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[第2回]pusher現象――評価
『高次脳機能障害を読み解く——病態と評価から考えるリハビリテーション』より
連載 深田 和浩
2026.09.11
高次脳機能障害を読み解く――病態と評価から考えるリハビリテーション
新刊『高次脳機能障害を読み解く――病態と評価から考えるリハビリテーション』は、身体機能の知識だけではひも解けない高次脳機能障害を、病態メカニズムの理解と評価の臨床応用を軸に捉える実践書です。各症候を「患者の行動や生活機能を読み解く手がかり」と位置づけ、現場で活きる評価の使い方や動作との関連、他障害との鑑別を解説するとともに、最新のエビデンスを踏まえた介入戦略も簡潔に提示します。若手・中堅療法士から学生まで、患者を新たな視点で捉え直し、臨床での推論力と展開力を高められる一冊です。
『医学界新聞プラス』では、本書の「Chapter3 高次脳機能障害の評価と治療のポイント」より、「3.pusher現象」の一部をご紹介します。
以下で紹介するベッドサイド評価は,特別な道具を必要とせず,通常の臨床場面で簡 便に実施できる.これらの観察においてpusher 現象の徴候が認められた場合は,その 存在を疑う必要がある.また,縦断的に反応の変化を追うことで,pusher 現象の回復 状況を簡易に評価することもできる.
Leg orientation とは,座位姿勢において観察される非麻痺側下肢の外旋反応を指す(図10)32).評価は足底非接地の座位姿勢で実施する.セラピストは対象者の麻痺側に位置し,対象者の肩と背部を支えるようにして姿勢を安定させたうえで,体幹をゆっくりと非麻痺側方向へ移動させる.pusher 現象を有さない場合は,体幹が正中位に戻った際に非麻痺側下肢は内外旋の中間位を示す.一方,pusher 現象を有する場合には,正中位に戻ったときに非麻痺側股関節の外旋角度が増加する反応が観察される.この外旋反応は,pusher 現象を示唆する重要な所見である.
pusher 現象を有する患者では,座位や立位において非麻痺側方向への姿勢修正に対して強い抵抗を示すとともに,非麻痺側への転倒恐怖感を訴えることが多い33).たとえば,座位でpusher 現象を認める左片麻痺患者において,体幹を非麻痺側(右側)方向へ移動させた際に抵抗が観察された場合,「どの方向に倒れるような感覚がありますか?」と尋ねると,「右側(非麻痺側)」と訴えることがしばしばある. 一方で,麻痺側方向へ他動的に傾斜させた場合には,転倒恐怖感の訴えは少なく,むしろ「怖くない」,「まっすぐである」,「傾いていない」などと自己の姿勢認知にずれがあることを示す発言がみられることが多い.これらの訴えも,pusher 現象に特徴的な臨床所見の一つである.
a 非麻痺側への体幹傾斜(Ipsiversive trunk tilt)
b 体幹傾斜なし(No trunk tilt)
c 麻痺側への体幹傾斜(Contraversive trunk tilt)
(Johannsen L, et al:Leg orientation as a clinical sign for pusher syndrome. BMC Neurology 2006;6:30 より改変)
pusher現象の判定には,SCPが最も広く用いられている.SCPは,Daviesら1)の観察に基づき,2000年にKarnathら14)によってpusher現象を定量化する目的で開発された評価スケールである.このスケールは,以下の3つの項目について座位および立位で評価を行う.
A :自然な姿勢の対称性
B :非麻痺側上下肢の伸展・外転
C :他動的な姿勢の矯正に対する抵抗
A~Cの各下位項目は0~2点でスコア化され,合計スコアは最大6点となる(表1).
Bacciniら34)は,過去の研究で用いられてきた3つの判定基準(SCP合計>0,SCP≧1,SCP 下位項目>0)を用いて,臨床家によるpusher現象の判断との一致度を調査した.その結果,SCP下位項目>0 の基準が最も一致率が高く,臨床的判断との整合性に優れていることが明らかとなった.一方で,この基準を用いても一部の患者では臨床判断とスケールの判定が完全に一致しないことにも注意が必要である.また,SCP下位項目≧1を基準とした場合,臨床家がpusher現象ありと判断していても,スケール上では「pusher現象なし」と判定される患者が存在することが指摘されている.しかしながら,この基準は判定の頑健性が高いことから,pusher現象の病態メカニズム解明や画像解析を目的とした研究的基準としては適していると論じられている.
このように,pusher現象の判定には,SCP下位項目>0(すなわち,SCP合計スコアが1.75点以上)が臨床的判定と最も整合性の高い基準とされている.しかし,このカットオフ値を下回る場合でもpushingの症状が残存している可能性がある.そのため,評価においては合計スコアが0点となるまで継続して観察することが重要である.
