がんCT画像読影のひきだし
「繋ぐ、囲む、比べる」を実践して、CT画像の読み方のコツを身につけよう。
もっと見る
がんのCT画像は「何を考えながら」「どのように」読影すべきか。そのポイントをわかりやすく解説した入門書。本書のゴールは「初心者が画像読影のスキルを伸ばし、症例検討会の議論やカルテの記載内容への理解を深め、結果的に患者の病態をより深く把握できるようになる」こと。正常画像(web動画あり)の見方に始まり、臓器別(ex. 肺癌、胃癌)や臨床課題別(ex. 症状は薬剤性/原疾患)の切り口で症例も掲載。
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
- 書評
- 付録・特典
序文
開く
序
近年,がん医療の現場では,多職種による症例検討会が行われるようになり,医師のみではなく薬剤師や看護師など多職種でCT画像を見る機会も増えてきました.しかしながら,薬学部や看護学部の教育課程において,CT画像の読影方法やCT画像を理解する基礎となる解剖学に関する教育は十分であるとは言いがたく,卒後間もない人たちはこれらについて臨床の現場で苦労しながら学んでいくのが実情です.
愛知県がんセンター(以下,当院)ではこれまで県内の薬剤師を対象に,がんに関するCT画像読影研修会を開催してきました.われわれ編集者がこの研修会を通して感じてきたのは「もっとCTについて勉強したい」という参加者の熱意でした.
このたび上梓した『がんCT画像読影のひきだし』は,そのような薬剤師や看護師はもちろん,これからがん診療にかかわる医師も含めた幅広い医療者を読者対象に,実際の臨床では「どのように」「何を考えながら」CT画像を読影すべきか,そのポイントをわかりやすく示す入門書として企画しました.
本書は「自力でCT 読影ができるようになる」ことよりも,「症例検討会における医師の議論やカルテの記載内容を理解し,患者さんの病態をより深く理解できるようになる」ことを目的としています.まずは正常画像の見方に始まり,各癌腫の読影ポイント,さらにがん診療で遭遇するCT画像を掲載しています.また,基本となる正常画像はYouTubeから連続画像をご覧いただくことができます.普段,CT画像を見るのが難しい環境の読者もこの動画を使用して,本書で述べられている「繋げる・囲む・比べる」勉強法をぜひ実践していただければ幸いです.
これからがん医療にかかわる医療者のみなさんにとって,本書がCT画像読影を始めるきっかけになり,この分野でのステップアップの一助となるのであれば,編集者としてこれ以上の喜びはありません.
最後に,本書の制作にご尽力いただいた医学書院の関係者のみなさん,筆者の重責を完璧に果たしてくれた当院放射線診断・IVR部および呼吸器内科部のみなさん,原稿を初学者にもわかりやすく工夫してくれた当院薬剤部・臨床薬剤部の山内拓也さん,市橋哲平さん,山崎研さん,富安直弥さん,安川稔昭さんに心より感謝申し上げます.
2022年3月
稲葉吉隆,女屋博昭,清水淳市,前田章光
目次
開く
1段目 総論
1 CT検査の特徴とその他の主な画像検査
1.がん診療における画像診断の役割
2.CTの基本事項
3.CTの3次元表示
4.超音波
5.MRI
6.PET/CT
2 造影剤の使用目的
1.造影CT検査の基本
2.造影剤の使用目的
3.造影剤の副作用と使用上の注意
4.その他の造影CT
2段目 正常画像
1.CTの基本画像
2.CT画像表示濃度
3.CT画像正常像とCT画像の捉え方
4.リンパ節の評価
3段目 治療効果の判定
1 RECIST
1.RECISTに基づいた治療開始前の画像評価
2.RECISTに基づいた治療効果判定
3.免疫チェックポイント阻害薬の治療効果判定
2 造影剤を用いた治療効果の判定――mRECIST
1.modified RECIST(mRECIST)とは
2.実際の評価方法
3.mRECISTを用いる場合の注意点
4.おわりに
4段目 腫瘍の見落としを防ぐ
1.画像診断の実際
2.スライス厚と部分容積効果
3.造影CTのピットフォール
4.MRIが有利な癌腫──子宮癌,乳癌
5.代表的なMRI画像の特徴
5段目 臓器別のがんCT画像読影のポイント
1 肺癌
1.肺の読影の基本
2.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 1
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 2
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 3
5.補足(肺癌のリンパ節転移)
2 胃癌
1.胃の構造
2.胃癌の肉眼形態
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 4
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 5
3 大腸癌
1.大腸癌の病期分類
2.大腸癌症例におけるCT読影の基本
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 6
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 7
4 肝細胞癌
1.肝細胞癌の病期分類
2.肝細胞癌症例におけるCT読影の基本
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 8
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 9
5.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 10
5 膵癌
1.膵臓の解剖
2.膵癌のCT所見
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 11
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 12
6 泌尿器癌(腎癌)
1.腎癌の診断
2.病期診断
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 13
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 14
5.再発の診断
7 リンパ腫
1.悪性リンパ腫の病期分類
2.悪性リンパ腫症例におけるCT読影の基本
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 15
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 16
6段目 臨床課題別のがんCT画像読影のポイント
1 肺炎症例に対する画像診断
1.細菌性肺炎
2.ウイルス性肺炎(特にCOVID-19)
3.放射線肺炎
4.薬剤性肺炎
5.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 17
6.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 18
2 胸部CT異常陰影症例に対する画像診断
1.肺の解剖の基本と二次小葉
2.二次小葉レベルの画像パターン分類
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 19
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 20
3 肝障害症例に対する画像診断
1.がん治療における肝障害
2.読影の基本
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 21
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 22
4 腎障害症例に対する画像診断
1.腎障害がある場合
2.読影の基本
3.腎障害と造影剤
5 便秘症例に対する画像診断――腸閉塞とイレウス
1.がん患者における便秘
2.読影の基本
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 23
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 24
6 下痢症例に対する画像診断
1.がん患者における下痢
2.読影の基本
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 25
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 26
7 しびれを訴える症例に対する画像診断
1.がん患者におけるしびれ(痛み)
2.読影の基本
3.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 27
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 28
8 腫瘍崩壊症候群リスクに対する画像診断
1.腫瘍崩壊症候群(TLS)とは?
