- 看護
「あなたならできる」を侮るべからず!
挑戦を後押しする最強の伴走術
対談・座談会 高橋聖子,三代達也
2026.08.11 医学界新聞:第3588号より
車椅子トラベラーの三代達也氏は,頸髄損傷による四肢麻痺を抱えながら世界各地を旅し,数々の挑戦を続けてきました。今年4月には,2度目の世界一周の集大成として,マレーシア・バトゥ洞窟の272段の階段を自らの足で登頂。その挑戦には,看護教員である高橋聖子氏も伴走者として同行しました(写真1)。
本対談では,三代氏の挑戦と高橋氏の経験を手がかりに,人の可能性を信じて支えるかかわりについて考えます。そして,その視点を看護教育や実習指導にどのように生かすことができるのか,教育者に求められる伴走の在り方について語っていただきました。
障害は自分事じゃなく友達事で
三代 僕は18歳の時にバイク事故で頸髄を損傷し,四肢麻痺になりました。もともと身長は191 cmあったのが,今は車椅子に座って全長140 cmほどです。見える世界も周りの対応も変わり,それまで当たり前だったことができなくなりました。当時は自分の状況を受け入れられず,人生の目標を見失っていました。
そんな僕が前を向けたのは,できないことではなく「できること」に目を向け,背中を押してくれる人たちとの出会いがあったからです。そして23歳の時,1人で初めてハワイを訪れ,現地の進んだバリアフリーに衝撃を受けました。もっと世界を知りたいと思い世界一周を2度達成し,現在は車椅子トラベラーとして世界を巡り,講演活動や旅行商品の監修などを行っています。
高橋 三代さんとは共通の知人を通して出会いました。その後,その知人とともに,三代さんと原発性側索硬化症(PLS)当事者の落水洋介さんをお招きしたトークライブを企画・主催したことをきっかけに交流が深まり,現在では本校に講師としてお越しいただくこともあります。講演では車椅子ユーザーとしての経験だけでなく,挑戦すること,可能性を信じることの大切さを学生に伝えてくださっています。学生たちは普段の授業では見せないような,キラキラした表情で話を聞いています。
今では世界中を旅し,多くの人に勇気を届けている三代さんですが,今の活動の原点は何だったのでしょうか。
三代 事故後に入院していた病院でのある男性との出会いです。その方は僕と同じ頸髄損傷で,障害の程度は僕より重かったのですが,食事や移動など多くのことを自分でこなしていました。一方の僕は看護師さんや介護士さんに何でもしてもらうことが当たり前で,何かあるたびにナースコールを押していました。そんな僕に,その方が「お前,何甘えているんだ。できることがあるのになぜやらないんだ」と喝を入れてくださったのです。
振り返ると,医療職の方々からは治療や生活について本当に多くのサポートをいただきました。けれども,障害を負ってもなお「できること」や自分の可能性を教えてくれたのは,同じ障害を持つ当事者だったように思います。
高橋 私たち医療者は,障害のある方を「支援が必要な人」と見なしがちかもしれません。本校では落水さんにもご協力いただき,体位交換や移乗のサポートを学生に体験してもらっています。そこで私が意識しているのは,援助する側とされる側という関係をつくらないことです。雑談したり,一緒に笑ったりしながら時間を過ごすうちに,学生たちは三代さんや落水さんのことを「障害を持つ人」ではなく,同じ人間として見るようになります。
何が好きで,どんな暮らしを送っていて,何を大切にしているのか……。そうしたことに自然と関心が向き,できないことを補助する視点から,できることを応援する視点へ変わっていきます。私自身,障害のある方が秘める可能性に驚かされることも多く,当事者の方々から本当に多くのことを教えていただいていると実感します。
三代 健常者の学生にとって,障害を自分事として理解するのは非常に難しいことです。目隠しをして歩いたり,車椅子に乗ったりする疑似体験を養成校で行うこともあると聞きますが,正直,限界があるでしょう。だから僕は,障害を自分事ではなく「友達事」として考えてほしいです。
障害のある人と自然な交流を重ねることで,自分と同じように笑い,悩み,夢を持って生きる一人の人間だと実感してもらえるはずです。大切な友達のことを考えるように僕たちの気持ちや暮らしを想像してほしいし,そのほうが,ずっと自然に寄り添えると思います。そして,この人はどんな可能性があるのだろうと考え続ける視点を忘れないでいてほしいと願っています。
リフレーミングでつまずきを学びに変える
三代 逆境を乗り越えて挑戦を続ける姿から「本当にポジティブなんですね」と言われますが,実は僕はネガティブ寄りです。以前,元プロテニス選手の松岡修造さんとお会いした際,毎朝鏡に向かって「今日もかっこいい!俺最高!」と言い聞かせているという共通点があることがわかりました。すると修造さんが「それは僕たちがネガティブな証だね」と言ってくださって。
本当にポジティブな人は,わざわざ自分を励ましたりしない。不安になったり落ち込んだりするからこそ,自分に言葉をかけて前を向こうとするんだとおっしゃいました。さらに,「ネガティブだからこそ人の気持ちがわかるし,寄り添える。ネガティブはチームに欠かせない存在なんだ」とも教えてくれました。ネガティブが長所にもなると気づき,同じ物事でも見方次第で価値が変わることを実感しました。
