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『検査値と画像データから読み解く 薬効・副作用評価マニュアル』より

久保岡直哉

2022.09.16

 薬物療法を実践するに当たって,薬剤師には「薬の治療効果および副作用を適切にモニタリングして薬物療法を評価する」ことが求められますが,そのためには客観的評価指標として臨床検査値や画像データを参照する必要があります。『検査値と画像データから読み解く 薬効・副作用評価マニュアル』では,よく処方される薬剤の治療効果と副作用発現の評価に必要な臨床検査・画像検査について,「薬→検査」「検査→薬」の双方向から情報に当たれる形式で,簡潔にポイントをまとめています。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,第I部「薬剤編(薬→検査)」から1項目,第II部「検査編(検査→薬)」から臨床検査1項目,画像検査1項目をピックアップしてご紹介します。

1 X線検査とは

□X線検査はレントゲン検査とも呼ばれており,X線管球で発生したX線を人体に照射し透過したX線を検出器で受け,画像化し,異常所見がないかを調べる検査である.
□X線検査の画像は骨や金属のようなX線吸収の大きいものが白く,空気などX線吸収が小さいものは黒く写る.腹部臓器のような軟部組織はその中間の濃度で表現される.一般的には,通常より黒く映る領域を低吸収域(透過性の亢進),白く映る領域を高吸収域という.
□近年,X線装置のデジタル化が進み,リアルタイムで画像を確認できるFPD(flat panel detector)などの検出器を用いたシステムで撮影することが主流となった.従来,フィルムを用いたX線撮影では濃度変化を調整できなかったが,FPDはモニター上でwindow level/window width(WL/WW)を変化させ調節することが可能となり,再撮影の減少,病変部の強調に貢献している.
□X線検査の中には,胸部・腹部・頭部・整形領域を撮影する一般撮影検査,乳房を圧迫し乳腺を撮影するマンモグラフィー,X線透視装置を用い連続画像を観察するX線透視検査がある.

2 一般撮影検査

1) 胸部X線画像

□安価で比較的簡便なため治療前のスクリーニング検査や経過観察で広く用いられている.
□肺炎,肺気腫,胸水,気胸,肺腫瘤(肺がん)などの呼吸器疾患の有無やその程度がわかる.その他にも心不全などの循環器領域や血管走行の異常である先天性心疾患を検出できる場合もある.
□一般的にCTより微かな所見を捉えることは難しいが,肺の容量減少の有無や経過観察には簡便で,被曝が少なく有用である.

□細菌やウイルスが原因で肺実質に生じる炎症.肺間質の病変から炎症を起こしている場合は間質性肺炎という.また,薬剤の副反応によって生じる肺炎を薬剤性肺炎という.

① 薬剤性肺炎

□薬剤の投与により生じる肺障害の中で,急性あるいは慢性の間質性肺炎,好酸球性肺炎が一般に薬剤性肺炎と呼ばれる.
□症状は咳嗽,発熱,息切れなど非特異的であることが多い.
□種々の薬剤の副作用によって,肺,気管支,血管,胸膜に呼吸器障害が起こるが,病型としては間質性肺炎の頻度が最も高い.
□薬剤性肺炎の画像所見は多様な病理所見を反映し,さまざまなパターンを呈する(図46-1).病理所見と画像所見のパターンはある程度一致するものの,乖離がある症例もあり,画像のみで診断するのは困難である.

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間質性肺炎:支持組織である肺間質優位に何らかの障害が起こり,それに対して修復が行われる過程ででき上がる病変である.びまん性・散布性のすりガラス影や網状影を呈する.
好酸球性肺炎:白血球の一種でアレルギー反応に関与している好酸球によって引き起こされる肺炎である.その原因としては薬剤やカビ(真菌)などアレルゲンの吸入がある.

□壁側胸膜と臓側胸膜の間の胸腔に空気が貯留し肺が虚脱した状態(図46-2).胸部X線画像では虚脱した肺とX線透過性が亢進した(黒くなっている)気胸腔を認める.縦隔が対側に偏位している場合は緊張性気胸と呼び,胸腔内圧が上昇し,静脈還流障害により心拍出量が低下し,心停止をきたすおそれがある.

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□胸膜腔に液体が貯留した状態.その原因はさまざまで肺炎,がん性胸膜炎などの呼吸器疾患の他に心不全,肝不全がある.通常の立位PA撮影では液体は下方に溜まるため,肋骨横隔膜角(CPAまたはCP angle:costophrenic angle)の鈍化がみられる(図46-3).

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□終末細気管支より末梢の肺胞腔が肺胞壁の破壊を伴いながら異常に拡大した状態.肺内の空気が増え,間質や血管が相対的に減少するため肺野のX線透過性が亢進し,より黒い部分として表現される(図46-4).

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□心不全や血管内容量負荷に伴う肺循環圧亢進により,血管外水分が異常増加した病態.肺浮腫自体はすりガラス影,あるいは浸潤影として描出される.両側肺門部優位の浸潤影としてバタフライシャドウがみられる場合がある(図46-5).間質性浮腫としてKerley線や胸膜直下の浮腫による小葉間裂の肥厚がみられる.

