医学界新聞

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あせらないためのER呼吸管理トレーニング

連載 熊城伶己

2026.05.12 医学界新聞:第3585号より

・BVMとジャクソンリースって,何だ?
・BVMとジャクソンリース,使い分けは?

◆ BVM
 多くの救急外来・一般病棟に配備されているマスク換気器具といえばBVMであり,ジャクソンリースがある病院はまだ少ないと思います。BVMは自己膨張式バッグ(self-inflating bag)とも呼ばれ,メーカーにより細かい構造の違いはありますが,患者側から,マスク,患者バルブ,シリコンバッグ,インテークバルブ,酸素ポート,リザーバーバッグからできています(図1a1)。シリコンバッグ自体に弾性があり,揉んだ後勝手に膨らんでくれるので「自己膨張式」といいます。つまり,「酸素がなくても換気だけはできる」というのがBVMの特徴です。

 

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図1 BVMの基本構造(文献1をもとに筆者作成)
患者バルブの構造は製品によって異なる。青い矢印は酸素の流れを示す。

 マスクとシリコンバッグの間には患者バルブ,そしてシリコンバッグと酸素ポートの間にインテークバルブがあり,一方向弁としての役割があります。吸気時,すなわちシリコンバッグを揉むとバッグ内が陽圧になり患者バルブが解放・インテークバルブは閉じたままになるので,患者側に送気されることになります(図1b)。一方,呼気時にはシリコンバッグ内が陰圧になり,インテークバルブを通してリザーバーバッグと酸素ポートからシリコンバッグへ酸素を充填しますが,患者呼気は患者バルブにより阻まれ大気へ放出されます(図1c)。酸素なしでも換気できるのがBVMの長所ですが,高濃度酸素を投与したい場合にはリザーバーバッグを虚脱させないようにしっかり酸素を流す必要があります。仮にリザーバーバッグが虚脱したまま・もしくはリザーバーバッグなしで使用すると,インテークバルブから大気を多くバッグ内に取り込んでしまうため,極端に吸入酸素濃度が低下してしまいます。

◆ ジャクソンリース
 ジャクソンリースは流量膨張式バッグ(flow-inflating bag)とも呼ばれ,一般的にマスク,酸素チューブ,蛇管,バッグ,APL(adjustable pressure limiting)バルブ(=余剰ガス排出バルブ)からなります(図2a)。ジャクソンリースのバッグはぺちゃんこに潰れており,酸素を流さないと膨らむことができない流量膨張式なので,マスク保持の際に大きなリークがあるとあっという間に酸素がマスク周囲から逃げ,バッグが簡単に萎んでしまいます。

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図2 ジャクソンリースの基本構造
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 一方向弁によって必ず患者側に酸素が流れたBVMとは異なり,ジャクソンリースにおいてバッグを揉んだ際にどのように酸素が流れるかは,患者側とAPL弁側のどちらが流れやすいか,すなわちどちらの抵抗が低いか,によります。気道・肺の抵抗が低い場合には患者側に酸素が流れやすいですが,重症肺炎や喘息など抵抗が高い場合には押し負けてAPL弁側に流れてしまいます(図2b)。そうした場合はAPL弁をさらに閉めて調整することが求められます。ただしAPL弁を完全に閉めてしまうと呼気の逃げ場がなくなり,再呼吸となってしまう上にバッグがパンパンになり気胸などの圧外傷を来す可能性があります。換気でしっかり圧をかけたい場合には,吸気時はAPL弁を指で塞ぎ呼気時は開放,などの操作が必要になることもあります。

 なお,日本では蛇管とバッグの間にAPL弁が付いている物が多く使用されていますが,正確にはこれはジャクソンリース型ではなくベイン型と呼ばれるものです。必要酸素流量などが多少異なりますが,大まかな使い方は同じと考えてOKです。

 ここまでを見ると,「ジャクソンリースってなんだか難しそう……」という印象を持つかもしれません。ここで,この2つの長所と短所を理解しておきましょう。BVMは酸素がなくても換気はできるのが長所で,例えば院外や災害時など酸素がない場面でも使用できます。短所として,BVMのシリコンバッグにはある程度の硬さがあるため,自発呼吸の有無や強さ,肺のコンプライアンス(硬さのことと思ってください)などはわかりません。

 ジャクソンリースではバッグが柔らかく一方向弁が無いため,患者さんの呼吸状態や肺コンプライアンスを直接手で感じ取ることができるのが長所です。またAPL弁をある程度締めると抵抗が生まれ息を吐きづらくなりますので,重症呼吸不全の管理にとって極めて重要な呼気終末陽圧 (Positive End Expiratory Pressure:PEEP)をかけることができ,肺胞の虚脱を防げます。もしBVMでPEEPをかけたい場合には,呼気排出弁を動きにくくする「PEEPバルブ」を装着する必要がありますが,必ずしも院内採用があるわけではないと思います。

 またジャクソンリースはバッグを揉まなくても酸素が患者さんに向かって流れるため,フリーフローの酸素投与が可能です。一方でBVMは,患者バルブの構造によって多少異なりますが,バッグを揉まないと酸素が十分流れず,酸素濃度も低下すると言われています(2, 3)。またBVMをしっかり顔に密着させていたとしても,患者さんは自分の吸気で患者バルブを解放させなければならず,とても苦しくなってしまいますので,BVMを揉まずに放置することは絶対にやめましょう。

 BVMとジャクソンリースの比較をにまとめました。酸素がすぐに使えないかもしれない病棟・病室外の急変対応や災害時などにはBVMが適していると思います。一方,酸素が十分あり,かつ患者さんの呼吸や肺の状態を確認したい・PEEPをしっかりかけたい,という場合にはジャクソンリースに軍配が上がります。ジャクソンリースは重症呼吸不全に対する強い味方になってくれますので,ぜひ練習してもらえればと思います。

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表 BVMとジャクソンリースの比較

・BVMとジャクソンリースの構造を把握すべし
・場面・用途に応じてBVMとジャクソンリースを使い分けよう


:BVMとジャクソンリースを用いたフリーフロー酸素の実験動画です。下記よりご覧ください。

1)BJA Educ. 2023 [PMID: 37223693]
2)Scand J Trauma Resusc Emerg Med. 2021 [PMID: 34281616]
3)Pediatr Crit Care Med. 2005 [PMID: 15730596]

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横浜市立みなと赤十字病院集中治療部/呼吸療法専門医

2015年神戸大卒。救急・麻酔の研鑽を積んだ後,22年より現職。救急科専門医,麻酔科認定医,集中治療科専門医,呼吸療法専門医。急性期の気道・呼吸・循環管理,Point-of-care Ultrasound(POCUS)等を専門としている。