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どう届ける? いかに選ばれる?

対談・座談会 市原真,佐藤尚之

2026.07.14 医学界新聞:第3587号より

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 医療情報の発信や患者とのコミュニケーションは,AIの進化とともに大きな転換期を迎えている。生活者自身がAIを相棒とする現代,確かな情報を届け,選ばれるために医療界はいかに変わるべきなのか。新刊『がんユニバーシティ ――まるごと人間としての患者と,医者と,私』(医学書院)を上梓し,病理医として常に新しい医療情報の在り方を模索し続ける市原真氏と,「ファンベース」(註1)の提唱者でありコミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏が,その道筋を語り合った。

市原 佐藤さんと最初にお会いしたのは2021年のメディカルジャーナリズム勉強会です。そこには書籍『がんユニバーシティ』でもお世話になった若尾文彦先生(国立がん研究センター)も参加されており,がん情報サービスの構築に当たって,佐藤さんから助言をもらっていると話していました。佐藤さんは当時から医療情報を社会に届けるさまざまな活動に携わってこられたと思いますが,背景にはどのような考えがあるのでしょうか。

佐藤 例えば中学校で言えば,医師ってクラス40人の上から5人の成績ですよね。さらに大学でロジカルに考える訓練をしてきている。残りの35人とはその時点で優秀さというか,タイプが違うんです。しかも医師たち同士でのつきあいが多いので,ロジカルじゃない思考をする方の気持ちがどこかでわからないところがあると僕は感じています。そういう医師たちが生活者向けに情報を届けようとすると,普段は優しくわかりやすいコミュニケーションを心掛けている人でも,一般的な受け手にとっては必要以上にロジカルになってしまいがちかと思います。

市原 ロジカルという言葉がネガティブにもなるのですね。

佐藤 病気になった人は感情が大きく揺れ動いていますからね。そこに対してロジックを全面に出されても,ついていけない人たちは山ほどいると思います。もちろん,医師の皆さんが現場で常にロジカルだとは限らないことも,すごく優しい方々ばかりであることもわかっています。しかし社会的にはかなり特殊なクラスターであり,当人たちにはその認識がないので,いざ情報発信をしよう,わかりやすく伝えようとするとうまくいかない。これは「わかりやすさ=誰でもわかる論理」のようにどこまでもロジック中心で考えてしまうからだと思います。コミュニケーションってそういうことではないんですよね。医師にとってロジカルに正しいことは,患者にとって感情的に正しくないことも多いのです。

 これは偽の医療情報にも通じる話です。「ニンジンジュースが病気に効く」のような根拠のない情報を,信じてしまう患者や家族はたくさんいます。病気になったときには,普段ロジカルに考えられる人ですらそういう判断を下してしまう可能性がある。そういう感情の振れ幅が誰しもに生じることを踏まえた発信の仕方は,医療界は苦手とするところだと感じてきました。

市原 佐藤さんの場合,そうした問題意識があるだけでなく,解決に向けて実際に動かれている点に強いモチベーションを感じます。

佐藤 僕は伝えること,コミュニケーションに関することを生業としてきました。発信者側が何を伝えたいかではなく,受け手側の立場やニーズを踏まえ,何をどう伝えるのかを考えるのが仕事です。そして,これは僕のクセでもありますが,コミュニケーションがかかわる課題であれば,専門外の領域であってもとりあえず取り組んでみちゃうところがあります。アニサキスアレルギーに関する情報の収集・提供および調査・研究を行う一般社団法人を立ち上げたのもその1つです。僕がアニサキスアレルギーを発症した2018年当時,この病気に関する情報はネット上にほとんど存在せず,アレルギー科の専門医にもあまり知られていないほどでした。当事者になって初めてそのマイナーさを知り,情報が不足しているなら自分で発信し,啓発していこうと思ったことがアニサキスアレルギー協会を立ち上げたきっかけです。

市原 協会のWebサイトを見ると,アニサキスアレルギーの患者だけでなく,その家族や飲食店に向けてなど,さまざまな読み手を想定した情報が載っていて,伝えることを専門にしている佐藤さんだからこそできる細やかなつくりになっていると感じます。

佐藤 手弁当でやっているので全然未完成でお恥ずかしいのですが。サイト訪問者はアニサキスアレルギーのことをほとんど何も知らない状態でやってくるので,単に患者たちがつらさを訴えるコンテンツの積み重ねだけでは実際のニーズと距離があると考えました。ですから今は患者と医師,患者とアニサキス研究者,患者同士の対談などのコンテンツも置き,「共感」を軸として運営しています。ただしAI時代においては,共感寄りの仕立てにすることでAIが情報を読み違える場合があるので,今後はもっとAIが読み取りやすい作りにしていく必要があるとも思っています。

