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『医薬品情報のひきだし』より

連載 村阪敏規

2022.08.05

※タイトル中の「®」は,書籍版では上付きで記載

 臨床現場において,薬剤師には他職種や患者から,医薬品情報に関するさまざまな問い合わせが寄せられます。医薬品情報は時々刻々と変化し,情報提供の場面ごとに検討すべき要素も異なる中,医薬品情報を適切に扱い,わかりやすく的確な回答を提供する能力が薬剤師には求められていると言えるでしょう。『医薬品情報のひきだし』は,医薬品情報の問い合わせデータベースであるCloseDiに蓄積された事例の中から,薬剤師が日常的に遭遇するものをピックアップし解説します。実践的な知識が得られることに加えて,問い合わせへの回答の進め方を習得する上でも参考になる一冊です。

 

 「医学界新聞プラス」では,本書に掲載された全76事例の中から3つの事例を抜粋し,ご紹介します。

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アセトアミノフェン経口製剤(カロナール®)は消化性潰瘍のリスクを増加させることはないため「空腹時」が可能と考えられます.さらに,アセトアミノフェン経口製剤(カロナール®)の「空腹時」は「食後」と比較して効果発現が早いため,早急に効果を期待する場合には「空腹時」が望ましいとされます.

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Q-1 カロナール®の添付文書における用法は?

通常,成人にはアセトアミノフェンとして,1回300~1,000 mgを経口投与し,投与間隔は4~6時間以上とする.なお,年齢,症状により適宜増減するが,1日総量として4,000 mgを限度とする.また,空腹時の投与は避けさせることが望ましい.
(あゆみ製薬株式会社 カロナール®錠 添付文書)    

⇒添付文書上ではカロナール®は「空腹時」投与を避けることが望ましいと記載されています.

Q-2 OTC医薬品(アセトアミノフェン経口製剤)の用法の記載は?

タイレノール® A
胃にはもともと胃酸から胃壁を守るプロスタグランジン(PG)という物質があります.タイレノール® AはこのPGにほとんど影響を与えないため,「空腹時」にものめるやさしさで,効くのです.ただし,かぜによる悪寒・発熱時にはなるべく空腹時をさけて服用してください.
(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 タイレノール®A 添付文書)

⇒市販薬にタイレノール® Aという薬があります.成分は「アセトアミノフェン」であり,医療用のカロナール®と同成分です.タイレノール® Aの添付文書には「空腹時」にも服薬可能とされています.ただし,かぜなどの体調不良により,消化性潰瘍のリスクが高い場合には空腹時を避けて服用するよう記載されています.

Q-3 カロナール®は「空腹時」投与を避けることが望ましく,タイレノール® Aは「空腹時」の服用が可能であるとそれぞれ記載されているが,どちらが正しいのか?

食事・併用薬の影響
糖分の多い餡,クラッカー,ゼリーや炭水化物*1を多く含む食事とともに服用すると,炭水化物と複合体を形成してアセトアミノフェンの初期吸収速度が減少する.吸収量は変わらないが,急速な効果を望むときはこれらとともに服用しない方がよい.
(あゆみ製薬株式会社 カロナール®錠 インタビューフォーム)

⇒カロナール®は餡,クラッカー,ゼリーなどの炭水化物を多く含む食物と服用すると初期吸収速度が低下することがあります.

カロナール®の消化性潰瘍のリスクは?
パラセタモール*2(アセトアミノフェン)はNSAIDsの同時投与がない場合,用量にかかわらず,上部消化管出血*3のリスクが増加しなかった.
(Br J Clin Pharmacol 54:320-326, 2002)

上部消化管出血とNSAIDsのリスク-オッズ比*4
 アセトアミノフェン(コカール®,カロナール®) 1.2
 ジクロフェナク(ボルタレン®) 4.9
 イブプロフェン(ブルフェン®) 1.7
 インドメタシン 6.0
 ケトプロフェン 34.9
 ナプロキセン(ナイキサン®) 9.1
 ピロキシカム 13.1
リスクの大きさ
 ケトプロフェン>ピロキシカム>ナプロキセン>インドメタシン>ジクロフェナク>イブプロフェン>アセトアミノフェン
(Br J Clin Pharmacol 54:320-326, 2002)

⇒カロナール®はオッズ比が1.2と低く,上部消化管出血のリスクを上昇させないと報告されています.また,「ジクロフェナク」「イブプロフェン」「インドメタシン」「ナプロキセン」「ピロキシカム」は用量が増加するにつれて,消化器症状のリスクが上昇しています.一方で,カロナール®は用量の増加にかかわらず上部消化管出血のリスクを上昇させないと報告されています.用量依存で上部消化管出血のリスクが上昇しないことは,カロナール®の上部消化管出血のリスクは非常に低いと考えられます.

