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あせらないためのER呼吸管理トレーニング

連載 熊城伶己

2026.06.09 医学界新聞:第3586号より

・気管挿管の適応を考える
・Difficult Airwayとは何が“Difficult”なのか?
・いよいよ挿管,何を準備する?

 今回,そして次回と2回にわたり,ERでの気管挿管を扱います。気管挿管に関する書籍は多数出版されていることからもわかる通り,とても大きなテーマです。残念ながら紙幅の都合上,手技を1から説明はできませんが,知っておくべき重要な考え方やtipsを紹介していきます。今回は気管挿管を実施する前に行っておくべきことを考えます。

 ERで気管挿管が必要な場面とは,どういった時でしょうか? ここでは有名な「MOVES」という語呂に沿って考えます。MOVESはMaintain Airway(気道確保・維持の困難)/Mental Status(意識障害),Oxygenation(酸素化低下),Ventilation(換気不全),Expectoration(分泌物過多),Shock(ショック)からなります。一見とっつきにくく見えるかもしれませんが,各項目をよく見てみると,これらは急変対応の基本,Primary SurveyのABCDアプローチのどれかに該当します(図1)。つまり,切迫するABCDのいずれかを認めるとき,挿管を考慮する必要があるということです。

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図1 挿管の適応を考える際のABCDアプローチとMOVESの対応

 一方で,例えば脳出血で意識障害・舌根沈下を起こした患者が,気管挿管・人工呼吸管理を経て気管切開に移行し,気管切開と人工鼻のみで過ごす場合もあるように,「気道確保を要する」ことと,「人工呼吸を要する」ことは分けて考える必要があります。人工呼吸は呼吸の3要素,「酸素化・換気・仕事量」のサポートにより全身への酸素供給をサポートすることが目的ですので,B・Cの異常が適応と考えられ,AとDだけの異常の場合には気道確保さえなされれば必ずしも人工呼吸は要さないこともあります。ただし,急性期においては鎮静薬で自発呼吸が不安定になることも含め,A・Dの問題だけであっても人工呼吸をセットで考えることがほとんどです。

 このABCDの異常に関しては,現時点でどうかという視点に加えて,「今後悪化しうるか?」という時間軸も考える必要があります(そのため,MOVESのEに「Expected course(状態悪化の懸念)」を含めることもあります)。現時点で自然気道を維持できていても,のちに鎮静で気道閉塞がさらに進行する事態も想定し,先手を打つことも考えておきましょう。

 挿管が難しそうとの話題に関連して,Difficult Airwayという単語を聞いたことがあると思います。Difficult Airwayを予測する語呂として,よく用いるのはLEMON(表1)です。

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表1 挿管困難の予測に用いるLEMON

 Eが示す3-3-2ルールとは開口してみて3横指分の広さがあるかどうか,下顎オトガイ部から舌骨までが3横指分あるかどうか,舌骨から甲状軟骨までが2横指分あるかどうか(図2)を見て,どれか1つでも満たしていなければ挿管困難リスクに該当します。Mが示すMallampati分類は開口した際に軟口蓋や咽頭後壁がどこまで見えるかを分類したものですが,個人的にはMallampatiを評価することはありません。どの程度開口できるかの度合いは参考になるのですが,Mallampatiは座位での評価であること(緊急挿管が必要な方で座位になれる方はほぼいません),加えて深吸気なのか,舌を出すのか,口呼吸なのかなど,どういった呼吸の仕方で評価するかが研究によりバラバラなので,判断できないのが正直なところです。実際,ERではMallampatiを除いた「LEON」が挿管困難予測の感度が良く,どれにも該当しなければ挿管が容易であるとの報告があります1)

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図2 挿管困難を評価する際の3-3-2ルール
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 さて,このLE(M)ONが示すのは「解剖学的な点から挿管が難しいか」のみです。一般的にDifficult Airwayというと,超肥満や顔面外傷など解剖の問題(これをAnatomically Difficult Airway〔解剖学的困難気道〕と言います)のみ想起しがちです。ここで考えたいのは「挿管が成功するとはどういうことか?」です。挿管の成功とは,単に「声門に気管チューブを通すこと」ではなく,「気管挿管に関連した合併症・異常反応を起こすことなく1発で声門に気管チューブを通す」,が正しい答えだと私は考えています。2021年に報告されたINTUBE studyでは手術室外の緊急気管挿管における主要合併症(心停止・循環破綻・低酸素)は全体の45.2%に生じ,うち最多イベントは循環破綻であったとされています2)。2015年には挿管後の状態悪化を予測するリスクとしてPhysiologically Difficult Airway(生理学的困難気道)という概念が提唱され3),現在ではその主要なリスクもまとめられており(図34),特に注意を要する病態として認識しておく必要があります。他にもSituationally Difficult Airway(環境的困難気道)5)として,挿管に最適化された手術室と異なり,高さの変えづらいベッド,他患者の対応,不十分な機材,時間的な余裕の不足なども挿管失敗につながる要因とされます。こうした“Difficult”につながる要因は,気管挿管のプロである麻酔科の医師であれば日ごろから当然のように把握・対応している内容です。非麻酔科医が挿管を成功させる肝は,“Difficult”の正体を曖昧にせず,毎回「どのような観点から挿管が難しいと言えるのか」をきちんと言語化することだと考えます。そして「Resuscitation before Intubation(挿管する前に蘇生せよ)」として,Physiologically / Situationally Difficultを含め可能な限り挿管前に状態・状況を最適化することが大事です。

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図3 生理学的困難気道の主要なリスク(文献4を参考に筆者作成)

 挿管前の準備として,チェックリストの使用は挿管の初回成功率上昇と挿管後低酸素のイベントを減らす可能性があると報告されています6)。ここでは「SOAP MD」という語呂を紹介します(表2)。中でも重要なのはAssistant,つまり人手を集めることで,院内で挿管が最も上手な人に応援を求めることが,挿管が決定したら最初に行うべきことだと言えます。SOAP MDの中の細かい項目に関してはまた次回に扱います!

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表2 挿管前の準備で用いるSOAP MD

・気管挿管の適応は「現在と未来のABCDの異常」と考える
・何がDifficultなのか言語化しよう
・挿管準備で最重要は「応援要請」


1)Am J Emerg Med. 2015[PMID:26166379]
2)JAMA. 2021[PMID:33755076]
3)West J Emerg Med. 2015[PMID:26759664]
4)Intensive Care Med. 2024[PMID:39162823]
5)Can J Anaesth. 2017[PMID:28168630]
6)JAMA Netw Open. 2020[PMID:32614424]

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横浜市立みなと赤十字病院集中治療部/呼吸療法専門医

2015年神戸大卒。救急・麻酔の研鑽を積んだ後,22年より現職。救急科専門医,麻酔科認定医,集中治療科専門医,呼吸療法専門医。急性期の気道・呼吸・循環管理,Point-of-care Ultrasound(POCUS)等を専門としている。