MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
書評
2026.08.11 医学界新聞:第3588号より
《評者》 林 達哉 自治医大さいたま医療センター 循環器内科・准教授
心電図への熱い思いがこもった多職種向け検定対策本!
本書を一通り解き終えての第一声は……結構間違えた!
私が心電図マイスターを取って早4年。現在の心電図界隈の皆様は,おそらく当時とは全然違う高いレベルの世界の中で切磋琢磨しているのだと思います。本書が1,2級対策用であるかと思うと,恐ろしい進化です。昔はワールドカップに出場しただけで大騒ぎだったサッカー日本代表は,今や出場が当たり前になりましたが,そんな感じでしょうか。
さて本書ですが,奇をてらわらない良問ぞろいとなっています。心室期外収縮の起源想定の問題などで,いくつか答えが断定できないものもあるかと思いましたが,重要な考え方を教えてくれます。本書は心電図検定対策本ですので実際の試験問題を解くように読むべきかと思いますが,今回改めて私が感じたのは,「選択肢を全てよく見てから解答しなくてはいけない」ということでした。つまり,
1.絶対にこれではないという理由をもって正解以外の選択肢を消去する。
2.残った正解の選択肢にも必ず正解となる理由を見つける。
そんな姿勢が大事かと思います。少なくとも即答は絶対ダメですね。全ての選択肢をしっかり吟味しないと,本意ならぬところで間違えてしまうかもしれません。
さらに本書では,本当にいろいろな角度の問題が出てきます。X界隈のいろいろな職種の方が本書を執筆されていますが,その背景の多様さこそが他にはない,この本の特色だと思いました(それをまとめた新井陸先生の器の大きさよ……)。そして改めて思いましたが,やはり心電図は不整脈医だけのものではないですね。虚血性心疾患を専門とする医師,循環器以外の内科を専門とする医師,実際に心電図を一番見ている臨床検査技師,ベッドサイドで症状を伴う患者さんの心電図を一番見ている看護師,そして薬剤師……。全てが独自の視点を持って見ていると思います。心電図は全ての職種のものであると再認識しました。そんなにも魅力的で開かれたツールである心電図は,いつもXなどで職種や国境を越えて熱い議論が行われています。そんな「熱」の片りんも,本書で感じることができると思います。
そして最後に……本書の本質を表す,「はじめに」にある築島直紀先生の言葉を紹介します。
「心電図検定試験を受ける方も受けない方も,心電図の世界をお楽しみくださいませ」
心電図を理解することのみならず,理解をしていく過程と自身の成長を楽しむ。そしてその過程でコミュニティが形成されて,世界が造られていく……そんなポジティブな人間の営み。それら全てを表した素晴らしい言葉だと思いました。はっ!……これってまさに私の大好きなジョジョの奇妙な冒険のテーマである,「人間讃歌」じゃないですか! 心電図愛は人間愛,なのかもしれません。
心電図を愛し,心電図に愛された男(築島先生のことです,褒め言葉です!)の渾身の一冊,ぜひトライしてみてください!
