強心薬・昇圧薬の使いかた(2)(大野博司)
連載
2010.09.06
クリティカルケア入門セミナー
大野博司
(洛和会音羽病院ICU/CCU,感染症科,腎臓内科,総合診療科)
[第6回]
■強心薬・昇圧薬の使いかた(2)
(2890号よりつづく)
前回に引き続き,クリティカルケアにおける強心薬・昇圧薬の使いかたについて取り上げます。
クリティカルケアでの強心薬・昇圧薬
クリティカルケアでよく使われ,必ず理解しておきたい強心薬・昇圧薬は以下に示します。バソプレシンを除く各薬剤の心・血管への作用は表1,2にまとめました。
表1 ドパミンの心・血管への作用 |
表2 代表的な強心薬・昇圧薬の心・血管への作用 |
カテコラミン ホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬 抗利尿ホルモン |
1.ドパミン(150 mg/50 mL,0.3%製剤)
用量依存性で作用が分かれます。少-中等量:β刺激薬,高用量:α刺激薬としての作用が前面に表れます。
使いかた 精密持続点滴5 mL/時でスタート(体重×0.1 mL/時:5μg/kg/分) 使用する場面 心拍出量低下・体血管抵抗低下による低血圧,循環血液量回復までの一時的治療 副作用 頻脈,心筋虚血 |
2.ドブタミン(150 mg/50 mL 0.3%製剤)
β1刺激薬,心収縮・心拍出量を増やし,末梢血管を拡げる作用があります。
使いかた 精密持続点滴5 mL/時でスタート(体重×0.1 mL/時:5μg/kg/分) 使用する場面 左心不全,両心不全。特に体・肺血管抵抗増大を伴う低心拍出量状態 副作用 血圧低下,虚血増悪 |
3.ノルアドレナリン(1A:1 mg/mL)
α+β刺激薬(α>β)。強力なα1,α2血管収縮作用があります。
使いかた 5A+生食45 mLを1-5 mL/時でスタート(0.05-0.3μg/kg/分) 使用する場面 敗血症(敗血症でのみドパミンより血行動態が安定し,死亡率が低い) 副作用 腸管虚血,腎虚血(敗血症の場合は腎血流が保たれる) |
4.アドレナリン(1A:1 mg/mL)
α1,α2およびβ1,β2受容体刺激作用があります。
使いかた 使用する場面 心停止で静注,アナフィラキシーで筋注で使用(心停止,アナフィラキシーでの第一選択),人工心肺後の低心拍出量状態に持続静注 副作用 頻脈,不整脈,臓器虚血 |
5.イソプロテレノール(1A:0.2 mg/mL)
β1,β2受容体刺激薬。α効果がないのが特徴です。
使いかた 5A+生食45 mL 3-30 mL/時でスタート(0.02-0.2μg/kg/分) 使用する場面 アトロピンに反応しない徐脈・房室ブロック,肺高血圧・右心不全 副作用 血圧低下,臓器低還流・虚血,不整脈 |
6.ミルリノン(1A:10 mg/10 mL)
ミルリノンは細胞内のPDE阻害薬です。心収縮・心拍出量を増やし末梢血管を拡げ,ドブタミンと異なり心筋酸素消費量を増やさない特徴があります。しかし,ドブタミン以上の効果を示したという報告はありません。動脈拡張作用が強く,著しく血圧が低下することもあり使用には注意が必要です。
使いかた 使用する場面 左心不全,両心不全 副作用 血圧低下 |
7.バソプレシン(1A:20単位/1 mL)
V1受容体(血管平滑筋),V2受容体(腎集合管)に作用し,カテコラミンやPDE阻害薬とは全く異なるV1受容体の末梢血管収縮作用により昇圧をもたらします。
特にノルアドレナリンの血管感受性を高め,併用で昇圧作用を増強することが示されています。また,低酸素やアシドーシスの状態でも昇圧作用が維持されるため,AHAのガイドラインではアドレナリンの代替薬としてACLSの心停止時のプロトコールにも登場します。
使いかた 使用する場面 敗血症性ショック,食道静脈瘤破裂,心肺停止 副作用 心筋虚血,不整脈,高血圧,腸管虚血 |
ショックへのアプローチ
Step1 緊急事態の評価
まずはICU/CCU入室時疾患,入室後合併症の確認・評価を迅速に行い,バイタルサイン(心拍数,体温,血圧,呼吸数,SpO2)をチェックします。その上で,ABC(気道,呼吸,循環),動脈血液ガス分析,モニター・12誘導心電図をオーダーします。
Step2 ショック状態の評価
次に,最も重要なポイントである末梢臓器の酸素化を評価します。これには乳酸値や中心静脈酸素飽和度,混合静脈血酸素飽和度を参考にします。
・SvO2,ScvO2(CVライン,プリセップ・Swan-Ganzカテーテル)
・乳酸値(動脈血液ガス分析)
Step3 心収縮力,心拍数,血管内ボリューム,血管収縮能の評価
心機能を規定する因子(心拍数,心収縮力,前負荷,後負荷)を各パーツに分け,以下のモニタリングを用いて評価します。
適切な心拍数・心収縮力 適切な血管内ボリューム 適切な血管収縮能 |
Step4 治療オプションの決定
それぞれの因子を改善させるために,以下の薬剤を適切に用いて投与を開始するとともに,投与後の状態変化を詳細にフォローアップします。
心収縮力の問題
心拍数の問題
血管内ボリュームの問題
血管収縮能の問題
|
ケースを振り返って(本連載第5回,2890号参照)
Case1は肺炎による敗血症性ショックのケースです。EGDT(早期目標指向型治療)に従い,輸液負荷および末梢血管収縮薬であるノルアドレナリンを使用しています。
Case2は心肺蘇生後の低血圧のケースで,ドパミンを使用しています。
Case3は心不全で血圧低下を伴う心原性ショックを疑うケースです。血圧低下作用が少ない冠動脈拡張薬のニコランジルに加えて強心薬のドブタミンを用いています。オプションとして,亜硝酸薬に加えてミルリノン+ノルアドレナリンを用いることもあります。
Case4はアナフィラキシーが疑われるため,アドレナリンが第一選択です。
Case5は完全房室ブロックで,一時的ペーシングまでのつなぎとしてアトロピンを,陽性変時作用を狙ってイソプロテレノールを使用しています。
Case6はβ遮断薬内服中の慢性心不全急性増悪であり,利尿薬で前負荷軽減,亜硝酸薬で前負荷・心収縮力改善を行っています。β受容体が遮断されているため,PDE阻害薬のミルリノンを心収縮力改善,末梢動脈拡張作用による後負荷軽減で使用しています。
Take Home Message (1)代表的な強心薬・昇圧薬の使いかたを理解する。
|
(つづく)
参考文献
1)Homes CL. Vasoactive drugs in the intensive care unit. Curr Opin Crit Care. 2005 ; 11 (5): 413-7.
2)Overgaard CB, et al. Inotropes and vasopressors : review of physiology and clinical use in cardiovascular disease. Circulation. 2008 ; 118 (10): 1047-56.
3)De Backer D, et al. Comparison of dopamine and norepinephrine in the treatment of shock. N Engl J Med. 2010 ; 362 (9): 779-89.
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