2.TLSの診断
3.TLSの予防
4.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 29
5.症例から学ぶ画像読影のポイント Case 30
9 血管新生阻害薬の副作用リスクに対する画像診断
1.血管新生阻害薬とは?
2.血管新生阻害薬の副作用
3.血管新生阻害薬の投与を控えるべき症例
10 緊急性の高い疾患の画像とその対処方法
1.「破れた」状態
2.「詰まった」状態
3.「捻れた」状態
索引
書評
開く
初学者も身構えずに安心して読める良書
書評者:鈴木 賢一(星薬科大教授・臨床教育研究学域実務教育研究部門)
本書を手にした瞬間,私は30年前のあの頃を思い出した。
就職して間もない私は,憧れていた病棟業務に配属され,呼吸器内科を担当することになった。患者の情報共有のために毎週カンファレンスに参加し,カルテを閲覧する機会が格段に増えたが,CT画像や検査所見,専門用語のオンパレードで頭の中は混乱し,専門書を読みあされば何とかなると思ったが考えは甘かった。当時,呼吸器内科のY医師はカンファレンス終了後,途方に暮れていた私に画像の見方や検査値の解釈などについて,カルテや実際の画像を示し夜遅くまで丁寧にレクチャーしてくれたことを思い出した。
本書の良いところは,単なる読影解説書ではないところにある。冒頭では読影に必要な用語の解説から始まり,臓器ごとの項では画像を理解するために最低限必要となる,解剖学的解説が整理されている。これらの配慮のおかげで薬剤師や看護師の初学者にとっても,身構えずに安心して読み始めることができる。さらに,読者が書面上の画像からより立体的にイメージしやすくなるよう,正常画像の動画を閲覧できるよう工夫されていることも特徴的である。
また本書の後半には現場で日常的に経験し得る臨床課題や,症例に落とし込まれたストーリーに沿って画像読影の解説が織り込まれている。読影メインではなくあくまでも臨床現場を想定した解説書としての完成度も高く,私はこの項が特に気に入っている。
昨今,各医療機関では病棟には薬剤師が常駐し,医師や看護師からなるチーム医療の中で,適正な薬物治療を提供するために活躍している。ひと昔前までは患者への服薬支援がその業務の中心であったが,昨今は薬剤選択や処方提案の観点から,医師に対するより高度かつ論理的な医薬品情報提供を行う機会が求められている。薬剤師が画像所見から得る情報を医師と共有することで,適切な薬物治療をより効率的に提供することが可能となる。
自身の経験上,カンファレンスであらかじめ骨転移の箇所や肺尖部の浸潤所見を把握できたことで,患者面談時の疼痛やしびれに関する問診を早期に実施でき,適切な処方提案により良好な疼痛管理につながった経験がある。そのときの患者さんの穏やかな表情は今でもよく覚えている。
もし30年前のあのときに本書が手元にあったら,と考えると少し悔しい気持ちになるほど素晴らしい内容である。本書は医師のみならず,チーム医療に参画する薬剤師,看護師のお供に自信を持ってお薦めできる良書である。
がん患者のCT画像から患者の病態をより深く理解するために
書評者:松尾 宏一(福岡大薬学部教授・臨床薬学/福岡大学病院薬剤部)
がん医療の現場では,多種職・多診療科によるキャンサーボードなどのカンファレンスが広く行われ,薬剤師や看護師などの医療チームのメンバーが,これまで以上にCT画像を見る機会が増えている。しかしながらメディカルスタッフが読影に関する教育を受ける機会は乏しく,放射線科医が普段から「どのように捉え」,「何を予測しながら」読影しているか知ることは難しい。
本書のポイントは「序」にあるように,到達目標を「自力でCT読影ができる」という高いレベルに置くのではなく,若手のメディカルスタッフが「症例報告会における医師の議論やカルテの記載内容を理解し,患者さんの病態をより深く理解できるようになる」という,取り組みやすくかつ実践的なレベルに設定したことだ。そのため,全編において難解な理論については深く立ち入らずにシンプルな内容に徹し,CT画像に詳しくない読者でもスムーズに内容を理解できる。とはいえ,初学者が学習すべきことはしっかり押さえられており,その結果,本書のターゲットであるがん医療に携わるメディカルスタッフにとって非常に理解しやすい入門書となっている。
