- リハ
後輩療法士の臨床推論力を育てる指導
寄稿 丸山祥
2026.09.08 医学界新聞:第3589号より
「後輩指導」という言葉を聞くと,どのようなイメージを持つでしょうか。「とても大変そう」「私にはそんな責任は負えない」「私だってまだまだ教えてほしいのに」と感じる方もいるのではないでしょうか。後輩指導には,業務の進め方や報告の仕方を教えることから,技術や知識の支援まで,さまざまな側面があります。本稿では,リハビリテーション専門職としての専門性に深くかかわる「臨床推論」に焦点を当てて効果的な指導法をひもといていきます。
臨床推論は卒前・卒後教育を貫く重要テーマ
私たちは日々の生活の中で,「雲が厚いから傘を持って外出しよう」「この電車に乗ればサッカーの試合に間に合うだろう」など,何らかの判断を繰り返しています。このように,前提(すでにわかっている情報)から,判断や結論を導くその道筋を「推論(reasoning)」といいます1)。リハビリテーションにおいては,「なぜこの治療手段を選択するのか」「何を成果指標にするのか」「いつ終了と判断するのか」「対象者の意見は反映できているか」など,実践の中でさまざまな推論を行っています。特に「臨床推論(clinical reasoning)」は,臨床実践の中核をなすものです。これによってリハビリテーション専門職は,十分な情報に基づいた責任ある臨床的な判断を下し,対象者が直面する問題に対処することが可能になります2)。しかし,若手の療法士が就職してから実践的な判断の難しさに戸惑いを感じたり,指導する側も思考の過程を言語化して教えるのに苦労したりすることが少なくありません。そのため,専門職としての実践を導く臨床推論は,療法士の養成課程教育だけではなく,資格取得後の職場教育や生涯教育の重要なテーマです。
段階に合わせた指導が大切
臨床推論の指導方法には,指導者からの解説(背景知識,推論の例)やフィードバック,具体的なケースをもとにしたディスカッションやリフレクション(振り返り)が挙げられます。後輩指導にあたっては,個々人の臨床推論の習得段階に合わせた方法を選択することが重要です(図1)。つまり,臨床推論が脆弱な状態から自律へ成長する段階,あるいは教科書の知識のように言葉で説明しやすい「形式知」から,経験によって培われる「暗黙知」へと,より深い知へ移行する段階に応じて指導方法を選択すると効果的です。よく遭遇するケースを例に,指導法を考えてみましょう。
後輩療法士の臨床推論の習得段階が脆弱から自律に成長するにしたがって,指導方法を背景知識の解説(解説1),推論の例を解説する(解説2),具体的なケースを通したフィードバックやディスカッション,そしてリフレクションへと変化させる。また,扱う知識は教科書の知識のように言葉にしやすい形式知から経験によって培われる暗黙知へと,より深い知へと移行する。
◆リスク管理が不足している!?
後輩のリスク管理が不足しており,実施しているリハビリテーションに危険が潜んでいることに気がついていない場合,どのように指導するとよいでしょうか。このケースでは,はじめに後輩のリスク管理に関する知識の理解度を把握することから始めましょう。例えば,リスク管理に関する教科書的な知識が備わっているかを確認し,理解不足があれば背景知識の解説をします(図1,解説1)。このように背景知識が不十分なケースでは,いくら議論や振り返りを促しても,指導が空回りしてしまいがちです。まずは後輩の理解度を丁寧に把握し,推論のための土台(知識)をつくることが大切です。
◆自主トレ内容が不足している!?
後輩に指示通りの自主トレのプログラムを作成してもらおうとしますが,そのトレーニング内容の重要性が後輩には十分に伝わっていないケースは少なくありません。この場合,どのように指導するとよいでしょうか。臨床推論の指導としては,「AのためにはBやCが必要だと思うよ」というように,先輩自身の推論について目的と方法をセットで解説することで,思考プロセスの理解を促します(図1,解説2)。これによって,後輩は対象者が抱える問題を解決する選択肢を理解,次第に自分でこの思考プロセスを言語化し,他の患者にも応用することにつながるでしょう。
よき相談役として共に育つ
後輩に接するときの基本姿勢として,いくつか大切にしたいポイントがあります。その中でも臨床推論の指導では,後輩が感じている疑問や困りごとを言語化して,その背景にあるつまずきの要因を多面的に理解するといった「後輩のよき相談役になること」が重要です。また,臨床推論は多くの後輩が習得に困難を感じやすく,さらに,先輩としても言語化して教えることが難しいテーマです。そのため,チームで学び合うことや,自分も教えることを通して学ぼうという「共育(=共に育む/育つ教育)」の文化が重要だと言えます(図2)3)。
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本稿では,「臨床推論」の後輩指導について,基本的な考え方を紹介しました。しかし,実際の現場では後輩のつまずき方も,それに対する支援の仕方もさまざまであり,どう教えればよいのか迷うことは少なくありません。だからこそ,後輩指導を個人の経験だけに委ねるのではなく,考え方や実践の工夫を共有し,学び合える「共育」の文化をつくることが重要です。その一つの試みとして,私たちは後輩指導をテーマにした書籍『PT・OT・STのための後輩ができたら読む本』(医学書院)をまとめました。後輩指導の基礎的な視点から,現場でよくあるケースへの具体的な向き合い方までを扱っています。本稿と併せて,日々の後輩指導と「共育」文化をつくるための参考にしていただければ幸いです。
参考文献
1)子安増生,他(監).有斐閣 現代心理学辞典.有斐閣;2021.
2)Higgs J, et al. Clinical reasoning in the health professions. 5th ed. Elsevier;2024.
3)丸山祥,廣瀬卓哉.PT・OT・STのための後輩ができたら読む本.医学書院;2026.

丸山 祥(まるやま・しょう)氏 湘南慶育病院リハビリテーション部 部長
2007年に茅ヶ崎リハビリテーション専門学校を卒業。臨床現場で経験を重ねつつ,12年に神奈川県立保健福祉大大学院に進学し,臨床推論をテーマに研究活動を開始する。24年より現職。認定作業療法士。博士(作業療法学)。現在は東京都立大健康福祉学部非常勤講師・大学院人間健康科学研究科客員研究員,北里大医療衛生学部一般研究員,慶大看護医療学部非常勤講師・訪問研究員を兼任する。日本作業療法教育学会理事。著書に『PT・OT・STのための後輩ができたら読む本』(医学書院),『作業療法のクリカルリーズニング』(協同医書出版社)。
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