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『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』より

連載 三木 貴弘 ,渡邊 勇太,野村 勇輝,本村 遼介,鈴木 智之

2024.07.19

主要な整形外科疾患の「術後リハビリテーション」にスポットを当て、機能解剖や手術法の知識から、評価や介入の方法に至るまで時系列に沿って多角的に解説し、好評を博した書籍の第2弾『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』がついに刊行されました。前作で紹介できなかった13の重要疾患を収載し、臨床で誰しもが遭遇するであろうさまざまな“こんなときどうする!?”に対し、具体的な解決策を提示します。

 

今回の医学界新聞プラスでは,本書の中から「半月板損傷」について,時系列に沿った部位ごとのリハビリテーションの方法を3週にわたって紹介していきます。

~ 3 Month

1.  Time-based protocol
エアロバイク(術後5週)
  • ● 膝関節屈曲120°を獲得してから,術後5週以降にエアロバイクを開始する.
  • ● 初めにサドルを高く設定し,浅い膝屈曲角度で実施する.
  • ● 低速度および低負荷から始めて,徐々に慣らしていく.
ジョギング(術後2か月)
  • ● 正常歩行を獲得したことを確認し,下記のプログレッショントレーニング(運動課題をクリアしながら段階的に負荷を上げていくトレーニング)を十分に実施してから,術後2か月以降にジョギングを開始する.
  • ● はじめに,その場でのジョギング(前方に進まないジョギング)を十分に練習する.
  • ● 低速度および低負荷から始めて,徐々に慣らしていく.
    ※各動作の開始時期に関しては患者の能力や施設の方針によって変わるため,医師と相談のうえ進めていく.
2.  Task-based progression①
  • ● 片脚支持での姿勢制御機能に関するプログレッショントレーニング
    ①片脚立位保持(片脚支持での静的アライメントの確認)
    ②片脚スイング(片脚支持+矢状面や前額面上の運動)
    ③片脚ヒップローテーション(片脚支持+水平面上の運動)
    ④片脚Tポーズ(片脚支持+体幹運動)
片脚立位保持
  • (1)目的
  • ● 片脚支持での静的アライメントの確認
  • (2)ポイント
  • ● 前額面上において,左右の肩峰を結んだ線や左右の上前腸骨棘を結んだ線が床と平行になっているかどうか,足部アーチを担保した状態で動揺なく立てているかどうかを確認する.
  • ● 矢状面上において,頭部前方位になっていないかどうか,過度に胸椎が後彎していないかどうか,過度に骨盤が後傾していないかどうか,膝が屈曲位もしくは過伸展位になっていないかどうかを確認する.
  • ● 水平面上において,支持足(軸足)の足部(足趾)と膝関節(膝蓋骨)の向きが揃っているかどうかを確認する.
  • ● 必ず裸足で足部アライメントや足部アーチ機能を評価してから,靴を履いて実施する.
  • ● 両手に重錘やウォーターバッグを持たせることで課題の難易度を上げることができる.
  • (3)方法
  • ● 両脚立位姿勢となり,そのまま片脚を持ち上げる(図25)
  • ● 身体の動揺が生じることなく,片脚立位姿勢を保持する.
片脚スイング
  • (1)目的
  • ● 片脚支持性の機能向上(片脚支持+矢状面や前額面上の運動)
  • (2)ポイント
  • ● 片脚立位での正しいアライメントを意識した状態で行う.
  • ● 腹圧を適切にコントロールしながら実施し,代償運動が出ないように注意する.
  • ● 特に体幹や骨盤の運動で代償しやすいので,鏡を用いてフィードバックさせるとよい.
  • ● 両手に重錘やウォーターバッグを持たせることで課題の難易度を上げることができる.
  • (3)方法
  • ● 片脚立位姿勢をとった後,片脚を前後や左右にスイングする(図25)

 

