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実際どうなの?糖尿病診療のココが知りたい

連載 小森田祐二

2026.07.14 医学界新聞:第3587号より

 SGLT2阻害薬は,腎臓でのブドウ糖再吸収を抑え,尿中へ糖を排泄させることで血糖を下げる薬です。1日1回内服で済み,単剤では低血糖も少なく,体重も少し減らします。薬価は少し高いもののメリットが多いのが特徴です。

 2014年に日本で発売された当初は,「尿に糖を出して大丈夫なのか」「脱水や感染症の併発が増えるのではないか」と慎重な見方も少なくありませんでした。しかし,その後のEMPA-REG OUTCOMEをはじめとした大規模臨床試験で心血管イベント・心不全入院の発生抑制や腎保護効果が次々と明確になり,評価が大きく変わりました。現在のSGLT2阻害薬は,単なる糖尿病治療薬ではなく,慢性腎臓病や心不全の予後改善まで期待できる“心腎保護薬”として位置づけられています。実際に米国糖尿病学会(ADA)1)や国際腎臓病学会(KDIGO)2)などの海外ガイドライン,日本の慢性腎臓病(CKD)ガイドライン3)でも,心不全やCKDを合併する患者では早期導入が推奨されるまでになっています。

 一方で,全ての患者に一律で使う薬でもありません。脱水リスクの高い高齢者,摂食不良,フレイル,ケトアシドーシスリスクが高い症例では慎重な判断が必要です。SGLT2阻害薬は,「誰にでも使う薬」ではなく,「効果の恩恵が大きい患者に早めに届けたい薬」と考えると整理しやすいと思います。

 SGLT2阻害薬の処方を積極的に考えるケースの中で,日常臨床で遭遇する頻度が最も高いのが,慢性腎臓病(CKD)がある患者さんです。アルブミン尿がある,eGFRが低下している,糖尿病性腎症が進行し始めている場面では,血糖改善以上に腎機能低下速度を緩やかにする効果がSGLT2阻害薬には期待できます。腎機能が低下してくると,つい無難なDPP-4阻害薬を使いがちです(もちろん使ってもよいですが)。しかしeGFR 20以上であれば「血糖改善+腎保護」のダブル効果を狙ってSGLT2阻害薬も選択したいところです。

 次に,心不全がある,あるいは心不全リスクが高い患者さんです。SGLT2阻害薬は心不全入院の発生率を減らすエビデンスが非常に強く,高血圧,腎機能低下などを背景に持つ患者さんでは治療の早い段階から選択肢に入ります。最近は循環器内科の先生が心不全治療薬としてすでに導入しているケースも多いでしょう。もしSGLT2阻害薬が導入されていなければ,その理由を確認したくなるほどです。

 また,肥満や内臓脂肪が多い患者さんにも相性のよい薬です。GLP-1受容体作動薬ほどではないものの,体重減少,血圧低下,尿酸降下作用が期待でき,脂肪肝(MASLD)を伴う2型糖尿病でも使いやすいと感じます。

 注意したいのは,フレイルのある高齢者や食事摂取が不安定な患者さん,脱水を起こしやすい患者さんです。利尿作用により体液量が減るため,ふらつき,腎前性腎機能低下,シックデイ時のトラブルにつながることがあります。特に夏場,感染症罹患時,利尿薬併用時は慎重さが必要です。また,著明な高血糖や体重減少,尿ケトン体陽性など,インスリン分泌不全が疑われるケースの治療は安易にSGLT2阻害薬から始めてはいけません。正常血糖ケトアシドーシス(eDKA)は頻度こそ高くありませんが,糖質制限,過度の飲酒,絶食,周術期などが重なると起こり得ます。

 尿路感染症は,しばしば最初に心配される副作用です。尿中に糖が増える以上,「感染しやすそう」というイメージはもっともです。しかし,臨床試験やリアルワールドデータをみると,明確に増えやすいのは性器の真菌感染症であり,尿路感染症のリスクについては“微増あるいは有意差なし”とする報告も少なくありません4)

