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『検査値と画像データから読み解く 薬効・副作用評価マニュアル』より

松尾宏一

2022.09.09

 薬物療法を実践するに当たって,薬剤師には「薬の治療効果および副作用を適切にモニタリングして薬物療法を評価する」ことが求められますが,そのためには客観的評価指標として臨床検査値や画像データを参照する必要があります。『検査値と画像データから読み解く 薬効・副作用評価マニュアル』では,よく処方される薬剤の治療効果と副作用発現の評価に必要な臨床検査・画像検査について,「薬→検査」「検査→薬」の双方向から情報に当たれる形式で,簡潔にポイントをまとめています。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,第I部「薬剤編(薬→検査)」から1項目,第II部「検査編(検査→薬)」から臨床検査1項目,画像検査1項目をピックアップしてご紹介します。

1 赤血球(RBC)数

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□小児は成人より低値を示し,性差はみられない.また高齢者は低値傾向を示す.

1) Overview

□RBCは血液中の血球成分の中で最も多く,肺におけるガス交換により酸素と結合し,動脈内を循環しながら末梢細胞に酸素を運搬し,CO2を回収する役割がある.
□RBCが減少すると酸素運搬機能が低下する
□RBCは主として骨髄において,腎臓で生産されるエリスロポエチンの作用により,幹細胞から赤芽球系細胞へと分化し,網赤血球を経て,骨髄から血中へ流出していく.
□RBCは体内を絶えず循環した後,主に脾臓で分解されて120日ほどの寿命を終えるが,約200億個の細胞が日々補充され,生体内で同数を保っている.

2) 評価のポイント

鉄欠乏性貧血では,Hb濃度やHt値が低下しても,必ずしもRBC数が減少するとは限らない.
RBC数だけでなく,Hb濃度やHt値,網赤血球数を総合的に判断して評価する必要がある.

3) 異常値で考慮すべき疾患

基準値以下の減少は貧血や出血,増加は多血症を疑う.

2 ヘモグロビン(Hb)濃度

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□新生児は20.0 g/dL前後の高値を示し,性差はみられない.また60歳以後はやや低値となり性差はみられなくなる.

1) Overview

□Hbは赤い色素の成分で,RBCの色はこのHbの赤色に由来する.
実際に酸素と結合しているのはRBCの中にあるHbであり,この値が酸素運搬機能を最も反映する.
□Hbはヘムと,これを支えるグロビンが4量体となり,1分子のHbを形成し,RBC中の蛋白の95%を占めている.

2) 評価のポイント

□RBC数が正常値でも,Hb濃度が低下していると貧血になる.そのため,採取した血液のRBC中のHb濃度を調べることで貧血の有無を判定できる.

3) 異常値で考慮すべき疾患

基準値以下の減少は貧血や出血,増加は多血症を疑う.
□Hb濃度が低下するメカニズムとしては以下が考えられる.

□骨髄におけるRBCの産生が減少.
□赤芽球の減少,骨髄占拠性病変によるRBC産生部位の減少.
□二次性の骨髄の機能低下.

□血管内の炎症.
□脾機能の亢進.
□免疫的な要因.
□物理化学的な要因.

3 ヘマトクリット(Ht)値

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□末梢血では静脈血よりやや高値を示す.性差や年齢差も認める.

1) Overview

□Ht値とは,一定量の血液の中に含まれるRBCの容積の割合をいう.
この割合を調べることで「貧血」の有無がわかる.

2) 評価のポイント

RBC数とHb濃度,Ht値の3つのデータを分析することで,どんな種類の貧血が疑われるのか,おおよその見当が付けられる.

3) 異常値で考慮すべき疾患

□RBCに準じて考える.Ht値が低い場合は貧血の可能性があり,高いとRBCの割合が多く,多血症(赤血球増加症)が疑われる.

