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実際どうなの? 糖尿病診療のココが知りたい

連載 小森田祐二

2026.05.12 医学界新聞:第3585号より

 糖尿病患者さんを外来で診ていると,血糖コントロールが全てではないとわかっていても,HbA1cの変化やその原因を考える時間が多くなります。1か月でHbA1cが1%以上も上昇する急な悪化であれば,もちろん急いで原因を探す必要があります。一方,外来でよく遭遇する,0.1~0.3%ずつの小さな変化が積み重なっているケースについては,取り扱いに困っている先生も多いのではないでしょうか。

 こうしたときに大切なのは,HbA1cをその時の数字だけで「点」として判断せず,なるべく時間の流れの中で「線」として眺めることです。急に上がったのか,じわじわ上がってきたのか,上下を繰り返しているのか。動き方を見るだけで,対応の優先順位が自然と見えてきます(図11)。HbA1cを「線」で見ることは,正解を急いで探すというより,外来で無理なく考えるための1つの視点だと思っています。時間に余裕があれば,過去1~2年分のHbA1cをグラフにして,患者さんと一緒に見ます。「ここから少しずつ上がっていますね」と共有するだけで,血糖値悪化の「犯人探し」ではなく,「次にどうするか」の話がしやすくなります。

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図1 血糖変動パターンによる原因精査(文献1より許諾を得て一部改変して転載)

①急激な上昇 HbA1cが1か月で1%以上上昇するケースでは,まず「何か起こっている」と考えます。これほどの変化は生活習慣の乱れだけでは説明できないことも多く,悪性腫瘍(特に膵がん),生活環境の急激な変化,他院でのステロイド治療や,まれですが1型糖尿病の発症などを念頭に置きます。この悪化は「少し様子を見よう」では済ませらないので,原因がはっきりしない場合,特にHbA1c以上に血糖値が急激に悪化している場合は,入院施設のある専門医へ早めに紹介すべきです。

②緩やかな上昇の持続(継続的な悪化) HbA1cが毎回0.1~0.3%ずつ,少しずつ上がっていくタイプです。対応を急がなくてもいいのですが外来では流してしまいがちで,「気づいたら1%上がっていた」となりやすいのが落とし穴です。生活習慣の影響が背景にあることも多い一方で,糖尿病の進行や内因性疾患が原因となっていることもあります。このタイプでは,特に単発の数値にとらわれず,過去1~2年のHbA1cの流れをまとめて確認します。食事,活動量の見直しや,服薬状況の確認だけでも改善することがあるので,「徐々に悪化していることに医療者と患者さんが気づく」ことが大事です。

③ずっと高い HbA1cが半年~1年以上ずっと高いままの場合は,薬の細かい調整だけでは奏効しにくいことが多いです。このタイプでは一度立ち止まって,診断・原因・治療の噛み合わせをまとめて見直します。本当に2型の診断でよいか(緩徐進行1型の可能性を疑う),HbA1cが血糖を正しく反映しているか(貧血などの影響を見逃していないか)。生活面では患者さんが「頑張れていない」ととらえるのではなく,今の生活と照らし合わせて実行可能な内容になっているかを確認します。薬も同じで,処方が増えすぎて現実的に飲めていない,自己注射が負担になっている,といった「続けられない設計」になっていないかを確認します。

 ただ現実には,「高い状態に医療者も患者さんも慣れてしまった状態」や「外来では介入する時間がなさすぎる」ケースも多いので,一度時間をとって,入院,注射製剤を含めた治療変更を相談します。

④変動が大きい HbA1cが上がったり下がったりを繰り返すタイプです。この場合は生活習慣の影響を第一に考えます。一時的に頑張りすぎて反動が出たり,忙しい時期と余裕のある時期で差が出たりと,無理と油断を行き来していることも少なくありません。患者さん自身も「良いとき・悪いときの心当たり」があることが多いのが特徴です。このタイプでは,原因を詰めすぎるより,通院間隔を少し短くしたり,こまめに軌道修正するほうが有効だったりします。

⑤季節性がある HbA1cが毎年,ほぼ同じ時期に悪化するタイプです。この場合は特別な異常というより,季節に伴う生活パターンの変化が影響していることが多いです。春の歓送迎会シーズンに伴う飲酒量の増加,夏のアイスクリーム,秋の果物,冬の運動不足,仕事の繁忙期など,患者さん自身にも心当たりがあることが少なくありません。このタイプでは,完璧を求めるより,悪くなる時期を見越して早めに手を打つことが現実的です。「毎年この時期に上がっていますね」と先回りして声をかけるだけでも,悪化を小さく抑えられることがありますし,悪化するときだけ早めに薬剤を追加してもいいと思います。

⑥改善後の反発 治療開始や強化によって一度HbA1cが改善したあと,しばらくして再び悪化してくるタイプです。初期治療後,3~6か月頃に比較的よく遭遇します。この背景には,最初に無理をして頑張りすぎていたことや,治療そのものが心理的な負担になっていることがあります。また,糖尿病治療薬を減量・中止した影響が数か月遅れて表出することもあり,時間差に注意が必要です(担当医自身が忘れることもあり,当然ですが薬剤変更歴も経時的に記録しておくべきです)。このタイプでは心理的負担がかかりすぎていないか相談し,食事・運動療法と薬物療法のバランスを調整して無理のない形に組み直しましょう。

 HbA1cが悪化している場合,体重の変化と連動しているかどうかで,ある程度原因を絞り込めます。体重増加に伴ってHbA1cが悪化している場合は生活習慣による可能性が高いですし,体重増加を伴わないHbA1c悪化はそれ以外の問題に注意します(図21)

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図2 HbA1c変化と体重変化(文献1より許諾を得て一部改変して転載)
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 ただし実際の外来では,原因がきれいに一つに絞れることはあまりありません。体重が増えているからといって生活習慣だけが原因とは限りませんし,体重が変わらないからといって生活習慣が関係していないとも言い切れません。「犯人探し」にならないことも大切ですし,私は患者さんに,次のようにそのまま伝えることがあります。

「血糖が悪くなった(なかなか良くならない)理由が,①病気そのものの問題なのか,②薬の効きや治療内容の問題なのか,③生活習慣の問題なのか,正直なところ,今の時点でははっきりしません。生活のことは,私には見えない部分も多いので,思い当たることがあれば教えてください。」それでも原因が見えない場合や,外来での対応に限界を感じる場合には,一度入院してもらう選択肢もあります。入院下という,②や③をある程度コントロールした状態で①を評価することで,遠回りに見えて,結果的に原因に近づけることもあります。

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血糖悪化は1つの原因で説明できることのほうが少なく,複数の要因が重なっているのが普通です。生活要因が最も多いですが,病態,治療といった複数の要因が重なっていることも念頭におきましょう。犯人(正解)を探すよりも,いくつかの可能性を一緒に考えて整理し,1つずつ手を打っていくのが現実的だと思います。


1)小森田祐二.いま,すぐ,ひける 糖尿病診療ノート.日本医事新報社.2025.

林眼科病院付属林内科クリニック 院長

2009年九大医学部卒。福岡赤十字病院,九大病院,嘉麻赤十字病院など経て,20年より九大大学院医学研究院病態機能内科学特任助教。24年より現職。XではDr.U@内科医(@dr_ukio)として,糖尿病診療に関する有益な情報を随時発信中。著書に『いま,すぐ,ひける 糖尿病診療ノート』(日本医事新報社)。

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