医学界新聞

医学界新聞プラス

『クリニカル・クエスチョンで考える外傷整形外科ケーススタディ』より

連載 髙田 大輔

2024.04.05

 四肢外傷のように個別性の高い症例には現場主義」,「経験主義」に頼らざるをえない側面もありますが,もちろん治療法の選択には「エビデンス」が求められます。とりわけ外科手術の成績は技術の巧拙が大きく影響を与えるため,「外科的臨床文献」には適切な技術を有する臨床医の知見と経験に基づいた解釈が必要です。書籍『クリニカル・クエスチョンで考える外傷整形外科ケーススタディ』は症例に応じた臨床的疑問に対して文献的背景を述べた後に「臨床家の視点」で,文献と実践との溝を埋めるような解説を加えた一冊です。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,「手指基節骨骨折」,「小児Monteggia骨折」,「人工骨頭術後ステム周囲骨折」,「脆弱性骨盤骨折」の内容を,全4回でご紹介します。

症例提示

 20歳代女性.地面に手をつき右小指基節骨骨幹部骨折(AO分類78.5.1.2C)を受傷した(図1).単純X線画像でアライメントは保たれていたものの,X線透視下ストレステストで骨折部に不安定性を認めたため(図2),鋼線固定の方針とした.K―鋼線をMP関節側から刺入し順行性クロスピンニングを施行した.K―鋼線の先端はPIP関節側の軟骨下骨まで進めた.術後のアライメントに問題なく,ナックルキャスト固定とした(図3).術後2か月で骨癒合を獲得しK―鋼線を抜去した(図4a).術後3か月,小指自動可動域(伸展/屈曲)はMP関節18°/84°,PIP関節-4°/90°,DIP関節0°/90°と軽度可動域制限を残すが,日常生活や就労上の支障はない(図4b).

図1.jpg
図2.jpg
図3.jpg
図4.jpg
Clinical Question
  • 1 手指基節骨骨折の治療方針を決定する基準は?
  • 2 保存治療はどのように施行すべきか?
  • 3 鋼線固定を行う際に重視すべきことは?
  • 4 プレート固定はどのように施行すべきか


 Clinical Question 1  
手指基節骨骨折の治療方針を決定する基準は?

 手指基節骨骨折の治療目標は,変形なく骨癒合を獲得し,良好な手指可動性を獲得することである.基節骨骨折の治療において早期運動療法は重要であり,それが可能な方法を選択しなければならない.
 一般的に,安定型骨折は保存治療,不安定型骨折は手術治療が推奨される.では何をもって安定もしくは不安定と判断すればよいだろうか.鳥谷部らは自動運動に耐えうる安定性を有するものを安定型,整復位がとれないものを不安定型と定義した.また両者の中間に位置する,整復位はとれるものの自動運動で転位するものを「安定?」と表記している1).同文献では骨膜の連続性に注目して固定方法が選択されている.転位のない安定型は保存治療(ナックルキャストやシーネ固定),骨折部の粉砕や骨欠損を伴うものは創外固定,転位を伴う不安定型は経皮鋼線固定や種々のORIFを行う.また,転位を伴う「安定?」型に対しては,整復可能でキャスト内で安定すれば保存治療,整復できてもキャスト内で転位するものには経皮鋼線固定が推奨されている.
 また,許容変形について,Faruquiらは冠状面で5°~10°以上,矢状面で20°以上の角状変形を有するものに手術を施行すると述べており2),AO Surgery Referenceには伸展変形15°~20°以上,短縮2 mm以上は手術適応と記されている3)

 Clinical Question 2   
保存治療はどのように施行すべきか?