*1:座位では,以下の状況で非麻痺側上下肢の伸展・外転を観察する.
①「非麻痺側方向へいざりをしてください」と指示する.
②「ベッドから非麻痺側に設置した車椅子へ移ってください」と指示する.
この際に反応があれば0.5点とする.
立位では,「歩いてください」と指示し,歩行中に非麻痺側下肢の伸展・外転がみられた場合に0.5点とする.
*2:座位または立位で対象者の脊柱と胸骨を挟むように把持し,「これから身体を横に動かしますので,それを許容してください」と説明したうえで,非麻痺側方向に体幹を移動させ,抵抗の有無を評価する.
(Karnath HO:Pusher syndrome——a frequent but little—known disturbance of body orientation perception. J Neurol 2007;254:415—424/Karnath HO, et al:Prognosis of contraversive pushing. J Neurol 2002;249:1250—1253/Karnath HO, et al:The origin of contraversive pushing:evidence for a second graviceptive system in humans. Neurology 2000;55:1298—1304 を参考に筆者作成)
▼座位
①姿勢の対称性
評価は以下の4 段階で行う.
・ 0 点:傾斜なし(正中位)
・ 0.25 点:軽度の麻痺側傾斜
・ 0.75 点:重度の麻痺側傾斜(転倒は伴わない)
・ 1 点:重度の麻痺側傾斜に転倒を伴う
傾斜程度については,垂直位からの具体的な角度基準は設けられておらず,評価は検査者の主観的判断に基づく.評価時は,対象者に自然な座位姿勢を取ってもらい,その姿勢を観察する.セラピストがあらかじめ非麻痺側へ重心を移動させたり,上肢支持を促したりすると座位保持が可能となる場合があるため,意図的な操作は避ける.介助は,転倒予防のための最小限にとどめる(図11).
②非麻痺側上下肢の伸展・外転
評価は以下の3段階で行う.
・ 0点:伸展・外転なし
・ 0.5点:姿勢変化に伴って出現
・ 1点:安静時から常に出現
座位保持中に非麻痺側上肢の押す動作が常に観察される場合は1点とする.座位で は見られないが,姿勢変換(例:横いざりや移乗)時に出現する場合は0.5点と評価する.
・ 横いざりの評価:「右側(非麻痺側)へお尻を移動させてください」と指示し,動作中にpushingが出現するかを観察する.
・ 移乗の評価:「ベッドから車椅子へ移ってください」と指示し,動作中の反応を観察.この際もセラピストは必要最小限の介助にとどめる(図12).
③姿勢の矯正に対する抵抗
評価は以下の2段階で行う.
・ 0点:抵抗なし
・ 1点:抵抗あり
セラピストは,対象者の麻痺側の肩と背部を介助し,「これから体を右側(非麻痺側)に動かしますが,自分では動かずに私に合わせてください」と声掛けを行う.その後,麻痺側に傾いた状態から非麻痺側方向へ動かし,抵抗があるかを観察する.抵抗の開始や程度に関係なく,正中位まで移動させた際に抵抗が観察されれば1点とする(図13).
▼立位
立位評価では座位と同様に姿勢の対称性,非麻痺側上下肢の伸展・外転,姿勢矯正への抵抗の3項目を評価する.
①姿勢の対称性
評価は座位と同様に,0点(傾斜なし),0.25点(軽度の麻痺側傾斜),0.75点(転倒を伴わない重度の麻痺側傾斜),1点(転倒を伴う重度の麻痺側傾斜)の4段階で行う.
②非麻痺側上下肢の伸展・外転
非麻痺側下肢を用いて床面を押すような伸展・外転動作が観察されれば1点とする.立位では見られず,歩行時にのみ出現する場合は0.5点と評価する.
③姿勢の矯正に対する抵抗
手順および判定基準は座位時と同様である.セラピストが体幹を非麻痺側方向へ動かした際に,正中位まで到達した時点で抵抗が認められれば1点と判定する.
SCPの座位の評価は,足底接地で行う.また周りに掴むものがないことを確認して行う.立位での評価では,治療台や手すりの把持,下肢装具は使用しないで行う.
参考文献
1) Davies PM:Steps to Follow. A guide to the treatment of adult hemiplegia. Springer—Verlag, New York, 1985
14) Karnath HO, et al:The origin of contraversive pushing:evidence for a second graviceptive system in humans. Neurology 2000;55:1298—1304
32) Johannsen L, et al:Leg orientation as a clinical sign for pusher syndrome. BMC Neurology 2006;6:30
33) Paci M, et al:Fear of falling in stroke patients with pusher behaviour. Ital J Physiother 2011; 1:12—16
34) Baccini M, et al:Scale for contraversive pushing:cutoff scores for diagnosing“ pusher behavior”and construct validity. Phys Ther 2008;88:947—955
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