医学界新聞

ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ

連載 徳竹雅之

2024.03.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3557号より

 高カリウム(以下,K)血症は救急医療の現場で比較的よく遭遇する電解質異常ですが,時に命を左右する緊急事態になり得ます。しかし,高K血症の治療戦略は施設や担当医によって大きく異なることが知られています。例えば,米国の14施設のERにて203人の高K血症患者を対象にした研究では,実に43通りもの治療が実施されました1)。研修医の皆さんも,担当する上級医によって言っていることが違う!と感じがちな領域だと思います。ガイドラインや重要な研究に沿って高K血症治療における最新のアプローチを解説します。ポイントは,「今何を目標に治療しているか」を明確にすることです。4つのMissionに分けて治療を確認します()。

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 高カリウム血症治療のアプローチ

◆Mission1:心臓を守れ! 不整脈を回避せよ

目標:重篤な不整脈や心停止を防ぐ
● グルコン酸カルシウム(カルチコール®注射液8.5%)20~35 mLを10分程度かけて点滴静注

 高K血症の合併症は何といっても不整脈! これを防ぐ目的で,テント状T波を含む心電図変化を有する患者にはカルシウム静注が推奨されています2)。特徴的な所見としてP波消失・QRS延長・徐脈などがありますが,テント状T波は約30%と最も多くの症例で認められる所見であり3),一般的な認知度も高いです。実際のところは,テント状T波単独であれば致命的な不整脈発生につながる可能性は低いとされています。しかし,致命的な不整脈出現までの時間には症例間で差があり,治療の遅れが出た場合には致命的になり得ます。ある報告では,心電図検査から致命的な有害事象発生までの時間の中央値は47分であったとされており4),30分以内には対応が必要なくらいのスピード感が要求されます。

 一般的にはカルチコール®(海外の研究で使用している規格と異なり本邦では8.5%製剤です)10 mL程度を投与することが多いのではないかと思いますが,これでは多くの場合には不十分とされています。高K血症患者に対して10%グルコン酸カルシウムを10 mLずつ投与した場合,心電図変化を抑制するのに全例で2回以上の追加投与を要し,97%は3回投与を要しました5)。つまり,少量頻回もしくは10mL程度の単回投与では不整脈を抑制するに不十分であることがわかります。忙しいERではモニター監視しているだけで不整脈の変化を追えないこともあると思います。そのため,より高い心臓保護効果を得るために,カルシウムは体格に合わせて単回大量投与をしておくことが重要です。急速静注により血圧低下や不整脈,ほてりなどを誘発することがありますので投与速度に少し気を遣うとよいでしょう。

 カルシウム自体にはKを下げる効果はありません! 心臓が保護されている間(わずか30~60分程度!)にK濃度を下げる次なるMissionを迅速に進めましょう。

◆Mission 2:カリウムを押し込めよ

目標:血中(細胞外)Kを細胞内に押し込めることによる,一時的なK濃度低下
①50%ブドウ糖液50 mL+ヒューマリン® R10単位を静注→10%ブドウ糖液を50 mL/時で5時間点滴静注
②同時併行で,サルブタモール10 mg(ベネトリン®吸入液0.5% 2 mL)吸入

 GI(グルコース・インスリン)療法が有名ですが,サルブタモール吸入を併用することの利点が強調されています。併用によりK低下効果が大きくなり,GI療法の低血糖リスクも減少させます6)。いずれもKを細胞内に移動させることで血中濃度を低下させる作用があります。

 GI療法におけるインスリン投与量は,5単位に比較して10単位投与の有効性が高いです。さらに,高K血症の重症度が高いほどその有効性が高まると考えられています7)。ただし,ブドウ糖投与による血糖上昇効果が1時間程度しか持続しないのに対し,インスリンの作用時間は4~6時間(腎不全があればクリアランスが低下してさらに効果が遷延することもあり)であることから低血糖リスクが高まります。そのため,インスリン静注後にブドウ糖液をさらに補充しておくという戦略をとるのがリーズナブルです。体液量過多が心配な場合には,より高濃度で輸液量を減らせる20%や50%ブドウ糖液を用いてもよいでしょう。

