- 医学
実際どうなの? 糖尿病診療のココが知りたい
[第5回] その糖尿病診療,ちょっと待って(後編)
連載 小森田祐二
2026.09.08 医学界新聞:第3589号より
前回に引き続き,「その糖尿病診療,ちょっと待って」と思うポイントをまとめていきます。前回は,「腎機能低下があるのに禁忌薬を使っている」「太っていないのに厳しい食事指導を続けている」など,「HbA1cだけ見ると治療がうまくいっているように見えるけれど,実際は注意が必要」という観点で気になるケースを解説しました。今回は,糖尿病治療がなかなかうまくいかないときの次の一手を,あまり好手とは言えない4つのケースをもとにまとめました。
ちょっと待って ➌
太っているのに,内服薬をどんどん追加
血糖コントロールがうまくいかないとき,少しずつ内服薬を追加していくことは日常診療ではよくあると思います。特に,ビグアナイド薬(メトホルミン),DPP-4阻害薬,SGLT2阻害薬は,それぞれ使いやすさやメリットがあり,腎機能,消化器症状,性器感染症,脱水などに注意しながら追加していくこと自体は,十分現実的な選択肢です。実際のところ,食事療法や運動療法が大事だと分かっていても,外来時間が限られていたり,患者さんの生活背景が複雑だったり,医療者側にも十分な介入スキルがなかったりして,「まずは薬で何とかする」流れになることは日常茶飯事です。
◆「薬の不足」以外に目を向ける
しかし,肥満が背景にある患者さんで,既にSGLT2阻害薬,メトホルミンを使ってもHbA1cが下がらない場合(例:56歳男性,HbA1c 8.0%,BMI 28),内服薬をさらに積み上げるだけでは限界があります。実際に話を聞いてみると,「夕食が22時以降になる」「仕事中に甘い飲み物を飲んでいる」「夕食後にお菓子を食べる習慣がある」「お腹がすいて我慢できない」「ストレスがあると食べてしまう」「毎晩かなり酒を飲む」といった話が出てくることがあります。ここで問題になるのは薬が足りないことではなく,摂取エネルギー,空腹感,食行動,生活リズムそのものなどの事情です。そこに対してα-グルコシダーゼ阻害薬,グリニド薬,イメグリミン,SU薬などを追加しても,効果は限定的なことが多いです。特にSU薬は血糖を下げる力はありますが,体重増加や低血糖を招くリスクもあり,肥満がある患者さんでは極力使用は避けたいところです。
◆専門医へ早めの紹介を
そのため,肥満がある患者さんで内服薬2~3剤でも血糖目標を達成できない場合には,専門医への紹介を早めに考えてよいと思います。例えば,肥満がある方への積極的な選択肢として挙がるGLP-1受容体作動薬は,食欲を抑え,体重を減らしながら血糖を改善できる可能性があります。ただし消化器症状,投与方法,費用,継続のしやすさなどを含めて,導入時の説明がとても重要です。単に処方するだけではなく,患者さんが納得して続けられるように支える必要があります。非専門医のかかりつけの先生がGLP-1受容体作動薬の扱いに慣れていれば積極的に導入し,慣れていなければ早めに専門医に紹介していただくのが良いと思います。肥満がある患者さんの血糖悪化では,内服薬を積み上げる前に,「血糖の治療だけでなく,肥満への介入が必要な段階」と考えます。
ちょっと待って ➍
内服薬の用量を増やして問題を先延ばしする
血糖コントロールが悪い患者さんを診たとき,「今日は何か治療を変えないといけない」と感じることはよくあります。HbA1cが8%台だが,外来の時間は限られており,食事内容を詳しく聞いたり,生活リズムを整理したり,注射薬の話をしたりするには時間が足りない。そうなると,とりあえず今使っている薬を増量して,「少し様子を見ましょう」と言いたくなる気持ちもわかります。何も変えずに帰すよりは,何か一手打ったように感じますし,患者さんにも説明しやすいからです。
◆効果と費用が見合わないリスクの考慮
ただ,薬によっては,用量を増やしても血糖改善効果はそれほど大きくありません。例えばSGLT2阻害薬やDPP-4阻害薬は,低用量から高用量に増やしてもHbA1cの改善幅はそれほど大きくないことが多いです。ジャディアンスを10 mgから25 mgに増やす,テネリアを20 mgから40 mgに増やす,といった調整で,劇的に血糖が改善する実感はあまりありません。もちろん全く意味がないわけではありませんが,薬価が高い薬では,患者さんの自己負担も増えます。その割にHbA1cが0.1~0.2%程度しか変わらないのであれば,費用だけが増えてしまう(そして減量のタイミングがわからずに継続する)ことになります。
◆問題を先延ばしせず,次のステップを検討する
