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『IVRマニュアル 第3版』より

山本 晃

2024.04.26

 医療における不可欠な治療法として,日本においても発展・普及し,有用な治療手段として定着したIVR(interventional radiology)。『IVRマニュアル 第3版』は,そんなIVR手技を横断的,網羅的に解説した定番書の改訂第3版です。新たなIVR手技を多く取り入れるとともに,肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術,緊急出血に対する動脈塞栓術といった基本的なIVR手技についても情報を最新のものにアップデートしています。

 「医学界新聞プラス」では,本書の中から「バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(BRTO)」「経皮的エタノール注入療法(PEIT):肝」「ラジオ波焼灼療法(RFA):肝」の3項目をピックアップして,内容を紹介します。

胃静脈瘤

適応

○ 予防例としてはF2やF3の緊満したもの。胃静脈瘤上にびらんや潰瘍を認めるもの,急速な増大傾向にあるもの,食道静脈瘤治療後に残存,あるいは新生した症例。
○ 破裂例は,一時止血が得られた破裂例,待機例。
○ 胃腎シャントが原因で肝性脳症をきたしている症例。
○ 透析症例も適応外ではない。

相対的禁忌

○ バルーン閉塞下逆行性経静脈的静脈瘤造影(BRTV)で,容易に門脈内に造影剤が流れ込む症例。
○ 肝細胞癌の門脈本幹腫瘍栓を合併する症例。
○ 著しく肝腎機能が不良な症例(総ビリルビン≧4.0mg/dL,Child-Pugh score≧13),腎機能不良(eGFR<30mL/分/1.73m2)。

術前準備

 1 術前検査 

○ 薄いスライスの造影CT(またはMRI)で排血路・供血路などの血行動態を確認する。主たる排血路は胃腎シャントがほとんどであるが(80~85%),左下横隔静脈(10~15%)や心膜横隔静脈(5%),肋間静脈のことがある(図1)。
○ 採血にて著しく肝腎機能不良がないか確認する。凝固検査でフィブリノゲンが100mg/dL以下の場合は血栓化が得にくいため,新鮮凍結血漿(FFP)を輸血しておく。

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 2 準備と使用薬剤 

○ モノエタノールアミンオレイン酸塩(EO)(10mL/バイアル)を10mLの非イオン性造影剤で溶解すると5%EOIとなる。
○ EOIによる高度溶血による腎不全を予防するため,EOIの投与量が多くなれば(20mL以上),人ハプトグロビン(2,000~4,000単位)を術中に投与する。
○ EOI注入時に左背部痛や腹部痛を訴えることがある。点滴ルートを確保し,必要に応じてペンタゾシン(15mg)を投与する。
○ 抗菌薬は適宜投与する。
○ 尿道バルーンを入れておくと安静時間が長くなるときに有用なほか,血尿の確認にも有用である。

手技

 1 胃腎シャントへのカテーテル挿入 

○ 経大腿静脈または経頸静脈的アプローチが利用でき,ほとんどの症例は経大腿静脈的アプローチで施行可能である。8 Fr S型シース(ASATO型ガイディングシース)もしくはWバルーンシステムCANDISTM)が有用である。Wバルーンシステムは2cm径の9Fr親バルーンと,1cm径の5Fr子バルーンカテーテルよりなる。胃腎シャントにシース先端を挿入し,バルーンカテーテルをガイドワイヤー先行で挿入する。

手技のポイント 胃腎シャントのカテーテル挿入

 ASATOシース,CANDISTMを用いてシースや親バルーンを挿入する場合,0.035インチのガイドワイヤーを逆行性に胃腎シャントに挿入する必要があるが,通常胃腎シャントは頭尾側に垂直に椎体左縁近傍を走行している。斜めに椎体左縁から離れた走行を示す血管はたいてい左副腎静脈などの後腹膜枝である。

 2 BRTVによる側副路の発達評価 

・BRTVを行うと,側副路の評価が可能である。左下横隔静脈は最も多い側副路で,心膜横隔静脈や上行腰静脈や副半奇静脈などもしばしば側副路となる。側副路の描出と,胃静脈瘤の描出の程度でHirota分類による評価を行う(図21)。また異所性塞栓の原因となりうるportopulmonary venous anastomosis(PPVA)2)が描出されないか必ず確認する。PPVAが認められた場合,塞栓を追加するか,PPVAが描出されない位置までバルーンカテーテルを先進させる必要がある。

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 3 側副路塞栓の技術 

○ Hirota分類grade 1や2の大部分では,EOI注入のみで側副路を塞栓可能である。Grade 2の一部やgrade 3,4では,grade 1または2になるまでdowngradeを行う必要がある。downgradeには以下の方法を用いる(図3)。
1)Downgradeテクニック:バルーンカテーテルを側副路の分岐起始部を越えて胃静脈瘤側の上流側まで進めることをいい,grade 1までdowngradeすることができる。CANDISTMシステムは,親バルーンカテーテルを膨らませシャント内で固定することにより,追従性の高い子バルーンを先進させることができ有用である。バルーンカテーテルはガイドワイヤーに追従させるが,マイクロカテーテルとマイクロガイドワイヤーを同軸にして追従させることもできる。
2)コイルによる塞栓術:マイクロカテーテルを用いて側副路を選択し,金属コイルで側副路をコイル塞栓する。胃腎シャント以外の太いシャントがある場合(左下横隔静脈や心膜横隔静脈),その大血管への流出路である下大静脈や腕頭静脈から新たにもう1本カテーテルを挿入し,別経路からコイル塞栓術を行うこともある。
3)Stepwise injection:Grade 2や3の場合,EOIを3~5mL程度注入し,5~10分程度待機することで,細かい側副路が塞栓される。この結果downgrade可能である。EOIの使用量が増え,手技時間が長くなることが難点である。
4)オブリーク法:静脈瘤がBRTVで描出される前に供血路である左胃静脈が描出される場合に用いる。造影剤やEOIは血液より比重が重く背側に分布するため,患者自身の体位を右前斜位にすることにより,造影剤やEOIを背側の胃静脈瘤に停滞させることができる。

