医学界新聞

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伊藤泰平氏に聞く

インタビュー 伊藤泰平

2026.08.11 医学界新聞:第3588号より

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 インスリン療法では血糖コントロールが困難な糖尿病に対し,生命予後の改善をもたらす膵臓・膵島移植。2026年の診療報酬改定によって膵島移植を実施する施設の収益性が改善された一方で,国内において十分に普及しているとは言い難い。普及を阻むのは厳格な適応基準や,不可逆的な腎不全に至るまで公的支援の対象とならない制度の壁だ。本インタビューでは,糖尿病患者への移植医療の提供に最前線で尽力する伊藤氏に,現在の課題点や普及に向けた制度改革の展望などを伺った。

――糖尿病治療における移植医療は,どのような立ち位置でしょうか。

伊藤 わが国の糖尿病患者数は,糖尿病が強く疑われる方も含めると約1000万人に上ります。膵臓・膵島移植は糖尿病の改善が期待できる治療ですが,当然ながらその全員を移植医療で治すのは現実的ではありません。適応は明確に絞り込む必要があり,主要なターゲットは,糖尿病全体の1~2%を占める1型糖尿病患者さんです。その中でも,内因性のインスリン分泌が枯渇しており,インスリン注射のみでは血糖コントロールが極めて困難な重症例を対象とした医療として位置づけられています。

――膵臓移植と膵島移植,それぞれの特徴や治療成績について教えてください。

伊藤 両者は身体的負担と治療効果のバランスに大きな違いがあります。わが国における膵臓移植は1年,5年生着率がそれぞれ86.4%,76.7%と良好でインスリン離脱も可能な一方,臓器移植の中でも合併症発生率が比較的高く,ハイリスク・ハイリターンの側面を持ちます1)

 対して膵島移植の最大の特徴は,開腹手術を伴わず低侵襲である点です。ドナーから提供された膵臓から膵島細胞のみを分離し,点滴の要領で局所麻酔下において門脈内に注入します。細胞の分離から門脈への注入,そして生着するまでの過程で,注入する膵島のうち約3分の2が死滅してしまうと言われているため,最大3回まで移植を受けられる仕組みとなっていますが,現状では3回施行しても完全なインスリン離脱に至る方は少ないのが実情です。治療効果や必要となるドナー数の観点から,わが国では基本的に膵臓移植が優先されており,適合者がいない場合に膵島移植の適応が検討されます。

――近年の移植医療を取り巻く環境に変化はありますか。

伊藤 以前はドナー不足が課題でしたが,ここ数年は脳死下での臓器提供数が増加傾向にあり,膵臓移植の待機患者数は減少しつつあります。しかし,わが国では適応基準が極めて厳格であるため,脳死ドナーが発生しても実際に移植に至るケースは,膵臓移植では20~30%程度にとどまっています。 つまり,ドナーが少なかった時代の厳しい適応基準のままで運用されているのが現状なのです。したがって,内因性のインスリン分泌の枯渇にとらわれず,まずは1型糖尿病の患者さん全体に適応の間口を広げることで,移植の恩恵を受けられる方は確実に増えると考えています。現在,日本膵・膵島移植学会でもこの現状を踏まえ,適応緩和に向けた検討が進められつつあります。

――将来的には,2型糖尿病の患者さんへも適応を広げていくのでしょうか。

伊藤 いずれは広げられればと考えています。2型糖尿病であっても,罹患歴が長くインスリン分泌が枯渇してしまう方がいらっしゃいます。すでに海外では2型糖尿病の慢性腎不全患者さんに対する膵腎同時移植が行われ,良好な成績が報告されています2)。生命予後の改善が明らかになっている以上,わが国でも門戸を広げたいと考えています。

――対象となる患者数が一気に増えそうですね。

伊藤 おっしゃる通りで,全ての方を膵腎同時移植や腎移植後膵臓移植の適応にしてしまうと対象者が膨大な数に上り,腎疾患で移植を待っている方が不利益を被る恐れがあります。また,病態の面から見て,全ての方で移植の効果が期待できるわけではありません。極端な肥満がある方はインスリン抵抗性が高いため,移植によってインスリンが分泌されても十分な血糖降下作用が得られない可能性もあるのです。したがって,どのような患者さんを適応とするか慎重に見極めることが重要な課題となります。

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――適応基準の厳格さ以外にも普及を阻む要因はありますか。

