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『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より

連載 上原 拓樹

2024.05.03

X(旧・Twitter)やYouTubeなどのSNSで循環器領域の情報発信を続ける「うし先生」の書籍『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』がこのたび刊行されました。本書は,研修医の先生方が循環器内科をローテートする時に悩みがちな100個の疑問を取り上げ,「うし先生」が簡潔に解説していくものです。

循環器内科医をこれからめざす方は知識の基礎固めとして,今のところ循環器に進む予定がない方でも,ローテート時の最低限の知識のインプットとしてご活用いただけること間違いなしです。医学界新聞プラスでは,本書より4項目をピックアップし,ご紹介していきます。

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近年は心不全の薬物療法の有効性について多数の報告がされており,早期に至適薬物療法を行うことが重要と考えられています.細かい使い分けは難しいですが,まずはざっくりした使い方を理解しましょう.前半では左室駆出率(LVEF)による使い分けを,後半では各薬剤の使い分けを説明します.

LVEFによる使い分け

■ LVEF≦40%の心不全(HFrEF)
HFrEF(heart failure with reduced ejection fraction)に対して有効性のある薬物は,β遮断薬,ACE阻害薬/ARB/ARNI,MRA,SGLT2阻害薬です.これらはFantastic 4とも呼ばれ,近年ではなるべく早期にこの4剤を導入するべきと言われています 1,2).順番よりもしっかり4剤導入することが大切です.ほかにベルイシグアトも有効性が報告されていますが 3),2023年時点では本邦のガイドラインでの推奨までには至っていません.逆に,それ以外の薬剤は対症療法や個々の原因に対するものであり,心不全の予後改善を目的とした薬剤ではありません.

​​​​​​​■ LVEF≧50%の心不全(HFpEF)
HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction)に対して,予後を改善することをしっかり証明した薬剤は実はほとんどありません.そのため,SGLT2阻害薬以外のFantastic 4については,ガイドライン上はクラスⅡbの推奨となっています 1,2).「血圧や電解質を見て導入を検討してもよい」程度です.本邦のガイドラインでは記載がありませんが,SGLT2阻害薬が初めてHFpEFに対する予後を改善したと報告されたことにより,欧州心臓病学会のガイドラインではSGLT2阻害薬をクラスⅠで推奨としています 4).ARNIもHFpEFに対する有効性は確認できませんでしたが,ARBとの直接比較であったため,プラセボと比較をすれば有効性が確認できたのかもしれません 5)

各Fantastic 4の選択と使い方(表1)

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表1 各Fantastic 4のまとめ

■ β遮断薬
エビデンスが多く,本邦で使用可能な薬剤はビソプロロールカルベジロールです.ビソプロロールのほうがβ1受容体選択性が高いため,相対的に心拍数を下げやすい(逆に血圧を下げにくい),気管支喘息などに影響しにくいなどの特徴があります.特に理由がなければどちらを選択してもよいです.ビソプロロールは1日1回(最大5mg/日),カルベジロールは1日2回(最大20mg/日)投与で,心拍数や血圧を見ながら最大量を目指します.急な増量は心不全の悪化リスクがあるため,緩徐に増量します

■ ACE阻害薬/ARB/ARNI
心不全においては,心不全に対するエビデンスが多いのはACE阻害薬(ARBはACE阻害薬に対して忍容性がない場合に使用)であり,原則はACE阻害薬≧ARBと考えます.ACE阻害薬は空咳の副作用が有名です.それぞれの薬剤については何を選択してもよいです.最近はARNI(サクビトリルバルサルタン)というネプリライシン阻害薬入りのARBの有効性が確認されているため,心不全コントロール不良であればARNIに変更しますし,HFrEFであれば最初からARNIでもかまいません.これら3剤はいずれも最大量を目指します.​​​​​​​

■ MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)
カリウム保持性利尿薬として知られていますが,利尿作用以上にHFrEFに対する予後改善が報告されています.薬剤の選択についてはスピロノラクトンエプレレノンの2剤までで,どちらを選択してもよいです.無理して増量する必要はありません(処方していればOKです).エプレレノンのほうが女性化乳房などの副作用が出現しにくいですが,添付文書上の禁忌事項がやや多いです.​​​​​​​

​​​​​​​■ SGLT2阻害薬
心不全に対する有効性が確認されているのは,ダパグリフロジンエンパグリフロジンで,どちらを選択してもよいです.増量はせず,処方量は固定です

  • うし先生からのAnswer
  • LVEFにあわせて心不全薬を適切に使用しよう!
  • HFrEFであれば,Fantastic 4をしっかり導入しよう!


文献
1)急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)[2024年2月閲覧]
2)2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療[2024年2月閲覧]
3)N Engl J Med 382:1883-1893, 2020[PMID:32222134]
4)Eur Heart J 44:3627-3639, 2023[PMID:37622666]
5)N Engl J Med 381:1609-1620, 2019[PMID:31475794]

 

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