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□肺うっ血が強くなると肺血管内から間質へと水分が漏出し,間質性肺水腫をきたす.肥厚した間質が線状陰影を示し,それをKerley線と呼ぶ(図46-6).Kerley線は出現場所によりKerley A線,Kerley B線,Kerley C線と分けられる.

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□Kerley A線は上肺野〜中肺野にみられる数cmほどの肥厚性小葉間中隔による線状陰影で,多くは肺門周辺部または肺野中層部で外側上方に向かう.Kerley B線は胸膜直下に胸膜に垂直な線状陰影で,下肺野外側部に出現する(図46-7).Kerley C線は肥厚した小葉間中隔が網目状に見えるものである.

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□心機能の低下により心拍出量が低下し,全身の血液の循環が滞る状態.胸部X線画像では心拡大,肺血管影の拡大,Kerley線などの所見を呈する(図46-8).胸郭に占める心陰影の比率を心胸郭比(CTR)といい,一般的にCTRが50%以上で心拡大と判断する.

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2) 腹部X線画像

□肝臓・腎臓・脾臓・膀胱などの腹部臓器の輪郭や腸管内または腹腔内のガスの分布,異常な石灰化を調べる検査.
□基本的には背臥位正面撮影(前後撮影)(supine position,AP view)で行われるが,イレウスを示唆する所見であるニボー(腸管内にガスと液体が溜まり,その境がX線に画然とした鏡面像として水平に映し出されたもの)や消化管穿孔を示唆するフリーエアーを検出する場合は立位あるいは座位撮影,または左側臥位撮影が行われる.

□腹部立位正面像を撮影し,イレウスに特徴的な腸管の拡張やニボーの有無を確認する(図46-9).
□薬剤に起因とするものに麻痺性イレウスがあり,鎮痛薬,抗がん薬,免疫抑制薬,α-グルコシダーゼ阻害薬(糖尿病治療薬)の服用で生じる.
□腸管運動が低下しやすい疾患や腹部手術歴がある場合は麻痺性イレウスが発生しやすい.

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3) 整形外科領域

□整形外科領域では主に骨折,変形性関節症,骨腫瘍の所見を捉えることができる.X線画像はスクリーニングや経過観察に広く用いられている.

□骨強度の低下により,骨がもろくなり骨折しやすくなる疾患である.閉経や加齢以外の要因により起こる骨粗鬆症を続発性骨粗鬆症といい,薬剤性骨粗鬆症もその1つである.代表的な原因薬剤として,ステロイド,メトトレキサート,ワルファリンが挙げられる.
□骨粗鬆症によって起こる脆弱性骨折は,椎体や大腿骨近位部に好発する(図46-10,11).

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3 X線透視検査

□X線透視検査とはX線を連続照射できる透視装置を用いて検査を行う.そのため消化管などの動きのある臓器を画像で観察しながら適切なタイミングで撮影できる.
□造影剤を使用したX線透視検査は一般撮影や単純透視検査より詳細な情報や所見を捉えることができる.造影剤は硫酸バリウムやヨード造影剤のような原子番号の大きい陽性造影剤と空気やCO2などを主成分とする低密度の陰性造影剤がある.
□X線透視検査には消化管検査の他に子宮卵管造影,泌尿器系検査,脊髄造影検査,鼻涙管造影検査,唾液腺造影検査(耳下腺,顎下腺)がある.

1) 消化管検査(gastrointestinal study)

□VF(videofluoroscopic examination of swallowing)は硫酸バリウムなどの造影剤を含んだ擬似食品をX線透視下で摂取し嚥下運動を評価する検査.誤嚥の有無や口腔・咽頭・食道の動きを観察するのに有用である.
□非定型抗精神病薬・抗うつ薬・抗不安薬などの向精神薬では薬剤性摂食嚥下障害を引き起こす可能性がある.

□胃透視とも呼ばれ,造影剤を経口投与し食道〜十二指腸までを一連として検査し,健康診断などのスクリーニングや術前の病変の位置や範囲の確認(精密検査)に用いられる.
□陽性造影剤として硫酸バリウムが用いられ,胃を膨らませるために発泡剤を使用する.造影剤が小腸に流れ出るのを抑える目的で蠕動運動抑制薬としてブチルスコポラミンを検査前に投与することもある.
□気泡による偽陽性をなくすため検査に消泡剤を用いることもある.
□ブチルスコポラミンは重篤な心疾患,前立腺肥大による排尿障害,閉塞隅角緑内障などの疾患では禁忌のため代替薬としてグルカゴンを使用する.
□硫酸バリウムを用いた検査では,検査後に下剤を内服して排便を促す必要がある.
□硫酸バリウム濃度[W/V%]は以下の式で求められる.

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□上部消化管検査で使用される硫酸バリウム濃度は,140〜220W/V%ほどである.