伊藤 膵島移植に関しては2020年の保険適用以降も,年間数件の実施となっているのが現状です。普及を阻む障壁の一つであった実施施設側の収益性については,2026年の診療報酬改定で「臓器移植実施体制確保加算」が膵島移植にも適用されたことにより,一定の改善が見られました。依然として残る膵臓・膵島移植に共通する最大の課題は,腎移植を伴わない単独での移植における患者さんの経済的負担と,それを支援する制度の壁に他なりません。

――現在の公的支援制度ではカバーしきれないということでしょうか。

伊藤 ええ。糖尿病性腎症により腎不全に至った患者さんは「自立支援医療(更生医療)」の対象となるため,膵腎同時移植および腎移植後膵臓移植であれば,免疫抑制薬を含む医療費は国からの公的支援が受けられます。一方で,インスリンが枯渇しており移植を検討できる患者さんでも,腎機能が保たれていればこの公的支援の対象外です。そのため,膵臓や膵島の単独移植を受けた場合,3割負担であっても月に6~7万円(藤田医科大学による試算。患者の収入や高額療養費制度の活用などにより変動する可能性)の医療費が生涯にわたり必要となることが想定されます。

――経済的な理由で移植を断念する患者さんは少なくないのでしょうか。

伊藤 膵臓移植の適応となり移植希望の登録をしている患者さんは約130人,そのうち実際に移植可能な状態にある「アクティブ待機」の方は約80人にとどまります。残りの患者さんの中には,腎不全を合併して公的支援の対象となるまでは,経済的な理由から移植という選択肢を決断できない方がいます。本来であれば,不可逆的な腎不全に至る前に治療介入を行うべきですが,現状の制度下では経済的な壁によって移植医療を受けられない患者さんが存在するのです。

――この障壁を打破すべく,日本膵・膵島移植学会等でも働きかけを行っていると伺いました。

伊藤 自立支援医療は障害に対する医療を支援する制度であり,腎不全(腎機能障害)の代替医療である腎移植は対象となります。1型糖尿病についても対象とならないか厚生労働省へ陳情しましたが,1型糖尿病患者さんの全員を「障害」と認定することは困難とのことでした。次の策として,日本糖尿病学会と連携して難病指定(特定疾病)の枠組みへの追加も模索しているものの,対象患者数の多さなどが障壁となり難航しています。他の主要な臓器移植は自立支援医療の対象であったり,原疾患が難病指定されていたりとセーフティーネットがありますが,1型糖尿病は患者数が多いがゆえに,制度の隙間に落ちてしまっているのが現状です。

――移植医療の普及に情熱を注ぎ続ける原点はどこにあるのでしょうか。

伊藤 米国への留学後に赴任した千葉東病院での経験がきっかけです。当時,同院は外科業務の7割以上を移植診療が占めるという先駆的な体制をとっており,剣持敬先生(現・藤田医科大学客員教授)が2004年に国内初の生体膵臓移植を成功させていました。私はそこで初めて,「移植医療でしか救えない患者さんがいる」事実を目の当たりにしたのです。手術直後こそ体にダメージを受けるものの,患者さんが日を追うごとに活力を取り戻していく。その劇的な回復の姿に深い感銘を受け,移植医療をライフワークとしていく決意を固めました。

――その恩恵をより広く届けるための今後の展望と,医療者へのメッセージをお願いします。

伊藤 ドナーの方やそのご家族の思いを一人でも多くの患者さんにつなげるべく,引き続き日本膵・膵島移植学会とも連携して,粘り強く制度の改善を国へ訴えかけていく所存です。膵臓や膵島移植は患者さんの生命予後を確実に改善させる医療で,糖尿病の根治も期待できます。糖尿病患者さんを診る先生方には,ぜひ移植医療という選択肢を念頭に置いて診療に当たっていただければうれしいです。

 そして何より,救急の最前線で奮闘されている先生方には深く感謝申し上げます。ご家族への積極的な情報提供により,少しずつドナーが増え,移植医療は着実に前に進んでいます。私たち移植を届ける側も,託された尊い意思を決して無駄にせぬよう,引き続き全力を尽くしてまいります。

(了)


1)移植関係学会合同委員会,他.膵臓移植に関する実施要項(2025年5月改訂).2025.
2)Transpl Int. 2025[PMID:41127477]

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藤田医科大学医学部移植・再生医学 主任教授

1994年筑波大卒。千葉大病院第二外科に勤務後,2004年より米Beckman Research Instituteで膵島移植の研究に携わる。07年より千葉東病院へ赴任後,12年に藤田保衛大(現・藤田医大)医学部臓器移植科講師。准教授を経て24年より現職。日本膵・膵島移植学会「膵島移植班」事務局として患者の適応判定からアロケーションまでを担うなど糖尿病患者への移植医療の普及に尽力する。