- 医学
実際どうなの? 糖尿病診療のココが知りたい
[第2回] DPP-4阻害薬ファーストはダメなのか?
連載 小森田祐二
2026.06.09 医学界新聞:第3586号より
糖尿病診療の現場では,DPP-4阻害薬は長い間「使いやすい薬」として定着してきました。低血糖のリスクが低く,体重増加も起こしにくい。腎機能が低下していても使いやすく,高齢者にも処方しやすい。日本の外来診療を考えると,これほど「無難」な薬はそう多くありません。
一方で,海外のガイドラインや最近のエビデンスを見ていると,長年第一選択薬であったメトホルミンや,心腎イベント抑制効果がはっきりしているSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が前面に出てきており,心腎イベント抑制効果に関するエビデンスの「ない」DPP-4阻害薬を使用,特に最初に使うなんて悪手じゃないのか? と言われることもあります。ところが日本の外来では,DPP-4阻害薬の処方率はダントツで一番です1)。このズレについて単純な答えを出すのは難しいですが,本稿ではエビデンスだけでなく,日本の外来において「DPP-4阻害薬の立ち位置」をどう考えるかを整理してみたいと思います。
DPP-4阻害薬は,どんな薬なのか
DPP-4阻害薬を一言で表すなら,「無難に,そこそこ血糖値を下げてくれて,ほとんど誰にでも使える薬」です。実臨床でもHbA1cはおおむね0.6~0.8%程度低下し,空腹時血糖と食後血糖の両方を穏やかに整えてくれます。血糖依存的に作用するため単独では低血糖が起こりにくく,体重は増えも減りもしない。アジア人,特にBMIが低いほど効きやすいというメタ解析2)もあり,実際にやせ型の患者にとっては比較的効きやすいと感じる場面も多いです。
また,副作用が比較的少ないことも,DPP-4阻害薬が長く使われてきた理由の一つです。消化器症状はGLP-1受容体作動薬に比べるとゼロに近く,体液量減少や脱水といったSGLT2阻害薬に見られる注意点もありません。単剤では低血糖のリスクもほとんどなく,高齢者や併存疾患の多い患者さんでも導入しやすい薬剤です。頻度の高い副作用として便秘や,まれに水疱性類天疱瘡なども報告されてはいますが,日常診療で「副作用が問題になって中止せざるを得ない」場面は多くありません3)。この「トラブルの少なさ」が,外来での使いやすさにつながっています。
一方で,限界もはっきりしています。体重減少効果は期待できず,心血管イベントや腎イベントを減らすエビデンスも示されていません。大規模心血管アウトカム試験では,いずれも「安全性は確認されたが,明確な上積み効果はない」という結果が出ています4)。
ガイドラインでの位置づけと,その背景
海外のガイドライン,とくに米国糖尿病学会(ADA)や欧州糖尿病学会(EASD)のコンセンサスでは,糖尿病治療の出発点として「動脈硬化性心血管疾患,心不全,慢性腎臓病の有無を確認すること」が強調されています5)。これらを合併している場合は,HbA1cにかかわらずSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を優先するとの考え方が明確です。この流れの中では,DPP-4阻害薬は第一選択薬として積極的に推奨される薬ではありません。
しかし,日本のガイドラインはややトーンが異なります。血糖降下薬の選択について明確な順番は示されず,「患者背景を考慮して選択する」ことが強調されています6)。これは日本の糖尿病患者の多くが高齢で,必ずしも肥満ではなく,欧米の試験対象と重ならない事情を反映しています。結果として,DPP-4阻害薬は「使ってはいけない薬」ではなく,今も重要な選択肢の一つとして残っているのです。
「無難だからDPP-4」で選ぶと危うい場面
DPP-4阻害薬は,目立った副作用なく,低血糖もほとんどなく,1日1回でそこまで値段も高くない,忙しい外来でも説明時間もあまりかからない薬ですが,選択すべきではない場面は,やはり存在します。
まず,明らかな肥満があり,体重減少そのものが治療目標となる場合です。日本人は欧米人ほど肥満でないとはいえ,内臓脂肪型肥満の患者は確実に増えており,「体重を減らさない治療」が必ずしも合理的とは言えません。