市原 AIが世の中にある情報を集めていく過程で,Webサイトを誤読する可能性があるということですか。

佐藤 そうです。いったん前提の話をすると,これからは病気になったら誰もがまずはAIに尋ねるようになります。そしてAIで理論武装した患者が医師の前に現れる。つまり,医師たちは最新の論文も全て読みこんでいるAIと向き合わなくてはならない時代が本格的にやってくるわけです。「先生はそう言いますが,うちのAIはこう言っていますよ」と患者に言われる状況は,すでに現実のものとなりつつあるはずです。医師の中には自分がAIをどう使うかに関心が寄っている方もいるかもしれませんが,実はそこは重要ではないのです。本当に患者がAIを使いこなす時代になると,診療の在り方は全く変わるでしょう。

市原 ついこの間までは何かあれば「ググる」と言っていましたが,今後はそれがAIに聞くようになると。個人の不安を満たす,知識を得るためだけではなく,病院選びもAIに相談するようになってきますね。

佐藤 重い病気や複合的な病気のケースほどそうなるでしょう。「私は膵臓がんと診断されました。セカンドオピニオンも含めてどの病院で治療を受けるのがベストですか? 住まいは旭川で,札幌くらいまでは候補に含めて構わないです」とAIに聞けば,検索するよりも詳細に教えてくれるし,親身に相談に乗ってくれます。そして最終的には,3~5つほどの病院だけがAIのおすすめとして候補に残るのです。

市原 AIがおすすめ候補を3~5つくらいしか出さないというのは,佐藤さんの新刊『AIに選ばれ,ファンに愛される。』(日経BP)でも指摘されていました。良いものを片っ端から提案してくれるわけではないのですよね。

佐藤 個人の消費活動ではすでにその影響が出ています。例えばいま僕は半月板を痛めているのですが,「膝に優しいランニングシューズ,どれがいい?」と聞くと,AIはホカとニューバランスとアシックスの3つを勧めてきます。AIとは何度も話しており自分のことをよくわかっているので,購入する際はその3つのどれかを選ぼうと思う。ということは,AIに選ばれていない他のメーカーは全て,最初の段階で僕の候補から消えていることになります。つまりどんな広告をしようが買われない。今後は医療でも全く同じことが起こるでしょう。AIに選ばれないと,商品も,医師も,病院も,かなり厳しくなります。

市原 適切な医療を実践していても,患者が来なくなるということですか。

佐藤 患者はAIに選ばれない病院にあえて行く必要がないですからね。

市原 なるほど……。1つ伺いたいのですが,AIはエビデンスや情報をどういう基準で解釈・判断しているのですか。基本的にはインターネットにある情報をもとに考えているのですよね。

佐藤 どういう情報をAIが選ぶのか,AIに選ばれるサイトはどうなっているのかは,AI開発者も正確にはわからないと思います。ただ,ドメインとしては,やはり学会や政府などの公的な情報が信頼される傾向にあります。しかし一番重要なことは,その情報がAIにとって読みやすいよう構造化されているかどうかです。

市原 構造化,つまりAIが読みやすい順番や形があるのですね。

佐藤 そうですね。そこにどんな情報が載っているのか,その情報の意味や役割は何なのか,それぞれの情報にソースやエビデンスはあるのかといったことがマークダウン方式などで構造的にまとめられていることが大切です。PDFや動画だけではAIに読まれない可能性が高いです。今後正しい情報を届けるにはWebサイトをAIに読みやすく作ることが必須条件となり,人間にとって優しい作りにする必要性は低下していくでしょう。

市原 お話を伺っていて,AIに選ばれない病院や医療者は,今後生き残ることが難しくなることがよくわかりました。しかも仮にAIに選ばれるよう努力しても,大半の選択肢はおすすめされることすらないと。

佐藤 ではAIに選ばれない病院はどうすればいいのかというと,その際に重要になるのがファンベース(註1)の考え方です。例えばナイキのファンはAIがニューバランスを勧めてこようがアシックスを勧めてこようが,「自分はナイキを買いたいんだ」と考えます。最初から「ナイキの中で膝に優しいシューズはどれ?」と聞いたり,そもそもAIに聞かずに「シューズはナイキ派だから」と買ったりする人っていますよね。病院の場合はファンと表現しないにしても,「自分はあの病院が好きだ」「どうせ死ぬならあそこで看取られたい」「できればあの先生に診てほしい」といった考えを持つ患者は少なくないはずです。

市原 AIに選ばれることとは別軸の生き残り戦略として,「あの病院を頼りたい」という個人の強い思いを喚起するようなシステムを用意しなければいけないということでしょうか。

佐藤 恐らく,システムというよりは共感や寄り添いに近いです。

市原 やはりロジックではないと。

佐藤 ロジカルなアプローチではAIに勝てないですからね。AIに選ばれにくいと判断した時点で感情の方向に舵を切って,「ずっとここで診てほしい」と患者に思ってもらえる病院づくりをしていかないと,こちらのルートでの生き残りも厳しくなります。重要なのは既存の患者をより大切にしてファンにしていくことです。彼らがいかに満足してくれるか,愛を持ってくれるかを考えて動くことがキーポイントになるでしょう。