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 4 静脈瘤への5%EOIの注入 

○ EOIをバルーンカテーテルもしくは先進させたマイクロカテーテルから注入する。EOIにより胃静脈瘤が描出されれば,CTもしくはcone-beam CTを用いて静脈瘤へのEOIの停滞を確認するとより確実である。
○ バルーン拡張時間:金川らの原法では,30分間の放置後抜去するが,現状は4~24時間の留置(オーバーナイト留置)を行うほうが血栓形成が進み,血栓の肺への逸脱を防ぐことができる。
○ バルーン抜去:少量の造影剤を再度カテーテルから注入し,緩徐にバルーンをデフレートする。注入した造影剤や血栓が動き,肺への逸脱が危惧されれば再度バルーンをインフレートし,EOIを追加する。十分な血栓化が確認できれば,バルーンカテーテルとシステムを抜去する。

 5 EOIの使用量 

○ EOは元来内視鏡的硬化療法の硬化剤として開発され,1回量は20mL以内とされていた。現在は胃静脈瘤のBRTOでは30mL以内とされている。50%ブドウ糖をEOI注入前に入れることでEOI使用量を減らすことができる。またEOIと比重の近い50%ブドウ糖でEOI注入の代わりに最後に注入する(押す)ことで,EOIの使用量を減らすことができる(グルプッシュ法)。

術後管理

○ 腎機能保護のため点滴負荷を行う。オーバーナイト留置の場合は翌日の抜去までベッド上安静をするが,即日抜去する場合でも当日はベッド上安静が望ましい。

 1 BRTO変法 

○ バルーンカテーテルの代わりにバスキュラープラグとゼラチンスポンジ細片を用いたplug-assisted retrograde transvenous obliteration(PARTO),コイルを用いたcoil-assisted RTO(CARTO)などが報告されているが,筆者らは本邦での方法に馴染みやすい,通常のBRTOの最後にバルーンカテーテルやマイクロカテーテルからコイルを留置して即日バルーンカテーテル抜去を行うCARTO-Ⅱ法を行っている(図43)。また,間便で効果的なdowngradeが可能となるgelatin sponge particles and 5% EOl mixture in RTO(GERTO)を行っている4)。GERTOはEOIに少量のゼラチンスポンジ細片を混入することで,EOI注入と同時に側副路の塞栓を行えるため,EOIの使用量の減量や手技時間の短縮に役立つ。また側副路のdowngradeが困難なときにも有用である(図5)。

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成績

○ 技術的成功率は95~100%で,胃静脈瘤の縮小や消失を95%以上に認める報告がほとんどである。本邦における前向き試験でも90日後のCTでの血栓化率は93%と高率で5),再発率は5%以下である。
○ 一方で食道静脈瘤は25~40%で悪化するため,胃静脈瘤根治後も定期的な内視鏡検査が必要である。
○ シャント閉塞による門脈血流の増加により,約半数で血清アルブミンなどの肝予備能の改善が認められる。
○ 肝細胞癌合併の胃静脈瘤症例の予後は合併しない場合よりも不良である。

合併症

○ 血尿は高率(50%)に認められるが,腎不全に至る例はまれである。
○ 本邦で行われた前向き試験では発熱(53%),背部痛(36%),腹痛(22%)と報告されている5)
○ 重篤な副作用として,門脈圧亢進症の増悪のための多量腹水がある。
○ 非常にまれではあるがEOによる肺水腫やショックが報告されている。
○ 門脈血栓症やカテーテル留置による深部静脈血栓症が認められる。

文献

1)    Hirota S, et Al:Retrograde transvenous obliteration of gastric varices. Radiology 211:349-356, 1999
2)    Kariya S, et al:Portopulmonary venous anastomosis in balloon-occluded retrograde transvenous obliteration for the treatment of gastric varices. J Gastroenterol Hepatol 29:1522-1527, 2014
3)    Yamamoto A, et al:Utility of Coil-Assisted Retrograde Transvenous Obliteration II(CARTO-Ⅱ)for the Treatment of Gastric Varices. Cardiovasc Intervent Radiol 43:565-571, 2020
4)    Jogo A, et al:Utility of low-dose gelatin sponge particles and 5% ethanolamine oleate iopamidol mixture in retrograde transvenous obliteration(GERTO)for gastric varices. Br J Radiol 93:20190751, 2020
5)    Kobayakawa M, et al:Short-term safety and efficacy of balloon-occluded retrograde transvenous obliteration using ethanolamine oleate:results of a prospective, multicenter, single-arm trial. J Vasc Interv Radiol 28:1108-1115. e2, 2017

 

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