医学界新聞

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内科と皮膚科で語り合う診療アプローチ

対談・座談会 野口善令,松田光弘

2026.09.08 医学界新聞:第3589号より

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 多くの非皮膚科医にとって,多種多彩な現れ方をする皮疹の診断は苦手意識を抱きやすい領域である。従来の絵合わせ的なパターン認識や暗記に頼る学習では,経験の少ない医師がバリエーションが多様な皮疹に対して直感的に的確な診断を下すことは難しい。皮膚科診療において暗黙知となりがちな思考プロセスの言語化・体系化を試みた書籍『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(医学書院)は多くの医師に好評を博した。本対談では同書の筆者である松田光弘氏と,その原点である診断推論の重要性を長年提唱してきた野口善令氏が登壇。内科と皮膚科,それぞれの領域から日常診療における診断推論の視点について深掘りし,診断力を高めるためのヒントをひもといた。

野口 私が医師になってから,早いもので40年以上になります。若手の頃から「診断とは一体何なのか」という根源的なテーマに強い興味を抱き,長年その研究を続けてきました。同志である福原俊一先生(京都大学)と議論を重ね,その集大成として『誰も教えてくれなかった診断学』(医学書院)を上梓したのが2008年のことです。この本の出版によって,診断とは何かと自分の中でモヤモヤしていたものが,ある程度まとまった形で言葉にでき,一つの大きな区切りになったと感じています。松田先生は,拙著を読んでくださったそうですね。

松田 はい。私が野口先生の書籍に出合ったのは,皮膚科に入局した卒後3年目頃です。学生時代の診断学といえば,症候ごとに鑑別診断が羅列してある分厚い教科書を読み,ひたすら暗記することでした。しかし,先生の書籍から診断推論という概念を学んで,今までの自分が知っていた診断学と全く違うアプローチに雷に打たれたような衝撃を受けたのです。鑑別診断の単なる羅列ではなく,「どのように思考し,診断を進めていけばいいのか」というプロセスが明確に記載されており,このプロセスを踏めば誰でも論理的に診断できるようになりそうだと勇気づけられましたし,深く勉強になりました。この書籍は私の医師としてのベースとなっている教科書なので,本日このような対談の機会をいただけて大変光栄です。

野口 そう言っていただけるとうれしいですね。私が研修医だった頃は,職人技的な指導が当たり前の時代でした。ベテランの先生方が患者さんを診て「この病気だ」と一発診断するのを横で見ながら,「俺の背中を見て育て」と言わんばかりの,その技を見よう見まねで身につけていったものです。そうした直感的なアプローチがうまくいかない時や,全く見当がつかず診断に迷った時にどう思考を進めればよいのかについては,具体的な方法論を誰も教えてくれず,現場で途方に暮れることが多々ありました。それが診断の思考プロセスをなんとか言語化しようと試みたきっかけです。

松田 内科領域では診断推論が浸透している一方で,私が専門とする皮膚科領域ではそうとは言い切れない状況です。皮膚科診療でも思考プロセスを言語化した書籍がないか探していたのですが,なかなか見当たりませんでした。

野口 それは私も非皮膚科医の立場から感じていました。学生時代の経験を振り返ると,皮膚科の実習では「教科書の写真を見て,実際の患者さんの皮疹を区別できるようになりなさい」という,いわゆる絵合わせ的な指導が主流でした。経験が圧倒的に足りないこともあり,実物の立体的な皮疹と平面の写真を見比べて診断しようとしても,果たしてこのやり方で本当に診断できるようになるのだろうか,自分にはできないのではないかという強い疑問と苦手意識が残りました。現在でも,研修医や専攻医が患者さんの皮疹の写真を撮って相談に来ることが頻繁にあるのですが,やはり写真1枚だけを頼りに診断するのには限界があると感じています。

松田 皮膚科の診断名の数は膨大であり,2000~3000種類あると言われています。しかも,部位や病理組織,見た目の形状,原因など病名付けの軸が多様に存在し錯綜しています。さらに,同じ病名でも患者さんによって皮疹のバリエーションがあるのが,絵合わせ的に見た目で判断しようとする初学者がつまずく大きな要因だと考えています。

野口 まさにそこがネックですね。だからこそ漠然と全体を診るのではなく,特定の部位や特徴に注目して初めて判断できるということですよね。

松田 その通りです。皮膚科診療においても,論理的な診断へのアプローチを広めるために,野口先生の書籍から学んだ診断推論の概念を応用し,2022年に拙著『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(医学書院)を出版しました。

野口 20年近く前に書いた本が,内科領域を超えて松田先生のような若い世代の先生に影響を与え,皮膚科の診断推論という形に結実するとは,感慨深い気持ちでいっぱいです。松田先生の書籍を拝読し,内容に感銘を受けました。というのも,皮疹の診るべきポイントが明確に言語化されており,かつ診断に向かう思考プロセスがフローチャートを用いてわかりやすく表現されている,今までにない書籍だったからです。むしろ非皮膚科医こそ読むべき本だと確信し,当院の研修医や専攻医にも薦めています。

