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『検査値と画像データから読み解く 薬効・副作用評価マニュアル』より

種田靖久

2022.09.02

 薬物療法を実践するに当たって,薬剤師には「薬の治療効果および副作用を適切にモニタリングして薬物療法を評価する」ことが求められますが,そのためには客観的評価指標として臨床検査値や画像データを参照する必要があります。『検査値と画像データから読み解く 薬効・副作用評価マニュアル』では,よく処方される薬剤の治療効果と副作用発現の評価に必要な臨床検査・画像検査について,「薬→検査」「検査→薬」の双方向から情報に当たれる形式で,簡潔にポイントをまとめています。

 「医学界新聞プラス」では本書のうち,第I部「薬剤編(薬→検査)」から1項目,第II部「検査編(検査→薬)」から臨床検査1項目,画像検査1項目をピックアップしてご紹介します。

1 Overview

□心不全とはほとんどすべての心疾患の末期状態にみられる症候群である.
□日常診療上,心不全といえばうっ血性心不全を指すと考えてよい.
□心不全治療の短期的な目標は①自覚症状を取り除くこと,②運動耐容能を改善させることであり,長期的には③心機能低下の進行を防止し,④生命予後を延長させることである.
□心不全の原因疾患は虚血性心疾患や高血圧性心疾患,弁膜症,心筋疾患,先天性心疾患,不整脈,肺疾患,薬剤性などさまざまである.各原因疾患に対する治療法については,本項では割愛する.

1) 管理目的と薬効分類

□急性か慢性かで心不全の管理目的は異なる.薬物療法の分類を表4-1で概説する.

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※表中の参照頁は書籍本体の頁数を指します。

2 臨床所見と検査

1) 臨床所見

□左心不全か右心不全かで症状は異なる.
・左心不全(肺静脈うっ血)…呼吸困難,疲労,起座呼吸.
・右心不全(体静脈うっ血)…浮腫,腹水,肝うっ血.

2) 検査

□診断や呼吸器疾患,腎不全,貧血などの他疾患との鑑別のために表4-2で評価する.
□重症度判定には,心係数と肺動脈楔入圧に基づくForrester分類(下記を参照)や,臨床所見から判断するNYHA(New York Heart Association)心機能分類がある.

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※表中の参照頁は書籍本体の頁数を指します。

3 薬の分類と評価項目

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1) Advance(特殊モニター管理中はここを見る!)

肺動脈楔入圧(PCWP:pulmonary capillary wedge pressure):うっ血の指標にできるため,左心系の機能評価や診断に用いられる.基準値は5〜13 mmHg.
心拍出量(CO:cardiac output):心臓のポンプ機能を表す指標.左心室から1分間に拍出される血液量のこと.
心係数(CI:cardiac index):ポンプ機能の指標.「心拍出量(CO)(L/分)÷体表面積(BSA)(m2)」で算出される.

拡張効果(diastolic augmentation):バルーン拡張期の圧が自己の収縮気圧より上昇しているかどうか.
収縮効果(systolic unloading):補助を受けていない自己の拡張期圧よりも補助を受けた自己の拡張期圧が低下しているかどうか.
□補助の漸減後の心不全症状の増悪の有無.
□抗凝固療法としてヘパリン管理されている場合は,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)発現の有無.

呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO2:肺循環の再開で値が徐々に上昇することから,心機能回復の指標になりうる.
混合静脈血酸素飽和度(SvO2:全身代謝の指標.最低65%を維持できるように,循環管理を目標とする.
□抗凝固療法としてヘパリン管理されている場合は,HIT発現の有無.

4 治療効果の確認項目

1) POINT

□全身循環の改善によるうっ血の改善が達成できているかどうかに主眼を置いて確認するとよい.ただし,急性期と慢性期では評価のポイントが異なる.急性期の循環不全では,まずは循環動態が落ち着いているかに注目する.全身状態が落ち着いてから心負荷の軽減を検討していくことになるため,患者の全身状態を同時に確認する必要がある.