 一方で,リスクが高い患者さんはいます。たとえば,女性で膀胱炎を繰り返している方,高齢者,排尿障害や残尿がある方,前立腺肥大のある男性,尿失禁がある方,導尿中の方などです。こうした背景があると,薬剤そのものというより「もともとの感染しやすさ」が前面に出ます。そのため実践的には,感染しやすい背景の有無を踏まえて適宜判断するのが大切です。軽い膀胱炎であれば抗菌薬治療を行いながら継続できることも多く,一度感染しただけで必ず中止とは限りません。反対に,再発を繰り返す場合や重症感染を起こした場合は,継続メリットとのバランスを見て中止・変更を検討します。

 現在日本で使えるSGLT2阻害薬は6種類あり,どれを使うかは多くの先生が悩むところだと思います。結論から言えば「劇的な差はない」が現実的な答えです。各薬剤とも血糖降下作用,体重減少,心腎保護といった方向性は共通しており,日常診療で決定的な優劣を感じる場面は多くありません。ただし糖尿病以外の保険適用や配合剤,後発品の有無,薬価など,いくつか異なる点があるため,実臨床ではその差も参考になります()。

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表 SGLT2阻害薬の特徴

 大差はないと言いつつ,圧倒的にエビデンスがあるのが,フォシーガ®(ダパグリフロジン)とジャディアンス®(エンパグリフロジン)です。心不全やCKDを含めた大規模試験の蓄積が多く,海外のガイドラインでは「SGLT2阻害薬(ただし,エビデンスのあるダパグリフロジン,エンパグリフロジン)」と明記されています1, 2)。「エンパグリフロジンとダパグリフロジンはどちらがいいか」論争もよく起こりますが,心血管アウトカム,腎アウトカムともに優劣はなさそうです5, 6)。ただし,ダパグリフロジン5 mgだと心不全抑制効果が弱いとする報告もある5)ため,心血管イベント抑制・腎保護目的でダパグリフロジンを使うなら「基本10 mg」を意識するとよいと思います。

 これまで,SGLT2阻害薬は薬価が高いのがデメリットでしたが,2025年12月にフォシーガ®の後発品が発売され,薬価が従来の3分の1程度になりました。そのため今からSGLT2阻害薬を導入する患者さんには,個人的にはダパグリフロジン一択です。

 ただし,その他のSGLT2阻害薬についても,リアルワールドデータでは腎アウトカムに大きな差はないとする日本の報告(7)もあり,「エビデンスが多い薬へ全員乗り換える」必要まではないと思っています。特にスーグラ®(イプラグリフロジン)は日本で最初に発売されたSGLT2阻害薬で配合剤もあるため,現在もシェアは高いと思います。すでに安定している患者さんなら,そのまま継続で十分です。また,ルセフィ®(ルセオグリフロジン),スーグラ®は少量規格があり,高齢者や小柄な患者さんで慎重に始めたいときに使いやすい印象があります。実際の外来では,臨床研究の規模や数の差よりも,薬価,採用・在庫状況,配合剤の有無が処方を左右することも少なくありません。「どの薬が最強か」を考えるより,その患者さんに処方を続けやすい1剤を選ぶことのほうが大事だと思います。

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図 SGLT2阻害薬の種類別にみた腎保護効果(文献7より転載)
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SGLT2阻害薬は,CKD,心不全,肥満,脂肪肝,高尿酸血症など,その効果の恩恵が大きい患者さんには早めに考えたい薬です。一方で,フレイル,脱水リスクがある方,休薬の判断ができない方には慎重になります。どの薬を選ぶか正解はありませんが,私自身は現時点ではエビデンスの厚さと薬価のバランスから,ダパグリフロジンを第一選択に考えています。


1)Diabetes Care. 2026[PMID:41358881]
2)Kidney Int. 2024[PMID:38490803]
3)日本腎臓学会.エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社.2023.
4)Lancet. 2022[PMID:36351458]
5)JAMA Intern Med. 2025[PMID:39836397]
6)JAMA Intern Med. 2025[PMID:39836391]
7)Kidney Int. 2022[PMID:35961884

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林眼科病院付属林内科クリニック 院長

2009年九大医学部卒。福岡赤十字病院,九大病院,嘉麻赤十字病院など経て,20年より九大大学院医学研究院病態機能内科学特任助教。24年より現職。XではDr.U@内科医(@dr_ukio)として,糖尿病診療に関する有益な情報を随時発信中。著書に『いま,すぐ,ひける 糖尿病診療ノート』(日本医事新報社)。