4 赤血球恒数

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1) Overview

□血管内で循環しているRBCの量はRBC数で知ることができるが,RBCの大きさや1個あたりのHb含有量などの「RBCの質」については,赤血球恒数(指数)を使って判断する必要がある.
□赤血球恒数には平均赤血球容積(MCV),平均赤血球ヘモグロビン量(MCH),平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)があり,Hb濃度およびHt値,RBC数より計算され,その数値から,どんな種類の貧血が疑われるかを判断する(表30-1).

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2) 評価のポイント

貧血をきたす疾患には,その病態によって特徴的な赤血球恒数の異常を示すものがあるので,赤血球恒数によって小球性低色素性貧血,正球性正色素性貧血,大球性の高〜正色素性貧血の3つの型に分類して鑑別診断を進める.
□貧血の診断では,まずMCVによって小球性あるいは大球性貧血でないかをチェックする.
□小球性貧血の代表疾患は鉄欠乏性貧血で,血清鉄や総鉄結合能(TIBC),フェリチンを測定し,大球性貧血では,まず巨赤芽球性貧血を考え,ビタミンB12と葉酸の欠乏の有無を調べる.正球性貧血では種々の血液疾患による造血障害,腎性貧血,症候性貧血があり,網赤血球の増加の有無を調べる.

3) 異常値で考慮すべき疾患

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5 白血球(WBC)数

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□生下時は20×103/μL前後で,以後は急激に減少し,1歳未満は成人よりもやや高値を示す.また高齢者はやや低値傾向を示す.

1) Overview

□WBCは体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物から,体を守る免疫機能の中心的な役割を担っている.
体内に異物が侵入した時やWBCを作る骨髄に異常が起きた時は,WBC数が急激に増加する.また薬物の影響でWBCを作る細胞の働きが低下している時は,WBC数が大きく減少することもある.
□WBCは骨髄内において造血幹細胞より分化・成熟し末梢血管に出現する.また造血器腫瘍(白血病,悪性リンパ腫)においては,未成熟な細胞が末梢血中に出現する.
□WBCは大きく分けると,リンパ球,単球,顆粒球の3種類があり,顆粒球は,さらに好中球,好酸球,好塩基球の3種類に分類される.
□5分類のそれぞれの役割は以下の通りである.

リンパ球は,T細胞,B細胞,NK細胞に分けられ,T細胞はさらにサブユニットとして,ヘルパーT細胞,抑制性(サプレッサー)T細胞,細胞傷害性(キラー)T細胞に分けられる.B細胞は免疫グロブリンを発現し,NK細胞は,非自己を攻撃するキラー細胞である.
高値の場合:伝染性単核球症・風疹・サイトメガロウイルス症などの急性ウイルス感染,結核・梅毒などの慢性感染症,慢性リンパ性白血病.
低値の場合:免疫不全症候群,末期悪性腫瘍,全身性エリテマトーデス(SLE).

遊走能・貪食能・殺菌能を有しており,血管内から炎症部位に移行し,マクロファージ(大食細胞)化により貪食能はより旺盛となる.
高値の場合:結核・マラリア・ブルセラ症などの感染症,慢性骨髄単球性白血病.

微生物が侵入すると,第一に活動を始めるのが好中球である.好中球は遊走能により血管内より微生物や炎症の発現場所に移動し,微生物を捕食し貪食する.貪食された微生物は殺菌能により処理される.感染症や炎症を起こしている時に増加する.
高値の場合:細菌感染,局所感染,局所壊死,慢性骨髄性白血病,薬物中毒,代謝障害,急性出血・溶血.

□好中球のように貪食作用は強くないが,アレルギー疾患と寄生虫疾患で増加する
高値の場合:アレルギー性疾患,寄生虫疾患,慢性骨髄性白血病,Hodgkinリンパ腫,結節性動脈周囲炎,サルコイドーシス,潰瘍性大腸炎.

アレルギーに関与し,I型アレルギー(アナフィラキシー)の発症に関与する.
高値の場合:慢性骨髄性白血病,潰瘍性大腸炎,粘液水腫.

