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実際どうなの? 糖尿病診療のココが知りたい

連載 小森田祐二

2026.08.11 医学界新聞:第3588号より

 糖尿病患者さんの多くは,糖尿病専門医ではなく,地域の一般内科の先生方によって支えられています。今回からは2回にわたり,そんな日常診療の中で感じる「その糖尿病診療,ちょっと待って」と思うポイントをまとめていきます。もちろん,非専門医の先生方を上から目線で批判したいわけでは全くありません。私自身,非専門領域ではかなり悩みながら診療をしていますし,限られた時間とマンパワー,複雑な患者背景の中で診療している現実もよくわかります。

 筆者は現在,眼科病院付属の内科クリニックで勤務しており,眼科手術前の患者さんの全身管理や持参薬確認を行っています。そのため,普段は地域の先生方が診ている糖尿病患者さんから「これまでどんな治療を受けてきたか」「何を言われてきたか」を聞く機会が比較的多くあります。その中で,少し気になったこと,時々ヒヤッとすること,そして,患者さんが実は診察室で言えずに抱えていることが見えてきました。

 糖尿病診療に「正解」はありません。ただ,ちょっとした視点の違いで,患者さんが楽になることがあります。逆に,悪気なく続けていた診療が,患者さんを苦しめていることもあります。この記事が,日々糖尿病患者さんを診てくださっている先生方にとって,少しでも診療のヒントになれば幸いです。

 個人的に一番ヒヤッとするのが,腎機能がかなり低下しているのに,腎機能低下時に避けるべき薬がそのまま処方されているケースです。糖尿病患者さんの腎機能低下は決して珍しくありません。糖尿病関連腎臓病だけでなく,高血圧,加齢,動脈硬化,脱水,NSAIDsなど,いろいろな要因でeGFRは下がりますし,高度腎機能低下があっても患者さん本人に自覚症状がないことがほとんどです。処方する側が意識していないと,気づかないうちに「腎機能に合わない薬」が続いてしまうことがあります。糖尿病患者さんに腎機能低下がみられるとき,治療薬で特に注意したいのが,SU薬とビグアナイド薬(メトホルミン)です()。

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表 高度腎機能低下における糖尿病治療薬の調整

SU薬の注意点:SU薬は血糖値をしっかり下げる薬ですが,腎機能が低下すると低血糖リスクが大きく上がります1)。特に高齢者では,「食事量が落ちた」「体調を崩した」「腎機能が少し悪くなった」というだけで重症低血糖につながることがあります。低血糖は「冷や汗を少しかく」だけでは済まず,意識障害や転倒,骨折,認知機能低下のきっかけとなり,救急搬送が必要になることもあります2)。糖尿病治療薬で起こる医原性のトラブルの中でも,特に避けたい事態と言えるでしょう。

ビグアナイド薬(メトホルミン)の注意点:一般的に,eGFR 30未満ではメトホルミンは禁忌です。メトホルミンによる乳酸アシドーシスは非常にまれですが,起こると重篤な症状を呈します。そして実際に問題になるケースの多くは,腎機能低下,脱水,感染症,心不全などのハイリスクな症状・病態が重なった場面です。メトホルミン自体が怖い薬というより,危ない状況で処方を続けてしまうと怖い事態を引き起こす薬と考えたほうが実臨床に近いと思います。

 また,メトホルミンは単剤だけでなく,配合剤として処方されているケースが多いことにも注意が必要です。例えばエクメット®(後発品:メホビル®),イニシンク®,メトアナ®などです。薬剤名を見ただけでは,患者さんも医療者も「メトホルミンが含まれている」と意識しにくいことがあります。実際,持参薬を確認していると,腎機能が低下しているにもかかわらずメトホルミンが含まれている配合剤での治療が継続されているケースを見かけます。

◆定期的なeGFRと処方薬の確認を

 もちろん,現実の診療では例外もあり,eGFR 30未満でも,「この患者さんでは血糖管理上どうしても必要」「他剤への変更が難しい」「本人の背景を考えると,リスクを理解したうえで少量継続する」という判断をすることは,専門医でもゼロではありません。ただし,それはあくまで,リスクを理解したうえでの例外運用です。

