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[第24回]医療機器の使いやすさ,アプリの画面デザインは,著作権で守れますか?
研究者・医療者としてのマナーを身につけよう 知的財産Q&A
連載 小林只
2026.09.25
Q.医療機器の使いやすさ,アプリの画面デザインは,著作権で守れますか?
A.実は守れません。実用的な工業製品や操作画面には,原則として著作権が認められないため,意匠権による登録が必要です。意匠権は単なる装飾美を守るためではなく,医療事故を防ぐ形状や使いやすいUI/UX(機能美)を守るための強力な盾です。
今回からは産業財産権の第2弾として,製品の外見やデザインを守る意匠権について解説します。
目に見える外見の工夫を守る意匠権
意匠権とは,製品のデザイン(外観の形状・模様・色彩など)を独占的に保護する知的財産権のことです。特許権が目に見えない技術や仕組み(機能)を守るのに対し,意匠権は目に見える外見の工夫を守る(図)1)という違いがあります。
意匠権で保護された物品のデザインを日本意匠分類ごとに表示したグラフ。グラフの比率は2021年における意匠登録出願件数から算出したもの。
意匠(デザイン)と聞くと,「医療や研究開発にデザインなんて関係あるの?」「見た目の美しさは二の次では?」と思われる方もいるでしょう。しかし医療現場における意匠とは,単に装飾美を指すわけではありません。近年,組織論やリーガルデザインの領域で注目される書籍『ルールのデザイン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン社)2) では,人の行動を促すルールには,マニュアルや言葉によるルールのほかに,「物理的な構造や仕組みによって自然と正しい行動を取らせるアーキテクチャ」が存在するとされています。
医療現場こそ,まさにこのアーキテクチャによる安全設計が威力を発揮します。「注意して扱え」とマニュアルで縛るよりも,物理的な形状によって誤認・誤接続が起こり得ない構造にするほうが,はるかに確実にヒューマンエラーを防げます。
例えば,経腸栄養ラインと静脈点滴ラインの誤接続防止コネクタ(国際規格ISO 80369)3)や,医療用ガス配管・酸素ボンベのピンインデックス安全システム(PISS/JIS T 7101)4)です。ガスの種類やラインの用途ごとに接続部のピン配置や口径を物理的に変えることで,酸素配管に笑気ガスをつないだり,静脈ラインに経腸栄養剤を注入したりする致命的事故を構造的に防いでいます。もう一つの身近な例がインスリン自己注射器(ペン型注入器)です。高齢の患者などが扱うことを考慮し,視覚に頼らずともダイヤルを回すクリック感(触覚と音)で用量を把握でき,かつ製剤ごとにボタンの凹凸形状を変えることで触覚だけで識別できる設計が施されています。
ここで重要なのが,知財は自分たちだけで独占する(クローズ)ためだけのものではないという点です。ISO 80369のような国際規格は,患者安全という公益のために接続部の基本寸法を業界標準として広く開放(オープン)する標準化戦略(オープンイノベーション)をとっています。一方のメーカー各社は,基本規格をオープンにして普及させつつ,医療従事者が握りやすいグリップの形状や,インスリン注入器のダイヤル外観などを意匠権として多数登録し,自社の競争優位性を確保(クローズ)しています。「基本は標準化して市場を広げ,現場の使いやすさは意匠権でしっかり守る」。このオープン&クローズ戦略は,今後の連載でも極めて重要になる知財活用の王道です。
似て非なる4つの権利――特許・意匠・商標・著作権の比較
新しい医療機器を開発した際,知財の境界線をどう整理すればよいでしょうか。日用品や医療機器のような実用的な工業製品(応用美術)には,イスにまつわる有名判例(トリップ・トラップ事件,註1)5)が示す通り,原則として著作権が認められません。そのため,「機構は特許で,形状は意匠で,ロゴは商標で,表現は著作権で守る」という明確な切り分けが不可欠になります(表)。
具体的なイメージができるよう,「誤針を防ぐセーフティシリンジ」を開発したと仮定し,4つの権利がどのように関連するかを確認してみましょう。
特許権(中身・機能) 誤操作を防ぐ内部機構を守る
対象:針を自動収納するスプリングやロックピンなどの内部メカニズム(技術的思想)そのもの。
意匠権(外見・形状) 誤操作を防ぐ外観の形状・配置を守る
対象:術者が直感的に指をかけやすいフランジ(指掛け)のカーブや,視覚・触覚で識別しやすい外観の形状そのもの。
商標権(目印・信用) 製品のブランドロゴを守る
対象:シリンジ本体や包装に刻印されたメーカー名や製品名のロゴ。
著作権(表現) 製品の説明書やプログラムを守る
対象:取扱説明書のイラスト・解説文や,組み込みソフトウェアの...
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小林 只(こばやし・ただし)氏 株式会社アカデミア研究開発支援 代表取締役社長/医師・一級知的財産管理技能士
2008年島根大医学部卒。臨床医として研鑽に励み14年より弘前大総合診療部。16年博士(医学)。23年大学認定ベンチャー・株式会社アカデミア研究開発支援を創業。24年より弘前大総合地域医療推進学講座・講師,島根大オープンイノベーション推進本部・准教授を兼任。綜合者・総合医として研究開発×知財法務×安全保障×事業で,多分野の横断支援を担う。資格:1級知的財産管理技能士(特許・コンテンツ),AIPE認定知的財産アナリスト(特許・コンテンツ),Security Trade control Advanced(CISTEC)ほか。2024年度 知的財産アナリスト 奨励賞,2025年度 知的財産管理技能士会表彰 奨励賞 受賞。
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