 これに関連して,輸液が必要な場合にはリンゲル液を使用しましょう。微量に含まれるKを気にして生食が選択されていることがあると思いますが,大量輸液が必要になる場合では高Cl性代謝性アシドーシスにより細胞内から血中にKをシフトさせてしまう潜在的なリスクが高まります。また,SMART試験の二次解析において,ベースに高K血症があった場合でも生食とリンゲル液では重症高K血症への移行率に有意差はないという結果になっています8)

◆Mission 3:カリウムを排出せよ

目標:Kを体外に排出することでK濃度を低下させる
● ロケルマ® 10 g内服
● 透析(上記治療に抵抗性の場合や末期腎不全などが存在する場合)

 急性期治療においてSZC(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)の果たす役割が大きくなっているためここで確認しましょう。SZCは全ての消化管においてKを吸着する性質があり,服用後1時間で血清K値が低下します。ENERGIZE試験では,ERにおける高K血症治療としてSZCをGI療法と併用することの有用性が報告されています9)。ERにおける急性高K血症に対するパチロマーを含む他のK吸着薬との比較試験(KBindED試験)が進行中で,進歩が大きい領域です。

 ここまでの治療に抵抗性であったり,BRASH症候群()を含むABCが不安定な場合などには早めに専門科にコンサルトして透析を考慮しましょう。筆者は高K血症の治療では透析を選択することが多く,透析までのつなぎに上記治療(Mission 1~3)を迅速に並行して行うことを意識しています。フロセミドは使っても良いですが,急性期治療における効果は最小限であり,体液量過多がある場合のみ考慮するくらいです。

◆Mission 4:密なモニタリングで合併症を防げ

目標:治療効果判定と合併症予防をせよ
● K:1時間,2時間,4~6時間で測定
● 血糖値:30分,1時間,1.5時間,2時間,3時間,4時間,5時間,6時間で測定

 治療の全過程において,患者状態の密なモニタリングが不可欠です。治療効果判定としてKを,合併症予防として血糖値をモニタリングしましょう。治療効果判定としてのK濃度は,Kを低下させる薬剤の効果のピークがおおよそ1~2時間程度で評価可能であることより,治療開始から1時間,2時間の時点でK濃度を測定し,目標となるレベル(2時間以内にK<6.0 mmol/L)に到達したかを評価します。不十分であれば治療を繰り返すことになりますし,場合によっては透析にエスカレーションを考える必要性も出てきます。さらに,GI療法やサルブタモール吸入ではリバウンド現象が報告されており,治療から4~6時間程度でK濃度が再上昇する可能性があります(これを抑えるのがSZCであり,併用が推奨される理由の1つです)。

 GI療法を選択した際は,ブドウ糖とインスリンの体内での代謝速度が異なるため低血糖リスクがあります。重要な合併症ですのでなるべく低血糖を避けられるように観察をしましょう。ガイドラインでは最初の2時間は30分ごとに血糖測定を行い,その後は最低6時間にわたって1時間ごとに行うことが推奨されています2)。この他,心電図や体液量の定期的なチェックも欠かさずに行います。

 

:BRASH症候群とは,Bradycardia,Renal failure,AV nodal blockade,Shock,Hyperkalemiaから成る症候群。高K血症と房室結節遮断薬の相乗効果により高度な徐脈となり,循環不全→腎不全悪化→Kと薬剤の排泄不良の悪循環を引き起こす。


1)J Emerg Med. 2018[PMID:30391144]
2)UK Kidney Association. Clinical Practice Guidelines Treatment of Acute Hyperkalaemia in Adults. 2023.
3)Clin J Am Soc Nephrol. 2008[PMID:18235147]
4)West J Emerg Med. 2017[PMID:28874951]
5)Turk J Emerg Med. 2022[PMID:35529029]
6)Kidney Int. 2020[PMID:31706619]
7)Epidemiologia(Basel). 2021[PMID:36417187]
8)Am J Respir Crit Care Med. 2021[PMID:33503391]
9)Acad Emerg Med. 2020[PMID:32149451]

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