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『クリニカル・クエスチョンで考える外傷整形外科ケーススタディ』より

連載 佐藤 亮

2024.04.12

  四肢外傷のように個別性の高い症例には現場主義」,「経験主義」に頼らざるをえない側面もありますが,もちろん治療法の選択には「エビデンス」が求められます。とりわけ外科手術の成績は技術の巧拙が大きく影響を与えるため,「外科的臨床文献」には適切な技術を有する臨床医の知見と経験に基づいた解釈が必要です。書籍『クリニカル・クエスチョンで考える外傷整形外科ケーススタディ』は症例に応じた臨床的疑問に対して文献的背景を述べた後に「臨床家の視点」で,文献と実践との溝を埋めるような解説を加えた一冊です。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,「手指基節骨骨折」,「小児Monteggia骨折」,「人工骨頭術後ステム周囲骨折」,「脆弱性骨盤骨折」の内容を,全4回でご紹介します。

症例提示

 7歳男児,転倒により右手をついて受傷した.受傷時X線画像では尺骨骨幹部骨折と橈骨頭の前方脱臼を認め,Monteggia骨折(Bado分類type Ⅰ)と診断した(図1a,b).静脈麻酔下に徒手整復を施行したところ,手関節回外位で橈骨頭は整復されているが,中間位では前方亜脱臼が残存した(図1c,d).
 尺骨の変形残存のためと考え,受傷翌日に髄内K―鋼線による整復固定を施行した.しかし,尺骨整復後も,前腕回内位での橈骨頭前方亜脱臼は軽度残存した(図2a).術後X線画像上はmaximum ulnar bowおよびulnar bow rate1)は健側と同等であった(図2b,c).
 術後6か月で骨癒合が得られ橈骨頭の整復位は良好であった.K―鋼線を抜去し,抜去後の肘関節可動域は屈曲140°/伸展5°,前腕回内外可動域はどちらも90°であった(図3).

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Clinical Question
  • 1 小児Monteggia骨折の病態と治療は?
  • 2 橈骨頭の観血的整復の適応は?
  • 3 近年の治療戦略は?
  • 4 橈骨頭転位の正常範囲は?


 Clinical Question 1  
小児Monteggia骨折の病態と治療は?

 Monteggia骨折(MF)とは,古典的には尺骨骨幹部骨折に橈骨頭の前方脱臼を合併したもので,1814年にMonteggiaにより報告された2).1946年にBadoにより報告された分類が汎用される3)図4).
 また,BadoはMonteggia equivalent lesion(MEL)の概念も提唱している.X線画像上はMFとは異なるものの,同様の受傷外力で発生するため,治療戦略はMFと同様である4).たとえば,小児においては尺骨骨折の代わりに塑性変形を呈したもの,橈骨頭脱臼の代わりに橈骨頚部骨折を生じたものが挙げられる.MELを含めると小児では圧倒的にBado type Ⅰとtype Ⅲが多く,その頻度はtype Ⅰが60~65%,type Ⅲが26~40%とされる5,6)
 1990年頃までは保存治療を推奨する報告が多かったが,その後の矯正損失や橈骨頭再脱臼が20%に認められた7,8).1996年にはRingらがMELに対する治療戦略を報告した9)表1).それは尺骨の骨折型に応じて治療法を選択するもので,適切な尺骨長とアライメントを維持することを目的としており,よい成績が報告されている6)

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 Clinical Question 2  
橈骨頭の観血的整復の適応は?

 いったん整復された橈骨頭が経過中に再転位してくる例を経験することがあるが,草野らは尺骨変形の再発もしくは,橈骨頭の偽整復のためであると指摘している10).偽整復とは手関節回外位で整復される橈骨頭が,回内位だと亜脱臼する状態のことを指しており,Abeらの報告では整復不能なMF 17例中10例が偽整復の状態であった11).腕橈関節への介在物が整復阻害因子となるが,多くが輪状靱帯の介在である.その他,後骨間神経や上腕二頭筋腱の介在が報告されているが,偽整復を疑ったら躊躇なく橈骨頭を観血的に整復するべきであるとされる10,11)図5,6).
 Tanらは小児のMEL全例の橈骨頭を展開した結果,91%で輪状靱帯の関節内嵌頓を認めたと報告している.尺骨の角状変形に伴い橈骨頭は遠位に転位し,最終的に頚部から輪状靱帯が引き抜けるが,回内が加わるとさらに早い段階で引き抜けることがわかった5)

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 Clinical Question 3  
近年の治療戦略は?

 尺骨の整復で必ずしも橈骨頭が整復されるわけではない.MFの治療目標は橈骨頭の整復位維持と近位橈尺間関節(PRUJ)の安定性保持であるが,まずは橈骨頭を整復し,整復されれば回内外で亜脱臼の有無を確認する12)
 以下に徳永らの提唱するMFおよびMELの治療戦略を簡易的に記載する(図7,8).
 まずは尺骨を整復しつつ橈骨頭の整復を行うが,容易に整復されたとしても,偽整復の可能性を念頭に置く.透視下またはエコー下に肘屈伸と回内外を行いPRUJの安定性を確認する.急性塑性変形(APD)もしくは若木骨折(GSF)の場合は,体重の100~150%の力で2~3分かけて尺骨を整復する必要がある(図8).徳永は,橈骨頭が整復位で安定していれば,前腕長を保ってくれるため,キャストでも治療可能としている12).逆に橈骨頭が整復されない場合は,介在物を疑い観血的整復を行う.完全骨折であれば介在物の除去で橈骨頭の整復は可能となるはずである.最も骨頭が安定する位置で尺骨の固定を行う.APDもしくはGSFの場合は上記のとおり尺骨の整復操作を追加するが,それでも橈骨頭が整復されない場合は矯正骨切りを行う.
 