2) 臨床所見

問診:呼吸困難感の改善,体重の減少,倦怠感や易疲労感の改善,動悸・食欲不振の改善.
フィジカルアセスメント:浮腫(腹水,胸水)の改善,四肢冷感の改善,頸静脈怒張の改善,湿性ラ音やⅢ音の消失.

3) 客観データ

バイタルサイン:心拍数の減少,尿量の改善(>0.5 mL/kg/時),収縮期血圧の維持と改善.
血液検査:CK-MB,トロポニンT(またはI),BNP(またはNT-proBNP)の改善.

スワンガンツカテーテル:PCWP,CIの改善.
VA-ECMO:EtCO2,SvO2の改善.

4) 画像検査

胸部X線検査:心胸郭比(CTR)の改善,胸水や肺水腫(血管陰影増強)の改善状況を確認する.
心エコー:左房径(LAD)・左室駆出率(LVEF)の改善や下大静脈(IVC)径の改善・呼吸性変動の出現などのうっ血改善による数値の変動を確認する.

5 副作用の確認項目

1) POINT

□カテコールアミンの過量投与による不整脈の出現や,利尿薬の過量投与による脱水の出現を念頭に置いて確認しておくとよい.

2) 臨床所見

問診:口渇症状の有無,意識レベルの低下の有無,短期間での体重減少,全身倦怠感.
フィジカルアセスメント:頸静脈の虚脱,皮膚ツルゴールの低下,毛細血管再充満時間の延長.
薬剤性
・ACE阻害薬…乾性咳嗽,腎機能増悪.
・スピロノラクトン…高K血症,女性化乳房.

3) 客観データ

バイタルサイン:尿量の減少,血圧の低下,頻脈・頻呼吸.
血液検査:BUN,Cr濃度の上昇,電解質異常(血清Na・K値の異常),高尿酸血症,Htの上昇,尿比重の上昇.
スワンガンツカテーテル:PCWP,CIの増悪.
IABP:血小板数の減少.
VA-ECMO:EtCO2,SvO2の増悪,血小板数の減少.

4) 画像検査

心電図:心房細動の出現,T波の上昇や平低化,ST変化,QT延長の有無を確認する.
心エコー:LADの減少やIVC径の減少などの脱水所見を確認する.

6 薬剤選択のチェックポイント

1) 左室駆出率(LVEF)による心不全の分類と治療薬

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2) Forresterの血行動態分類

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3) 処方意図別の薬剤分類

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7 評価から介入までのフローチャート

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1) POINT

□評価を行った後は必ず,介入できる項目がないかを考える.
□治療効果が認められている場合でも,今後も現行の治療を継続する必要があるのかを含めて評価しておく.

8 薬剤管理指導記録の書き方

1) うっ血性心不全

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参考文献    
1)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版).2017
2)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療.2021
3)日本循環器学会/日本TDM学会合同ガイドライン(2013-2014年度合同研究班報告):2015 年版循環器薬の薬物血中濃度モニタリングに関するガイドライン.2015
4)Forrester JS, et al:N Engl J Med. 1976 Dec 16;295(25):1404-13. (PMID:790194)

 

薬効や副作用の評価に必要な臨床検査や画像検査の情報を「オールインワン」に凝縮!

<内容紹介>「よく処方される薬」と「臨床検査や画像検査」のポイントを「薬⇔検査」の双方向の切り口で編集した一冊。第I部の「薬→検査」では薬効別に、①疾患に関連する薬、自覚症状、検査→②薬の評価項目とタイミング→③治療効果(④副作用)の評価に必要な臨床検査と画像検査→⑤薬剤選択の考え方→⑥評価から介入までのフローチャート→⑦記録の書き方―の流れで記載。第II部の「検査→薬」では検査ごとにその評価ポイントを解説。

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