本書は「章」に相当する計7段の「ひきだし」で構成され,1段目の「総論」に続いて2段目では「正常画像」について書かれている。われわれは普段から疾患を抱える患者の画像(異常像)ばかり見ているので「正常画像と異常像はどのような違いがあり,その二つをどのように比較するのか」という当たり前の視点や考え方を忘れがちなのかもしれない。以前,ある著名な腫瘍内科の医師が,「研修医は患者の(所見や検査値の)悪い点ばかりを探しがちで正常な点を見ようとしない。『(悪い点ばかりの指摘なのに)この患者は生きているのですか』と意地悪く問いたい気持ちになる」とおっしゃっていたことがある。そういう意味で,「まずは正常画像を先に学ぶ」という考え方を本書では目次上で体現しているのは実践的であるし,好感が持てる。また5段目では「臓器別」に,6段目では「臨床課題別」にがんCT画像読影のポイントをさまざまなケースを通して詳しく丁寧に解説している。本書に記載されているようなケースに関する知識が備われば,多くの症例で放射線科医がどのように状態を捉え,何を予測しているかを推察するには十分であろう。
がん患者のCT画像から患者の病態をより深く理解するために,ぜひ本書を多くの方に読んでいただき,本書で身につけた「ひきだしの中身」を活用して,がんCT画像に日々接する医療チームの一員として活躍してほしい。
「CT画像の読影」という知識(共通言語)を得て,臨床力をアップデート
書評者:青山 剛(がん研究会有明病院薬剤部)
このたび,『がんCT画像読影のひきだし』が出版された。『がん薬物療法のひきだし』(2020年),『医薬品情報のひきだし』(2020年)に続く,「ひきだし」シリーズの第3弾である。今回の『がんCT画像読影のひきだし』は,CT画像について「何を考えながら」「どのように」読影すべきか,そのポイントをわかりやすく解説した入門書である。まず驚くのは,医師と共に薬剤師も編集に加わっている点である。評者の薬剤師としてのキャリアは20年になるが,学生時代に画像について学んだことはなかった。画像読影がテーマの本で薬剤師が中心メンバーとしてかかわっていることに,評者も少なからず刺激を受けたのだ。
本書は「初心者が画像読影のスキルを伸ばし,症例検討会の議論やカルテの記載内容の理解を深め,結果的に患者の病態をより深く把握できるようになる」ことを目的に刊行されたという。本書には多数のCT画像が掲載され,丁寧な解説も加えられており,これからこのテーマについて学びたい若手医師や,薬剤師,看護師が理解しやすいように工夫されている。冒頭の「総論」以降の目次は,「正常画像」「治療効果の判定」「腫瘍の見落としを防ぐ」と続き,以降は本書のキモともいえる「臓器別,臨床課題別のがんCT画像読影のポイント」に本書全体の7割のボリュームが割かれている。
2段目(本シリーズではタイトルの「ひきだし」にちなんで,「章」ではなく「段目」を使用している。すなわち,他の書籍でいう第2章)の「正常画像」では,紙媒体の書籍に加えて動画からも学ぶことができる(QRコード付き)。紙面からだけではどうしても理解が行き届かない正常画像が動画で(行きつ戻りつ)学べるのは大変ありがたい。
5段目「臓器別のがんCT画像読影のポイント」では,肺がん,消化器がん,泌尿器がん,リンパ腫の特徴的な画像について解説があり理解が深まる。臓器別に症例を用いてTNM分類を行うトレーニングも実践的だ。
本書で評者が特に素晴らしいと感じたのは,6段目「臨床課題別のがんCT画像読影のポイント」である。ここでは,例えば肺炎,肝,腎障害,下痢,便秘,血管新生阻害薬などの「臨床で直面する課題」の症例が取り上げられている。例えば,「血管新生阻害薬の投与を控えるべき症例」はカンファレンスでよく聞くこともあり,自らの経験と引き付けながら臨場感をもって読んだ。
前出の編者たちの意図(刊行の目的)は本書においてしっかり達成されている。この『がんCT画像読影のひきだし』を通読すれば,これまで自らの学問的基盤や視点を生かしてがん治療に関与してきた各専門職(医師,薬剤師,看護師)に「CT画像の読影」という知識(共通言語)が加わることになる。臨床力アップデートのためにまさにオススメの書籍である。