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 Clinical Question 4  
橈骨頭転位の正常範囲は?

 橈骨近位軸が小頭の中央を貫通しない場合,橈骨頭亜脱臼とみなすとする報告もあるが6),亜脱臼の明確な定義はない.Rouleauらの報告では,正常な肘関節側面像においても,橈骨頭は小頭に対して,小頭径の±4%ほど前後に転位がみられている(図913)
 また,Sandmanらの報告では,cadaverの尺骨骨折モデルにおいて,尺骨の変形がなくても,肘の肢位により橈骨頭は小頭径の10%ほど転位することがわかった.さらに尺骨の伸展変形が強いほど,また輪状靱帯の損傷が加わると転位量が増えると述べている14)
 小頭径を25 mmとした場合,健常でも1~2.5 mmほどは橈骨頭が前後に転位する可能性がある.

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臨床家の視点

1.小児Monteggia骨折の病態と治療は?

 尺骨が完全に整復されれば,整復阻害因子(介在物)がない限り,橈骨頭は自然整復され安定性も得られる.
 尺骨が完全に骨折している場合は整復も容易であるが,問題は塑性変形である.時間をかけて整復するが現実的に限度がある.その際の指標は回内外可動域が完全であることと,回外時に橈骨頭が完全整復され安定していることである.

2.橈骨頭の観血的整復の適応は?

 橈骨頭(亜)脱臼の病態には2種類存在すると考える.1つは「腕橈関節に輪状靱帯が逸脱する,いわゆる肘内障の病態」であり,もう1つは「輪状靱帯が断裂などして近位橈尺関節に介在している病態」である.後者の病態であれば整復して,縫合処置をしなければならない.
 しかし,前者に対して外科的処置が必要かどうかは不明瞭である.Monteggia骨折に対して前者(肘内障状態)を懸念して観血的に調べた結果,輪状靱帯が90%以上逸脱していたとの報告があるが,これが病的なのかどうかは疑問である.
 あくまで,観血的整復の適応は明らかな亜脱臼の場合である.

3.近年の治療戦略は?

 尺骨塑性変形によるBado分類type IのMonteggia骨折は,徒手整復後のMUBが数mm以内で,PRUJが回外位で整復されていれば保存治療が可能だが,それ以上は矯正骨切りして,髄内鋼線固定が必要である.

4.橈骨頭転位の正常範囲は?

 回外位で整復,回内位で亜脱臼することは散見される.回外位で何の介在もなく,整復されていれば許容と考える.

Column Monteggia骨折が肘内障になる
 Monteggia骨折で近位橈尺関節が脱臼するということは輪状靱帯機構が破綻していることを意味する.この時,輪状靱帯は断裂しているのだろうか? 筆者は尺骨の解剖学的整復固定後に,まれに脱臼位が整復できない事例に幾度か遭遇した.このような場合には観血的にアライメント不良の原因を検索するが,いまだかつて輪状靱帯が断裂していたことはない.輪状靱帯が嵌頓していた場合と,肘内障のように輪状靱帯の一部が逸脱していた場合がある.そして前者はまれであり,ほとんどが後者である.

♦文献♦
1)Shinohara T, et al:Stabilizing incomplete reduction of the radial head using a hinged splint:Conservative treatment for a Monteggia equivalent lesion. Nagoya J Med Sci 2013;75(1—2):131—137
2)Monteggia GB. Lussazioni delle ossa delle estremita superiori. In:Moteggia GB(ed). Instituzioni Chirurgiches. 2nd ed. Vol. 5. Maspero;1814. p.131—133
3)Bado JL. The Monteggia lesion. Clin Orthop Relat Res 1967;50:71—86
4)Rehim SA, et al. Monteggia fracture dislocations:a historical review. J Hand Surg Am 2014;39(7):1384—1394
5)Tan J, et al. Pathology of the annular ligament in paediatric Monteggia fractures. Injury 2008;39(4):451—455
6)Ramski DE, et al. Pediatric Monteggia fractures:a multicenter examination of treatment strategy and early clinical and radiographic results. J Pediatr Orthop 2015;35(2):115—120
7)Fowles JV, et al. The Monteggia lesion in children. Fracture of the ulna and dislocation of the radial head. J Bone Joint Surg Am 1983;65(9):1276—1282
8)Dormans JP, et al. The problem of Monteggia fracture-dislocations in children. Orthop Clin North Am 1990;21(2):251—256
9)Ring D, et al. Operative fixation of Monteggia fractures in children. J Bone Joint surg Br. 1996;78(5):734—739
10)草野 望.〈小児骨折〉Monteggia骨折.MB Orthopaedics 2013;26(8)77—84
11)Abe M, et al:Irreducible dislocation of the radial head associated with pediatric Monteggia lesions. J Am Acad Orthop Surg Glob Res Rev 2018;2(5):e035
12)徳永 進.モンテジア骨折(新鮮例・ulnar plastic bowing例・陳旧例)の手術治療.整形外科Surgical Technique 2016;6(6):657—669
13)Rouleau DM, et al:Radial head translation measurement. J Should Elbow Surg 2012;21(5):574—579
14)Sandman E, et al. Radial head subluxation after malalignment of the proximal ulna:A biomechanical study. J Orthop Trauma 2014;28(8):464—469
 

 

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