- HOME
- 医学界新聞プラス
- 医学界新聞プラス記事一覧
- 2026年
- 医学界新聞プラス [第4回]セフェム系抗菌薬 / 臓器別感染症:市中肺炎
医学界新聞プラス
[第4回]セフェム系抗菌薬 / 臓器別感染症:市中肺炎
これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ
連載 中西雅樹,児玉真衣
2026.02.05
これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ
「微生物×抗菌薬×感染臓器」の関係を、「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で“見える化”! 『これで身につく! 感染症まるごとスタートダッシュ』は,どんな微生物が存在し、それに対応する抗菌薬は何かという感染症の基本からスタートし、臓器ごとに感染症を起こしやすい微生物が違うのはなぜ? その臓器に到達しやすい抗菌薬は何? といった実臨床に直結する思考までをわかりやすく解説します。「医学界新聞プラス」では、初学者にとって手強く感じる感染症の全体像を直観的に理解できる本書の一部を、4週にわたりお届けします。
ペニシリン系抗菌薬
次にセフェム系抗菌薬について説明します.
セフェム系抗菌薬は,βラクタム環の隣に6員環をもつ,以下の3つの総称です.
② セファマイシン(CMZ など)
③ オキサセフェム(FMOX など)
そのなかで,最も臨床的に多く用いられているのがセファロスポリン系抗菌薬で,さらにそれらは第1世代から第4世代に分類されています.したがって,例えばCAZ(セフタジジム)は「第3世代セフェム」という呼び方ではなく,「第3世代セファロスポリン」と呼ぶのが正式な呼称となります.
さて,実際の抗菌薬の話に移りますが,大前提として知っておきたいのが.
・セファロスポリン系抗菌薬は嫌気性菌の第1 選択とはならない
という点です.
また,抗菌薬のスペクトラムを覚えていく際には,グラム陰性菌に注目して理解を進めることがきわめて重要です.その際に,①ペニシリン系抗菌薬のところでも出てきましたが,図3のようにグラム陰性菌のグループを意識しておくことをおすすめします.
その点に注意しながら抗菌薬を確認していきましょう.
なお,ここではセファロスポリン系とセファマイシン系抗菌薬を取り扱います.
PEK:腸管内に常在する代表的な細菌.
HaM:呼吸器感染症の主な起炎菌.
SPACE:院内感染で問題となるグラム陰性桿菌.
セフェム系抗菌薬について学ぶ場合は,グラム陰性菌に注目して理解を進めることが重要です.
グラム陽性菌に対して強いイメージのあるCEZですが,腸球菌を除くグラム陽性球菌,特にブドウ球菌感染症の多くで第1選択となります.よって,周術期感染症を予防する目的,あるいは蜂窩織炎などの皮膚軟部組織感染症でも使用頻度の高い抗菌薬です.
一方で,実はグラム陰性菌に対しても一部に効果があり,実際には単純性尿路感染症でESBL産生菌を想定していない場合には,第1選択として使用することもあります.ただし,インフルエンザ桿菌やモラクセラ・カタラーリスをカバーしていないことから呼吸器感染症に対しては使いにくいことがわかると思います.
経口薬に関しては,CEZの経口薬はないものの,CEX(セファレキシン)は第1世代セファロスポリン系に分類されることや,バイオアベイラビリティが約90%と高いことから代用薬として使用されます.
その後,セファロスポリン系抗菌薬はグラム陰性菌に対するスペクトラムを拡大する方向で進化が進んでいきます.
グラム陽性菌に対してはCEZに比べると臨床効果は劣りますので,ここでは「△」としておきます.一方,グラム陰性菌に対しては何が変わったのか注意して見ていきましょう.
皆さん,おわかりのように「HaM」が加わりました.CTMは肺炎球菌に対して一定の効果があり,さらにHaMが加わることで,市中肺炎の主な起炎菌のうち,非定型肺炎(マイコプラズマ,クラミドフィラ,レジオネラ)以外をカバーすることが可能となりました.よって,以前は市中肺炎や副鼻腔炎,中耳炎などの経験的治療として先発投手を務める機会が多かった抗菌薬です.しかし現在では,より効果が高く点滴回数の少ない第3世代セファロスポリンのCTRXが登場したために使用機会は大幅に減少しています.
では話を進めましょう.セファロスポリン系抗菌薬はさらに進歩していきます.
グラム陽性菌に対しては臨床効果が期待できませんが,逆にグラム陰性菌に対してはさらにスペクトラムが拡がっています.
一覧を見てみると,PEK → HaM → SPACE の順にスペクトラムが積み上がっていることがわかります.ただし,ESBL産生菌には効果がないことから,その点には注意が必要です.
一般的には緑膿菌感染症に使用する機会が多く,COPDを背景とした緑膿菌肺炎や尿路感染症,環境に存在する緑膿菌により皮膚軟部組織感染症をきたした症例などに処方されます.
