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『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より

連載 上原 拓樹

2024.04.26

X(旧・Twitter)やYouTubeなどのSNSで循環器領域の情報発信を続ける「うし先生」の書籍『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』がこのたび刊行されました。本書は,研修医の先生方が循環器内科をローテートする時に悩みがちな100個の疑問を取り上げ,「うし先生」が簡潔に解説していくものです。

循環器内科医をこれからめざす方は知識の基礎固めとして,今のところ循環器に進む予定がない方でも,ローテート時の最低限の知識のインプットとしてご活用いただけること間違いなしです。医学界新聞プラスでは,本書より4項目をピックアップし,ご紹介していきます。

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ここでは,心疾患を疑ったときに行う心エコー検査のレポートを読むのに必要な,コメント欄だけでなく,それぞれの測定項目の基準値と解釈について紹介します.基準値は日本人/外国人,男/女,また出典によって異なるので,おおよその値を記載しました.また,自施設で心エコーの動画が見られるのであれば,ぜひ動画を一度見てみてください.感覚的に理解しやすくなりますよ.

測定項目は英略語が多いのを嫌に思われる方もいるかもしれません.フルスペルで覚えると何を測定しているかわかりやすいのですが,とりあえず略語だけ覚えて,レポートを見るときに本書を参照いただくのでもOKです.ちなみに語尾の「s」はsystole(収縮期),「d」はdiastole(拡張期)の略です.項目によっては収縮期と拡張期で違いがほとんどないものもありますが,測定タイミングを統一しておかないと評価者によって異なる測定値を算出しかねないため,どのタイミングで測定したかわかるように記載されています.

それでは,各測定項目の基準値と解釈について解説していきましょう.

■ 左房:文字通り左房の「大きさ」を表します.
・LAD(left atrial dimension,左房径):基準値30~40 mm 程度

・LAVI(left atrial volume index,左房容積係数):基準値 34 mL/m2 程度
⇒左房拡大の鑑別:慢性左心不全,心房細動,僧帽弁疾患,肥大型心筋症など

■ 左室:左室の「大きさ」に加えて,「壁の厚さ」や「ポンプ機能」の指標を含みます.
・LVDd(left ventricular end-diastolic diameter,左室拡張末期径):基準値 40~50 mm 程度
⇒左室拡大の鑑別:左心不全,大動脈弁閉鎖不全症など

・IVSTd(interventricular septal thickness,心室中隔壁厚):基準値 7~10 mm 程度

・LVPWd(left ventricular posterior wall thickness,左室後壁厚):基準値 7~10 mm 程度
⇒壁肥厚の鑑別:肥大型心筋症,二次性心筋症,高血圧,大動脈弁狭窄症など

・LVEF(left ventricular ejection fraction,左室駆出率):基準値 50~70%程度
⇒亢進の鑑別:高拍出性心不全(脚気心,貧血,甲状腺機能亢進症,シャントなど)
⇒低下の鑑別:左心不全

・SV(stroke volume,一回拍出量):基準値 60~130 mL 程度
⇒亢進の鑑別:高拍出性心不全(脚気心,貧血,甲状腺機能亢進症,シャントなど)
⇒低下の鑑別:心不全

・LVOT-PG(left ventricular outflow tract-pressure gradient,左室流出路圧較差):基準値ほぼ 0 mmHg
⇒高値の鑑別:閉塞性肥大型心筋症(>30mmHg)

■ 左室拡張能:ここは複雑な指標が多いので,個別に簡単に解説します.
・ 左室流入血流比(E/A):左室に流入する血流について,最初に左室が拡張する速度波形(E波)と,次に左房が収縮する速度波形(A 波)の比です.拡張能は単独では測定できない ので,以下は目安です.

左房圧正常(拡張障害GradeⅠ):E/A≦ 0.8かつ E ≦ 50 cm/秒
拡張障害 GradeⅡ:E/A≦0.8 かつ E >50 cm/秒もしくは0.8<E/A<2
拡張障害 GradeⅢ:E/A≧2

・僧帽弁輪後退速度(e’):基準値 7 cm/秒以上(側壁は10 cm/秒以上)
拡張期に僧帽弁輪が心尖から離れていく速さで,左室拡張能を間接的に表します.

・左室流入血流のEとe’の比(E/e’):基準値 E/e’ ≦ 8(E/e’≦ 14の場合,異常)
E は左室充満圧と左室弛緩の影響を受けるので,弛緩の指標であるe’で割ることによって,左室充満圧を表す指標になります.
*心房細動や僧帽弁疾患,洞頻脈時は測定が困難.
*左室収縮能障害がある場合は原則,左室拡張能も低下している.

ここからはさらに複雑な指標が出てくるので,1つひとつ丁寧に解説していきます.

■ 右心系:右室の収縮能や右心負荷所見を表します.
・TAPSE(tricuspid annular plane systolic excursion,三尖弁輪部収縮期移動距離):基準値17mm以上 三尖弁輪の長軸方向の移動距離を計測することで,右室収縮能が評価できます.

・RVFAC(right ventricular fractional area change,右室面積変化率):基準値35%以上 拡張末期から収縮末期での右室面積の変化率を表し,これも右室収縮能の指標です.
⇒右室収縮能低下の鑑別:右心不全(肺高血圧症,両心不全,肺塞栓症,右室梗塞など)

・IVC(inferior vena cava,下大静脈)径:体液貯留量を反映(ただし,右心不全を合併すると右房圧が上昇し,脱水気味でも拡張することに注意)
>21mm + 呼吸性変動減弱 ≒ 推定右房圧 15mmHg
>21mm + 呼吸性変動あり ≒ 推定右房圧 8mmHg
≦21mm + 呼吸性変動減弱 ≒ 推定右房圧 8mmHg
≦21mm + 呼吸性変動あり ≒ 推定右房圧 3mmHg

・TR-PG(tricuspid regurgitant-pressure gradient,三尖弁逆流圧較差):基準値35mmHg未満 三尖弁逆流があることを逆手にとり,その圧較差を測定して,右室≒肺動脈が高圧状態か見ています.
⇒高値の鑑別:肺高血圧状態(肺うっ血,肺動脈性肺高血圧症,肺塞栓症など)

■ 弁膜症
原則は各測定値から算出されたmild(軽症),moderate(中等症),severe(重症)で十分かと思います.狭窄症の場合,重症になるほど弁口面積は狭く,圧較差は大きくなります.閉鎖不全症の場合,重症になるほど逆流弁口面積と逆流量は大きく,圧較差半減時間は短くなります.原則は定量評価が推奨されますが,特に閉鎖不全症の場合,測定誤差も生じ得るため,測定者によっては定性評価(見た目の評価)のみ行われることもあります.

■壁運動異常:冠動脈領域に一致した壁運動異常を「asynergy」と呼びます.
・前壁中隔〜前壁:左冠動脈前下行枝領域
・後壁:左冠動脈回旋枝領域
・下壁:右冠動脈領域

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  • うし先生からのAnswer
  • 心エコーレポートを読む際は,動画もあればあわせて見よう! 感覚的に理解しやすくなるぞ!
  • 測定項目のだいたいの基準値を理解して,逸脱しているときに考えることを理解しておこう!
 

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