医学界新聞

臨床研究・疫学研究のための因果推論レクチャー

連載 杉山 雄大,井上 浩輔,後藤 温

2022.05.09 週刊医学界新聞(通常号):第3468号より

 1年余りにわたった本連載も最終回を迎えました。今回はこれまで紹介した内容を振り返り,因果推論の活用で広がる研究の未来について,私たちの考えをお伝えします。

 本連載の導入となる第1回は,因果推論を学ぶ理由と,リサーチクエスチョンを実現可能で良い研究デザインに落とし込む過程を説明しました。第2回に因果推論の基本として,集団の比較で生じる交絡の問題を歴史的経緯とともに紹介し,曝露を「仮想的な介入」としてとらえることが因果推論の基本的な考え方の一つであるとお伝えしました。第3回は,因果関係の仮説を可視化するコミュニケーションツールであるDAGの基本ルールを紹介し,DAGは調整すべき変数とすべきでない変数を整理する際に有用であることをお示ししました。

 第4~6回では基本的な変数の調整方法として,層別解析(第4回),多変量回帰モデル(第5回),傾向スコアマッチング(第6回)について,構築したモデルに課している仮定の重要性と併せて解説しました。

 中盤の第7~9回では,メカニズム解明や交互作用に着目した発展的な因果推論の手法を扱いました。第7回は時間とともに変化する曝露の文脈で,治療確率による逆確率重み付けとG-computationの手法について。第8回では効果の異質性の概念と,ある集団での効果を他の集団に適用する方法としてgeneralizability/transportabilityの概念と評価方法。そして第9回では中間因子を介した因果効果を評価する因果媒介分析について解説し,因果推論の手法について理解を深めました。

 終盤の第10回以降は未測定交絡が存在する場合に有効な手法を扱いました。まず第10回で,バイアス分析の手法についてケースを交え解説。続く第11回で,操作変数法によって未調整交絡を制御できることを取り上げ,その手法の一種としてメンデルランダム化を提示しました。第12回では集団レベルでの曝露・介入の効果推定方法として差分の差分法と分割時系列分析を取り上げました。記憶に新しい第13回では,中間因子を用いて因果効果を推定するフロントドア基準,特に新しい手法である一般化フロントドア基準を紹介しました。

 では,数ある因果推論の手法からどの方法を選択し,場合によってどう組み合わせ適用すればよいのでしょうか。第1回で述べたように,最も理想的な研究デザイン・データと,実際との差異に注目することがまずは肝要です。そして本連載や,連載の中で紹介した成書などを通じ,複数の手法を学ぶことで実際の研究に適した手法を選択できるようになるでしょう。さらに,研究デザインが良く練られた論文を読むことは,手法の適用について新たな学びを得る絶好の機会となります。因果推論の手法は日々進歩しているため,最新の知見にもアンテナを張って学び続けるようにしましょう。

 本連載では発展的な手法も紹介したため,読者の中には「因果推論は難しい」と感じた方もいたかもしれません。3人の筆者も,因果推論が簡単なものとは思っていません。では,時に難解に感じる因果推論の意義について,あらためて考えてみましょう。

 どの因果推論の手法にも,前提となる仮定や対象の範囲が定められており,慎重に推論する必要があります。一方で,研究結果から因果関係を慎重に評価・議論することは科学的な作業です。そのプロセスを経ることで,臨床研究・疫学研究は妥当で力強い示唆を与えるようになると私たちは確信を持っています。

 理論として学問的価値の高い因果推論は,実際の研究場面への応用によってその価値が一段と高まります。応用の場においては,重要性の高いリサーチクエスチョンに取り組むことが意義深い研究を行う上で最も大切です。これは,第1回に強調した通りです。価値の高い研究とは新規性の高い研究だけではありません。臨床や社会医学で重要性の高い課題に取り組んだ先行......

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