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第30回日本看護管理学会学術集会の話題から

取材記事

2026.09.28

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●写真 会長を務めた奥裕美氏

第30回日本看護管理学会学術集会(学術集会長=聖路加国際大学・奥裕美氏)が8月21~22日,「リーダーシップの話をしよう――30年の叡智を未来へ」をテーマに,東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された。

本稿では,奥氏による学術集会長講演(座長=手稲渓仁会病院・田中いずみ氏)の模様を報告する。

看護師としての30年の歩み――仕組みづくりの視点を得た原体験

日本看護管理学会の第1回学術集会が開催された1997年は,奥氏が看護師として臨床のスタートを切った年でもある。学会の30年の歴史と自身の歩みが重なることに触れ,自らの経験から見いだしてきたリーダーシップの在り方を振り返った。
入職2年目の終わり,重大なインシデントを経験し,厳しい叱責を覚悟して看護部長室へ赴いた氏に対し,当時の看護部長は「ところで,なぜあなただけがここに来ているのですか」と問いかけたという。個人の責任を追及することではなく,インシデントの背景にあるプロセスや仕組みの脆弱性に目を向けていたのである。医療安全をシステムとしてとらえる考え方がまだ浸透していなかった当時,この出来事は氏にとって大きな転機となり,「看護管理者の存在が看護師や患者の人生に与える影響の大きさを痛感し,エラーをしにくい仕組みづくりの重要性を突きつけられた」と語った。

ケア提供者の健康と環境デザインの重要性

続いて奥氏は,体調不良を抱えながら働く「プレゼンティズム」の問題に言及した。新人時代,24時間働く姿をロールモデルとして懸命に業務に取り組む一方で,残業が重なりインシデントを頻発させていた時期があったという。当初は自身の能力不足だととらえていたが,この経験こそが「ケア提供者の健康と労働環境がケアの質を左右する」と意識する契機となった。
複雑な思考や高度な技術,そして患者に寄り添うエネルギーを要する看護職にとって,心身が枯渇した状態での労働はパフォーマンスの低下を招き,大きな損失につながる。プロとして,自分が健康でなければ仕事はできないと痛感した奥氏は,後に大学院で看護職の交代制勤務や働き方に関する研究に取り組むことになる。その中で,海外の医療者との交流を通じ,日本の長時間夜勤や看護師が自力で行う患者の移乗支援が世界標準ではないことを知ったという。医療者の健康と患者の自律性を守るには,個人が環境に適応するだけでなく,必要なケアを最適な形で届ける仕組みづくりこそが,看護管理者の担う「環境整備」の拡張であり,ケアの成立条件をデザインする重要な役割だと強調した。
 

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逆三角形の組織図が示す看護の価値

ケアの成立条件をデザインする上で欠かせないのが,誰のために行うのかという顧客志向であると述べ,学生時代の講義で学んだ逆三角形の組織図(図)について紹介した。現場のスタッフこそが患者の求めるものを最もよく知る存在であり,そのスタッフが最善のケアを提供できる環境を整えるのが管理者の役割であるとの講義でのメッセージは,当時職業イメージに揺らいでいた氏に,看護の真の価値を再認識させた。

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図 逆三角形の組織図
逆三角形の上部に最も重要な顧客である患者を据え,直下に患者と日々対峙するスタッフナース,そして一番下で全体を支えるのが看護部長という構造。

シェアするリーダーシップの探求

これからの看護管理において,限られた資源でケアの構造をどう維持していくかは喫緊の課題である。「制度や仕組みは与えられるものではなく,必要性を認識した先人たちが自ら創造してきたものだ」と氏は力説し,必要なものを必要と主張して,なければ作る役割を現代の看護職も担っていくべきだと呼びかけた。
さらに,医療や介護のニーズが多様化・複雑化し,ケアの場が地域へと拡大する中,特定の誰かが全てを知り,一人で判断することには限界がある。そこでは権限に基づく旧来のトップダウン型ではなく,それぞれの経験を持ち寄り,共に新しい答えを創り出していく姿勢,すなわち「シェアするリーダーシップ」の探求こそが必要と奥氏は訴える。「一人ではできないという自己認識を持ち,皆と協働することでより良いものが生まれるとの前提に立ち周囲の能力を信じることが不可欠」と締めくくり,講演は盛況のうちに幕を閉じた。

聖路加国際大学看護学研究科 教授

2006年より聖路加国際病院勤務を経て,13年聖路加看護大学(当時)大学院博士後期課程修了。博士(看護学)。14年聖路加国際大大学院看護学研究科特任准教授,16年同准教授を経て,20年から現職。著書に『臨床判断ティーチングメソッド』(医学書院)。

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