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松田 思考プロセスを言語化する重要性について,野口先生は長年のご経験からどのように感じてこられましたか。

野口 若手が効率よく学ぶために必要不可欠なものだと考えています。もちろん,現場で症例を数多く経験することで,自然と直感的な診断が身についていくことは確かにありますが,複雑な現象を正確に分類し診断していくには,どうしても判断軸を言語化して論理的に考えていく必要があります。症例を漫然と経験するだけでは,診断ができるようになるまでに非常に時間がかかり,効率が悪いと考えています。

松田 まさにそうです。見た目で判断するケースが多い皮膚科診療では直感的な判断に重きが置かれがちですが,実は思考プロセスの言語化も重要視されています。例えば,原発疹か続発疹か,また丘疹なのか紅斑なのかを詳しく記載していく「記載皮膚科学」は古くから確立しており,若手の頃は正確に皮疹を表現できるようになりなさいと指導されました。

野口 思考を言語化し根拠を持って確定診断をつける。その経験を意図的に積むことで,自分の中に診断の型として蓄積されていきます。「この特徴と区別点があるから,診断はこれだ」と脳内で明確に認識できるようになるのです。こうした論理的な分析思考プロセスを繰り返すうちに,次第に直感的な診断ができるようになり,見ただけで瞬時にわかるようになっていきます。そして,直感的にある程度診断できるようになると診療効率が上がり,余裕が生まれて今まで見えていなかった新たな区別点に気づくきっかけになります。つまり,分析的なプロセスと直感が相互に作用しながら,ぐるぐると螺旋を描くように診断力が向上していくイメージです。

松田 その分析的なプロセスに関して,内科の診断推論だと患者さんの言葉を医学用語で表現し,鑑別診断をリストアップして確率的に診断するという明確なプロセスがあります。皮膚科においては,皮疹の見た目を医学用語で表現する記載皮膚科学の先のプロセスがあまり言語化されておらず,そこを明確にすることが皮膚科診断を勉強する上で極めて大事だと思います。そのためにはまず,皮疹の現れ方の裏にある病理組織学の知識が必要不可欠ですが,そこがあまりクローズアップされていないことが,皮膚科診断がとっつきにくい最大の理由になっているのではないかと思っています。

野口 皮膚の組織の中にどのような病変があり,だから肉眼ではこのように見えるのだとつなげて考えることが,皮疹を理解する上で大切なのだと松田先生の書籍から学びました。総合診療医は幅広い疾患を診る一方で,同じ疾患を数多く経験する機会は限られます。そのため,経験の積み重ねだけで直感的な診断力を身につけるには,どうしても時間がかかります。だからこそ,病理も把握した上での言語化された論理的アプローチが不可欠だと思います。

野口 他領域における診断推論は,内科とは異なる独自の「判断の区別点」や「次の一手のルール」が明確になって初めて,論理的な推論として機能するのだと松田先生の書籍を読んで気づかされました。皮膚科独自の判断ポイントやルールの例として,紅斑は皮膚表面がザラザラかツルツルかに着目することや,真菌症の鑑別でKOH検査が陰性だった場合の次の一手の考え方が挙げられていました。われわれ内科医は念のためとつい抗真菌薬を使いがちなのですが,「ステロイドから使うべし」と書籍に記載があり大変勉強になります。診断推論はもともと内科を想定した考え方です。異なる領域に応用する際には,その領域の個別性を反映して思考の流れを再構築する必要があるととらえています。

 先ほどもおっしゃっていましたが,病名の数が多いのも皮膚科診療の特徴ですよね。

松田 そうです。ただ,表皮に炎症が起こっているという病態が理解できれば,その後のマネジメントの流れは同じなので,そこまで細かな病名に固執する必要はないと考えています。外来患者さんの80~90%は上位20疾患程度で占められており,頻度の低い疾患を最初から考える必要はありません。何か違うなと思った時に皮膚生検を行い,成書をひもときながら診断をつけるのも皮膚科の面白さです。

野口 なるほど。頻度を軸に考えているのですね。

松田 頻度と重大性の2軸で思考を進めていく手法は内科の診断推論の考えを踏襲しています。湿疹のような見た目の悪性腫瘍も存在するので判断に迷うこともありますが,まずは頻度の高い湿疹を疑いながらも,重大性の高い悪性腫瘍を常に頭の片隅に置いておく思考過程です。皮膚科診療は見た目が全てかのように教科書には書かれていますが,実際には見た目だけでは絶対に判断できない疾患もあります。そのため頻度と重大性から鑑別を絞っていくプロセスが必要です。