□造影剤を肛門より逆行性に大腸に注入し,大腸全域および終末回腸までを二重造影で撮影する検査.大腸の器質的な疾患が疑われる場合に有効である.
□陽性造影剤として硫酸バリウムが用いられ(図46-12),二重造影のため直接空気または体内への吸収が速いCO2を注入する.蠕動運動抑制薬としてブチルスコポラミンまたはグルカゴンを検査前に投与する.

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□硫酸バリウムは温度が低すぎると大腸を刺激し収縮を起こすので温めて使用する.
□注腸検査で使用される硫酸バリウム濃度は20〜120 W/V%ほどである.
□消化管閉塞や穿孔の可能性がある場合は硫酸バリウムは禁忌でアミドトリゾ酸Naメグルミンを用いる.

① 内視鏡的逆行性胆道膵管造影検査(ERCP)

□ERCP(endoscopic retrograde cholangiopancreatography)とは口から挿入した内視鏡を十二指腸まで進め,十二指腸と胆管・膵管が合流するVater乳頭を見ながら,胆管や膵管に挿入した造影カテーテルより造影剤を注入して行う検査である(図46-13).総胆管結石や狭窄・閉塞などの所見を捉えることができる.

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□ERCPを利用した治療もあり,胆管や膵管に結石がみつかった場合はERCPで除去することがある.また,胆管や膵管に狭窄がある場合はプラスチックや金属製の管(ステント)を留置することがある.

② 経皮経肝胆道ドレナージ(PTCD)

□PTCD(percutaneous transhepatic cholangio drainage)とは,経皮経肝的に直接胆道を穿刺し胆汁を排液(ドレナージ)する治療.
□結石により生じた閉塞性黄疸などの減黄目的に施行する.
□内視鏡的に胆汁を排液できない場合に選択する.
□一般的にエコーガイド下で穿刺が行われ,造影剤を用いたX線透視下で胆道や閉塞部位の確認を行う.

③ 経皮経肝胆囊ドレナージ(PTGBD)

□PTGBD(percutaneous transhepatic gallbladder drainage)とは,経皮経肝的に直接胆囊を穿刺し胆汁を排液(ドレナージ)する治療.
□一般的に胆囊に胆汁が溜まる胆石による胆囊炎に対して行う.

④ 点滴静注胆囊胆管造影検査(DIC)

□DIC(drip infusion cholecystography)は造影剤(イオトロクス酸メグルミン)を30分ほどかけて点滴静注し,その後30分,60分,90分と時間をおいて撮影し,胆道,胆管の状態をみる検査.
□胆石の他,胆囊がん,胆囊ポリープ,胆管結石を調べることができる.
□最近では同一方法でCTを撮影するDIC-CTや非造影で胆囊・胆管を評価できるMRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography)があり,DICはそれらに置き換わっている.
□イオトロクス酸メグルミンはイオン性造影剤のため,造影剤の中では副作用頻度が極めて高い.

2) 脊髄造影検査(myelography)

□脊髄造影検査とは,非イオン性造影剤を脳脊髄腔内に注入し,X線透視にて脊髄(もしくは馬尾神経)の圧迫病変の有無を評価する検査である.
□イオン性高浸透圧ヨード造影剤の使用は禁忌であり,脳脊髄腔内に投与した場合,ATCS症候群(ascending tonic-clonic seizure syndrome)などの致死的な有害事象を起こすことがあり,実際に死亡例も出ている.

参考文献
1)Sollaci LB, Pereira MG. The introduction, methods, results, and discussion(IMRAD)structure:a fifty-year survey. J Med Libr Assoc 2004;92:364-367.
1)小林弘明:誰も教えてくれなかった胸部画像の見かた・考えかた.医学書院,2017
2)酒井文和(編):できる!画像診断入門シリーズ 胸部画像診断のここが鑑別ポイント改訂版.羊土社,2011
3)医療情報科学研究所(編):病気がみえるvol.11 運動器・整形外科.メディックメディア,2017
4)芦澤和人(編):困ったときの胸部の画像診断.学研メディカル秀潤社,2019
5)落合慈之(監),石原照夫(編):呼吸器疾患ビジュアルブック.学研メディカル秀潤社,2011
6)高橋雅士(編):新胸部画像診断の勘ドコロ.メジカルビュー社,2014
7)千田金吾(編):これで納得 胸部X線写真読影.改訂第2版,南江堂,2009

 

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<内容紹介>「よく処方される薬」と「臨床検査や画像検査」のポイントを「薬⇔検査」の双方向の切り口で編集した一冊。第I部の「薬→検査」では薬効別に、①疾患に関連する薬、自覚症状、検査→②薬の評価項目とタイミング→③治療効果(④副作用)の評価に必要な臨床検査と画像検査→⑤薬剤選択の考え方→⑥評価から介入までのフローチャート→⑦記録の書き方―の流れで記載。第II部の「検査→薬」では検査ごとにその評価ポイントを解説。

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