 関節拘縮や腱癒着を回避しなければならないため,「可動させながら骨癒合を獲得する」早期運動療法が重要である.1984年にBurkhalterらは,MP関節屈曲位でPIP関節から前腕までキャスト固定し,整復位を保持しながら手指自動運動訓練を行う方法を提示している4,5).本法では石黒によって,MP関節のみを屈曲位で固定するナックルキャストによる保存的早期運動療法が報告されている5,6)図5).この際,PIP関節,DIP関節は固定せずフリーとなる.坂本らはナックルキャストを装着する際のコツについて以下の4点を述べている5)
 ①手関節掌屈位ではMP関節屈曲が難しいため,手関節背屈位で装着する.
 ②褥瘡を予防するため,MP関節,PIP関節背側の下巻きを厚くする.
 ③基節骨を押さえ込み,確実にMP関節を屈曲位とする.
 ④キャストでPIP関節の背側までしっかりカバーする.

図5.jpg

 Clinical Question 3  
鋼線固定を行う際に重視すべきことは?

 PIP関節の損傷を避けるために,MP関節からの鋼線の順行性刺入が望ましい.
 刺入する際には指背腱膜や側索の損傷に注意しなければならない(図6).指背腱膜を遠位側へ移動させるためにMP関節屈曲位で鋼線を刺入する7).刺入後にはPIP関節を他動屈曲伸展させ,スムーズに動くことを確認する.この動作によって鋼線刺入部の伸筋腱構造をゆるめることができる.
 基節骨骨折に対する経皮鋼線固定の主たる合併症は手指可動域制限だが,文献ではおおむね良好な成績が報告されている8).寺浦らは基節骨骨折22例27指に対してMP関節からの順行性ピンニングを施行し,total active motion(TAM)平均235°,%TAM平均96%と良好な成績を報告している9).Eberlinらは基節骨骨折43例50指に同様に順行性ピンニングを行い,80%の症例でTAM 250°以上を獲得したと述べている8).また鋼線の刺入方法に関して,Faruquiらは関節内刺入25例と関節外刺入25例を比較し,TAMやPIP関節の可動域に有意差はないとしている2)

図6.jpg

 Clinical Question 4  
プレート固定はどのように施行すべきか?

 骨折部の粉砕や骨欠損が存在する場合にはプレート固定が選択される.プレート固定の重要なポイントの1つは,背側プレートか側方プレートかの選択である.背側プレートは中央索を切開して設置する.一方,側方プレートは,側索の切開や処置を要し,プレートを骨形態に合わせる必要がある.プレート固定の合併症として,可動域制限について言及した文献が多い.Robinsonらは基節骨骨折に対するプレート固定において可動域制限が81%の患者に発生したが,背側プレート固定25例と側方プレート固定17例の治療成績比較では,TAMや合併症の発生率には有意差がなかったと述べている10).Dabeziesらは基節骨骨折22例に対して側方プレート固定を施行し,TAMは平均243°だったと報告した11).Pageらは基節骨骨折37例に背側プレート固定を施行し,220°以上のTAMを獲得できた症例は11%にとどまったとしている12).Brei-Thomaらは背側プレート固定29例を施行し,67%にextension lagを生じ,28%の症例がTAM 180°以下だったと述べている13).Omokawaらは基節骨骨折39例にプレート固定を施行した結果,側方プレートでは%TAM平均81%,背側プレートでは%TAM平均72%と報告している14).文献の結果から評価すると,側方プレートのほうが可動域がよい.

臨床家の視点

1.手指基節骨骨折の治療方針を決定する基準は?

 保存治療の適応は「許容範囲内の整復」が獲得され,それが「ナックルキャスト内」で安定して転位しないことである.それ以外の事例は鋼線固定などの外科的介入が必要であり,保存治療経過中に転位した事例においても手術治療に移行したほうがよい.

2.保存治療はどのように施行すべきか

 保存治療を施行するとすればナックルキャストがよい.キャスト後のケアは重要であり,もしもキャスト施行後に1週間経過をみて,軽度でも転位するようであれば,筆者は方針を変更(すなわち鋼線固定追加)することにしている.なぜなら,軽度転位例でも最終的にはもっと転位して骨癒合することが多いからである.