高橋 なるほど,さすが修造さん! まさにリフレーミングの天才ですね。
三代 このリフレーミングは,僕が今も挑戦を続ける原動力になっています。最初の世界一周の経験をSNSで発信していた時,長年引きこもっていたという女性から,「あなたの発信を見て,私は外へ出ようと思いました」とメッセージをいただきました。この時,「障害=ネガティブなもの」ではなく,僕のような障害のある人が挑戦を続けることで,誰かの背中を押し,人の役に立ち得るのだと気づいたのです。僕にとってこれ以上ない発想の転換でした。
高橋 素晴らしいお話ですね。教育でも,リフレーミングはとても大切な考え方です。看護教育では,学生が実習や演習でのつまずきや失敗を振り返る場面が数多くあります。ただ,その振り返り方を工夫しなければ,「できなかった」という印象ばかりが残り,学生は次の一歩を踏み出すことをためらうようになります。
例えば,不十分な説明で患者さんを不安にさせてしまった時は,「患者さんの不安に気づけた」「説明の大切さを学ぶ機会になった」と発想を転換させます。出来事を肯定的に意味づけ,教員はフィードバックならぬフィードフォワードで「次はこうしよう」と具体的なアクションプランを学生に示せれば,学生はつまずきから得た学びを次の実践につなげられるのです。
看護に,教育に,もっとユーモアを
三代 今の話を伺って,自分の失敗を前向きにとらえ直せた背景に「笑い」があったことを思い出しました。以前,僕の車椅子にトレーナーさんを乗せ,逆に僕が車椅子を押すというチャレンジをしたことがありました。その最中,僕の手が滑って,トレーナーさんに覆いかぶさるように転んでしまったんです。僕を支えるはずだった別のトレーナーさんは少し離れた場所にいて,助けるのが間に合わず,僕含めその場にいた全員がヒヤッとしました。その時,覆いかぶさられたトレーナーさんが,僕の手を押さえながら「く,首が締まる~!」と大げさに叫んでくれて(笑)。その一言で,その場の空気が一気に変わりました。僕も「失敗したからやめよう」ではなくもう少し頑張ってみようと思えたし,助けるのが遅れて落ち込んでいたトレーナーさんも,必要以上に自分を責めずに済んだと思います。笑いには,出来事を前向きにとらえ直す力があると実感しました。
高橋 本当にそうです。もちろん医療安全を軽く考えてよいということではありませんが,教育や医療の現場だからといって,笑いやユーモアを遠ざける必要もないと思います。むしろ病いやけがと向き合う場所だからこそ,笑いには人の気持ちをほぐし,出来事を前向きにとらえ直す力があります。実習で失敗してしまった学生や,日々さまざまな葛藤を抱える看護師にとっても同じことが言えるでしょう。
相手を肯定するアファメーションの力
三代 今年4月,僕はバトゥ洞窟の272段の階段を自分の足で登り切りました。挑戦のきっかけは,「せっかく足が動くのに,なぜその力を生かさないのですか」という脊髄損傷専門ジムのトレーナーさんの言葉でした。当時の僕は車椅子で世界を旅していましたし,長年足を動かしていなかったので,歩くなんて考えたことがありませんでした。
マレーシアには高橋先生も日本から駆けつけて,「三代なら絶対登れる! もし足が動かなくなったら担いででも上まで連れてったる!」と言ってくれました。口だけだったかもしれないけれど……(笑)。でも自分を信じてくれている人が側にいることは,これ以上ない力になりました。
高橋 うれしいです。人は,自分ではその可能性に気づけないことがあります。だから私も教員として,「あなたにはこんな力がある」「絶対にできる」と学生に伝え続ける存在でありたいと思っています。実際,私は学生を実習に送り出す時,「できる,できる!」と声に出して伝えています。いわゆるアファメーションですね。根拠のない励ましや単なる気休めに感じられるかもしれませんが,決して侮れません。私はあなたの味方だということを,相手にストレートに伝えられます。
三代 『看護実習の極意』の中に出てくる,understand(理解する)とwithstand(耐える)の話にもつながりますね。
高橋 本,読んでくれたんですね! その2つは,まさに私が教育で大切にしている言葉です。前者は分解するとunder(~の下に)+stand(立つ),つまり相手の立場に立って理解すること,そして後者はwith(一緒に)+stand(立つ),つまり共に立って耐えることを表します。1人では乗り越えられないことも,誰かの伴走があれば持ちこたえられるかもしれません。
最近は主体性という言葉のもと,学生が動き出すまで待つかかわり方も見られます。しかし,それが時に学生を試すような空気につながっていないでしょうか。大切なのは,どんなに小さくても学生の強みや可能性を見いだし,「信じている」「あなたならできる」と日頃から伝えること。そして,学生が失敗を恐れず挑戦できるよう背中を押し,本当に困った時にはいつでも手を差し伸べられる距離にいること。その安心感があるからこそ,学生は安心して挑戦し,自ら一歩を踏み出すことができるのだと思っています。
