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がん患者のせん妄を看護するエビデンスと臨床の間で
[第6回] 薬物療法の考え方――看護師が支える適切な薬剤使用の判断と観察
連載 吉村 匡史
2026.03.10 医学界新聞:第3583号より
せん妄に対する薬物療法において,看護師には「薬が効いているか」「副作用が出ていないか」「オピオイドの変更が必要ではないか」を見極める重要な役割が期待されています。本稿では,各薬剤の基本的事項を,実臨床における状況および『がん患者におけるせん妄ガイドライン第3版』(金原出版)1)(以下,ガイドライン)から紹介するとともに,実際のケアにおいて望まれる観察の視点を解説します。
抗精神病薬の適応
臨床でよく使用される薬物は,クエチアピン,リスペリドン,ハロペリドールなどですが,これらは全て保険適用外です。これら三つの薬物およびペロスピロンについては,厚労省から審査上認める旨の通知2)が出されているものの,それでも適用外使用であることに変わりはありません。そのため,せん妄に対する薬物療法を行う際には,患者および家族に効果や副作用などについてより一層十分な説明を行い,慎重に投与することが必要です。単剤投与を原則に少量から開始し,効果や副作用の評価を行いながら適切に用量を調整していく必要があります1)。
上記のうちクエチアピンは,不眠や興奮が顕著なせん妄に対する有効性が高いと考えられます3, 4)。ただし,糖尿病患者への投与が禁忌です。日本総合病院精神医学会の『せん妄の臨床指針(せん妄の治療指針第2版)』では,まず糖尿病の有無を確認し,糖尿病なしの場合はクエチアピン,ありの場合はリスペリドンの使用が推奨されています5)。
注射剤の場合,使用可能な薬物は限られており,まずハロペリドール単独の点滴静注または皮下注射を行うことが多いと考えられます。ただしハロペリドールで鎮静効果が得られない場合は,ベンゾジアゼピン系薬を併用することがあります。また,在宅医療や終末期などにおいて内服困難かつ静脈注射や皮下注射ができない場合,リスペリドン液や舌下錠のアセナピン,貼付剤のブロナンセリン,ベンゾジアゼピン系薬の坐剤を用いることもあります1)。
エビデンスに基づいた観点では,ガイドラインにおいては「せん妄を有するがん患者に対して,せん妄の症状軽減を目的として,抗精神病薬を単独で投与することを提案する。ただし,そのエビデンスの確実性(強さ)はD(とても弱い)である。せん妄を有するがん患者の全身状態や有害事象のリスク,せん妄の活動性などを鑑みて,状況に応じて個別的に抗精神病薬の投与の可否を検討する必要がある」とされています1)。ガイドライン作成に当たって採用基準に達した唯一の研究である無作為化比較試験6)では,せん妄の重症度の改善における抗精神病薬(リスペリドン,ハロペリドール)のプラセボに対する優位性は示されず,錐体外路症状増加や死亡率上昇の可能性が示唆されました。しかし,この研究では進行性で予後不良の軽症から中等症のせん妄を対象としていたことなどから,全てのがん患者への一般化については検討を要するとされています1)。また,ガイドラインでの採用基準は満たさなかったものの,11件中10件の観察研究にて抗精神病薬の有効性,安全性が示唆されました。
その他の薬剤の適応
ベンゾジアゼピン系薬の使用に関するエビデンスは少なく,またベンゾジアゼピン系薬自体がせん妄を惹起・悪化させたり呼吸抑制を引き起こしたりする可能性があります。したがって,ベンゾジアゼピン系薬の併用に当たってはメリット・デメリットを慎重に検討し,使用中は呼吸・循環動態などを注意深く観察して不測の事態に備える必要があります1)。ガイドラインでは「抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬を併用で投与することを提案する」とされていますが,その解説において「終末期の重症のせん妄を有するがん患者に対する鎮静目的であれば」との記載があるため注意が必要です1)。また,ベンゾジアゼピン系薬の単独投与は実施しないことが提案されています1)。
ヒドロキシジンについては,合併症によって抗精神病薬が使用できない場合や,呼吸状態が不安定でベンゾジアゼピン系薬が使いにくいケースなどで使用されることが実臨床ではあります。ただし質の高い研究はなく,ガイドラインではヒドロキシジン投与は単独投与,抗精神病薬との併用ともに実施しないことが提案されています1)。
