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『高次脳機能障害を読み解く——病態と評価から考えるリハビリテーション』より

連載 深田 和浩

2026.09.18

新刊『高次脳機能障害を読み解く――病態と評価から考えるリハビリテーション』は、身体機能の知識だけではひも解けない高次脳機能障害を、病態メカニズムの理解と評価の臨床応用を軸に捉える実践書です。各症候を「患者の行動や生活機能を読み解く手がかり」と位置づけ、現場で活きる評価の使い方や動作との関連、他障害との鑑別を解説するとともに、最新のエビデンスを踏まえた介入戦略も簡潔に提示します。若手・中堅療法士から学生まで、患者を新たな視点で捉え直し、臨床での推論力と展開力を高められる一冊です。

『医学界新聞プラス』では、本書の「Chapter3 高次脳機能障害の評価と治療のポイント」より、「3.pusher現象」の一部をご紹介します。

 

治療

pusher現象を改善させるための確立した治療法や公式なガイドラインは現在のところ存在しないが,無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)や症例報告は蓄積されつつある.また垂直軸の修正を目的とした治療概念や臨床実践の推奨事項も提案されている.以下に,これらの治療的アプローチの概要と臨床実践における留意点を解説する.

 1. 垂直軸の修正を目的とした治療概念40,41)


この治療概念は,pusher現象に対する標準的な介入として位置づけられており,RCTなどの対照課題として用いられていることが多い.

①自己の身体の傾きを自覚させる:pusher現象を有する患者は,傾いた状態を「直立」と誤認していることが多い.そのため,まずはその認知の歪みに気づかせる必要がある.方法としては,鏡を用いて自己の姿勢を視覚的にフィードバックさせるなどの手法が用いられる(図15)42).

3_図15.png
図15 │前方に鏡を置いたpusher 現象のアプローチ
鏡を見ることで,自身の身体の傾きを自覚 させる.
(Pérennou D, et al:Measuring verticality perception after stroke:Why and how?. Neurophysiol Clin 2014;44:25—32 より)

②周囲の垂直構造物を利用し,身体を合わせる:pusher現象例では,視覚的垂直判断能力は比較的保持されている場合が多い.そのため,柱,窓枠,器具などの垂直構造物を基準として,自身の姿勢をそれらに合わせるよう促すことで,垂直認知を補助することができる.

③正しい位置に達しても転倒しないことを経験させる:多くの患者は正中位に誘導されることに強い抵抗や恐怖感を示す.このような場合,台や壁などに寄りかかることで,非麻痺側の体性感覚入力を活用し,安全に正中位を保持できる体験を提供する.介入時には,矢状面および前額面のアライメントにも配慮し,必要に応じて環境調整を行い,恐怖感を軽減する.

④非麻痺側上肢を用いて提示された目標物を把持する動作を利用する:非麻痺側に提示された目標物へリーチするために能動的な重心移動を促すことができる,このとき,非麻痺側上肢の“押す”反応が一時的に軽減される場合がある.これは静的課題から動的課題へ移行する際の重心移動の促進に有効であり,例として,非麻痺側にある目標物を触れさせることで自然な側方重心移動を引き出す.

⑤動作中も正中位保持を意識させる:能動的な動作中(例:上肢の挙上,リーチ動作など)に姿勢が崩れやすい.特に非麻痺側方向へのリーチ後に,麻痺側方向へ戻ると姿勢が崩れやすいため,開始位置に戻るたびに正中位を再確認し,セラピストが姿勢を観察・修正することが求められる.必要に応じて前方に鏡を設置することで,患者およびセラピストの双方が垂直位を視覚的に確認しやすくなる.

 

✓ 治療アプローチのポイント pusher現象の治療では,併存する症状に十分配慮する必要がある.特に高次脳機能障害の存在は,身体の傾きや練習課題の理解においてリハビリテーションの弊害となるため,事前に確認しておく.
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 2. 臨床実践の推奨事項に関する報告


Nolanら43)は,pusher現象に対する臨床的介入の方針を明確化するために,デルファイ法を用いた研究を実施した.この研究には,pusher現象に関する臨床的および科学的背景をもつ20名の専門家が参加し,119項目の推奨事項に対する意見集約が行われた.その結果,75%以上の合意が得られた臨床的推奨事項として,具体的な治療戦略が示された(表4).以下にその一部を説明する.

①課題特異的トレーニングの重視:pusher現象の改善には,実際の機能課題に即した練習(例:移乗,起立,歩行)を中心とした介入が推奨された.

②早期に垂直姿勢を獲得することの重要性:発症初期からできる限り早い段階で,正中位(垂直軸)の獲得を目指すことが症状の軽減に寄与する.

③体性感覚情報の活用:非麻痺側の体性感覚入力を活用し,その側での重心移動の獲得を優先的に行うことが勧められる.

④麻痺側への重心移動の実施タイミング:麻痺側への荷重は,まず非麻痺側への安定した体重移動が可能になった後に実施することが望ましい.

⑤能動的な運動誘導の推奨:患者自身の能動的な参加を促すことで,pusher現象の改善をより効果的に進めることができる.

3_表4.png
表4 pusher 現象に対する具体的な治療戦略の推奨事項の一部

(Nolan J, et al:Clinical practice recommendations for management of lateropulsion after stroke determined by a Delphi expert panel. Clin Rehabil 2023;37:1559—1574 を参考に一部抜粋し,筆者ら翻訳・作成)

 

参考文献

40) Karnath HO, et al:Understanding and Treating“Pusher Syndrome”. Phys Ther 2003;83:1119—1125

41) Broetz D, et al:Time course of‘pusher syndrome’under visual feedback treatment. Physiother Res Int 2004;9:138—143

42) Pérennou D, et al:Measuring verticality perception after stroke:Why and how?. Neurophysiol Clin 2014;44:25—32

43) Nolan J, et al:Clinical practice recommendations for management of lateropulsion after stroke determined by a Delphi expert panel. Clin Rehabil 2023;37:1559—1574

 

 

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