ここまで来ると,最終的にはグラム陽性菌についてもスペクトラムを拡げたくなりますね.そこで登場したのが次に紹介するCFPMです.
グラム陽性菌・グラム陰性菌ともにバランスよくカバーが拡がっています.
セファロスポリン系抗菌薬のなかでは最も広い抗菌スペクトラムを有していますが,こうやって見てみると嫌気性菌に対する抗菌活性は十分ではありません.添付文書には適応菌種として一部の嫌気性菌が挙げられていますが,第1選択薬として使用する機会は多くはありません.よって,咽後膿瘍や下部消化管穿孔などの症例でCFPMを単剤で使用することはきわめて少ないと考えられます.
一方で,発熱性好中球減少時のように,グラム陽性菌・陰性菌を広くカバーすることが必要なものの嫌気性菌が関与する頻度が低い状況では,CFPMは選択肢の1つとなります.
さて,ここで上の抗菌薬マップを見てみるとCAZとCFPMの違いは「グラム陽性菌」に対する抗菌スペクトラムだけのように見えます.しかし,実際にはグラム陰性菌にも大きな差があります.「SPACE」のなかにはAmpC型βラクタマーゼ産生菌であるエンテロバクター属菌やシトロバクター属菌などが含まれます.これらの細菌がAmpC型βラクタマーゼを過剰産生した場合,CAZは分解されて容易に耐性化しますが,CFPM は安定性が高いことから臨床的にも使用することが可能です.つまり,抗菌スペクトラムの観点からいうと,1+3 が4とはならず,第1世代セファロスポリン(CEZ)+第3世代セファロスポリン(CAZ)<第4世代セファロスポリンということになります.
なお,ESBL 産生菌に対しては,CFPM をもってしても残念ながら勝ち目はありません.
ここで,セファマイシン系抗菌薬とCTRX についても説明を加えます.
CMZはセファマイシン系抗菌薬です.嫌気性菌の部分に注目してください.全体的に第2世代セファロスポリンであるCTMと非常に似ていますが,嫌気性菌に対するスペクトラムが大きく異なります.したがって,CTMでは経験的治療として使用が難しかった横隔膜下の感染症(胆道感染症,虫垂炎など)に対しても広く使用することが可能となりました.さらに,ESBL産生菌に対しても,背景に重度の免疫不全がない症例やソースコントロール(感染巣の根源を絶つこと)が可能な症例で使用可能なことから,ESBL産生菌による尿路感染症でショックや膿瘍を伴わない症例に使用される機会が増えました.
次にCTRXです.
第3世代セファロスポリンに分類されますが,CAZとはスペクトラムや使用用途がかなり異なります.
まずは,CAZと異なりグラム陽性菌をカバーし肺炎球菌に関しては,肺炎のほか,髄液移行性も良好なことから,髄膜炎にも使用されます.一方で,CAZは「グラム陰性菌はお得意様」と記載していましたが,CTRXは環境中に存在する緑膿菌やアシネトバクター属菌はあまり得意ではありません.
セラチア属菌,シトロバクター属菌,エンテロバクター属菌に関しては「SPACE」の記載のとおり感性を有する株もみられますが,CAZの項で記載したとおりAmpC型βラクタマーゼ(→p. 110)を過剰産生すると容易に耐性化が進むことから,治療を行う際には十分注意を払う必要があります.
なお,臨床的には細菌性肺炎,胆道感染症,尿路感染症,髄膜炎などに使用される頻度が高くなります.
ところでインフルエンザ桿菌に関しては,ペニシリナーゼとペニシリン結合蛋白質(PBP)変異が主な耐性機序となりますが,「インフルエンザ桿菌」の項に記載があるとおり(→p. 47),CTRXはペニシリナーゼ産生株,PBP変異株のいずれに対しても効果が高く,インフルエンザ桿菌に対しては高い感性率を有しています.
CTRXの特徴としてはやはり半減期が長いことが挙げられ,他のセフェム系抗菌薬では1日2~4 回の投与が必要なものの,CTRXは1日1~2 回の投与回数となります.よって,病院の外来やクリニックで通院治療を行うことも可能です.また,主な排泄経路が腎ではなく肝臓(胆汁排泄)であることから腎機能による用量調整はおおむね不要であり,この点も大きなアドバンテージとなります.
ただし,CTRXは同抗菌薬を成分とする胆石,胆囊内沈殿物が投与中あるいは投与後に現れ,胆囊炎,胆管炎,膵炎などを起こすことがあります. よって,そのような懸念がある症例では同系統の抗菌薬としてCTX(セフォタキシム)を使用します.
これまでの情報に髄液移行性を書き加えて抗菌薬マップを完成させてみます.
