- 看護
藤澤雄太氏に聞く
患者と信頼関係を築く動機づけ面接
説得ではなく伴走で変化を促す
インタビュー 藤澤雄太
2026.07.14 医学界新聞:第3587号より
患者のためを思って説明・指導しているのに,なかなか行動変容につながらない。そんな医療者の葛藤に応えるコミュニケーションとして挙げられるのが,動機づけ面接だ。この度『患者指導に困ったら読む本――まず,医療者が変わる動機づけ面接』(医学書院)を上梓した藤澤氏に,患者との信頼関係を育み,やる気を引き出す動機づけ面接の考え方と,医療現場にとどまらないその可能性を聞いた。
臨床の葛藤から動機づけ面接へ
――先生が動機づけ面接に出合った経緯を教えてください。
藤澤 私が看護師として入職した2003年,当時の患者指導では,例えば「塩分はこれくらいにしましょう」と教科書通りに説明していました。しかし,退院支援にかかわった患者さんが再入院される姿を何度も目にし,正しいことを伝えるだけでは人は変わらないことを痛感しました。そして,患者さんの支援方法について悩んだ末に大学院に進学し,心理学を基盤に予防行動や健康行動について研究する中で,患者さんの中にある複雑な思いや価値観を丁寧に確かめ,すでに持っている力を引き出すよう支援するコミュニケーション法「動機づけ面接」を知りました。
大学院修了後は,看護教員と並行して透析クリニックで患者さんへのコミュニケーション支援に携わり,動機づけ面接が患者指導に大きな可能性を持つことを実感するようになりました。患者さんの行動の背景にある思いや葛藤に目を向けることで,見えてくるものがあると感じたのです。
――動機づけ面接の考え方は学生指導にも役立ったと伺いました。
藤澤 そうなんです。学習意欲が低下している学生や進路に迷う学生に対して一方的に指導するよりも,本人が何を考え,どうしたいのかを丁寧に聞きながら一緒に考えるほうが前向きな変化につながることが多かったのです。動機づけ面接の幅広い可能性を感じました。
患者の「変わりたい」と「変わりたくない」の間で
――どのような点で動機づけ面接は有効なのでしょうか。
藤澤 医療者は患者さんによくなってほしいとの思いから,「こうしたほうがよい」と伝えます。それ自体は自然なことですが,患者さんにも事情や思いがあり,「わかっているけれどできない」「言われるとかえってやりたくなくなる」と感じることがあります。動機づけ面接において大切なのは,人は誰でも「変わりたい気持ち」と「変わりたくない気持ち」の両方を持っていることを前提に,そのどちらの思いにも耳を傾けることです。
多くの患者さんは医療者の前で「いい患者でありたい」と思う傾向にあり,不安や迷いを抱えていても口にしにくいものです。そこで,医療者は患者さんを変えようとしているのではなく,患者さん自身の気持ちや変化を支援する立場なのだと伝われば,本音も語られやすくなります。
正直に話すうちに患者さんも自分の気持ちを客観的に整理でき,「本当はこうしたいと思っていたんだ」「意外とできるかもしれない」といった気づきが生まれます。それこそが,患者さん自身による変化への一歩につながるのです。
――自分の行動を変えるって,すごく勇気がいることですよね。
藤澤 その通りです。健康のために生活習慣を変えたほうがよいと理解していても,実際に変えるのは難しい。例えば通勤経路でも,近道があるとわかっていても,つい慣れた道を選んでしまうと思います。人の特性として,何かを変えることは面倒くさいんです。だからこそ,変わることを無理強いするのではなく,患者さんが少しでも「変わりたい」と思った時に,専門職が横で一緒に歩んでくれると感じてもらうことが大切なのだと思います。
動機づけるのは医療者ではなく患者自身
――動機づけ面接という言葉からは,医療者が患者さんを動機づけたり,望ましい方向へ誘導したりするイメージを持つ方も多いように感じます。
藤澤 まさに,そう受け取られやすいです。でも実際は逆で,本人が変わりたい理由に気づいていく内発的なプロセスを支援する方法なのです。そしてその根底にあるのが,動機づけ面接の4つのスピリットである協働,受容,思いやり,エンパワーメントです(表)1)。
必要な情報や助言は提供しながらも最終的な選択は患者さんに委ね,患者さんの変わりたい気持ちを信じてかかわりを持ち続ける。そして,変わりたい気持ちを表した言葉であるチェンジ・トーク(註)を見つけ,引き出したり強めたりすることが,動機づけ面接の真骨頂とも言えます。
――患者さんがなかなか変わらないと,医療者は焦りを感じることもありそうです。
藤澤 動機づけ面接はすぐに結果が出るわけではありません。でも,先ほど触れた4つのスピリットを意識したかかわりを継続することで,患者さんがいろいろな話をしてくれるようになったことに気づくと思います。大切なのは,まず自分自身のかかわり方を振り返ってみること,そして,少しでも変えてみることです。その積み重ねの中で医療者自身に動機づけ面接のスピリットが根づき,患者さんからの信頼につながることで,変化をより促せるようになっていくと思います。
情報を伝えるだけでなく思いを引き出す存在へ
藤澤 以前に比べると,医療者の患者指導の形はとてもサポーティブになったと思います。ただし,会話を振り返ってみると,実際には医療者ばかりが話していたり,患者さんの気持ちや考えを聞く機会が少なかったりすることもあります。
今は患者さん自身がインターネットやSNS,AIなどから多くの情報を得られる時代です。正しい情報を伝えることに終始したり,患者さんがリサーチしてきた知識を頭ごなしに否定したりすると,反発を生んで心を閉ざしてしまう可能性もあります。患者さんの思いや迷いを聞き,考えを整理する支援をすることが,これからの医療者により求められる役割なのではないでしょうか。
――そうした医療者への願いを込めて,書籍『患者指導に困ったら読む本』を出版されたと思います。どのような方に読んでほしいですか。
藤澤 患者指導に悩んでいる方はもちろん,学生指導や職場でのコミュニケーションなど,人を支援するさまざまな場面で役立つと思います。ぜひ多くの方に届けられたらうれしいです。
動機づけ面接は日本でも少しずつ広がってきました。本書も一人ひとりの実践の中で,じわじわと広がっていけばと思っています。
(了)
註:人が変わろうとする時,心の揺れの中から変わることへ向けてふとこぼれ落ちる一言。患者から多く語られるほど,行動変容が起こりやすいことが明らかになっている。チェンジ・トークの具体例,引き出す秘訣など詳細は文献1を参照。
参考文献
1)藤澤雄太.患者指導に困ったら読む本――まず,医療者が変わる動機づけ面接.医学書院;2026.

藤澤 雄太氏(ふじさわ・ゆうた)氏 国立看護大学校成人看護学 講師
2003年川崎市立看護短期大学(当時)卒業後,看護師として呼吸器・心臓血管外科の混合病棟やICU,CCUで勤務する。早稲田大学大学院を修了。博士(人間科学)。11年より現職。看護学生,看護師,医師などが遭遇する困難場面のコミュニケーションや患者の自己管理の支援に関する研修を多数実施。個人から集団の動機づけに関する支援を行っている。動機づけ面接トレーナー。著書に『患者指導に困ったら読む本』(医学書院)など。
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