了後に大学で行う臨床薬学の深化・一般化に向けた学修の3つのフェーズ(表)4)が設定され,これに対応して「臨床における実務実習に関するガイドライン」も策定されました。
石井 ガイドラインの策定により,実務実習の役割が明確になりました。ただ,臨床能力を育成する上で,実務実習の在り方はさらなるアップデートが必要だと考えています。②の薬局と病院を合わせた22週の実習期間をさらに延長する必要はないと考えるものの,内容は抜本的に見直すべきです。座学で得た知識と,現場での実際の業務をすり合わせるのが実習の第一歩ですが,特に薬局実習ではどうしても同じ作業の繰り返しになりがちで,職業訓練になってしまっている側面があります。実習の本来の目的は,経験の幅を広げ,さまざまな業務を知る中で,自分がどのような領域に向いているのかを考えることにあると思います。
亀井 そうですね。5年次になっていきなり長期の実習を行うのではなく,低学年のうちから短期間でも臨床現場を経験する段階を設けるのも1つの方法です。経験を段階的に重ねることで,22週間の実習がより意義深いものに変わるはずです。
平田 今回のコアカリ改訂で,これまでの実務実習の事前学習から発展し,疾患や医薬品の知識を学ぶ大項目「医療薬学」での学修を基盤として患者個別の薬物治療まで踏み込んだ学修まで求めるフェーズ①が設定されたことにより,フェーズ②での学修効果は高まると思います。なお,実務実習が単なる作業の繰り返しに陥ってしまう背景には,送り出す大学側の意識にも課題があるはずです。国家試験に向けて学生ごとに学修状況の差が出ないよう,依然として多くの大学ができるだけ一律の実習内容を臨床現場に求めてしまっているように思います。質の高い薬剤師養成をめざして,各大学で人材育成の明確なポリシー,目標を持ち,自由度の高い実務実習を設計していくべきです。
石井 実習の在り方を考える上で,実習生の法的な立場を教員が正しく理解していないことも大きな課題だと感じています。例えば,医学部では実務実習で医行為を行うために共用試験(CBT・OSCE)を経て「スチューデント・ドクター」という資格を得る必要があります。一方の薬剤師はそもそも医行為を行いませんから,一部の例外を除けば,実習生であっても薬剤師とほぼ同等のことができるはずです。学生が実施可能な業務範囲への理解が進めば,現場での実習が,より実践的で考える力を養う内容に変わっていくはずです。
次世代の教育を担う教員の育成
平田 教員の意識という点に関連して,現場経験を持つ臨床教員の不足や,その役割の曖昧さも課題として挙げられます。臨床で活躍できる薬剤師を育てるべ...
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平田 收正(ひらた・かずまさ)氏 京都薬科大学 学長
1982年京都薬科大卒。87年阪大大学院薬学研究科博士後期課程修了。同大教授,副理事,総長補佐などを経て,2021年より同大名誉教授。その後,和歌山県立医大薬学部教授および副学部長を務め,26年4月より現職。薬学教育モデル・コア・カリキュラム改訂に関する専門研究委員会委員,薬学教育評価機構薬学教育質保証委員会委員長,認定実務実習指導薬剤師養成研修委員会委員長など学外の要職も多数務め,薬学教育の質保証・向上を牽引している。

亀井 美和子(かめい・みわこ)氏 帝京平成大学 薬学部長 / 教授
1987年日大理工学部薬学科卒,93年筑波大大学院経営・政策科学研究科修了。修士(経営学),博士(薬学)。日大専任講師,昭和大薬学部教授,日大薬学部教授などを経て,2020年より現職。専門領域は,薬剤給付制度や地域連携などを対象とする社会薬学であり,医療の質の改善に向けた研究に尽力している。薬学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)の作成においては大項目B「社会と薬学」の班長を務めた。

石井 伊都子(いしい・いつこ)氏 千葉大学医学部附属病院 薬剤部長 / 教授
1988年千葉大薬学部卒。同大大学院薬学研究科にて博士号取得。同大薬学部教務職員,助教授などを経て,2012年より現職。薬学教育モデル・コア・カリキュラム改訂に関する専門研究委員会委員,卒後臨床研修の効果的な実施のための調査検討事業特別委員会委員長などを歴任。25~26年度の日本薬学会会頭へ就任し,卒前・卒後を貫く次世代の医療人材育成を牽引している。
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