Dr. 平澤欣吾の「こだわらない」EMR・ESD[Web動画付]
ESD時代のEMR論とナイフ別ESD攻略法
デバイスにこだわらない「主義」は、細部までこだわる「手技」だった。
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ハイボリュームセンターと肩を並べるESD件数を誇る横浜市立大学附属市民総合医療センター。そんなチームを育て上げた平澤欣吾のデバイスにこだわらない「主義」は、細部までこだわる「手技」だった。患者さんの信頼関係を得て、とにかく早く・安全・確実に治療を終えるために、一つのデバイスやスコープに固執しない。
著 | 平澤 欣吾 |
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発行 | 2025年10月判型:B5頁:192 |
ISBN | 978-4-260-06254-1 |
定価 | 8,800円 (本体8,000円+税) |
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序文
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はじめに
内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)が全盛の時代に,内視鏡医の皆さんはこんな疑問を抱いたことはないでしょうか?
「これ,EMRでもいけそうだけど,世の中はESDの時代だし,ESDのほうがいいのかなぁ?」
「紹介元も『ESDをお願いします』と言っているし……」
「ESDもやりたいしなぁ……」
「……」
これらの考えは決して間違いではありません。なぜなら,ESDはそもそも「内視鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)では不完全な切除になってしまう壁を乗り越える」というコンセプトで開発された手技だからです。実際,現在の内視鏡診療ではESDが主流となっています。
しかし,だからといってEMRは日の目を見ないマイナーな治療法なのでしょうか?
一方で,皆さんはこんな経験をされたこともあるのではないでしょうか?
「これ,EMRでやったほうが簡単ですぐに終わったのかも……」
「小さいから簡単にESDできると思ったら,意外と難しい……」
「ESDにこだわらなければよかった……」
これこそが,本書のコンセプトである「こだわらない内視鏡治療」です。
安全に,速く,確実に治療する。もしEMRが適している病変であれば,迷わずEMRを選択すべきです。
また,紹介元がESDを希望していても,あえてEMRで完全に切除する。これこそが熟練した内視鏡医の仕事ではないでしょうか? 私は,ESDとEMRを臨機応変に使い分けられることも,エキスパートの条件と考えています。
「それって大腸の話だけでしょ? 隆起型の病変とか……」
そう思われる方もいるかもしれません。確かに大腸の隆起型病変はEMRのよい適応です。
しかし実際には,食道や胃でもESDよりEMRが適している病変が存在します。もちろん,小さいからといって単純にEMRを選ぶわけではありません。小さくても粘膜下浸潤している病変もあるため,正確に診断したうえで,必要に応じてESDを選択したり,時には外科手術に回すことも重要です。
具体的な例としては,「ラズベリー型胃腫瘍」(以前は胃癌として扱われていました)があります。特徴的な肉眼像をもち,名称も非常に的を射ていますので,多くの内視鏡医の方がご存じでしょう(図1)。
図1 胃の腺窩上皮型腺癌(ラズベリー型胃癌)
「え,これ癌なの? 胃癌ならESDでしょ!」
私自身,この腫瘍が注目され始めた当初はそう考えていました(もちろんほかの理由もあります)。しかし,病変は小さいにもかかわらず,実際にESDを施行しようとすると非常に難渋することが多いのです。
その理由は,腫瘍の発生部位と背景粘膜にあります。ラズベリー型胃腫瘍は体上部~穹窿部の大彎側に好発し,
・ スコープが近寄りにくい
・ すぐに水没してしまう
・ 粘膜下層に潜り込みにくい
・ 剝離が難しい
・ 粘膜は厚いが筋層が薄く,穿孔しやすい
といった問題があり,ESDが最も困難な部位に発生しやすいのです(詳しくは第3章,第5章で解説します)。
私は悩んだ末に,ラズベリー型胃腫瘍の「水没しやすい」という特性を逆手にとり,underwater EMRを活用する方法を考案しました。これにより,場合によっては外来処置も可能となりました。
このように,私は病変ごとにEMRとESDを臨機応変に使い分け(時には外科手術も選択し),最適な内視鏡治療を患者さんに提供しています。