2) 評価のポイント

□各種の疾患でWBC数は増減するが,臨床的には種類ごとの増減に着目することが重要.
□運動や食事,精神的ストレス,寒冷曝露などの生理的な影響を受けやすく,それらによる変動は増加傾向を示す.
WBC数の変動は好中球数に大きな影響を受ける.
□細菌感染が改善していないのにWBC数が減少することは,骨髄で好中球を増産しているにもかかわらず細菌感染巣に必要な好中球を供給できていないことを示しており,これは患者が危険な状態である可能性が高い.

3) 異常値で考慮すべき疾患

基準値以下の減少:再生不良性貧血,顆粒球減少症,骨髄異形成症候群(MDS),発作性夜間ヘモグロビン尿症,悪性腫瘍の骨髄転移,SLE,薬剤性減少,免疫不全症候群,ウイルス感染症,腸チフスなどを疑う.
基準値以上の増加:感染症,炎症性疾患,造血器腫瘍,悪性腫瘍,その他(精神的・身体的ストレス)を疑う.

6 血小板(PLT)数

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□性差はない.

1) Overview

□PLTは,血液中の細胞成分の中でRBCに次いで多く,一次止血が主な役割である
□PLTは,血管が破れて出血した際にその血管が再生するまで傷口を塞いだり,血液が固まるように働きかけたりと出血を止める役目を果たしている.
□血管内皮細胞は普段はPLTの粘着を阻止しているが,血管内皮に傷害を生じた場合には,von Willebrand因子を介してPLTが内皮に粘着し,そこに凝固因子が作用することにより,安定した凝固塊となる.
□PLTが増えすぎると,血栓ができやすくなる.逆に少なすぎると,出血した際に血が止まりにくくなる.

2) 評価のポイント

PLT数の減少とは100×103/μL以下の状態を指し,出血性素因を示すことがある.PLT数が20×103/μL以下の場合は必ずどこかに出血が生じる.
□食物摂取や運動,月経で増加し,日内では午後に高値を示す.
□PLT数は,骨髄で作られ血中に供給される数と,血管内で消費されるまたは血管外に出ていく数とのバランスにより決定される.

3) 異常値で考慮すべき疾患

□原因によって以下に分類される.
産生低下が原因:先天性としてはFanconi貧血,Wiskott-Aldrich症候群,Bernard-Soulier症候群,May-Hegglin症候群が,後天性としては再生不良性貧血,骨髄線維症,急性白血病,がんの骨髄転移,放射線障害が,無効造血としては巨赤芽球貧血,MDS,発作性夜間ヘモグロビン尿症がある.
破壊亢進および消費が原因:免疫性としては特発性血小板減少性紫斑病(ITP),Evans症候群,薬剤アレルギーでは,非免疫性としては播種性血管内凝固症候群(DIC),血栓性血小板減少性紫斑病(TTP),抗リン脂質抗体症候群(APS),巨大血管腫,感染症がある.また非免疫性としては,敗血症,急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が原因となりPLTが消費されて減少する.
分布異常が原因:脾臓機能亢進症,脾腫,肝硬変.

□本態性血小板血症,慢性骨髄性白血病,真性赤血球増加症,骨髄機能亢進(摘脾後,出血後,手術後,骨折,急性感染症,悪性腫瘍).

参考文献
1)髙久史麿(監),黒川 清,他(編):臨床検査データブック2021-2022.pp340-344, 医学書院,2021

 

薬効や副作用の評価に必要な臨床検査や画像検査の情報を「オールインワン」に凝縮!

<内容紹介>「よく処方される薬」と「臨床検査や画像検査」のポイントを「薬⇔検査」の双方向の切り口で編集した一冊。第I部の「薬→検査」では薬効別に、①疾患に関連する薬、自覚症状、検査→②薬の評価項目とタイミング→③治療効果(④副作用)の評価に必要な臨床検査と画像検査→⑤薬剤選択の考え方→⑥評価から介入までのフローチャート→⑦記録の書き方―の流れで記載。第II部の「検査→薬」では検査ごとにその評価ポイントを解説。

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