どうする2-2図25.png
図25 片脚スイング
片脚ヒップローテーション
  • (1)目的
  • ● 片脚支持性の機能向上(片脚支持+水平面上の運動)
  • (2)ポイント
  • ● 片脚立位での正しいアライメントを意識した状態で行う.
  • ● 腹圧を適切にコントロールしながら実施し,代償運動が出ないように注意する.
  • ● 水平面上において,支持足(軸足)の足部(足趾)と膝関節(膝蓋骨)の向きが揃っているかどうかを確認する.
  • ● 両手に重錘やウォーターバッグを持たせることで課題の難易度を上げることができる.
  • (3)方法
  •   ①片脚立位姿勢をとった後,遊脚足の股関節を開排する(図26-a)
  •   ②片脚立位姿勢をとった後,支持足(軸足)の股関節を回旋させる(足部が地面に固定された状態なので,軸足は動かさずに骨盤を回旋させる)(図26-b)
  •  
どうする2-2図26.png
図26 片脚ヒップローテーション
a:遊脚足の股関節開排運動,b:支持足の股関節回旋運動.
片脚Tポーズ
  • (1)目的
  • ● 片脚支持性の機能向上(片脚支持+体幹運動)
  • (2)ポイント
  • ● 片脚立位での正しいアライメントを意識した状態で行う.
  • ● 腹圧を適切にコントロールしながら実施し,代償運動が出ないように注意する.
  • ● 支持足の膝関節が過度に屈曲しないように注意する.
  • ● 両手に重錘やウォーターバッグを持たせることで課題の難易度を上げることができる.
  • (3)方法
  • ● 片脚立位姿勢をとった後,体幹を前に倒しながら遊脚足を天井に向かって持ち上げる(図27)
  • ● 体幹と遊脚足を一直線にしたまま保持した後,元の姿勢に戻る.

 

どうする2-2図27.png
図27 片脚Tポーズ
図で示した膝の角度はよい例であり,過度に膝を屈曲しないように注意する.
3.  Task-based progression②
  • ● 衝撃吸収機能に関するプログレッショントレーニング
    ①両脚カーフレイズ
    ②片脚カーフレイズ
    ③コンビネーションカーフレイズ
片脚カーフレイズ
  • (1)目的
  • ● 衝撃吸収機能の向上
  • (2)ポイント
  • ● 片脚立位での正しいアライメントを意識した状態で行う.
  • ● 腹圧を適切にコントロールしながら実施し,代償運動が出ないように注意する.
  • ● 両手に重錘やウォーターバッグを持たせることで課題の難易度を上げることができる.
  • (3)方法
  • ● 壁や平行棒などにつかまって,踵を最大まで上げるように行う.
コンビネーションカーフレイズ
  • (1)目的
  • ● 衝撃吸収機能の向上
  • (2)ポイント
  • ● 両脚立位での正しいアライメントを意識して,腹圧を適切にコントロールしながら実施する.
  • ● 3関節(股関節・膝関節・足関節)の屈伸運動を同時に行う(トリプルフレクション/トリプルエクステンションを意識する).
  • ● 各筋の求心性収縮や遠心性収縮を意識させたり,動作速度を変化させて実施させることで課題の難易度を上げることができる.
  • ● 術後3か月以内では,動作中に過度に膝屈曲しないように注意する.
  • ● 術後3か月以降で両脚スクワットを十分に練習した後,徐々に膝屈曲角度を大きくして実施する.
  • ● 術後3か月以降で片脚支持性を獲得できた後,片脚コンビネーションカーフレイズを実施する.
  • (3)方法
     
    ①壁につかまって,踵を床から少し浮かせる.
     ②膝軽度屈曲位(膝屈曲30°程度)にて体幹前傾(股関節屈曲)させる(図28-a)
     ③膝と股関節を同時に伸ばしながらカーフレイズする(図28-b)
     ④②の姿勢に戻る.
  •  
  • ● 術後3か月以降をトレーニング後期~スポーツ復帰期と位置づける.
  • ● トレーニング前期と同様に,Time-based protocolとTask-based progressionを組み合わせて,術後リハビリテーションを進めていく.
  • ● スポーツ復帰に向けて,各種スポーツ動作における姿勢制御機能および衝撃吸収機能の獲得を目指す.
  • ● 競技特性に応じた応用トレーニングや不安感のある動作などを繰り返し実施し,スポーツ復帰へ向けて段階的に介入していく.

 

どうする2-2図28.png
図28 コンビネーションカーフレイズ
術後3か月以内では,動作中に過度に膝屈曲しないように注意する(aは過度に屈曲している状態).術後3か月以降で両脚スクワットを十分に練習してから,徐々に膝屈曲角度を大きくして実施する.3関節(股関節・膝関節・足関節)の屈伸運動を同時に行う(b).