この手法は,長年の経験から培われたものです。当院では,胃ESDが保険適用になった2006年よりも前の2000年からESDを導入し(図2),そこから食道・大腸へと適応範囲を広げ,最終的には十二指腸ESDや内視鏡的全層切除術(endoscopic full-thickness resection;EFTR)にも取り組むようになりました。現在では年間700例ほどのESD関連手技を実施しています。
図2 当院での消化器内視鏡診断・治療の変遷
ESD:endoscopic submucosal dissection(内視鏡的粘膜下層剝離術),NBI:narrow band imaging(狭帯域光観察),LECS:laparoscopy and endoscopy cooperative surgery( 腹腔鏡内視鏡合同手術),EMD:endoscopic muscular dissection(内視鏡的筋層切開術),EFTR:endoscopic full-thickness resection(内視鏡的全層切除術)
さらに,私はEMRかESDかにこだわらないだけではなく,ESDのなかでもナイフやスコープを適材適所で使い分け,特定のデバイスにも固執していません。ここまで含めた治療戦略・戦術こそが,本書のタイトルである「こだわらないEMR・ESD」なのです。
まず第1章では,「平澤流の鉄則」と銘打ち,私が内視鏡医として,さらには医師として心掛けていることをご紹介します。ここで述べている内容が私のベースとなっているといっても過言ではありません。
次の第2章で早速治療の内容に……とはいきません。「よい治療」には必ず「よい診断」が必要です。とはいえ,すでに診断に関する成書は多数出ておりますので,ここでは私が診断において留意しているポイントを解説します。
そして,第3章からいよいよ治療の内容に入ります。まず第3章ではEMRとESD(時には外科治療も)のどちらを選ぶか,ガイドラインの適応を示したうえで,平澤流の考え方をご
紹介します。
続く第4章では,EMRとESDのどちらを選択するか決定したうえで,スネアやナイフ,さらにはフードやスコープまで,デバイスをどう選べばよいのか,解説します。
最後の第5章では,具体的なEMR・ESDのTipsをご紹介します。近年は治療後あるいは予防的な縫縮が一大テーマとなっているので,その点は詳細に解説します。
それでは早速,本論に入っていきましょう。
本書の内容が,皆さまの内視鏡診療の向上に寄与し,ひいては患者さんの安全な治療につながれば,これほど嬉しいことはありません。
2025年9月
平澤 欣吾
目次
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はじめに
第1章 「こだわらない」平澤流の鉄則
鉄則1 最も重要な準備は「患者さんと信頼関係を築くこと」
鉄則2 「自分の目以外信用しない」くらいのポリシーをもて
鉄則3 安全に素早く治療するため,デバイスにはこだわらない
鉄則4 スコープの選択も柔軟に
鉄則5 術前検査で治療ストラテジーを立てる
鉄則6 「鎮痛」も含めた鎮静を考える
鉄則7 全身麻酔も1つの「ひきだし」
鉄則8 準備したうえで,難易度の高い病変に挑戦する
鉄則9 「速さ」は「安全」に直結する
鉄則10 偶発症は起こる前提で,起こったらどうするかを考える
鉄則11 内視鏡治療≒外科治療だと思え
鉄則12 「引き返す勇気」と「手術に回す勇気」をもとう
鉄則13 外科医の信頼を得る
鉄則14 「学び」も「復習」も,能動的に行おう
第2章 「診断」があっての「治療」である
1 通常観察で「アクセント」をとらえる
2 NBIの使い方には「2種類」ある
1.拡大観察による深達度診断
2.病変の拾い上げ
3 NBI通常観察の有用性と白色光との使い分け
4 通常観察における基本的な指標
5 すべてNBIでよいわけではない:未分化型癌との相性
6 除菌と病変可視化の関係
7 肉眼型の重要性を再認識しよう
8 病理的な裏付けを学ぶ
▪ 忘れられないSM症例──病理との切っても切れない関係性
▪ LST-NGにおける線維化の罠
9 早期癌はもちろん,進行癌の診断も学ぶべし
10 診断学は大事,だからこそ「過信」しすぎない
11 「生検をしない」というこだわりをもたない
第3章 EMR・ESD,どちらを選ぶか?
1 基本は「確実かつ,楽で早いほう」を選ぶ
▪ 指針にとらわれすぎず「柔軟な選択を」
▪ EMRとESD,それぞれの特性と使い分け
2 underwater EMRを「ひきだし」に入れよう
▪ 日常の検査で「水を溜めてみる」
▪ 「早期癌=ESD」だけではない視点を──UEMR活用のコツ
3 食道EMR・ESD,どちらを選ぶか?