松田 野口先生が診断推論の考え方を提唱され始めてから約20年が経過し,現在は広く浸透しています。当初の反響はいかがでしたか。

野口 「そうそう,そんな感じで診断しているよ」と共感してくださる方も多く,比較的すんなり受け入れていただいた印象があります。その反面,講演では「ベテランが無意識に実践している当たり前の思考プロセスではないか」「そんなことより直感的に診たほうが圧倒的に早い」といった意見もいただき,かなり強い風当たりを感じることもありました。けれども,経験が少なく直感的な判断がまだまだ難しい若手医師には大変好評だったようで徐々に広まっていき,最近は若手の間でも診断推論の概念がもはや当たり前になってきています。診断推論が医療界全体に広く浸透し,役に立っているのだとうれしく思っています。

松田 診断推論という言葉自体は皮膚科ではあまり定着していませんが,ベテラン医師の思考のベースには存在しているはずです。なので,経験を積んだ皮膚科医が私の書籍を読むと,同様に当たり前のことが書いてあるとの印象を受ける方も多いと思います。

野口 皮膚科領域でも同じなのですね。内科でこの考え方が浸透する追い風になったのが,2004年の医師臨床研修制度の開始です。教育のためには指導医が実践している思考法や手技を言語化して伝えることが必要で,「うまく説明できないけど私の経験上,診断はこれだ」という指導では思考のプロセスは伝わりません。思考の流れを論理的な言葉で説明することが求められる時代になったのが大きかったですね。

松田 教育には言語化が必要というのはとても共感します。私も若手を指導する際には,思考プロセスを言葉にすることを大切にしています。難しい皮膚科用語を暗記させられて苦手意識を持つ研修医が多いので,用語の暗記よりも「こうした病態生理があるから,この症状が表面に現れている」という原理を言語化して教えるよう意識しています。原理を教えると興味・関心を持って診てくれるようになります。

野口 単なる丸暗記ではないので,応用が利くようにもなるのだと思います。

松田 また,研修医が皮膚科にローテーションで学びに来る際は,皮膚科診断の達人になりたいというよりも,「非皮膚科医として注意すべきレッドフラッグ」「やってはいけない禁忌事項」を知りたいというニーズが圧倒的に高いです。治らない皮疹は悪性腫瘍を考えることや,真菌検査をせずに漫然と抗真菌薬を塗らないことなどを重点的に説明しています。

野口 それは非皮膚科医にとって実践的でためになる指導ですね。私も状況や相手のレベルによって教え方を変えています。例えば少し経験を積んだ専攻医には,見逃してはいけない重大な疾患を意識しつつ,鑑別診断を網羅的に挙げるよりも,まず頻度の高い疾患の典型像をしっかり身につけ,どこに注目すれば似た疾患と区別できるのかを考えるように指導しています。松田先生がレッドフラッグや禁忌を明確に言語化して伝えているのは,まさに現場が一番求めていることだと思います。

松田 このたび『誰も教えてくれなかった皮膚科治療薬の選びかた・使いかた』(医学書院)を出版させていただきました。前作は診断プロセスに特化していましたが,今作は治療法にフォーカスした内容です。2冊揃って日々の診療をフォローアップする構成になっています。前作を読んでいただいた方にも,治療について実践的に知りたい方にもぜひ読んでいただきたいです。

野口 離島や精神科の単科病院,在宅医療など,皮膚科専門医にすぐアクセスできず自分たちでマネジメントしなければならない非皮膚科医の先生方にとって,松田先生の著書はまさにバイブルで日々の診療に大変役立っています。写真一枚で診断しようとする若手医師には,前作を読んで診断の流れをマスターしなさいと指導しています。今作も併せて,さらに多くの医師に読まれ,領域を超えた診断推論の型が広がっていくことを期待しています。本日はありがとうございました。

(了)


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豊田地域医療センター総合診療科 学術・教育顧問

1982年名市大卒。同大第三内科での研修,市中病院勤務を経て,93年に渡米する。米Beth Israel Medical Centerでの内科研修,Harvard School of Public Healthでの学修などを経て帰国。その後,京大総合診療部,藤田保衛大(当時)一般内科,名古屋第二赤十字病院(当時)副院長兼総合内科部長を経て,2022年より現職。現在は研修医や総合診療プログラムの専攻医への教育に尽力する。著書に『誰も教えてくれなかった診断学』(医学書院),他。

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あさひ皮膚科クリニック 院長

2007年久留米大卒。同大病院にて初期研修後,同大医学部皮膚科学教室に入局。15年同大大学院医学系研究科博士課程修了。公立八女総合病院や大牟田市立病院などで医長を務め,地域医療や後進育成に従事する。『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』や『誰も教えてくれなかった皮膚科治療薬の選びかた・使いかた』(いずれも医学書院)など著書多数。

X:@alex_hifuka