3 Month ~

1.  Time-based protocol
両脚スクワット(術後3か月)
  • ● 術後3か月以降から両脚スクワットの練習を行う.
  • ● 浅い膝屈曲角度から始めて,膝屈曲角度の設定を段階的に上げていく.具体的には,ミニスクワット(膝屈曲角度<45°),ハーフスクワット(45°<膝屈曲角度<90°),ディープスクワット(90°<膝屈曲角度),フルスクワット(膝屈曲角度=深屈曲)の順に行う.
    ※膝屈曲角度の設定に関しては患者の能力や施設の方針によって変わるため,医師と相談のうえ進めていく.
2.  Task-based progression
各種スポーツ動作(術後4か月)
  • ● ACL再建術後のリハビリテーションプログラムとして提案された10 Task-based progression53)は,基準となる運動課題をクリアしながら段階的にトレーニングを進めていくプロセスを体系化したもので,半月板縫合術後のリハビリテーションにも応用することができる.
  • ● 具体的には,①正常歩行,②両脚スクワット,③片脚スクワット,④両脚(ジャンプ)着地,⑤走行(ランニング),⑥両脚プライオメトリクス,⑦片脚(ジャンプ)着地/減速,⑧片脚プライオメトリクス,⑨方向転換,⑩競技動作に着目して術後リハビリテーションを進めていく.
  • ● これらの運動課題(特に③~⑩)を中心に,複数の動作を同時期にトレーニングしつつ,段階的に各種スポーツ動作を獲得していく.
  • ● 運動課題中に療法士が外力(外乱)を関節に加えて,運動課題中の安定性(スタビリティー)や反応性(リアクション)を評価することも重要である54)(図29)
    ※各動作の開始時期に関しては患者の能力や施設の方針によって変わるため,医師と相談のうえ進めていく.
    ※本項では誌面の関係上,具体的な方法は省く.成書を参照されたい.
スポーツ復帰(術後6か月)
  • ● 下記のパフォーマンスの獲得を目指しつつ,術後6か月を目安にスポーツ復帰できるように準備を行う.
  • ● ランニング:方向転換動作を含んだランニング,ダッシュ能力(加速/減速/ストップ動作)の獲得
  • ● ジャンプ/着地:方向転換動作や外乱に耐え得る安定した片脚ジャンプ/着地動作の獲得
  • ● ステップ&ターン:非予測下でのカッティング動作や切り返し動作の獲得
  • ● バランス:様々な外乱に耐え得る片脚支持性の獲得

 

  • 文献
  • 53)Buckthorpe M, Tamisari A, Della Villa F:A ten task-based progression in rehabilitation after acl reconstruction:from post-surgery to return to play-a clinical commentary. Int J Sports Phys Ther 15:611-623, 2020
  • 54)玉置龍也,鈴川仁人:理学的検査stability.片寄正樹,小林寛和,松田直樹:スポーツ理学療法プラクティス 機能評価診断とその技法,pp39-47,文光堂,2017

こんなときどうする!?

③半月板縫合術後のスポーツ復帰時の注意点を知りたい

  •  ● 文献上では,半月板縫合術後患者の約90%がスポーツ復帰できており1),スポーツ復帰の基準として最も多く挙げられているのは術後経過時間(6か月)であった2)
  •  ● しかし,臨床では術後の経過時間だけでスポーツ復帰を行うのは不十分である.
  •  ● 実際には,膝を含めた身体の可動域と筋力を確保するだけではなく,神経筋コントロールを正常化し,正しいアライメントでスポーツ特有の動作課題を実行できるかどうかを判断しながら,スポーツ復帰させていくことが重要であると考える.
  •  
半月板縫合術後のスポーツ復帰の基準
  •  ● 半月板縫合術後のリハビリテーションプロトコル3)やスポーツ復帰の基準2)に関する報告は不足しており,コンセンサスは得られていない.
  •  ● Friedらの報告では,スポーツ復帰の基準として最も多く挙げられているのは術後経過時間(97%)であり,他の項目として可動域(7.6%),筋力(4.5%),臨床判断(4.5%),炎症(4.5%),疼痛(3.0%),固有受容感覚(1.5%)が示されている(表1)2).
  •  ● ShermanやWileyらの報告では,スポーツ復帰の基準として主観的評価と身体的評価の両方を使用することが提案されている(表2,3,4)4,5)
  •  ● 以上の結果より,スポーツ復帰させるために必要な基準として,関節水腫や疼痛などの炎症反応をできるかぎり抑えること,膝関節の可動域や筋力を改善させること,動作中の神経筋コントロールを正常化すること,身体機能だけではなく心理状態(心理的準備)を整えることが重要であると考える.
  •  ● 特に患者のパフォーマンスや心理状態に客観的なスコアを付けることで,スポーツ復帰を許可するタイミングを判断することが可能となる.

 

どうする2-3表1.png
表1 スポーツ復帰の基準
(Fried JW, Manjunath AK, Hurley ET, et al:Return-to-play and rehabilitation protocols following isolated meniscal repair-a systematic review. Arthrosc Sports Med Rehabil 3:e241-e247, 2021より改変)
どうする2-3表2.png
表2 スポーツ復帰(主観的評価)の基準
(Sherman SL, DiPaolo ZJ, Ray TE, et al:Meniscus injuries:a review of rehabilitation and return to play. Clin Sports Med 39:165-183, 2020より改変)
どうする2-3表3.png
表3 スポーツ復帰(身体的評価)の基準
(Sherman SL, DiPaolo ZJ, Ray TE, et al:Meniscus injuries:a review of rehabilitation and return to play. Clin Sports Med 39:165-183, 2020より改変)
どうする2-3表1.png
表4 スポーツ復帰の基準
(Wiley TJ, Lemme NJ, Marcaccio S, et al:Return to play following meniscal repair. Clin Sports Med 39:185-196, 2020より改変)
半月板縫合術後のスポーツ復帰率1)
  •  ● Eberbachらは,半月板単独損傷に対する縫合術後のスポーツ復帰に関するアウトカムを評価するためにシステマティックレビューを行った.結果は以下のとおりである.
  •  ● 該当論文6件に含まれる患者92名を対象として,受傷前のレベルでのスポーツ復帰を評価したところ,スポーツ復帰率は平均89%で,スポーツ復帰までの平均期間は4.3~6.5か月であった.
  •  ● レクリエーションおよびプロ選手を含むグループでは,平均34.7か月のフォローアップで90%が受傷前と同じレベルで復帰できた.
  •  ● プロ選手のみを含むグループでは,平均36.9か月のフォローアップで86%が受傷前と同じレベルで復帰できた.
  •  ● 全体の再手術率(同じ半月板に対する再手術率)は21%であった(レクリエーションおよびプロ選手を含むグループ:22%,プロ選手のみを含むグループ:9%).
  •  ● 以上より,半月板単独損傷に対する縫合術を行うことで,レクリエーションとプロの両方のアスリートが競技復帰できることが示されている.
  •  ● その他の要因(半月板の損傷形態,損傷した位置や大きさ,手術手技,損傷から手術までの時間,術後リハビリテーションプロトコル,競技種目など)がスポーツ復帰率に影響を与える可能性があるが,これらを検討している研究は不足しており,今後の報告が待たれる.

 

  • 文献
  •   1)Eberbach H, Zwingmann J, Hohloch L, et al:Sport-specific outcomes after isolated meniscal repair:a systematic review. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 26:762-771, 2018
  •   2)Fried JW, Manjunath AK, Hurley ET, et al:Return-to-play and rehabilitation protocols following isolated meniscal repair-a systematic review. Arthrosc Sports Med Rehabil 3:e241-e247, 2021
  •   3)Harput G, Guney-Deniz H, Nyland J, et al:Postoperative rehabilitation and outcomes following arthroscopic isolated meniscus repairs:a systematic review. Phys Ther Sport 45:76-85, 2020
  •   4)Sherman SL, DiPaolo ZJ, Ray TE, et al:Meniscus injuries:a review of rehabilitation and return to play. Clin Sports Med 39:165-183, 2020
  •   5)Wiley TJ, Lemme NJ, Marcaccio S, et al:Return to play following meniscal repair. Clin Sports Med 39:185-196, 2020
 

「こうすればいいのか!」。
術後リハってやっぱりこんなに奥深い。

<内容紹介>主要な整形外科疾患の「術後リハビリテーション」にスポットを当て、機能解剖や手術法の知識から、評価や介入の方法に至るまで時系列に沿って多角的に解説し、好評を博した書籍の第2弾『こんなときどうする!? 整形外科術後リハビリテーションのすすめかた 第2集』がついに刊行されました。前作で紹介できなかった13の重要疾患を収載し、臨床で誰しもが遭遇するであろうさまざまな“こんなときどうする!?”に対し、具体的な解決策を提示します。

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 < 第1集はこちら! >

 

 

術後リハで起こるどんなイレギュラーにも慌てない!

 

<内容紹介>腰椎椎間板ヘルニア,変形性股関節症,橈骨遠位端骨折……本書は,整形外科領域のリハビリテーションを担当する療法士に馴染み深い代表的な疾患について,術後リハビリテーションに焦点を当てて,時系列に沿いながら多角的に解説する。
また,多くの療法士が持つ悩みを熟知した経験豊富な執筆陣により,臨床で誰もが一度は遭遇するであろう“こんなときどうする!?”をピックアップし,具体的な解決策を提示する。

 

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