▪ EMRとESD,瘢痕の違いを理解する
▪ 2nd ESDを見据えた治療選択
▪ 食道癌の異時多発性と「リカバリーショット戦略」
▪ APCの注意点と,過信による落とし穴
4 胃EMR・ESD,どちらを選ぶか?
▪ ラズベリー型胃癌にはUEMRが有効!
▪ 胃腺窩上皮過形成ポリープにもEMR!
5 大腸EMR・ESD,どちらを選ぶか?
▪ 0-I病変はESDか? 手術か?──症例から学ぶすみ分け
1.MRSを呈したが,なんとかESDを完遂できた症例
2.ESDを中断し,外科手術となった症例
3.MRSは術前に予測できるか?
▪ 直腸だけは別!──なんとかESDで頑張りたい理由
▪ 技術と判断の両立が肝要
▪ 直腸NETはEMRか? ESDか?
6 十二指腸EMR・ESD,どちらを選ぶか?
▪ 十二指腸EMRには,underwaterがオススメ!
▪ UEMRのポイントと注意点
7 「難易度」の見極めと,治療ストラテジーの立て方
第4章 平澤流「こだわらない」デバイスの選び方
1 平澤流・スコープの選び方
2 平澤流・フードのコツ
3 平澤流・スネアの「ひきだし」
4 平澤流・ESDナイフの選び方
▪ 先端系の限界とナイフの“立ち”──セカンドデバイスとしてのITKnife
▪ 当院でのナイフ使用戦略
▪ 1回の治療でナイフを2本使っても問題ない?
1.デバイスコストvs保険点数
2.「1本主義」が生むリスク
3.「自分に合ったナイフ」を選んでOK
4.右の道がダメなら左へ──常に「ひきだし」を
第5章 平澤流EMR・ESDのTips
1 内視鏡治療までのロードマップ
▪ 拡大観察のトレーニングは時間をかけるべし
▪ 臓器ごとの学びで完結させない
▪ 臓器ごとの“経験”は他臓器でも活きる
▪ ハンズオンでの学び方
2 術前の画像は「治療をイメージして」撮影しよう
3 平澤流EMRのTips
▪ EMRもESDと同じくらい大切な手技
▪ 局注のコツ
▪ スネアリングのコツ
1.有茎性ポリープのスネアリング
2.平坦病変はどうする?──tip in EMRのススメ
▪ 介助者との呼吸を合わせる
4 平澤流ESDのTips
▪ 平澤流ESDの基本ストラテジー
▪ 見下ろし/反転にもこだわらない
▪ 平澤流はスコープで切らずに右手で切る
▪ ITKnifeでの切り方は「中から外へ」
▪ 病変との適切な「距離感」を身につける
▪ 先を「予測」しながらESDを行う
▪ ESD全体のバランスも考える
▪ 同じ動作を2回やっても切れなかったら「次」を考える
▪ 呼吸性変動が強い患者やSASの患者ではどう切るか?
▪ 介助者のスキルはESDのクオリティに直結する
5 食道EMR(ESMR-L)のTips
6 食道ESDのTips
▪ 基本のC字切開法
▪ 環周率の高い病変に対する工夫
▪ Barrett食道腺癌のESDはどうする?
7 胃EMRのTips
▪ ラズベリー型胃癌のUEMRによる切除
▪ 胃腺窩上皮過形成ポリープのEMRによる切除
8 胃ESDのTips
9 大腸CSPのTips
10 大腸ESDのTips
▪ 大腸ESDでもマーキングを行おう
▪ underwater ESDのススメ
11 偶発症は起こるものとして準備しておく
▪ 穿孔しても焦らないこと
▪ 閉鎖・縫合アイテムも「ひきだし」をもっておく
12 クリップによる縫縮
▪ EZ Clip・ZEOCLIPⓇ・SureClipⓇ
▪ Mantisクリップ
▪ ROLM(Reopenable-clip over the line method)
▪ OTSC
13 EHS(endoscopic hand suturing)による縫縮
14 充塡法(PGA)
15 どのような病変で予防的縫縮を行うか?
16 検体にリスペクトを払え
おわりに
索引