一方で,メトホルミンは比較的はっきりした用量依存性があるため,腎機能や消化器症状に問題がなければ,十分量まで増やす意義はあります。GLP-1受容体作動薬も用量依存的な効果は期待できますが,薬価が高く,増量によって悪心,便秘などの消化器症状が強くなることもあるため,患者さんとよく相談しながら進める必要があります。大事なのは「増量できるか」ではなく,「その増量で本当に今の問題が解決するか」です。用量を少し上げて数か月先送りするよりも,食事・体重・服薬状況を見直す,GLP-1受容体作動薬やインスリンを検討する,専門医へ相談するなど,次の段階に進むべきタイミングではないか,一度立ち止まって考えたいところです。
ちょっと待って ➎
“糖尿病=自己責任”の空気を前面に出す
糖尿病診療で生活指導が大切であることは間違いありません。食事,飲酒,間食,運動,体重増減,服薬,通院など,血糖コントロールには患者さん自身の行動が深く関係します。実際,外来でHbA1cが上がっていれば「食事はどうですか」「間食は増えていませんか」「運動量は落ちていませんか」と聞くことは当然必要です。しかしここで気をつけたいのは,糖尿病は“生活習慣だけで決まる病気”ではない点です。同じように食べていても糖尿病になる人,ならない人がいますし,肥満が背景になくても糖尿病になる人はいます。
◆大切なのは伴走する姿勢
仕事の忙しさ,睡眠不足,ストレス,けがや痛み,家庭環境,経済状況など,本人の努力だけではどうにもならない要因で血糖が悪くなることも少なくありません。親の介護が始まって生活リズムが崩れた,膝が痛くて歩けなくなった,仕事が忙しくて夕食が遅くなった,家族の問題で眠れなくなった。そうした背景を聞かずに「また食べすぎましたか」「運動していないのでしょう」と言ってしまうと,患者さんは想像以上に傷ついてしまいます。
診察室で血糖悪化の“犯人捜し”ばかりしてしまうと,患者さんは受診そのものがつらくなります。診療では,適した薬を選ぶことと同じくらい,次もちゃんと来てもらうことが大切です。もちろん,生活習慣に触れずに治療することはできませんが,その聞き方は「責めるため」ではなく,「治療の手がかりを一緒に探すため」でありたいと筆者は考えています。「何か生活で変わったことはありましたか」「忙しくて食事が乱れやすい時期でしたか」「できそうなことを一緒に探しましょう」と聞くだけでも,患者さんの受け止め方はかなり変わります。言うは易しですが,“自己責任”の空気を少し弱めるだけで,治療は進めやすくなることがあります。
ちょっと待って ➏
専門医への紹介を躊躇しすぎる
糖尿病診療に限らず,「どこまで自分で診るか」は非常に悩ましい問題だと思います。最近は使いやすい薬もどんどん増え,昔は入院が必須だった患者さんでも,今は外来で何とかなるケースがかなり増えています。実際,地域の糖尿病診療の多くは,非専門医の先生方によって支えられています。一方,非専門医でもかなり診療できる分,紹介の線引きが難しくなっているようにも感じます。「患者さんが紹介を嫌がっている」「そこまで悪くない気もする」「紹介したらもう自院には戻ってこないかもしれない」など,思うところはいろいろあると思いますし,全例を専門医に紹介することは現実的ではありません。しかし「早く専門医が介入したほうが,その後が楽になる患者」が一定数いることも事実です。
急激にHbA1cが悪化している,体重減少を伴う,高度肥満があるなどの教科書的な紹介基準以外にも,「本人と医療者が完全に疲弊している」「HbA1cが高い状態に慣れてしまって介入ポイントがわからない」といった心理的背景での紹介でも全然かまわないですし,「一度,評価だけお願いしたい」という依頼でも問題ないと思います(表)。むしろ糖尿病専門医側としては,「ギリギリまで抱え込んだ末期症例」より,「少し困った段階で相談してもらえる」ほうが介入しやすいことも多いです。
今月のまとめ
2回にわたって偉そうなことを書きましたが,筆者自身,実際の外来では生活に踏み込む時間も,注射薬を説明する余裕もなく,何もできずに診療を終える外来のほうが圧倒的に多いです。介入したほうが良いタイミングと時間が取れるタイミングが同時に来るチャンスは少ないですが,チャンスが来たときに踏み込めるよう準備はしておきたいところです。

小森田 祐二(こもりた・ゆうじ)氏 林眼科病院付属林内科クリニック 院長
2009年九大医学部卒。福岡赤十字病院,九大病院,嘉麻赤十字病院など経て,20年より九大大学院医学研究院病態機能内科学特任助教。24年より現職。XではDr.U@内科医(@dr_ukio)として,糖尿病診療に関する有益な情報を随時発信中。著書に『いま,すぐ,ひける 糖尿病診療ノート』(日本医事新報社)。
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