トラゾドンについては,ガイドラインでは,単独で投与することを提案するとされています1)。ガイドラインの採用基準には達しないものの参考とされた研究(がん患者に特化したものではない)では,せん妄を有する入院患者194人を対象に,せん妄治療の第一選択薬と第二選択薬の有効性や安全性を検討した単施設後ろ向き観察研究において,第一選択薬としてトラゾドンが最も多く使用されていました7)。
投与開始のポイント
せん妄の原因には直接因子(身体的要因,薬剤要因),準備因子(高齢,認知症など),促進因子(心身の苦痛な症状,環境変化など)があります。最近では,促進因子への働きかけを行うことで,せん妄が予防できるという比較的質の高いエビデンスが揃っていることから,促進因子への介入の重要性が注目されています8)。促進因子への働きかけにより,臨床現場によっては,せん妄発症を約50%抑制することが可能との報告もあります8)。上記の促進因子の例としてはICUなどの環境や身体拘束が挙げられます。
薬物投与開始の目安としては,促進因子への介入が功を奏さない場合,興奮・混乱・不眠が患者の苦痛を著しくしていると判断される場合,そして,それらの症状により促進因子への介入が困難である場合が考えられます。
投与開始後の観察ポイント
せん妄の評価方法については,本連載の第2回で解説されています。せん妄の評価尺度はスクリーニングに適したもの,重症度評価に適したものなど複数存在しますが,ガイドラインでは推奨できる特定の尺度は挙げられないとされています(がん患者に使える尺度がないというわけではありません)1)。各尺度の解説は省略しますが,尺度を使用しない場合の目安として,例えば症状を「不穏」などと一括りにせず,改善をめざしたい症状(標的症状)1)を「不眠」「混乱」「幻覚」などと明らかにした上で,個別にその程度を評価するという方法が考えられます。
副作用については,全ての薬剤において,傾眠など過度な鎮静に注意する必要があります。過度な鎮静は,かえって患者の苦痛を高めることがあります。また,抗精神病薬では錐体外路症状の出現への注意が必要です。
オピオイドスイッチング
オピオイドスイッチングとは,オピオイドの副作用により鎮痛効果を得るだけのオピオイドを投与できない場合や,鎮痛効果が不十分なときに,投与中のオピオイドを他のオピオイドに変更することを指します。ガイドラインでは,「せん妄の症状軽減を目的として,オピオイドスイッチングを行うことを提案する」とされています1)。なお,同一の薬物でオピオイドの投与経路を変更することによるせん妄改善の知見はありません1)。
低活動型せん妄の鑑別と対応
ぼんやりして身体的,精神的活動性の低下を主症状とするせん妄を,低活動型せん妄と言います。がん患者において頻度が高く,苦痛を伴うため,その評価・マネジメントは重要です1)。比較的特徴的な点として,突然症状が始まること,日内変動があること,意識障害が目立つこと,身体的な要因があることが挙げられます。うつ病や認知症との鑑別を要しますので,これらの鑑別点を表1)に示します。
薬物療法については慎重な対応が望まれます。質の高い研究はありませんが,一般的に低活動型せん妄では薬物療法の有効性が低いとされています1)。複数の調査から,日本の精神科医,緩和ケアに携わる医師は低活動型せん妄に対する薬物療法を積極的には行っていないことが推察されます1)。一方で,週単位以上の予後が予想され,幻覚・妄想・不眠によって患者の苦痛が強い場合には薬物療法を行うこともあり得るとされています1)。
今回のPOINT
・薬物療法に当たっては,効果と安全性の継続的な観察が必須である。
・改善をめざしたい症状(標的症状)を明らかにして効果の判定を行う。
・低活動型せん妄の評価とマネジメントも重要である。
参考文献・URL
1)日本サイコオンコロジー学会,日本がんサポーティブケア学会.がん患者におけるせん妄ガイドライン2025年版.金原出版;2025.
2)厚労省.医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱いについて.2011.
3)Crit Care Med. 2010[PMID:19915454]
4)J Psychosom Res. 2010[PMID:20955868]
5)日本総合病院精神医学会せん妄指針改訂班(統括:八田耕太郎).せん妄の臨床指針――せん妄の治療指針 第2版.星和書店;2015.
6)JAMA Intern Med. 2017[PMID:27918778]
7)Asian J Psychiatr. 2018[PMID:29216606]
8)JAMA Intern Med. 2015[PMID:25844755]
吉村 匡史 関西医科大学リハビリテーション学部作業療法学科 教授
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