市原 その意味では,患者に感情で選んでもらうための物語のようなものを患者,医療者,そして社会の人々が共有できるようにしておくことも必要になりますね。

佐藤 あくまでAIに選ばれるよう構造化を施した上で,人間用にナラティブな仕掛けを用意するのが良いでしょう。アニサキスアレルギー協会のWebサイトもAI用の情報を綺麗にまとめつつ,対談コンテンツは残す予定です。AI最適化すると,見た目はどうしても人間に読みにくい仕様になってしまうので,見せ方を考えている最中です。

市原 AIに選ばれるための情報整備が必須となる,この流れはもう止まらないですね。医療情報の提供に関しても,持続的な体力を持って臨まねばならないと感じます。

佐藤 特に病気のことはわからないし不安なので,誰もがAIに聞くじゃないですか。僕も半月板のことを随分聞いたし,病院選びの際も相談しました。とはいえAIの選択はすごく不安定なことも事実です。ChatGPTとGeminiとClaudeではおすすめしてくる病院が違うし,同じ病院が次回もおすすめされるとは限りません。結局,ファン(患者)に目を向けた情報提供は並行して続けていく必要があります。

市原 学会や公的機関の情報の信頼度はAIにとって高く,エビデンスの明示も重要とのお話がありました。これは医療者からすれば「われわれが情報提供においてずっとやってきたことだから安心だ」と油断したくもなりそうです。

佐藤 いえ,AIはエセ情報も拾ってしまいます。特にAIのご主人が望めば網羅的に拾ってきてしまいます。そこに対抗し「正しい医療情報」をAIに読んでもらうには,まずは学会や公的機関のサイトだからと安心せず,AI最適化をきっちりして,より「AIに読みやすいサイト」にする必要があります。また,エセ情報に対しても,たとえば「ニンジンジュースが病気に効くと唱える医師もいるが,それを証明するエビデンスは1つもありません」みたいにサイト上にはっきり示して,AIに教えていく必要があります。正しい情報だけでなく,そういう否定情報も含めて,網羅的にサイトに載せておくと,少しずつAIがそれらを「エビデンスがない情報」として拾わなくなります。これがエセ情報を駆逐する方策だと考えています。

市原 学会のサイトに正しい情報を載せるだけでは足りないということですね。しかもAIが今どのように情報を集めているのかを捕捉しながら微調整をしていかなければならないと。

佐藤 医療者がそれを続けるのは無理がありますよね。もっと本業に時間を割いていただきたいですし。そこで今,僕や仲間がプロボノ(註2)も含めて助けになれないかと思って動き始めているところです。医療情報の発信内容自体にわれわれが手を入れるのではなく,あくまでそれらの情報をAI最適化して,学会や公的機関のサイトをAI用に変えていくことができないか,と。

市原 医療系の学会や公的機関のWebサイトなどを,佐藤さんたちのような情報のプロがチェックしてくださるプロジェクトということですよね。私も学会のWebサイト運営や教育広報絡みの委員をいくつか務めているので,すでに何件か,学会の情報整備を佐藤さんたちにお願いしてはどうかと提案をしているところです。

 最初のご指摘にも通じますが,専門的な情報がロジックだけでまとまっているのが医療界の現状だと思います。その素材を人々のために再整理するお手伝いをしていただけるのであればとても助かります。このプロジェクトを契機に,いずれは医療界全体にノウハウが広まっていけばいいなと思います。

佐藤 僕もそう思います。先ほども申し上げたように,医療情報をAI 最適化して整備することは,偽の医療情報やエセ医学を駆逐できる可能性も秘めていると考えています。つまり誰もがAIに聞くのであれば,AIが正しい情報を常に引っ張ってくるように工夫していくことで,ユーザーに不正確な情報を伝えないようにすることができる。エセ医学の存在はなくなるわけではないけれど,AIに取り上げられなくなる。それはとても意義のあることだと思います。

(了)

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註1:企業やブランド,商品が大切にしている価値を支持する「ファン」を基盤として,中長期的に売上や価値を向上させていく考え方やマーケティング手法。
註2:社会的・公共的な目的のために,職業上の経験やスキルを活かして無償で取り組む活動。

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株式会社ファンベースカンパニー 創業者 / コミュニケーション・ディレクター

1985年に株式会社電通に入社。コピーライター,CMプランナーなどを経て,コミュニケーション・ディレクターとして活躍。2018年にアニサキスアレルギーを発症し,同病の正しい情報を発信すべく21年にアニサキスアレルギー協会を設立。『AIに選ばれ,ファンに愛される。――変わる生活者とこれからのマーケティング』(日経BP),『ファンベース』(ちくま新書)ほか著書多数。通称「さとなお」。

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旭川医科大学病院病理部・病理診断科 准教授

2003年北大医学部卒。07年同大大学院医学研究科分子細胞病理学修了。同年4月より国立がん研究センター中央病院任意研修生,10月より札幌厚生病院病理診断科。25年より現職。国内20以上の学会の広報委員と連携して市民向け・医療者向けの情報発信の整備を進めており,近年では日本超音波医学会のホームページ改修の責任者を務めた。『がんユニバーシティ ――まるごと人間としての患者と,医者と,私』(医学書院)ほか編著書多数。ろくろ回しの写真をいつの間にか撮られた。