医学界新聞

寄稿 中島誉也

2023.09.11 週刊医学界新聞(レジデント号):第3532号より

 文献検索や論文執筆は医師にとって重要なスキルです。ただしその目的は,新しい知識を臨床に生かすため,研究成果を共有するため,自身のキャリアを築くためと,人によってさまざまでしょう。中でも研修医は,学会発表や症例報告,サマリー考察のために文献検索に取り組むことが多いはずです。しかし,忙しい日々を送る中で適切に文献検索を行うのは容易ではありません。そこで提案するのがAIを活用することです。本稿では,便利なツールの活用方法に焦点を当てたタイムパフォーマンス,コストパフォーマンスの高い文献検索・管理法を共有します。

 近年のAI技術の発展において,特筆すべきはChatGPTの登場です。自然言語処理技術の進歩により,人間の言葉を理解し,人間らしい文章を生成できます。最近では,米国医師国家試験(USMLE)に合格できるほどの正答率を叩き出す1)など,まさに時代を動かす画期的なツールになりました。医療においては,診断や治療の支援,業務の効率化といったさまざまな応用が考えられています2)

 こうした大規模な言語モデルのAIは,論文執筆の各ステップ,つまり文献検索・管理,要約,ライティング支援などにも活用ができ,研修医の限られた時間とリソースを最大化する強力なツールとなるはずです。紙幅の関係上,文献検索・管理に関連したAIツールだけになりますが,その活用方法を以下で紹介していきます。

 文献検索に当たっては,Mutually(お互いに),Exclusive(重複せず),Collectively(全体に),Exhaustive(漏れがない)というMECE(ミーシー)を意識して,モレなく,ダブりなく行うことが重要です。しかし,文献検索の方法(例えば,PubMedのMeSH用語の使い方など)に関して研修医の時代に体系立てて学べる機会はほとんどないために,この原則に基づいた効率的な検索が難しいこともあるでしょう。また,集めた論文の管理も重要です。そこで,私が普段使用している時間を大幅に短縮可能な文献検索・管理ツールを紹介します。各ツールの特徴()や具体的な使用場面()などをまとめましたので,ぜひこれらの導入を検討してみてください。

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 筆者が利用する文献検索および管理のためのAIツール(2023年8月時点)
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 筆者が行う「テーマ発案から文献検索・管理に至るまで」のプロセス

 図や表を通じて紹介してきたように,AIは強力なツールと言えます。その活用先は論文作成や研究への応用にとどまらず,画像診断やカルテ記載の自動化など,医療の質と効率を大きく向上させる可能性を秘めています。ただし,こうしたポジティブな面が数多く存在する一方で,AIと上手に付き合っていくには次の点に注意する必要があるでしょう。

◆AIの限界を理解する

 繰り返しお伝えしていますが,AIはあくまでツールです。全てを解決できる魔法ではありません。AIによる診断支援や情報整理は有用ですが,最終的な意思決定は人間が行うべきだと私は考えています。AIの性能や限界を理解し,適切な場面で適切に活用することが重要です。

◆データの質を確保する

 AIの学習結果は入力されるデータに大きく依存します。データの質を確保し,適切なデータをAIに提供することが求められるでしょう。“Garbage In,Garbage Out”(質の悪いデータからは,質の悪い結果しか生まれない)です。

◆倫理規定を遵守する

 AIの活用にはプライバシーの保護や患者の同意など,医療倫理が深くかかわってきます。活用時は,これらの倫理規定を遵守することが必要です。投稿先のジャーナルによってはChatGPTなどの使用を禁止している場合もありますので,投稿規定を事前に確認しましょう。

 これらのポイントを押さえつつ,AI技術を上手に活用することで,研修医の皆さんの仕事はより効率的になり,精度も高まるでしょう。患者ケアの質を向上させることだってできるはずです。自身のニーズに合わせて適切なツールを選択し,医療分野でこれから活躍するためにAIとの適切なかかわり方を見つけていきましょう。


1)JMIR Med Educ. 2023[PMID:36753318]
2)Nat Med. 2023[PMID:36918736]

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長崎大学病院初期研修医/長崎大学大学院医歯薬総合研究科麻酔科学専攻

長崎大医学部医学科在籍時代から医療AIや臨床研究に興味を持ち,ベンチャー企業でのインターンや複数の臨床研究を手掛けてきた。2022年に同大を卒業。現在は卒後2年目の初期研修医として同大病院にて研修に励む傍ら,麻酔・集中治療分野の大学院で臨床研究を行う。

X(旧Twitter) ID:@naka_takaya

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