《評者》 三輪 建二 昭和医大認定看護師教育センター 客員教授
看護教育の未来は明るくなると元気づけてくれる文献
看護学生や新人看護師への指導や助言に,戸惑いを覚えながらかかわっている多くの方々にとって,本書は待望の書になるのではないだろうか。
著者は看護学や教育学の理論を前面に出して看護教育を解き明かそうとするのではなく,自分の教育経験を踏まえて,快刀乱麻を断つともいうべき直球勝負で,看護教育の当たり前を問い直している。著者の姿勢も上から目線ではない。本書の帯には,「かつて看護学生だったすべての人へ」とあるように,これまで受けてきた看護教育の縛りから逃れられていない現実に寄り添いつつ,それでも,当たり前を問い直す姿勢を持ってほしいとフランクに語りかけている。
「問い直し」が必要な「当たり前」には,〈看護学生には課題・問題が多い〉〈教えれば学ぶはず〉〈厳しい指導やルール・叱責〉〈臨地実習は厳しくてよい〉などがあり,それらを一つひとつ問い直しながら,それらとは別世界の,学生も教員もワクワクする看護教育の在り方を伝授する。特に感銘を受けたのは,第2部「臨地実習指導を問い直す」である。実習とは患者を「教材」にし,学生が主体となって教材である対象者から生き生きと学ぶことであるとして,実習記録の改善を訴えかける。実際に著者が勤務していた松下看護専門学校では,看護過程を中心とした実習記録を廃止し,ポートフォリオや大学ノートを活用したプロジェクト学習に切り替えたという。
評者も,臨地実習指導では看護教育の問題点が表面化していると受け止めている。看護は人の命にかかわる営みだからしっかり教えなければと思うからか,学校では知識や技術を教え,事前課題を出し,実習は課題を適用する場であるととらえることが多い印象がある。実際の患者との出会いでの「気づき」と,そこから「看護とは何か」をリフレクションしていくという大切な営みが,大量の事前課題や寝られないほどの実習記録のために抜け落ちてしまってはいないだろうか。それでは,学生を思うあまりの看護教育が,実は教育的ではないということにつながってしまわないだろうか。
評者の専門であるリフレクション(省察)や省察的実践1)は,事前課題という発想には不向きである。リフレクションは事前に与えられた課題の準備よりは,実習の最中と実習後の「自分の行為の意味づけ」に向いている。事前よりは,実習で向き合う患者に対する瞬時のリフレクション(行為の中の省察)と,カンファレンスや実習記録による事後のリフレクション(行為についての省察)のほうが大切なのである。
多くの看護教員や新人研修担当者が,自分の「当たり前」を問い直して実践を進めていけば,看護教育の未来は明るいという応援メッセージに満ち溢れている。本書は読者を元気づける,必読の書になるだろう。
文献
1)三輪建二:わかりやすい省察的実践.医学書院,2023.
《評者》 早川 昌弘 医療法人社団葵鐘会小児科・顧問
新生児医療に携わる全ての医療者にとって,大きな助けとなる一冊
新生児医療の目標は救命にとどまらず,児の長期予後を改善することであり,その意味で新生児神経は極めて重要な分野である。しかし,多くの新生児科医にとって新生児神経は難解で,苦手意識を抱くことも少なくない。その理由として,病態や責任病巣がわかりにくく,診察から得られる神経学的所見が限られることが挙げられる。
このたび刊行された,国立成育医療研究センター神経内科・新生児科の先生方による『ケースカンファレンスから学ぶ 新生児神経の診かた』は,新生児神経の基礎から診察のTipsまでを丁寧にまとめた一冊であり,理解を深める上で大変有用である。
本書は「総論」と「症例検討」の二部構成である。総論では,新生児の神経学,0歳児の発達,新生児神経診察でわかること・わからないこと,基本的症候の診察法,と根幹となる内容が体系的に整理されている。特に,新生児の神経学(成人・小児・新生児の神経学の同じところ,違うところ,新生児の神経学で出てくる独特な概念),新生児神経診察でわかること・わからないことの解説は,新生児神経を理解する上で極めて重要である。
症例検討では,成育医療研究センターで定期的に行われているケースカンファレンスが紙上で再現され,13例が提示されている。新生児科から神経内科への対診依頼に始まり,神経内科医による診察,詳細な神経学的所見,病巣推定,鑑別診断へと進む構成で,思考過程が明確に示されている。
