医学界新聞

寄稿 柴﨑 俊一

2025.05.13 医学界新聞:第3573号より

 皆さんはVExUS(Venous Excess Ultrasound)という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。Beaubienらによって2020年に開発されたもので,POCUS(Point of care Ultrasound)の延長線上にあるエコーの技術の1つです1)。集中治療領域を中心に,過剰輸液は害であるという近年のトレンド2)とも相まって,重症患者はもちろん,心不全,腎不全などの領域でその有用性がさまざま報告され始めています。本稿では,筆者がほぼ毎日使用するVExUSの有用性を含めた概要をお伝えします。

 VExUSはPOCUSの延長線で,ドプラ波形を計測し,右心系のうっ血(体うっ血)の程度を半定量的に評価する方法です。Beaubienらによって示された原法では,まず下大静脈(IVC)径を評価し,21 mm以上に拡張していれば,肝静脈,門脈,腎静脈(主に腎の葉間動静脈)についてドプラで波形を計測します(図13)。その波形のパターンをスコア化し,最終的に合算して右心系のうっ血を総合評価するという方法です(図23)

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図1 VExUSのイメージ(文献3をもとに作成)
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図2 VExUSスコアの解釈(文献3をもとに作成)

 「血行動態を評価するだけならIVC径だけで十分では?」と思う読者もいるかもしれません。しかし,この複数指標を組み合わせることこそがVExUSの最大のポイントです。心不全を胸水や浮腫だけで診断せず,複数項目で総合判断を下すように,血行動態の評価はそう単純ではありません。IVC径は,呼吸努力が強いと呼吸性変動も強まるため大きく影響されるほか,腹水などの腹腔内圧,IVCのコンプライアンスにも影響されるために,単一の指標では解釈を誤ることがままあります。こうした課題を克服するために複数の指標を組み合わせるのです。実際,心不全患者に対し右心カテーテル検査をゴールドスタンダードにしたところ,右房圧上昇(≧12 mmHg)の予測におけるVExUSのAUC(area under curve)は0.99と極めて高く,IVC径やIVC呼吸性変動よりも優れた精度でした4)

 心不全や腎不全,重症患者での体液管理に関する知見が集まり,その有用性が注目されています。例えば心不全は静脈系のうっ血が臓器障害の主因となりますが5),VExUSはその重症度を半定量的に評価できます。実際,急性心不全で入院した患者を対象とした研究では,初回評価でVExUSスコアGrade3(重度うっ血)とされた群は入院中死亡や早期再入院率が有意に高く,Grade3未満の患者では死亡例がみられなかったと報告されています5)

 また,腎機能が悪化している心不全では,原因が低心拍出か,腎うっ血か判断に悩むこともあるかもしれません。その際にVExUSで右心系のうっ血が強いと判断できれば,うっ血腎の可能性が高いと判断できます6)。より積極的な利尿薬,場合によっては限外ろ過での除水という戦略が自信を持って取れるかもしれません。

 このように従来の指標でとらえにくい右心系のうっ血の程度をVExUSが可視化し,急性腎障害(AKI)予測や利尿介入のガイドとして有用であることが示...

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ひたちなか総合病院総合内科 / 救急センター長

2010年筑波大卒。諏訪中央病院にて初期研修,内科後期研修修了後,同院総合内科,腎透析糖尿病科にて勤務する。ひたちなか総合病院救急・総合内科の立ち上げのため17年に赴任し,23年より現職。

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