また,心不全をはじめとする心血管疾患や,慢性腎臓病をすでに合併している患者さんも同様です。これらの患者さんでは,「血糖値を下げる」だけでなく,「予後をどうするか」が治療の軸になります。DPP-4阻害薬は安全ですが,予後改善のエビデンスはありません。そのため,このような背景をもつ患者さんに対してDPP-4阻害薬をファーストに選ぶと,「何も足していない治療」になってしまうことがあります。
さらに,初診時からHbA1cが9~10%以上と高い患者さんでは,DPP-4阻害薬単剤では力不足になりやすく,結果として治療の立て直しが遅れがちです。「まずは無難に始める」という判断が,数か月後に「思ったより下がらない」という形で返ってくることも少なくありません。
日本の診療環境を考慮しても,以上のような場面では,DPP-4阻害薬ファーストは「現実的」ではあっても,「最適」とは言いにくい選択になります。
DPP-4阻害薬が「アリ」な層
そもそも糖尿病治療のゴールは,心血管・腎合併症を予防することだけではありません。網膜症や神経障害などを含めたさまざまな合併症(表)を防ぐことが本来の目的であり,そのためのサロゲートマーカーとして血糖値を良好に保つことは,今も変わらず重要な目標となります。
その前提に立てば,DPP-4阻害薬が適切な場面は今も確実に存在します。例えば,高齢でやせ型,低血糖をできるだけ避けたい患者,消化器症状などが原因でメトホルミンをどうしても継続できない患者,重度の腎機能低下やフレイルを背景に治療を極力シンプルにしたいケースなども含まれます。こうした状況では,予後改善を強く狙うよりも,「安全に,無理なく治療を続けられること」が優先される場面も少なくありません。
DPP-4阻害薬の中で違いはあるのか
結論から言うと,「効果,副作用はどれも一緒」だと思っています。DPP-4阻害薬vs.プラセボで比較した,58試験・約2.1万人に及ぶメタ解析の結果を見てみると,各薬剤のHbA1c低下量はだいたい−0.5~−0.8%の範囲に収まり,最大差でも0.3%程度に過ぎません(図)7, 8)。各薬剤が使用されている患者背景も異なりますので,この結果を持って,どちらが強いとは言えないでしょう。
薬剤ごとのHbA1cの低下量は-0.5~-0.8%の範囲に収まり,顕著な差は見られない。
というわけで,例えば「ジャヌビアが効かなかったからテネリアに替えてみよう」といった選択肢は得策ではありません。“どれを選ぶか”は,配合薬との兼ね合いや腎機能・剤形・後発品の有無(2026年6月時点では,ビルダグリプチン,サキサグリプチンのみ後発品あり)あたりを根拠とすべきでしょうか。
今月のまとめ
DPP-4阻害薬ファーストは,「ダメ」でも「正解」でもありません。日本の診療現場では,今も一定の合理性を有する選択です。一方で,肥満や心腎リスクが高い患者さんでは,選ばない理由を積極的に考えるべき薬でもあります。大切なのは,「無難だから」ではなく,「この人だからDPP-4」と言語化できるかどうかです。DPP-4阻害薬は主役ではないかもしれませんが,日本の糖尿病診療という舞台では,今も重要な脇役であり続けていると思います。
参考文献
1)J Diabetes Investig. 2022[PMID:34309213]
2)Diabetologia. 2013[PMID:23344728]
3)Ann Intern Med. 2020[PMID:32598218]
4)Cochrane Database Syst Rev. 2025[PMID:41263251]
5)Diabetes Care. 2026[PMID:41358900]
6)日本糖尿病学会コンセンサスステートメント策定に関する委員会. 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版). 糖尿病.2023;66(10):715-33.
7)Diabetes Obes Metab. 2025[PMID:39639837]
8)小森田祐二.いま,すぐ,ひける 糖尿病診療ノート.日本医事新報社.2025.

小森田 祐二(こもりた・ゆうじ)氏 林眼科病院付属林内科クリニック 院長
2009年九大医学部卒。福岡赤十字病院,九大病院,嘉麻赤十字病院など経て,20年より九大大学院医学研究院病態機能内科学特任助教。24年より現職。XではDr.U@内科医(@dr_ukio)として,糖尿病診療に関する有益な情報を随時発信中。著書に『いま,すぐ,ひける 糖尿病診療ノート』(日本医事新報社)。
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