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[第4回]pusher現象――治療(後編)
『高次脳機能障害を読み解く——病態と評価から考えるリハビリテーション』より
連載 深田 和浩
2026.09.25
高次脳機能障害を読み解く――病態と評価から考えるリハビリテーション
新刊『高次脳機能障害を読み解く――病態と評価から考えるリハビリテーション』は、身体機能の知識だけではひも解けない高次脳機能障害を、病態メカニズムの理解と評価の臨床応用を軸に捉える実践書です。各症候を「患者の行動や生活機能を読み解く手がかり」と位置づけ、現場で活きる評価の使い方や動作との関連、他障害との鑑別を解説するとともに、最新のエビデンスを踏まえた介入戦略も簡潔に提示します。若手・中堅療法士から学生まで、患者を新たな視点で捉え直し、臨床での推論力と展開力を高められる一冊です。
『医学界新聞プラス』では、本書の「Chapter3 高次脳機能障害の評価と治療のポイント」より、「3.pusher現象」の一部をご紹介します。
ここでは,経験的に臨床で実践可能な治療と留意点について解説する.
pusher現象例では,座位保持中に非麻痺側上肢の過剰努力が観察されることが多く,これにより麻痺側への転倒や非効率な姿勢保持につながる.また,非麻痺側への重心移動に伴って非麻痺側上腕三頭筋の活動が過剰となることが報告されている44).この対策として,非麻痺側に重心を他動的に移動させた状態で,肘関節の屈曲・伸展運動を反復することが推奨される.重要なポイントは以下の通りである.
・ 動作は患者自身が能動的に行うこと.
・ 非麻痺側前方へ体幹の前傾を同時に促すこと.
pusher現象例では,後方への転倒傾向も観察されるため,座位での非麻痺側前方の重心移動の促進が,応用動作や移乗動作の準備としても重要になる(図16).
a 非麻痺側後方へ倒れるように肘を屈曲→起き上がる際にPushing が生じやすい.
b 非麻痺側前方へ倒れるように肘を屈曲→Pushing を抑制しやすい.
pusher現象では,他動的な正中位への姿勢の修正に対する抵抗を示すことが多い.一方,患者自身が能動的にリーチ動作を行う場合には,正中位を越えて非麻痺側へ重心移動できることがある.ただし,リーチ後に姿勢が麻痺側へ崩れやすいため,開始肢位に戻る際に正中位を再確認させる工夫が必要である.セラピストは身体の“壁”となって動作範囲を制限し,正中位もしくはやや非麻痺側位へ戻ることを促す(図17).
a 非麻痺側方向へのリーチ後,開始位置に戻った際に正中位ではなく麻痺側へ傾倒してしまう.
b セラピストが壁となることで,開始位置に戻った際に正中位もしくは,やや非麻痺側位を保持し,徐々に意識的に正中位に戻れるように声掛けを行う.
a セラピストが壁となることで,開始位置に戻った際に正中位を保持する.リーチするための指標は対象者の腕の長さの120%かつ非麻痺側前方30~45°程度の位置に置く.
b 上肢のリーチと体幹の非麻痺側前方への重心移動が連動して行えているか確認しつつ,必要に応じて介助する.
横いざりは,ベッドから車椅子へ移乗する際に座位位置を調整するための基本動作である.pusher現象例ではこの動作が困難となることが多く,SCPでは非麻痺側上下肢の伸展・外転0.5点として評価対象となる.筆者らは,Tilt tableを使用して非麻痺側方向に台を傾斜させ,重心移動しやすい環境を設定することで横いざり練習を補助している(図19).具体的には以下のとおりである.
・ 非麻痺側前方へ体幹・股関節を屈曲させる.
・ セラピストが重心移動を補助する.
・ 殿部が台から離れない場合,股関節および膝関節の伸展を補助する.
こうした環境下で横いざりが可能になれば,徐々に傾斜を水平に戻しながら反復練習を行うことで,自立動作へとつなげることが可能となる.
a Tilt table などを利用してあらかじめ非麻痺側方向へ台を傾斜させ,移動しやすい環境を設定する.
b 非麻痺側前方方向へ体幹・股関節を屈曲し,セラピストは重心移動を補助する.
一方で,十分に変化が確認されないまま課題の難易度を早期に上げてしまうと,かえってpushing 反応を助長させてしまう可能性がある.そのため,介入時の反応や訴えを丁寧に評価・記録し,慎重に負荷量や難易度を調整することが求められる.
pusher現象を有する患者において,リハビリテーション時間外の過ごし方,特に座位姿勢のポジショニングが,症状の改善や悪化予防において重要である.一般的に,体幹の傾きを是正しようと,麻痺側の脇にタオルなどを挿入して強制的に正中位を保持しようすると,かえって抵抗が生じやすい.これはpusher現象に特徴的な反応であり,無理な矯正はかえって反射的な押し出し反応を助長する可能性がある.そのため,以下のような調整方法が推奨される.
・ 麻痺側殿部の下にタオルを敷くことで,左右の骨盤の高さを調節し,身体全体を正中位に近づける(図20).
・ 麻痺側股関節は外旋位になりやすいため,麻痺側大腿外側とアームレストの間に𨻶間が生じないように配置し,外旋を防止する.
・ 非麻痺側上肢でアームレストを強く押す行動が見られる場合には,オーバーテーブルなどを使用して上肢をテーブル上に置くように誘導し,押す動作を間接的に抑制する.
このように,身体への直接的な矯正ではなく,環境調整を通じて自然に正中位へと導く工夫が必要である.
a 麻痺側の脇にタオルを入れて正中位にしようとすると抵抗する場合がある.
b 殿部の下にタオルを敷くことで,骨盤の高さが水平位となる.
参考文献
44) Fujino Y, et al:Electromyography—guided electrical stimulation therapy for patients with pusher behavior:A case series. NeuroRehabilitation 2019;45:537—545
45) Fukata K, et al:Effects of diagonally aligned sitting training with a tilted surface on sitting balance for low sitting performance in the early phase after stroke:a randomised controlled trial. Disabil Rehabil 2021;43:1973—1981
46) 深田和浩,他:傾斜座面上での非麻痺側前方への座位移動課題により座位姿勢と姿勢変換時のPushingの改善を認めた左片麻痺の1例.理学療法―臨床・研究・教育2021;28:74—77
47) Fukata K, et al:Effects of performing a lateral—reaching exercise while seated on a tilted surface for severe post—stroke pusher behavior:A case series. Top Stroke Rehabil 2021;28:606—613
高次脳機能障害を読み解く
――病態と評価から考えるリハビリテーション
高次脳機能障害患者の行動を読み解き、効果的な介入につなげるための実践知
身体機能の知識だけではひも解けない高次脳機能障害を、病態メカニズムの理解と評価の臨床応用を軸に捉える実践書。各症候を「患者の行動や生活機能を読み解く手がかり」と位置づけ、現場で活きる評価の使い方や動作との関連、他障害との鑑別を解説するとともに、最新のエビデンスを踏まえた介入戦略も簡潔に提示する。若手・中堅療法士から学生まで、患者を新たな視点で捉え直し、臨床での推論力と展開力を高められる一冊。
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