医学界新聞

臨床研究・疫学研究のための因果推論レクチャー

連載 井上 浩輔,杉山 雄大,後藤 温

2021.11.29 週刊医学界新聞(通常号):第3447号より


 ある曝露がアウトカムに影響を与えるには,多くの場合その過程に別の因子が介在するなど,何らかのメカニズムが存在します。今回は,そうしたメカニズムをひもとく手法を紹介します。

 疫学研究において,中間因子を介した影響を考える場面を大きく分けると,①メカニズムを解明したいとき,②中間因子への介入を行いたいとき(介入の難しい曝露を扱うとき),の2つが挙げられます。まず,ある曝露がアウトカムに影響を与えた際,特定の中間因子を通る経路が,曝露→アウトカムの効果にどの程度貢献したかを理解することは,メカニズムを議論する際に重要です。この問いは病気の発症機序などに関心がある生物学的な観点でよく用いられます。例えば,運動量の低下(曝露)が血圧(中間因子)を上昇させ,心血管イベント(アウトカム)を発症する影響を検討するときなどです(図1-A)。

 次に,曝露が健康を害するとわかっていても物理的・倫理的・経済的に介入が難しいケース(社会背景因子による格差など)も存在します。その場合は,曝露―アウトカム間に存在する中間因子に介入できたら,曝露の影響を少なくとも一部取り除ける可能性があり,このような問いは社会的・政策的な観点で多く用いられます。

 例えば,高血圧の発症予防を積極的に行うことで,貧困(低世帯収入など)による心血管イベント発症リスクの上昇がどの程度軽減されるかを検討するときなどです(図1-B)。これら2つの異なる問いに答えるために有用な手法が,因果媒介分析になります。

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図1 中間因子に着目した2つの「問い」とそれに対応する効果指標

NDE=Natural Direct Effect,NIE=Natural Indirect Effect,TE=Total Effect,PM=Proportion Mediated,CDE=Controlled Direct Effect,PE=Proportion Eliminated
*曝露と中間因子に交互作用がある場合,NDEとCDEは一致しない。
各効果指標の推定方法はRコマンドを参照。
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 因果媒介分析では,総合効果を分解して,曝露が中間因子を介してアウトカムに与える影響(間接効果),曝露が中間因子を介さずにアウトカムに与える影響(直接効果)を推定します(図2-A)。その際,曝露―アウトカム,曝露―中間因子,中間因子―アウトカムの3つの経路を扱うため,それぞれの経路に対する交絡因子を調整する必要があります(図2-B,註1)。

 初めの2つは総合効果を求める際にも必要な仮定ですが,中間因子―アウトカムの交絡調整は直接効果と間接効果を推定する因果媒介分析の文脈で新たに必要となる仮定になります。曝露が無作為割り付けされているランダム化比較試験でも,中間因子は無作為化されていないため,バイアスのない効果を推定するには中間因子―アウトカムの交絡を調整する必要があります(図2-C)。さらに,曝露から影響を受ける中間因子―アウトカムの交絡因子が存在する場合は,その因子は曝露―アウトカムの中間因子でもあるため,調整の有無にかかわらず直接効果や間接効果の推定にバイアスが生じてしまいます(図2-D,註2)。

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図2  因果媒介分析で考慮すべき交絡因子

 上記の仮定および第5回で説明した因果効果を推定するための仮定を満たした上で,反事実モデルを用いた因果媒介分析を応用すると,曝露―アウトカム間に存在するさまざまな経路をひもとくことができます1, 2)。具体的には以下の効果指標を用いて,それぞれの経路の効果を定量的に評価します。

 まず,自然な間接効果(Natural Indirect Effect:NIE)はそれぞれの対象が曝露されたとしたときに,中間因子を「曝露された場合にとり得る値」に設定した際のアウトカムと,中間因子を「曝露されなかった場合にとり得る値」に設定した際のアウトカムを比較して得られます。そして,自然な直接効果(Natural Direct Effect:NDE)は,中間因子の値をそれぞれの対象者が「曝露されなかった場合にとり得る値」に設定した上で,曝露を変化させたときのアウトカムを比較することで算出され,その合計値(NIE+NDE)は曝露からアウトカムへの総合因果効果(Total Effect:TE)となります。

 これとは別に,制御された直接効果(Controlled Direct Effect:CDE)という効果指標もあります。CDEは中間因子を特定の値(一般的には基準の値,二値変数であれば0)に制御(固定)した上で,曝露を変化させたときのアウトカムを比較して算出されます。CDEは曝露と中間因子に交互作用がない場合にNDEと一致しますが,多くの研究では少なからず交互作用が存在し,その場合に両者は乖離するため,どちらの指標に関心があるかを研究者は考える必要があります(註3)。

 NIE・NDEを推定するか,CDEを推定するかは,先に述べた研究の「問い」に応じて検討します。例えば,アウトカムに対する曝露の効果のうち,どれだけが中間因子を介して作用しているのか,他の経路を介して作用しているのか,というメカニズムを評価する目的では,NIE・NDEが適しています(図1-A)。NIEのTEに対する割合(NIE/TE)をProportion Mediated(PM)と呼び,特定の経路の重要性を評価するのに有用です。一方で,中間因子に介入することで,曝露のアウトカムへの影響をどれだけ除去できるかを評価する際には,CDE(中間因子の値を特定の値に固定して推定する直接効果)が適しています(図1-B)。中間因子を特定の値に固定することで除去される割合〔(1-CDE)/TE〕をProportion Eliminated(PE)と呼び,より政策上の意義が高い尺度として解釈することができます。

 さらに,CDEは上述の交絡の仮定のうち,曝露―アウトカムの交絡因子,中間因子―アウトカムの交絡因子が調整されていれば(他の2つの交絡の仮定を満たしていなくても)推定できます。具体的な推定方法は本紙ウェブ版で公開するRコマンドや成書2)を参照してください。因果媒介分析を行うときは,明らかにしたい「問い」に応じた効果指標を推定するよう心掛けましょう。


註1:未測定の交絡因子がある場合は感度分析(次回以降に説明)でバイアスの程度を定量的に評価することが推奨されている2)
註2曝露と中間因子の測定が長期間空いているとそのような交絡因子が存在しやすい。対処法としては,その交絡因子も中間因子と見なして複数の中間因子を扱う手法を応用することもある2)
註3曝露と中間因子の交互作用が存在する場合,曝露からアウトカムの経路は4つ(CDE,Pure Indirect Effect,Reference Interaction Effect,Mediated Interaction Effect)に分けることができ,それらを組み合わせることで,関心ある効果を柔軟に求めることが可能である(詳しくは文献2,3を参照)。
謝辞:横浜市立大学の田栗正隆先生にご助言をいただきました。心より感謝申し上げます。

1)矢田真城,他.反事実モデルに基づく直接効果と間接効果の推定.計量生物学.2020;40(2):81-116.
2)VanderWeele T. Explanation in causal inference: methods for mediation and interaction. Oxford University Press;2015.
3)Inoue, K. et al. Curr Environ Health Rep. 2020[PMID:32770318]

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