三代 「何のために頑張るのか」を一緒に考えることも,非常に重要だと思います。米国で脊髄損傷を負った知人から聞いた話ですが,入院後,セラピストが最初に尋ねたのは,「何のためにリハビリをしたいですか」だったそうです。「歩けなくなるかもしれない。でも,夢のかなえ方が変わるだけで,やりたいことは実現できる。あなたは何をしたいですか」と。その知人が「水球やスキーをもう一度したい」と答えると,「では,それを目標に一緒にリハビリをしましょう」と言われたそうです。機能を回復させることではなく,その先にある人生や夢を一緒に見てくれる。その姿勢があったからこそ,頑張れたのだと言います。
高橋 看護学生にとって,国家試験に合格することはもちろん大切です。でも,それはゴールではありません。「どんな看護師になりたいのか」「誰のために頑張りたいのか」という目的があって初めて,学ぶ意味が生まれます。
ただ,大きな目標だけでは,学生は「自分にもできる」という実感を持ちづらいのが現実です。だから私は,学生が日々の中で小さな成功体験を積み重ねられるよう意識しています。例えばクラスの役割をお願いする時,どんな些細なことでも「あなたならできると思ったからお願いした」と伝え,助けてもらった時には「ありがとう。本当に助かった」と必ず言葉にします。そうした経験を積み重ねることで,自分も誰かの役に立てるという実感が育ち,やがて大きな目標に挑戦する力になると信じています。
伴走者も,弱さを見せていい
三代 中には,「自分には無理だ」と,自分の可能性を諦めてしまっている学生もいると思います。僕自身も事故直後は心を閉ざし,どんな励ましも素直に受け止められませんでした。そんな時,伴走者は無理に相手を変えようとするのではなく,「いつでも戻ってきていいよ」というメッセージを送り続けることが大切だと思います。
高橋 前提として,自分の弱さを口にしたり,相手に見せたりできるのは,信頼関係があるからこそです。相手が弱さを見せてくれることは,決してネガティブなことではありません。そして,その信頼関係を築くには,教員自身も「私もわからない」「ここは助けてほしい」と素直に伝えることが大切です。名前を呼ぶ,あいさつを交わす,感謝を伝える……。そうした日々の積み重ねが,学生が安心して一歩踏み出せる関係につながると思います。
教える・教えられるという関係を超えて,互いに支え合える関係を築くこと。そして教員の方々には,学生の10年後,20年後の成長を見据えながら,教育そのものを楽しんでほしい。その思いを込めて,今回上梓したのが『看護実習の極意』(医学書院)です。教育の方法論をまとめた書籍というより,「教育って楽しい!」と思えるヒントを詰め込んだ一冊です。教育や指導に携わる方に,ぜひ手に取っていただけたらうれしいです。
*
三代 将来,患者さんから「退院したら,私はどうなるのでしょう」と尋ねられた時,教科書で学んだ知識だけではその不安にうまく応えられないかもしれません。でも,「障害があっても,こんな人生を歩んでいる人がいますよ」と自分が出会ってきた当事者の姿を伝えられたら,患者さんは具体的に未来を思い描けると思います。医療者の方には,患者さんの可能性を信じ,希望を届けられる存在になってほしいと願っています。僕もそんな希望の一つになれるよう,引き続き,挑戦や発信を続けていきます。
高橋 本校の生徒は,三代さんからたくさんの勇気をもらい,医療者マインドを育ててもらっています。教員である私も同様です。今後の三代さんの挑戦を楽しみにしています。
2人が着用するTシャツには,三代氏が南米・ウユニ塩湖で立ち上がる姿がプリントされている。
(了)

三代達也(みよ・たつや)氏 車椅子トラベラー
18歳の時に四肢麻痺(C6B2不全)となる。23歳で初めてハワイを1人で訪れ,ロサンゼルスやオーストラリアでの短期滞在を経験。帰国後,会社員生活を経て,約9か月間で23か国42都市以上を巡る車椅子での世界一周を達成,2026年4月には世界二周目を達成した。現在は車椅子トラベラーとして全国で講演を行うほか,旅行会社と連携した国内外のツアー造成・監修に携わる。「教育×旅」をテーマに,小学校から大学まで幅広い世代への福祉教育にも取り組んでいる。
Instagram ID:@wheelchair_traveler_miyo

高橋聖子(たかはし・せいこ)氏 折尾愛真高等学校看護科 看護専攻科 教諭
折尾女子学園看護専攻科(当時)卒業後,姫路聖マリア病院で全国に先駆けシミュレーション教育に携わり,看護師・研修医を対象とした教育活動を行う。2014年より現職。現在は,基礎看護教育におけるシミュレーション教育やロールプレイを活用した教育実践,アクティブラーニングをテーマに,全国で講演・研修活動に取り組む。公認心理師。著書に『13のレシピで解説!看護を教える人が発問と応答のスキルを磨く本』(医学書院),『学生の学びを深め,教員・指導者を助ける――看護実習の極意』等。
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