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『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より

連載 上原 拓樹

2024.05.17

X(旧・Twitter)やYouTubeなどのSNSで循環器領域の情報発信を続ける「うし先生」の書籍『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』がこのたび刊行されました。本書は,研修医の先生方が循環器内科をローテートする時に悩みがちな100個の疑問を取り上げ,「うし先生」が簡潔に解説していくものです。

循環器内科医をこれからめざす方は知識の基礎固めとして,今のところ循環器に進む予定がない方でも,ローテート時の最低限の知識のインプットとしてご活用いただけること間違いなしです。医学界新聞プラスでは,本書より4項目をピックアップし,ご紹介していきます。

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X(旧:Twitter)でアンケートをとったところ,頻脈は約93%,徐脈は約88%で相談された/した経験があるという結果でした(図1).相談を受けるのが主治医としてなのか当直医としてなのかによって異なりますが,今回は夜間を中心に,病棟患者さんの心拍数の方針の立て方を,頻脈と徐脈に分けて解説します.

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病棟患者さんの頻脈のさじ加減

標準化は難しいですが,一番重要なのは,頻脈の原因です.以下,確認すべき事項と対応例を説明します.
 

①頻脈の症状
頻脈(不整脈)による症状が出現し,苦痛が強い場合には早期に徐拍化を検討します.心房細動であれば本書のQ51を参照してください.軽微な症状であれば,次の②〜④を優先します.不整脈以外の症状により頻脈となっている可能性にも留意します.

②頻脈の種類
まず,可能であれば12誘導心電図を施行します.幅の狭いQRS波形であれば上室性と考えて問題ありません.この場合,洞頻脈か心房細動,心房粗動(心房頻拍),発作性上室頻拍などを鑑別します.洞頻脈の場合は不整脈ではないため,頻脈の原因のみ介入します.幅の広いQRS波形でも普段の心電図と同一であれば脚ブロックと思われますが,新規の幅の広いQRS波形であれば心室頻拍の可能性があります.短時間であれば様子見でOKですが(☞本書のQ61),持続化していたらすぐに循環器内科に相談しましょう.

③頻脈の原因
頻脈になる原因を評価します.特に入院中の患者さんの新規頻脈であれば,発熱(感染),うっ血,脱水,貧血,疼痛,肺塞栓,甲状腺機能などを評価します.実臨床では,発熱があれば熱源検索と解熱や感染症治療を,うっ血があれば利尿薬を,脱水があれば点滴で補正を行います.

④心臓と全身の状態
可能な範囲で心臓の状態を確認します.僧帽弁疾患があると上室頻拍が悪化しやすいです.左室収縮能障害がある場合,頻脈への忍容性が低いため,原因にかかわらず早期に徐拍化を目指したほうがよいのですが,ベラパミルなどの非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は原則禁忌となります.終末期の患者さんなど,全身状態が不良の場合,大抵は頻脈傾向(しばらくしてから徐脈化し,心肺停止)となります.この場合,徐拍化をするか,原因のさらなる検索をするかは状況に応じて検討します.

【実際の対応例】
実臨床では,心房細動もしくは心房粗動の上限レートを相談されることが多いです.なぜモニター心電図を装着しているか(☞本書のQ15),発作性か持続性か(☞本書のQ51)にもよりますが,元々頻脈のなかった持続性心房細動の患者さんが頻脈化した場合には,必ず新規頻脈の原因を検索してください.この場合,よほど強い症状や重症心不全でなければ,早期徐拍化は不要です.ただし,うっ血による頻脈の場合は早期うっ血治療とそれにあわせてレートコントロールが必要です.何も考えずにベラパミル静注を行うと,医原性のショックを誘発する可能性があるだけでなく,薬効が切れてくる数時間後には必ず頻脈が再燃します

病棟患者さんの徐脈のさじ加減

基本的には頻脈の考え方と同様で,徐脈による症状,徐脈の種類(洞不全症候群か房室ブロック),徐脈の種類,徐脈の進行の速さを確認します.そして頻脈の治療がレートコントロールなのに対して,徐脈に対する治療は一時的ペースメーカ挿入が一般的です(一時的ペースメーカ挿入の適応は☞本書のQ64).高度房室ブロックであっても,無症状かつ慢性的・間欠的であればペースメーカの絶対適応ではありません.しかし,進行性の場合には一時的ペースメーカ挿入も考慮します.徐脈の原因については,薬剤性(β遮断薬,Ca拮抗薬,抗不整脈薬,ドネペジルなど),電解質異常(高K血症など),心疾患(急性心筋梗塞など),脳卒中(クッシング現象),医原性(心臓術後),内分泌疾患(副腎不全,甲状腺機能低下症)などが鑑別に挙がります.

【実際の対応例】
頻度的には,夜間就寝中の徐脈の軽度悪化に対して相談されるケースが多いです.就寝中の場合,上記の原因が否定的で,無症状でかつ進行性でなければ原則経過観察とします.無症状であれば仮に5秒程度心停止していてもペースメーカ適応は乏しいです. 結局のところ,心拍数で様子を見るかどうかの議論は難しいと考えます.現実的には,一度評価したうえで早期介入は不要と判断したのであれば,「これ以上の頻脈・徐脈であれば再評価が必要」と思う心拍数と時間を個々で設定するしかないと思います.私の場合,日中でアセスメントできているのであれば,夜間の頻脈は経過観察可,徐脈は明らかな進行性でなければ経過観察可としていることが多いです.

  • うし先生からのAnswer
  • 病棟患者の頻脈や徐脈は,症状と原因,全身の状態を見て個別に判断しよう!
  • 心拍数の数値でなく,再評価すべき状況を個別に設定しよう!
 

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<内容紹介>「頻脈/徐脈でコールがあったときの対応を知りたい!」「心不全はまずはどこを見る?」「PCIの流れを教えて!」「病棟と外来でカルテの書き方は同じ?」「胸部X線の読み方をざっくり知りたい!」「苦手な指導医の対処法を教えて(泣)」など、循環器ローテで出てくるギモンに、あの『うし先生』がわかりやすく解説!

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