- 医学
あせらないためのER呼吸管理トレーニング
[ミッション10] ERでもここまでやろう人工呼吸管理!
連載 藤澤美智子
2026.08.11 医学界新聞:第3588号より
Today's Check Points
・ERの人工呼吸管理は,ICUまでのつなぎ……ではない!!
・ERでも肺保護管理(+閉塞性肺疾患は呼気時間の微調整)
・酸素化・換気・呼吸仕事量
ERで無事挿管し,ほっと一息……。と言いたいところですが,ここからが本番。現在,ERでの人工呼吸管理は,死亡率などのアウトカムに関連し得るることが報告されています1)。本稿では,ICUまでのつなぎではない,「集中治療管理のスタート」としての人工呼吸管理について概説します。
呼吸管理の責任は医師が持つ。必ず実測値を見る
人工呼吸管理において,経験豊富な看護師や臨床工学技士は大きな支えです。しかし,人工呼吸器の設定と管理について,最終的に責任を持つのは医師であると心得てください。これは換気設定だけの話ではなく,酸素配管や電源,加湿や回路,アラーム設定といった確認も含まれます。そして,人工呼吸器に接続,あるいは設定を変更した後は,設定値だけではなく必ず実測値を確認しましょう。
人工呼吸管理は「必要悪」
人工呼吸管理は,それ自体が人工呼吸器誘発性肺障害(Ventilator-Induced Lung Injury:VILI)を引き起こし得るため「必要悪」と認識します。できるだけVILIを防ぎ,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)発症を予防するために,非ARDS患者でも肺保護換気が有効とされます2)。肺保護は集中治療領域での一大トピックスですから詳細は書ききれませんが,最低限,低一回換気量とプラトー圧を意識した管理をめざしましょう。
ERにおける初期人工呼吸管理
ERにおける人工呼吸管理(図)は肺保護換気を基本とし,COPDなどの閉塞性肺疾患は微調整と覚えておくとよいでしょう。
【STEP1, 2】身長測定と一回換気量の決定:最初に身長を測定し,PBW(理想体重)をもとに一回換気量を設定します。ベッドサイドにメジャーと身長・PBWの早見表を備えておきましょう。一回換気量は,可能であれば6 mL/kg PBW前後で開始を検討します。低一回換気量とプラトー圧制限は肺保護換気の基本であり3),ERにおける肺保護換気の早期導入は,臨床転機と関連する可能性が示唆されています1)。閉塞性肺疾患や高度アシデミアなどでは,プラトー圧を確認しながら8 mL/kg PBW前後での開始を検討します。
【STEP3】呼吸回数の決定:呼吸回数は16~20回/分程度で開始し,PaCO2,pH,EtCO2を見て調整します。閉塞性肺疾患では呼吸回数が多すぎると呼気時間が短くなり,かえってCO2を吐き出しきれないことがあります。流量波形で呼気流量が基線に戻らないのは内因性PEEPのサインです。吸気時間を短く,呼吸回数を少なくして,呼気時間を確保しましょう。
【STEP4】圧とPEEPを見る:肺保護の観点からプラトー圧は30 cmH2O以下を意識し,PEEPは5 cmH2O以上を基本とします。肥満や肺水腫では,8~10 cmH2Oを開始目安に検討してもよいでしょう。原病や循環動態の把握が不十分な際に,いきなり10 cmH2Oを超える高いPEEPを付与することはリスクがあり,慎重に判断すべきです(後述)。
【STEP5】酸素を下げる:低酸素を避けるために,挿管直後の吸入酸素濃度(FiO2)は高くなっていることが多いでしょう。しかし,ERでの高酸素血症が死亡率上昇と関連する可能性を示唆した報告や4),心停止蘇生後の高酸素血症が院内死亡と関連した報告があります5)。そのため,落ち着いたところで不必要な高酸素血症を避けるようFiO2を漸減します(目標SpO2は図を参照)6)。
【STEP6】再評価と体位調整:禁忌がなければ頭部を30~45°挙上し,再評価と体位調整を継続します。
酸素化・換気・呼吸仕事量の視点で調整を継続
初期設定後の人工呼吸器の調整は,「酸素化」「換気」「呼吸仕事量」の3つに分けて考えましょう(表)。
酸素化:主にFiO2とPEEPで調整します。低酸素があれば,まずFiO2で補正し,FiO2 0.6以上が続くようなら PEEPの調整を検討します。PEEPは肺胞をリクルート(再膨張)することによって酸素化を改善しますが,高ければ高いほどよいわけではありません。PEEPを上げると胸腔内圧が上がり,静脈還流低下や右室後負荷増大を介して血圧低下・心拍出量低下を来すことがあります。
