医学界新聞

臨床研究・疫学研究のための因果推論レクチャー

連載 杉山 雄大,井上 浩輔,後藤 温

2021.04.05 週刊医学界新聞(通常号):第3415号より

 今回から始まる本連載は,臨床研究や疫学研究の初学者を主な対象としています。「疫学や統計の入門書を読んでみたものの,実際の研究はハードルが高く感じてしまう」「初めての研究論文で査読者から『バイアスを除去できていない』と言われてしまった」などのフェーズは誰にでもあると思います。

 本連載を担当する3人は,国立国際医療研究センターなどで内科医のトレーニングを受けた後,米カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)にて疫学の分野で因果推論を学び1),この壁を乗り越えられたと感じています。本連載を通じ,因果推論の考え方や具体的な方法をできるだけわかりやすくお伝えしていきます。

 第1回は導入として具体的な研究デザインの作り方を説明し,因果推論を用いた医学研究をわがコトとしてとらえていただくのを目的に進めます。「因果推論を医学研究に適用する」という一見難しそうなことが,なぜ医学研究を「身近」で「素敵」なものにできるのか,その理由を説明します。

 臨床のガイドラインでは「エビデンスレベル」が定められています。一般にランダム化比較試験(RCT)がより価値が高く,それに比べ観察研究は低いとの教育を受けたはずです。するとRCTありきの研究は敷居が高く,うかつに始められないと感じるかもしれません。しかし,RCTが本当に一番「良い」研究なのでしょうか?

 私たちは,RCTと観察研究では研究の目的が異なるため,どちらが「良い」研究かは一概に言えないと考えています。確かに,曝露と結果の因果関係を最も正確に評価できるのはRCTであることが一般的です(「内的妥当性が高い」と言います)。しかし,RCTは資金的にも時間的にも簡単に行えるものではありません。ランダム割り付けが倫理的に許されない曝露もありますし(喫煙,危険な行為など),介入が原理的に不可能な曝露もあります(性別,人種など)。加えて,RCTであれば研究に伴う全ての限界が解決されるわけではなく,脱落が多かった場合のバイアスは残ります。実験的で特殊な環境下での結果のため,一般集団で同様の関係を認めないかもしれない点(一般化可能性の制約)は,むしろRCTのデザインから生じる課題です。

 初めての研究をRCTで行う人は臨床の場面ではまれです。ほとんどの場合は観察研究からになるでしょう。観察研究には,RCTではそのデザインで克服されるさまざまな限界やバイアスが生じるのは事実です。しかし,観察研究であっても疾患の性質やデータの特性を活かして解析すると,良い研究となる場合もあります。難しいのは観察研究に固有の限界や起こりやすいバイア

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国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センター医療政策研究室長/筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野准教授

2006年東大卒。12年米カリフォルニア大ロサンゼルス校(ヘルスサービス)修士課程,14年東大大学院医学系研究科博士課程修了。17年国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センター医療政策研究室長,18年より筑波大医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野准教授を兼務。専門はヘルスサービスリサーチ,医療政策,糖尿病。

京都大学大学院医学研究科社会疫学分野助教/米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校

2013年東大卒。国立国際医療研究センター,横浜労災病院内分泌・糖尿病センターの勤務を経て,21年米カリフォルニア大ロサンゼルス校(疫学)博士課程修了。同年より現職。専門は臨床疫学,内分泌代謝学。

横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻教授

2004年横浜市大卒。12年米カリフォルニア大ロサンゼルス校(疫学)博士課程修了。国立国際医療研究センター上級研究員,国立がん研究センター室長などを経て,20年より現職。専門は疫学,公衆衛生学,糖尿病。

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