3.鋼線固定を行う際に重視すべきことは

 基本的には骨折部近位のMP関節部からのクロスピンニング固定を施行するが,どのように刺入しても伸筋腱構造を貫通してしまう.伸筋腱構造貫通によるPIP,DIP拘縮をできるだけ軽減させるために,筆者は以下のことに留意している.
①鋼線固定施行直後にPIP,DIPをよく動かして,関節がスムーズに可動することを確認する.これは,他動可動によってピン刺入部の伸筋腱構造をlooseにすることが目的である.
②ナックルキャスト施行翌日にPIP,DIPが完全に可動することを確認し,問題があれば解決する,たとえば疼痛があれば神経ブロックを施行してでも除痛する,などである.

4.プレート固定はどのように施行すべきか?

 可能であれば側方にプレートを設置する.しかし,粉砕度が強いと側方プレートでは固定性が不足して,結果的に変形が生じたりプレート破綻が生じたりすることがあるので注意が必要である.粉砕が強い場合は背側box plateを考慮する.

Column 基節骨粉砕骨折治療の悩み!
 基節骨の側面から背側面まで伸筋腱組織で囲まれている.粉砕の程度が強いと鋼線では固定できない.側方プレート固定でも不十分だからといって背側プレート固定を行うと腱癒着が必発で手指関節拘縮が生じる.長いこと外傷整形外科に携わっているが,まだ解決できないのが「基節骨粉砕骨折」である!

 

♦文献♦
1)鳥谷部荘八,他.手指骨折治療のコツ:血流と運動を重視した骨接合.Pepars 2020;158:82—88
2)Faruqui S, et al. Percutaneous pinning of fractures in the proximal third of the proximal phalanx:complications and outcomes. J Hand Surg 2012;37(7):1342—1348
3)AO Surgery Reference. 
https://surgeryreference.aofoundation.org/orthopedic-trauma/adult-trauma/hand-proximal-phalanges/shaft-multifragmentary/nonoperative-treatment
4)Burkhalter WE, et al. Closed treatment of fractures of the hand. Bull Hosp Jt Dis Orthop Inst 1984;44(2):145—162
5)坂本相哲,他.基節骨,中手骨骨折におけるナックルキャスト.Bone Joint Nerve, 2015;5(3):523—531
6)石黒 隆.指基節骨骨折および中手骨骨折に対する保存的治療.MP関節屈曲位での早期運動療法.日手会誌1991;8(4):704—708
7)森谷浩治,他.腱剥離術2.伸筋腱.MB Medical Rehabilitation 2012;(145):69—76
8)Eberlin KR, et al. Outcomes of closed reduction and periarticular pinning of base and shaft fractures of the proximal phalanx. J Hand Surg 2014;39(8):1524—1528
9)寺浦英俊,他.手指基節骨骨折に対するMP関節からの髄内性経皮ピンニング.骨折2016;38(3):499—502
10)Robinson LP, et al. Dorsal versus lateral plate fixation of finger proximal phalangeal fractures:a retrospective study. Arch Orthop Trauma Surg 2017;137(4):567—572
11)Dabezies EJ, et al. Fixation of metacarpal and phalangeal fractures with miniature plates and screws. J Hand Surg Am 1986;11(2):283—288
12)Page SM, et al. Complications and range of motion following plate fixation of metacarpal and phalangeal fractures. J Hand Surg Am 1998;23(5):827—832
13)Brei-Thoma P, et al. Plate fixation of extra-articular fractures of the proximal phalanx:do new implants cause less problems? Arch Orthop Trauma Surg 2015;135:439—445
14)Omokawa S, et al. Prospective outcomes of comminuted periarticular metacarpal and phalangeal fractures treated using a titanium plate system. J Hand Surg Am 2008 ;33(6):857—863

 

外傷整形外科の最適解を症例と文献から読み解く

<内容紹介>外傷整形外科に必要なスキルと質の高い治療戦略を学ぶ1冊。実際の症例とエビデンスをベースに、若手医師が臨床現場で悩むこと・困ることをクリニカル・クエスチョンで整理し、豊富な文献を読み解き治療の最適解を模索する。読者はハイレベルな外傷治療を疑似体験できる。「臨床家の視点」では、エキスパートの目と経験を通して臨床的センスのさらなるレベルアップを促す。整形外科医必携。

目次はこちらから

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook