AO法骨折治療 Wrist
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初版にあたる『AO法骨折治療―Hand and Wrist』を分冊化し、手関節部の骨折治療に特化してリニューアル。部位別に豊富な症例写真とイラストを用い、精緻な構造の手関節部骨折をいかに治療するかを徹底的に解説する。本書掲載のQRコードを読み込めば、AOが提供する教育コンテンツにアクセスすることも可能。AOが有する教育資源を余すところなく詰め込んだ手の外科医のためのAOマニュアル第2弾が完成!

原著 Jesse B. Jupiter / Douglas A. Campbell / Fiesky Nuñez
監訳 田中 正
訳者代表 金谷 文則
発行 2022年05月判型:A4頁:536
ISBN 978-4-260-04801-9
定価 28,600円 (本体26,000円+税)

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日本語版の序/推薦の序/序/謝辞

日本語版の序

 AOは,1958年の創設当初から4つの活動目標の1つに教育を掲げており,その一環としてさまざまなマニュアルを出版してきました.手外科領域では2005年に“AO Manual of Hand and Wrist”が出版されていますが,以後10年以上の月日が経ち,この部位の外傷治療に対する考え方や手術手技の進歩,新たなインプラントの開発などさまざまな変遷がみられます.そこで,AOは改訂版を2冊に分けて出版することを決定し,2016年に“AO Manual of Fracture Management─Hand”を発刊し,わが国では2018年にその日本語訳『AO法骨折治療Hand』を発行しました.そして2冊目となる“AO Manual of Fracture Management─Wrist”の発刊を待って,このたびその日本語版である『AO法骨折治療Wrist』が出版される運びとなりました.

 本書はAOの教育手法として以前より取り入れてきた“Case based learning”のコンセプトを重視し,臨床例をとおして治療法を学べるようになっております.また,AOのオンライン教育システムのライブラリーから豊富なイラストやビデオを引用し,さらにAOの医療イラストレーターやグラフィックデザイナーなどのスタッフが作成したさまざまなマテリアルにより,非常にわかりやすい内容になっています.本書は5つの編により構成されており,第1編では手術の基本となる進入法について橈骨遠位部,手根骨,尺骨遠位部への10のアプローチが詳述されています.第2~4編は手根骨,尺骨,橈骨の代表的な外傷に関して,そして最後の第5編では変形治癒骨折の再建や合併症の治療などが取り上げられています.結果として単純な外傷から複雑な外傷,さらには特殊な疾患・病態について,症例を通して総括的な知識を学べるようになっています.

 手関節部の骨折は日常よく遭遇する外傷ですが,救急の現場ではすべてを手外科専門医が対応できるわけではなく,研修医あるいは一般整形外科医や救急医が初療にあたることが現実だと思います.本書はそのような先生方にとっても非常にわかりやすく,AOの治療原則に則した手術法の習得に大いに役立つと確信しております.ぜひ本書を座右の書として日常診療にお役立ていただきたいと願っております.

 本書の翻訳にあたってはAO Trauma Japanのメンバーには多大なご努力をいただき,御礼申し上げます.特に著者のJupiter先生らと親交の深い金谷文則先生には,訳者代表としてさまざまな貴重なアドバイスを頂き,深謝しております.また最後になりますが,本書の出版に多大なご尽力を賜りました医学書院の皆さまに心から御礼申し上げます.

 2022年5月
 監訳者
 田中 正


推薦の序

 AO(Arbeitsgemeinschaft für Osteosynthethesefragen)という特異的な組織もしくは技能集団が先人達により設立され,60周年を迎えた.AOの組織構造の中核は教育プログラムの作成,骨折治療の記録,研究そして器具の開発で,あらゆる骨折にAO法を適応できるように発展してきた.
 およそ30年前にこのグループから『Manual of Internal Fixation』という教科書が発行された.当時発展途上にあった骨折治療に関して世に幅広く受け入れられた手技書で,骨折や破綻した関節の治療概念を外科医に授けた.また思考を統合し,記録,器具の開発,世界中の外科医を教育するきっかけとなり,結果的に組織の目的を果たすことになった.
 それから数十年が過ぎ,無数の手技とインプラントが開発され,人体のなかでも最も精密な部位,手関節に対しても我々は高度な技術を発達させた.
 Campbell,JupiterとNuñezの生涯にわたる医師,教育者でもある3名は手関節外傷に関する骨折治療の基本を集約し,詳細に記され編集された教科書を発行した.この教科書は電子メディアにもリンクしており,外科解剖から骨折初期治療に至る治療計画を網羅し,手術手技やインプラントを的確に選択する根拠となるエビデンスも明確に記載されていた.しかし,彼らの仕事は骨折初期治療にとどまるものではない.教科書はハイブリッド形式で図表,症例報告,エビデンスに基づく治療方針決定にアクセスでき,我々の患者が直面する術後合併症や外傷後の症状にも対応可能となった.
 AOの創始者達の特徴である魂と革新は3名の卓越した外科医にも引き継がれ,彼らは本書を作成するにあたり,オンライン教育が当たり前となった世界でよりよい手術とよりよい教育を行うという情熱をもって取り組んだ.彼らは精緻につくられた関節の複雑な再建を理解するため,印刷された教科書を拠り所や足場として,オンライン教材にも行き来できるようにした.手関節は複数の関節が協調して動き,手を空間の決まった位置に配置する.彼らは機能解剖を分析し,一般的な外傷の外科的治療ならびに保存治療を紹介し,起こりうるあらゆる関節内障害を網羅した.
 彼らは私の大切な同僚であり,彼らから本書の序文執筆を依頼されたことを私は非常に光栄に思う.最初に掌側プレートが剪断骨折に対して用いられ,多骨片骨折に対して創外固定とピン固定の併用が行われてから多くの学びと発展が起こったのは論理的に自然の成り行きである.本書は詳細に解剖を紹介し,生涯にわたって手関節外傷を学ぶのに必要な指針を示している.

 Thomas Fischer


 手関節の外傷および再建の問題に対する理解が深まったことにより,初版の『AO Manual of Hand and Wrist』を2つに分けて改訂することを決定した.2016年に発行した『AO Manual of Fracture Management─Hand』(日本語版にあたる『AO法骨折治療Hand』は医学書院より2018年に発行)に続いて,改訂版の『AO法骨折治療Wrist』を提供できるようになった.
 マニュアルの形式は完全に症例ベースであり,研修医と熟練した外科医の双方にとって,単純な外傷と複雑な外傷の両方にアプローチしつつ治療するのに非常に役立つことが示されている.『AO法骨折治療Hand』と同様に,本書でもAO財団のオンライン教育サイトの広大なライブラリーであるAO Surgery Referenceから抜粋したイラストを使用して,臨床症例のプレゼンテーションを強化したり,AOの医療イラストおよびグラフィックデザインチームの卓越したスキルとリソースを使用した.
 手関節の複雑な解剖学的構造の理解における大幅な進歩,改善されたサージカルアプローチ,およびさまざまな解剖学的形状と損傷パターンに加えて,固有のインプラントの技術的改良を含めて,本書は,幅広い情報を網羅した5つの編に分かれている.第1編では,橈骨遠位端,手根骨,尺骨遠位端への10の異なるサージカルアプローチを供覧する.第2編では,舟状骨,偽関節,さらには血管柄付き移植を併用した単純あるいは粉砕骨折を含む手根骨の骨折や脱臼骨折を提示する.第3編では,尺骨遠位と遠位橈尺関節の問題に焦点をあて,第4編では,さまざまな骨折形態と橈骨遠位部の内固定方法について解説する.最後の編では,橈骨遠位端の偽関節と変形癒合,および橈骨手根関節と手根間関節の外傷後障害に対するさまざまな再建の問題につき事例を図解して提供する.
 本書は,AO財団の手と手関節のコースで,長年にわたり世界中で教育してきた多くの指導者の経験と専門知識を反映している.彼らのコンセプトと臨床例は,その制作を通して,編集者を支援し影響を与えてきた.特に,Diego Fernandez,Renato Fricker,Fiesky Nuñez Jr,Zhong yu Li,Thomas Fischer,およびJuan Del Pinoらの貢献に深謝する.
 初版の『AO Manual of Hand and Wrist』で最初に明確にし,最新の『AO法骨折治療Hand』で再び強調したように,本書では,主に手術治療の代表例を掲載している.それら提示された症例に対して,それぞれが唯一の方法であるとか,必ずしも最良の方法であると解釈されるべきではない.また,同様に主題に関してすべてを網羅したテキストとすることを意図しているわけではない.それでも,私たちや他の関係者がこの本を読者に提供するために費やした多くの時間と引き換えに,読者が本書を用いた多くの学習時間と喜びを見つけることを願ってやまない.

 Jesse B Jupiter
 Douglas A Campbell
 Fiesky Nuñez


謝辞

 多くの寄稿者の献身と支援なしには『AO Manual of Fracture Management─Wrist』だけではなく,今日みられるAO財団の素晴らしい刊行物を発行することは不可能であった.リソース,画像,症例を共有してくれたAOメンバーの同志,手関節外科医の同僚が教育事業に費やした時間,さらに我々自身を含めた臨床スタッフの臨時的な関与など,実際に感謝すべき人々は数え切れないほどである.

 このテキストの開発には多くの関係者が何らかの形でかかわってきたが,とりわけ,以下の個人,委員会,およびグループに対し感謝を捧げたい.
・AOTrauma教育委員会のメンバー.本書(Wrist)と,シリーズもう一つの書籍(Hand)の双方を企画する機会を提供してくれた.
・AO Education InstituteのUrs RüietschiとRobin Greene.本書を実現するために必要なリソースの提供とAO Education Instituteのスタッフとの連携をサポートしてくれた.
・Renato Fricker.『AO Manual of Fracture Management─Hand』の編集者として,また本書の著者として両企画に貢献してくれた.
・Diego FernandezとLadislav Nagy.AO財団での手と手関節分野の教育へのかねてからの貢献と,本書への貢献と支援に感謝する.
・推薦の序を快く執筆してくれたTom Fischer教授.
・手と手関節の両方の出版物のプロジェクト責任者であるCarl LauとMichael Gleeson.加えて,手描きのスケッチと口頭のアイデアを実現するために支援してくれたグラフィックデザインと医療イラストのスタッフとコンサルタントのチーム全体に対して.
・AO Surgery Referenceの責任者であるLars Veum,および現在および以前のプロジェクト責任者,外科医の執筆者と編集者,そしてAO Surgery Reference手根骨と橈骨遠位端モジュールの開発,編集およびイラスト作業に従事してきたイラストレーターのチームに対して.
・AO財団の出版協力会社であるThiemeのFiona HendersonとAndreas Schabert.
・そして最後に,AO財団の世界標準のテキスト,コース,オンライン教育活動やイベントへの関与に対する継続的かつ終わりのないサポートを提供してくれた妻と家族に.

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日本語版の序
推薦の序

謝辞
編集・執筆者一覧
略語一覧

第1部 手術進入法
 1 進入法
  1.1 舟状骨への掌側アプローチ
  1.2 舟状骨への背側アプローチ
  1.3 月状骨および月状骨周囲損傷に対する複合アプローチ
  1.4 母指基部に対する橈側手掌アプローチ
  1.5 橈骨遠位部への背橈側アプローチ
  1.6 橈骨遠位部へのHenry掌側アプローチ変法
  1.7 橈骨遠位部への尺側掌側アプローチ
  1.8 橈骨遠位部への背側アプローチ
  1.9 橈骨遠位部への拡大背側アプローチ
  1.10 尺骨遠位部への尺側アプローチ

第2部 症例
 2 手根骨
  2.1 舟状骨の転位のない骨折──ヘッドレスコンプレッションスクリューによる経皮的固定
  2.2 舟状骨の転位した骨折──ヘッドレスコンプレッションスクリューによる経皮的固定
  2.3 舟状骨多骨片骨折──ヘッドレスコンプレッションスクリューとラグスクリューを併用した治療
  2.4 舟状骨近位極骨折──ヘッドレスコンプレッションスクリューによる治療
  2.5 舟状骨近位極骨折──ヘッドレスコンプレッションスクリューと骨移植による偽関節治療
  2.6 舟状骨腰部骨折──変形を伴う偽関節に対するヘッドレスコンプレッションスクリューと骨移植による治療
  2.7 舟状骨近位極骨折──偽関節に対する血管柄付き骨移植による治療
  2.8 月状骨周囲脱臼──K-ワイヤによる治療
  2.9 経舟状月状骨周囲脱臼骨折──K-ワイヤとヘッドレススクリューによる治療
  2.10 経三角骨,経舟状月状骨周囲脱臼骨折──スクリューによる治療
  2.11 複数の手根骨骨折を伴う月状骨周囲脱臼と,舟状有頭骨症候群──スクリューによる治療
  2.12 転位した大菱形骨骨折──ラグスクリューによる治療
 3 尺骨
  3.1 尺骨茎状突起骨折──テンションバンドワイヤリングによる治療
  3.2 尺骨,骨頭部,頚部の多骨片骨折──フックプレートによる治療
 4 橈骨
  4.1 橈骨茎状突起骨折──橈側柱プレートによる治療
  4.2 橈骨遠位部の背側転位した関節外骨折──掌側プレートによる治療
  4.3 月状骨窩の橈骨遠位部骨折──支持プレートによる治療
  4.4 橈骨遠位部の剪断骨折──支持プレートによる治療
  4.5 橈骨遠位部の背側転位関節内骨折──ダブルプレートによる治療
  4.6 橈骨遠位部の多骨片関節内骨折──掌側プレートによる治療
  4.7 橈骨遠位部の骨欠損を伴う関節内多骨片骨折──掌側プレートによる治療
  4.8 橈骨遠位部の多骨片関節内骨折──3枚のプレートによる治療
  4.9 橈骨遠位部の舟状骨骨折合併の多骨片関節内骨折──3枚のプレートとスクリューによる治療
  4.10 橈骨遠位部の転位した関節内骨折──架橋プレートによる治療
  4.11 橈骨遠位部の橈骨手根関節脱臼骨折──ダブルプレートによる治療
 5 再建と合併症の治療
  5.1 橈骨遠位部の背側関節外変形癒合──骨切り術およびダブルプレートによる治療
  5.2 橈骨遠位端の掌側関節外変形癒合──骨切り術とプレート固定による治療
  5.3 橈骨遠位部の関節内変形癒合──骨切り術と掌側プレートによる治療
  5.4 橈骨遠位部の関節内および関節外変形癒合──骨切り術と背側ダブルプレートによる治療
  5.5 関節リウマチ──橈骨月状骨関節固定による治療
  5.6 Kienbock病──手関節全固定術による治療
  5.7 尺骨突き上げ症候群を伴った変形治癒骨折──尺骨短縮骨切り術による治療
  5.8 長期骨癒合不全──尺骨遠位切除および橈骨ダブルプレート固定による治療
  5.9 慢性手根間関節症──舟状骨切除とfour-corner fusionによる治療

付録
 参考文献
 AO/OTA 骨折と脱臼分類
 索引

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AOが誇る手外科の教育プログラムをこの一冊で!
書評者:稲垣 克記(昭和大主任教授・整形外科学)

 手の科学の進歩は著しい。手関節部の骨折,橈骨遠位端骨折の治療も手の痛みの治療や骨折治療後の不安定症を含め,従来の科学では扱いきれない部分を持っている。例えば手には人間の顔と同じように表情と個性があり,人間の歴史と生活が刻まれている。生理学者ペンフィールドが示した“ペンフィールドの脳地図”では,手は脳の広い範囲を占める。歴史的にも猿人類からヒトへの進化の過程で二足歩行を獲得し,これにより手が自由となった。ヒトは脳の進化と並行して手と上肢が自由に使えるようになった。このように手の進化が脳,特に大脳皮質の体性感覚野の進化に先行したことは明らかである。脳と手は密接な関係があり,手を扱う外科医には高度の精神活動を表現する脳を理解することと,脳を上手に使える手を治す感性が求められる。本書は手の外科医ばかりでなく若手の一般整形外科医が日常診療上最も遭遇する機会の多い外傷・骨折を扱い,その治療を極めたエキスパートにより編集され翻訳された。

 本書は第1部:手術進入法,第2部:症例に分かれ,外科的治療から合併症,リハビリテーションの方法についても言及している。また,手関節の外科解剖から骨折初期治療に至る治療計画を網羅し,手術手技やインプラントを的確に選択する根拠も明確に記載されている。執筆者はCampbell, Jupiter, Fernandez, Nuñezらいずれも著名な手外科医であり,本書はAO財団組織の中核である教育プログラムの軸となっている。この名著の翻訳に当たったのは,AO Trauma Japanのメンバーであり,監訳の田中正氏を筆頭に,訳者代表を金谷文則氏,訳者を佐藤徹氏,宮本俊之氏,善家雄吉氏が務めている。

 ASSH(米国手の外科学会American Society for Surgery of the Hand)の会期中には,米国メイヨークリニックのDobyns先生とLinscheid先生らにより創設されたThe International Wrist Investigators Workshop(IWIW)という歴史あるワークショップが開催されており,過去には手根不安定症や橈骨遠位端骨折の不安定型が定義された。今後は本書に掲載されている多くのアプローチの図やシェーマを参考とし,その応用としてこれらの問題点に真正面から取り組む整形外科医や手外科医師が増えることを祈る次第である。

 本書の執筆者は臨床経験と教育経験の豊かなエキスパートばかりであり,研修医や,専門医をめざす医師の目線に立ったわかりやすい文章で解説してある。

 本書を契機にわが国でも手関節部外傷のよりよい優れた治療成績だけでなく,手外科全体の高い専門性への理解と手・上肢のよりよい医療が積み重ねられていくことを切望している。


世界的に著名な手外科医らが執筆した渾身の実践書!
書評者:齋藤 知行(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター病院長)

 A4サイズの本書を手に取るとずっしりとした重みにまず驚かされる。本書を開くと,簡潔にまとめられた説明文,丁寧に描かれたイラスト,単純レントゲン写真やCT画像,術中写真が目に飛び込んでくる。それらは整然と配列され,その数は非常に多く,本書の重みの理由に納得する。

 本書の構成は第1部が手術進入法,第2部が症例の2部構成で,巻末に参考文献と骨折・脱臼分類が掲載されている。教科書を読んで覚えるという,これまでの体裁をとっていない。読み始めると,実際に治療に携わる外科医の視点や手術に対する思考過程に準拠して記述されていることに気付く。

 手関節部は橈骨手根関節,遠位橈尺関節,遠位列と近位列を形成する手根骨からなる。それらの関節が緊密に協調・連動することにより,日常生活に最も重要な役割を果たす手部を三次元空間に自由自在に配置することを可能にする。関節面の部分的な適合不良は必然的に関節症性変化を生じさせ,機能障害を引き起こす。したがって,手関節の骨折ではより厳格な解剖学的整復固定術が求められる。

 解剖学的整復固定術には,高精細なCT画像などによる骨折型の正確な評価とともに,複雑な解剖学的形態を持ち,神経,血管,腱組織が密集する手関節では的確な手術進入法の選択が求められる。本書では,多くのページを外科的進入法に割き,全ての部位の骨折に対応している。正確な整復には展開がいかに重要かがわかる。工夫されたスクリューヘッド,プレートの形状,骨切り用の機器など精緻に考案された内固定材からは,開発者の意図が明確に伝わってくる。

 本書の最も特徴的なことは,症例を通して学ぶ点である。手関節のほぼ全ての骨折に対して,初めに症例が提示され,病態と適応,術前に準備する固定材料,体位と肢位の取り方,外科的進入法,整復と固定法などの手術の要点,術後管理とリハビリテーションについて記述されている。最後の章では,変形治癒骨折の矯正骨切り術や複雑な病態に対する対処法について言及されている。豊富なイラストと緻密に検討された動画を通して,手外科専門医以外でも手術の流れが想定でき,専門医にとっては手術の要点を再確認できる内容となっている。

 本書は,世界的に著名な手外科医が執筆しており,彼らの長年の経験と知識を集約して,さまざまなレベルの外科医が的確な手術を行えるように著述した渾身の実践書である。

 日常診療で比較的よく遭遇する手関節部の骨折を治療する外科医にとって,まさに必携の書である。

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