精神医学 Vol.68 No.1
2026年 01月号
特集 これだけは知っておきたい せん妄診療の現在
| ISSN | 0488-1281 |
|---|---|
| 定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
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特集にあたって
明智龍男(名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野/本誌編集委員)
日本は世界で最も高齢化が進んだ国となり,「超高齢多死社会」という新たな時代を迎えている。平均寿命の延伸とともに,慢性疾患や終末期医療のニーズは急増し,臨床現場では術後のせん妄のみならず,認知症や身体疾患を背景とした高齢者のせん妄が高頻度にみられる。私自身が地域の中規模の総合病院に診療支援で訪問することになって驚いたのが,そのせん妄の適切な早期発見・診断・非薬物療法を含めたマネジメント,ケアのいずれもがいきわたっていない状況にあることであった。
せん妄は,高齢者の生命予後や生活の質(QOL)に重大な影響を及ぼす頻度の高い器質性の脳機能障害であるにもかかわらず,医療現場では患者の性格に原因を帰する誤った見立てや鎮静を重視した不適切な薬物治療,身体拘束といった倫理的問題とも直結する。入院中の高齢者の20~50%に発症するとされるせん妄は,医療従事者の間でも依然として理解の差が大きく,統一的な対応がなされていないのが現状である。また終末期においては,身体状態の悪化に伴うせん妄をどこまで「疾患」として扱い,積極的にマネジメントすべきなのか迷うこともある。
本特集では,このような背景をふまえ,あらためて,なぜせん妄が高齢者に多いのか,という病態生理の理解をはじめ,薬物・非薬物療法の最新知見,難治例や終末期にせん妄を合併した症例への対応,さらに家族を含めたケアや看護に関する具体的実践まで,せん妄対策の全体像を多角的に検討することをねらいとした。
まず,せん妄の脳内メカニズムやリスク因子を整理し,高齢者の脆弱性に根ざした包括的な視点を提供する。続けて,類型別の鑑別診断や求められる異なる治療的アプローチ,肝腎機能障害をもった高齢者への具体的な薬物療法のストラテジー,抗精神病薬が効かない場合の次の一手,抗精神病薬以外の薬理学的アプローチ,非薬物的介入の工夫,認知症やパーキンソン病,心不全,がんといった基礎疾患が存在する場合のマネジメントの原則を整理する。これにより,精神科医のみならずせん妄患者が多くみられる医療現場のさまざまな職種が各現場で応用可能な内容になることを意図した。
また本特集では,回復困難な終末期せん妄に対しての「鎮静」はどのような倫理的・臨床的基準で判断すべきかについても論じる。死にゆくプロセスや緩和ケアの視点から考えると,終末期のせん妄を「マネジメントすべき症状」と捉えるのみではなく,「人の死の正常なプロセスの一部」として捉え直す脱医療的な視点も必要かもしれない。
超高齢多死社会におけるせん妄対策において精神保健の専門家が果たす役割は重要である。せん妄という,さまざまな病態から構成される多彩な症候群を,単なる一つの精神症状として捉えるのではなく,倫理的な側面を加え,さらには,多くの人が通る死の自然なプロセスといった視点についても考察したい。本特集が,診療の第一線に立つ医療関係者にとって,幅広い実践知に加え共感的な視点を得る一助となることを願っている。
収録内容
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特集 これだけは知っておきたい せん妄診療の現在
企画:明智 龍男
特集にあたって
明智 龍男
■せん妄の基礎知識:何がどこまでわかっている?
せん妄──ここまでわかった病態生理
八田 耕太郎
せん妄を見逃さないために──中核症状の理解と評価尺度の活用
和田 佐保
〈column〉 知っておきたいせん妄の鑑別診断
丸山 友佑・他
■せん妄に対するケアと薬の選び方:何をどう使う?
せん妄に対する抗精神病薬治療──肝・腎機能障害や内服困難時を念頭に
大賀 慎平・他
せん妄の抗精神病薬以外の薬物療法
竹内 啓善
難治性の過活動型せん妄に対する薬物療法,次の一手
上村 恵一
患者とスタッフ双方の安全と尊厳を守り,患者とその家族,多職種との対話を重視した せん妄ケアと身体拘束最小化の取り組み
佐藤 晶子
■ケースで学ぶ・せん妄の診かた:こんなときどうする?
〈column〉 夜間に他科からせん妄の診察依頼があった場合に必須の評価・対応
井上 真一郎
認知症に合併したせん妄への対応とせん妄予防としての非薬物的介入
田中 稔久
『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版』に基づいて考えるせん妄対応
谷向 仁
心不全に合併したせん妄
疇地 道代
アルコール離脱せん妄
渡邉 敬文・他
パーキンソン病に伴うせん妄
和田 健
死亡直前期の回復不能のせん妄──病気なのか? 正常な死の過程なのか?
大谷 弘行
〈column〉 終末期の回復不能のせん妄に対する緩和的な鎮静の是非
長谷川 貴昭
●短報
単科精神科病院における電気けいれん療法に際してロクロニウム血管外漏出が生じた一例
瀬戸 秀文・他