また鑑別の考え方として,大脳から脊髄,筋に至る構造図を用いて,推定される主病巣,症状や所見との対応,関連が考えられる他部位が整理されており,病態理解が非常に容易になる。さらに合同カンファレンスでは,新生児科医からの質問に神経内科医が詳細に回答し,合同カンファレンスの後日談として,その後の追加検査や確定診断,経過が簡潔にまとめられている。家族向けの病状説明資料も掲載され,実際の説明を具体的にイメージできる。まさに合同カンファレンスをそのまま紙上に再現したような構成であり,読者はその場に参加しているかのような臨場感を得られる。
特筆すべきは,QRコードから児の神経学的症状や診察の実際の動画を視聴できる点である。文章や画像ではとらえにくい動きの特徴が直感的に理解でき,新生児神経の学習に大いに役立つ。また,各コラムでは病態生理だけでなく,治療の実際や臨床上のジレンマなど,教科書にはあまりみられない,臨床ならではの貴重な知見も紹介されている。
本書は,新生児医療に携わる全ての医療者にとって,新生児神経への抵抗感を軽減し,理解を深める上で大きな助けとなる一冊である。初心者だけでなく,新生児専門医にとっても多くの示唆が得られ,本書を読み進めることで新生児神経への理解が一層深まり,ひいては新生児の長期予後の改善にも貢献することであろう。
《評者》 家入 香代 国際医療福祉大看護学科 学科長・教授
師の背中から学ぶ疫学の楽しさ
本書の著者である中村好一先生には,2001年より自治医大公衆衛生学教室の研究会においてご指導をいただいてきた。私にとって先生は,公衆衛生学・疫学の師匠であり,常に穏やかでありながら,学問に対しては一切の妥協を許さない「優しく厳しい」研究者である。そんな中村先生の姿勢は,本書全体の随所に息づいている。
『基礎から学ぶ楽しい疫学』は,初版刊行以来,疫学を学ぶ多くの学生・専門職に読み継がれてきた名著である。第5版においても,その基本的な姿勢は変わらない。すなわち,「疫学は決して難解な理論の集積ではなく,現実の健康問題を考えるための思考の道具である」という一貫したメッセージである。本書は,専門用語や数式に立ちすくむ読者に対し,「なぜそう考えるのか」「何がわかれば次に進めるのか」という問いを丁寧に投げかけ,章をめくるごとにその答えへと導いていく構成になっている。
看護職をはじめとするコメディカルにとって,疫学は「必要だとわかっていても苦手意識を持ちやすい分野」である。しかし本書では,疾病頻度,研究デザイン,バイアスや交絡といった概念が,臨床や地域での実践と結びつけて平易に説明されており,「自分の疑問に疫学がどう応えるのか」が自然に理解できる。読み進めるうちに,先ほどまで曖昧だった疑問が,次の章で静かに解きほぐされていく感覚を味わえる点は,本書ならではの魅力である。
また,鉄道をこよなく愛する中村先生らしく,随所にちりばめられた鉄道のイラストは,読者の緊張を和らげると同時に,「学ぶことの楽しさ」を視覚的にも伝えてくれる。学問書でありながら,どこか温かみを感じさせるゆえんであろう。
今回の第5版で特に注目すべきは,著者自身が序文で「一番の目玉」と述べている巻末付録である。疫学で用いられる数式や統計的考え方を理解するための数学の基礎が,初学者にもわかるよう丁寧に整理されており,「わからないまま先に進まざるを得なかった」読者への強い配慮が感じられる。これは,長年教育の現場に立ち続けてきた著者だからこそ到達できた改訂であろう。
本書は,疫学を初めて学ぶ学生だけでなく,かつて学んだ疫学を改めて実践に結びつけたい医療・保健専門職にとっても,再読する価値の高い一冊である。師の背中から学んだ「考える疫学」の姿勢が,今版でも確かに受け継がれている。
《評者》 種村 留美 関西医大大学院 教授・高次脳機能科学
症状をひもとき,失行患者の支援を確かなものにする1冊
動作・行為の障害は,動きそのものの問題だけではなく,視覚や体性感覚などさまざまな機能も加味して考えないと理解できない。病巣からみると,頭頂葉病変のみならず前頭葉もかかわりがあるし,頭頂葉や後頭葉などから生じる視覚性の障害も併せて考える必要がある。
この書評を読んでいただいている皆さまはこれまでに何例くらい,失行症の患者さまを担当しただろうか? 失行症例を担当する機会はそれほど多いわけでもなく,私もこれまでの臨床の中で最初から最後まで担当できたのは10例ほどであろうか。そのような中,本書には17例もの症例報告が記載されている。