また,リクルートされる肺が少ない患者では,肺胞過膨張や圧損傷につながる可能性があります。特に閉塞性肺疾患では,高いPEEPによる内因性PEEP上昇によって病態が悪化する危険性があり注意が必要です。また,頭部外傷,脳出血など頭蓋内圧亢進が疑われる患者では,(PEEPの影響は限定的とする報告もありますが)胸腔内圧や中心静脈圧の上昇により頭蓋内からの静脈還流が妨げられ,頭蓋内圧上昇や脳灌流圧低下につながる可能性にも留意しましょう7)。
換気(CO2):一回換気量と呼吸回数で調整します。まず一回換気量を肺保護換気の範囲に設定し,初期設定後に血液ガスやEtCO2を確認します。CO2貯留やアシドーシスが問題となる場合は,呼吸回数を2~4回/分ずつ増やし,低CO2血症や過換気があれば呼吸回数を下げます。調整の目標は正常なPaCO2に戻すことではなく,危険なアシデミアを避けることです。正常なCO2を目標に一回換気量や呼吸回数を増やすことによるVILI誘発の危険性についても念頭に置き,pH 7.2未満を避けるよう調整します。閉塞性肺疾患では,呼吸回数を上げることで呼気時間が不足し,内因性PEEPを悪化させることがあります。流量波形で呼気流量が基線に戻っていなければ,呼吸回数を減らす,吸気時間を短くするなどして呼気時間を確保しましょう。
脳圧が亢進している状態では,換気を厳密に管理する必要があります。PaCO2上昇は脳血管拡張を介して頭蓋内圧を上げるため,頭蓋内圧亢進が疑われる場合はPaCO2を正常範囲の低め,35~38 mmHg程度に保ちましょう。瞳孔不同や急速な意識障害進行など切迫する脳ヘルニアが疑われる場面では,浸透圧療法や外科的治療につなぐまでの一時的手段として,短時間だけPaCO2 30~35 mmHgを目標に過換気を行うことがあります8)。しかし,過度の低CO2は脳血管収縮により脳血流を低下させるため,PaCO2 25 mmHg以下を目標とする長時間の過換気は避けます。
呼吸仕事量:人工呼吸器を装着し,血液ガス分析でガス交換が正常に見えても,患者が楽に呼吸しているとは限りません。頻呼吸,努力呼吸,苦悶表情,発汗,胸郭の動き,波形を見て,呼吸仕事量が大きいときには,まず原因を探しましょう。原因としては,呼吸器トラブル,低酸素血症,CO2貯留,呼吸苦,疼痛,不適切な鎮静・鎮痛,発熱,気胸など多岐にわたります。原因に対応したうえで吸気努力が強ければサポート量を増やし,吸気流速を上げることで楽になることがあります。
Take Home Message
・ERでの人工呼吸管理は集中治療管理のスタートと認識しよう
・閉塞性肺疾患とそれ以外に分け,それ以外は肺保護管理が基本
・低酸素はFiO2とPEEP,換気は一回換気量と呼吸回数を調整し,苦しそうなら呼吸仕事量の評価と原因検索を
参考文献
1)Crit Care Med. 2023[PMID:36374044]
2)Ann Emerg Med. 2016[PMID:27289336]
3)N Engl J Med. 2000[PMID:10793162]
4)Crit Care. 2018[PMID:29347982]
5)JAMA. 2010[PMID:20516417]
6)BMJ Open Respir Res. 2017[PMID:28883921]
7)Intensive Care Med. 2025[PMID:40982016]
8)Neurocrit Care. 2015[PMID:26438459]

藤澤 美智子(ふじさわ・みちこ)氏 横浜市立みなと赤十字病院周術期集中治療部 部長
2001年信州大卒業後,東京医歯大(当時)麻酔・蘇生・ペインクリニック科入局。08年より横浜市立みなと赤十字病院にて集中治療医,呼吸ケアサポートチームメンバーとして活動を開始する。25年より現職。酸素療法や包括的な気管切開ケアに関する教育や執筆,発信を行い,監訳を務めた書籍に『気管切開 包括的ケアマニュアル』(MEDSi)がある。
2025年12月,気管切開ケアの品質改善を目指す団体 “TraCARE” を設立。
X ID:@michifuji54
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