演習問題 : 下気道感染症(市中肺炎)
患者
79 歳,男性
既往歴:高血圧
現病歴:数日前より膿性痰,咳嗽あり.昨日より発熱を伴い徐々に呼吸苦を認めたため来院.体温38.5℃,SpO2 92%,右肺野でcoarse crackle あり.胸部Ⅹ線検査にて右中肺野に浸潤影を認めた.血液検査にてBUN 17 mg/dL,Cre 0.85 mg/dL,白血球12,000/μL,CRP 8.9 mg/dL.
診断
細菌性肺炎
喀痰検査結果
Miller & Jones 分類:P2
Geckler 分類:5 群
塗抹検査結果

グラム陽性球菌貪食像を認めた.
選択肢
① CTRX(セフトリアキソン)
② SBT/ABPC(アンピシリン/スルバクタム)
③ TAZ/PIPC(ピペラシリン/タゾバクタム)
④ LVFX(レボフロキサシン)
⑤ LSFX(ラスクフロキサシン)
解答
①CTRX,②SBT/ABPC
解説
高齢者市中肺炎の症例です.肺炎の重症度にはA-DROPスコア(外部サイトPDFのp.31)がよく使用されており,本症例では「年齢」の項目のみの該当で中等症と判断されます.さらに低酸素血症もあるため入院となるでしょう.
市中肺炎の起炎菌として最も多いのはStreptococcus pneumoniae です.さまざまな病原因子や,局所免疫からの防御 機構をもつため,重症化することもまれではなく,重要な起炎菌となります.市中肺炎ではほかにHaemophilus influenzae(グラム陰性桿菌),Moraxella catarrhalis(グラム陰性球菌),Mycoplasma pneumoniae(グラム染色では染まらない)が起炎菌として多く,経験的治療ではこれらをカバーすることを考慮します.本症例では良好な品質の喀痰からグラム陽性双球菌が認められており,起炎菌としてS.pneumoniae が想定されます. さて,抗菌薬の選択は,S. pneumoniaeを念頭に置きつつ経験的治療を開始し,培養結果を確認するまで継続することになるので,①CTRXや②SBT/ABPCが第Ⅰ選択となるでしょう.もちろん肺炎球菌の単独感染と判明すれば,速やかにPCGかABPCに狭域化(de-escalation)を行います.③TAZ/PIPCは緑膿菌へのカバーが市中肺炎では不要であることが多く,第Ⅰ選択とはなりにくいです.④LVFX,⑤LSFXはともにキノロン系抗菌薬であり,喀痰のグラム染色からも非定型肺炎の可能性が低く,ペニシリン系抗菌薬が使用できる場合はあえて選択することは少ないでしょう.なお,キノロン系抗菌薬を使用したい場合は,LSFXには緑膿菌への活性がないことから,LVFXと比較し使用が優先されるでしょう.ただし,キノロン系抗菌薬は結核菌にも効果があるため,画像や経過から肺結核が否定しがたい場合には喀痰抗酸菌検査も検討します.

これで身につく!
感染症まるごとスタートダッシュ
「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で、学びを加速せよ!
「微生物×抗菌薬×感染臓器」の関係を、「感染症トライアングル」と「抗菌薬マップ」で“見える化”! 初学者にとって手強く感じる感染症の全体像を直観的に理解できる一冊。どんな微生物が存在し、それに対応する抗菌薬は何かという感染症の基本からスタートし、臓器ごとに感染症を起こしやすい微生物が違うのはなぜ? その臓器に到達しやすい抗菌薬は何? といった実臨床に直結する思考までをわかりやすく解説。
目次はこちらから
タグキーワード
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第4回]喉の痛みに効く(感じがしやすい)! 桔梗湯を活用した簡単漢方うがい術
<<ジェネラリストBOOKS>>『診療ハック——知って得する臨床スキル 125』より連載 2025.04.24
-
対談・座談会 2020.02.03
-
VExUS:輸液耐性が注目される今だからこそ一歩先のPOCUSを
寄稿 2025.05.13
-
医学界新聞プラス
[第10回]外科の基本術式を押さえよう――腹腔鏡下胆嚢摘出術(ラパコレ)編
外科研修のトリセツ連載 2025.03.24
-
医学界新聞プラス
[第11回]外科の基本術式を押さえよう――鼠径ヘルニア手術編
外科研修のトリセツ連載 2025.04.07
最新の記事
-
波形から次の一手を導き出す
多職種をつなぐ共通言語としての心電図対談・座談会 2026.02.10
-
健康危機に対応できる保健人材養成
COVID-19と大規模災害の経験を教育にどう生かすか対談・座談会 2026.02.10
-
対談・座談会 2026.02.10
-
取材記事 2026.02.10
-
インタビュー 2026.02.10
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。