それにしても驚いた。Rothi以来,失行についてこんなに詳しく書かれた本が日本に現れるとは。5年もの歳月をかけて完成された本書は,最近の失行に関する本の中でも群を抜いて秀逸である。失行のみならず,動作・行為にかかわる神経心理症状が網羅されており,しかも図や写真を用いて端的に説明されているので,神経心理学の初心者でも理解できる。もう少し詳しい説明が欲しい読者は,神経心理学の分厚い書に当たって学ぶとよいだろう。それよりも,失行症のリハビリテーションの新しい知見である,NATやCO-OP,ICTツールを使ったリハビリテーション,失行に対する非侵襲的脳刺激法などにも触れられており,また評価に関しても,標準高次動作性検査の他に,さらに詳細な道具使用検査やARATなどについてまとめられているので,失行症の分析に有用である。失行以外の検査についても半側空間無視に対するCBSやFluff Test,ADL検査のLSA評価やICQ日本語版評価,Nottingham Extended ADLスケールなどの評価用紙の記載があり,すぐに使用できるのがありがたい。
症例報告の章では,まとめかたの提示もあり,冒頭で述べたように,失行症だけでなく,視覚性運動失調やアクションスリップなど,さまざまな動作・行為の症状を呈した症例の病態と作業療法が詳しく述べられている。
本書のタイトルにあるように,この1冊を丁寧にひもといて理解すると,支援は確実なものとなることは間違いないだろう。
《評者》 山口 俊晴 がん研究会有明病院 名誉院長
「とにかく面白い」
看護師はもちろん医師,コメディカルスタッフにも
2005年1月に始まった医学界新聞の連載「看護のアジェンダ」の主旨は,「看護・医療界の“いま”を見つめ直し,読み解き,未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示」することであった。読者の熱烈な支持を受けて20年間も連載が継続していたが,2025年12月の第251回が最終となった。前半の10年分は2016年に『看護のアジェンダ』として医学書院より刊行されたが,好評で版を重ねている。今回は後半の10年分が『看護のアジェンダ2』として刊行された次第である。連載を一回も休むことなく,苦痛を感じることもなく,ほぼ1週間で書き上げてきたという。読者からの反響の大きさが,著者の大きな力になったのは間違いない。
「看護のアジェンダ」が強く支持される理由はいろいろあるが,何よりも「面白い」ということではないか。看護に限らず医療の現場の問題点が,歯切れの良いわかりやすい文章で簡潔に記載されており,勉強になることは間違いない。しかし,読者を引きつけてやまないのはそこにあるのではない。読後,理解が深まったと感じると同時に,常に著者から「あなたならどう感じて,どう行動しますか?」と問いかけられて,落ち着かないのである。それでいて,次号を楽しみにしてしまうのは,著者の類まれな文才のせいである。その博識ぶりから,猛烈な読書家であることは想像に難くないが,高度で複雑な題材を平易で短い文章でとりまとめ,毎回読者の心に何かを残すのは容易ではない。
各回のタイトルは極めて簡潔でありながら,それだけで興味をそそられる。本文は必須でない部分は可能な限り取られており,そして末尾には必ずその回の核心となるメッセージが,短いセンテンスでずばりと表現されており,常に心に残る。
看護系学会等社会保険連合(看保連)の初代代表理事であった著者とは,2005年頃から外科系学会社会保険委員会連合(外保連)と内科系学会社会保険連合(内保連)が診療報酬改定で看保連と歩調を合わせて活動する中で知己を得ることになった。当時すでに看護界の重鎮であったが,構えたところもなく,穏やかで意外だった。その後厚生労働省の会議などでご一緒することが何回かあったが,会の終わりには必ず短くてしかも鋭いコメントを柔らかい言葉で述べておられた。今回書評を書くにあたり,座談会「『看護のアジェンダ』20年の思索の行方(医学界新聞 第3586号)」を読んだが,その中で「会議に出たら必ず発言して,『自分がいる』という証を残すことも,トップリーダーとしての資質の1つであるはずです」とあり納得した。
本書はすでに看護師からは広い支持を受けているが,医師,薬剤師,放射線技師,ほかいわゆるコメディカルスタッフに強く推奨したい。教科書では知ることのできない看護の実情を知ることで,チーム医療の推進・深化に役立つ上に,エッセイとして読んでも面白い回も多数ある。なお,医学界新聞の連載終了後も株式会社日本看護協会出版会のWebサイトに,「看護のアジェンダ」として連載が続いているので,興味のある方はご覧いただきたい。
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