Q-4 カロナール®を空腹時に服薬するリスクはないか?

4~10 g/日の投与後のアセトアミノフェン肝毒性は,アルコール摂取だけでなく,空腹時でも増強される.
(JAMA 272:1845-1850, 1994)

⇒高用量の「アセトアミノフェン」による肝毒性のリスクはアルコール摂取だけでなく,空腹時服薬により増加すると報告されています.ただし,これは4 g以上という高用量の「アセトアミノフェン」を服用した場合です.添付文書上での最大投与量を超えているため,通常の適正用量の範囲内では,問題にはならないと考えられます.

まとめると

●アセトアミノフェン経口製剤(カロナール®)の添付文書には空腹時服薬は避けることと記載
●OTCのタイレノール® Aの添付文書は「空腹時」にも服薬可能と記載
●アセトアミノフェン経口製剤(カロナール®)の用量にかかわらず,上部消化管出血のリスクが増加しなかったと報告があることからアセトアミノフェン経口製剤(カロナール®)の「空腹時」投与も可能である
●アセトアミノフェン経口製剤(カロナール®)は「食後」投与により効果発現が遅延する可能性がある

知識のひきだし

1 アセトアミノフェンは癌性疼痛に有効か?
アセトアミノフェンは癌性疼痛について有効だが,高用量が必要なことがある.
(J Clin Oncol 22:3389-3394, 2004)
経口モルヒネ換算で200 mg/日を必要とする高用量のオピオイド使用患者ではアセトアミノフェンの追加効果が乏しいと報告がある.
(J Pain Symptom Manage 39:548-554, 2010)

2 アセトアミノフェン中毒解毒剤には何があるか?
アセトアミノフェン中毒解毒剤としてアセチルシステイン内用液17.6%が用いられる.

参考文献

▶カロナール®の添付文書における用法は?
1)あゆみ製薬株式会社 カロナール®錠 添付文書
▶OTC医薬品(アセトアミノフェン経口製剤)の用法の記載は?
2)ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 タイレノール®A 添付文書​​​​​​​
▶カロナール®は「空腹時」投与を避けることが望ましく,タイレノール® Aは「空腹時」の服用が可能であるとそれぞれ記載されているが,どちらが正しいのか?
3)あゆみ製薬株式会社 カロナール®錠 インタビューフォーム
4)Lewis SC, et al.:Br J Clin Pharmacol 54:320-326, 2002(PMID:12236853)
▶カロナール®を空腹時に服薬するリスクはないか?
5)Whitcomb DC, et al.:JAMA 272:1845-1850, 1994(PMID:7990219)


Note

*1 炭水化物…糖質.グルコースやガラクトースを構成成分とする化合物の総称.
*2 パラセタモール…米国の一般名はアセトアミノフェン,国際一般名はパラセタモール.
*3 上部消化管出血…胃・十二指腸潰瘍,胃炎などで伴う出血.
*4 オッズ比…ある事象が起こる確率を,起こらない確率で割った値をオッズという.オッズ比はある事象のオッズ比を別の事象のオッズで割った値.相対危険度の近似値となるため,リスクの目安として判断できる.

 

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<内容紹介>PPIの副作用で下痢が発現する理由は? アセトアミノフェン経口製剤は空腹時に服薬できる? 錠剤を粉砕したときの重量ロスは? 本書はこんな臨床現場で迷いがちな薬の疑問を迅速・的確に解決するための情報が詰まった「ひきだし」です。大学病院でDI実務の経験を重ね、現在webサイト“CloseDi”を主宰する気鋭の若手が執筆。医学論文、医薬品添付文書、IFに基づく解説が豊富でDI実務の考え方も楽しく学べます!

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