 薬を安全に使うにはeGFRを定期的に見ることが大事で,少なくとも,薬を追加するときや薬を増量するとき,患者さんが高齢で食事量が落ちたとき,脱水や感染症があるときには,必ず腎機能を確認したいところです。eGFR 30未満を見たら,まず立ち止まって,「メトホルミンは入っていないか」「配合剤に隠れていないか」「SU薬は残っていないか」「低血糖リスクは高くないか」。ここを確認するだけで,防げるトラブルはかなりあります。

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 ときどき気になるケースに,「食事を我慢しすぎている患者さん」があります。特に病歴の長い患者さんに多く,10~20年以上前に糖尿病教育を受けた際に「糖尿病になったら食事を制限しなければならない」と教わり,それを今でも忠実に守り続けている方をよく見かけます。「甘いものは20年間食べていない」「旅行先でも食事を楽しめない」といった話を聞くこともあります。もちろん食事療法は糖尿病治療の基本ですが,近年のガイドラインでは,肥満を伴わない2型糖尿病患者さんに対して一律のカロリー制限は推奨されていません3)。肥満がある場合には減量のメリットがありますが,やせ型や標準体重の患者さんでは事情が異なります。

 特に日本人は欧米人と比べてインスリン分泌能が弱く,やせ型でも糖尿病になります。また,病歴が長くなるにつれてインスリン分泌能はさらに低下します。そのような患者さんでは,食事を減らして血糖を下げることには限界があります。にもかかわらずHbA1cが少し上がるたびに食事制限を強化していると,体重や筋肉量が減り,体力が落ち,食べる楽しみまで失われてしまいます。実際,HbA1cは6%台前半と良好なのに,「数年で体重がかなり減った」「食べることが怖くなった」という患者さんもいます。HbA1cだけを見ると優等生に見えるため見逃されがちですが,本当にその状態が患者さんにとって幸せなのか,一度立ち止まって考える必要があるでしょう。

◆食べる楽しみを尊重し,バランスの良い治療戦略を

 筆者は,やせ型の糖尿病患者さんを診たときには,「食事は十分とれていますか」「好きなものは食べていますか」「ずっと我慢しているものはありませんか」と聞くようにしています。もちろん好き放題食べてよいという意味ではありませんが,やせ型でインスリン分泌能が低下している患者さんでは,さらに食事制限を強化するよりも,ある程度好きなものを楽しみながら,その分を薬物療法で補う(個人的には,このケースではDPP-4阻害薬をよく使います)ほうが現実的なことも少なくありません。また,HbA1c目標そのものが厳しすぎる場合もあります。特に高齢者では,HbA1c 6%前半を維持するために食事を我慢し続けるよりも,HbA1c 7%前後で好きなものを楽しみながら生活するほうが,その人らしい人生につながることもあります。

 HbA1cが良好だと安心してしまいがちですが,時間のあるときに一度,「糖尿病になってから,食べる楽しみを失っていませんか?」と聞いてみてください。もしかすると,その患者さんに必要なのは,薬の追加でもさらなる食事制限でもなく,「もう少し食べても大丈夫ですよ」という一言かもしれません。

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今回は,「HbA1cだけを見ると治療が上手くいっているように見えるけれど,実際は注意が必要」と考えられる2点を取り上げました。糖尿病治療薬は腎機能低下時に注意するものがいくつかありますが,やはり注意すべきはSU薬とメトホルミンです。特にeGFR 30未満であれば一度処方薬を確認するようにします。また,標準体重~やせ型の患者さんには,食べたいものを我慢しすぎていないか,たまに聞くようにしています。


1)日本糖尿病学会 糖尿病治療に関連した重症低血糖の調査委員会報告.糖尿病.2017;60(12):826-42.
2)Nat Rev Endocrinol. 2014[PMID:25287289]
3)日本糖尿病学会.糖尿病診療ガイドライン2024.南江堂.2024.

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林眼科病院付属林内科クリニック 院長

2009年九大医学部卒。福岡赤十字病院,九大病院,嘉麻赤十字病院など経て,20年より九大大学院医学研究院病態機能内科学特任助教。24年より現職。XではDr.U@内科医(@dr_ukio)として,糖尿病診療に関する有益な情報を随時発信中。著書に『いま,すぐ,ひける 糖尿病診療ノート』(日本医事新報社)。