- 看護
がん患者のせん妄を看護する エビデンスと臨床の間で
[第7回] せん妄対応の看護チームづくり――病棟単位で進めた仕組みと工夫
連載 佐々木千幸,角甲純
2026.04.14 医学界新聞:第3584号より
看護師がキーマンとなって他職種と連動を
せん妄は,短期間のうちに変動する注意障害や意識障害を生じる症状で,がん患者さんに高い頻度で起こります。ドレーン自己抜去や転倒などの医療安全上の問題,入院期間の延長,QOL低下だけでなく,患者さんや家族にとっても大きな苦痛を伴うことが知られており,重要な課題です。
非薬物療法的介入によってせん妄の発症を予防できることが先行研究からも報告されており,2020年度診療報酬改定ではせん妄ハイリスク患者ケア加算も導入されました。『がん患者におけるせん妄ガイドライン』1)でも,せん妄発症予防を目的に複合的介入を行うことが推奨されています。複合的介入としては,医療者や患者さんと家族へのせん妄に関する教育,多職種連携や専門家によるチームアプローチ,痛みや脱水,便秘などの症状マネジメント,環境調整(日時の認識,音楽など),せん妄のリスク評価,薬剤の変更や調整などを含むリスク因子の除去が挙げられています1)。これらの介入は,看護師が中心となって実施するケアが多くを占めることもあり,看護師がキーマンとなり,多職種と連携して患者さんにケアを提供していくことが求められています。
せん妄ケアは看護の力の見せどころ
せん妄の発症予防を目的とした非薬物療法を行う複合的プログラムとして,海外で有名なHELP(Hospital Elder Life Program)があります。HELPでは,見当識の補助,認知機能を高める活動,早期からのリハビリ,疼痛・不眠・低栄養・脱水・便秘・低酸素・感染のコントロールを行うことが含まれています2)。これらの内容を見ると,「いつも実施しているケアばかりだ」と感じる看護師も多いことでしょう。
しかし,どれだけ継続的にこれらのケアは実施されているのでしょうか。筆者らが,せん妄予防を目的とした非薬物療法の実施状況について看護師を対象にアンケートと診療録調査を行った結果3),せん妄非薬物療法に対する知識は全ての項目で90%を超えていた一方で,診療録に基づいたケアの実施状況は項目によって低いことが明らかになりました。
実施率が30%以下だったのは,「患者さんが見えるところに時計とカレンダーを置く」「見当識が維持できるように日付や時間について患者さんと話をする」「認知機能を維持するための活動」でした。これらは,個々の看護師の力量に任せて実施されていることが多いと思いますが,せん妄予防のためには計画的に統一して実施される必要があります。海外では「すでに実践されていると認識されているものの,一貫して実施されないケア」を,“Know-Do Gap”として紹介4)しており,せん妄予防のための非薬物療法のケアが一貫して実施される必要性が指摘されています。
せん妄予防のための非薬物療法のケアは,一度実施すればすぐに効果が見えるものではありません。一つひとつは地味で目立たないケアですが,継続的に実施すればせん妄の発症予防につながり,患者さんにとって大きな意味を持ちます。せん妄ケアは看護の力の見せどころと言えると思います。
患者さんの思いを尊重し個別性に合わせたケアを実践する
せん妄ハイリスク患者ケア加算を取得している施設は多くあると思います。しかし,忙しい臨床現場では加算を取るためにテンプレートを業務的にチェックして終わってしまうこともあるかもしれません。忙しい現場ではやむを得ない場合もありますが,病状や治療から考えられる症状や苦痛を早期にキャッチして苦痛緩和を行いながら,入院前に患者さんがどのような生活をしていたか,また患者さんの思いや希望を知り,個別性に合わせたケアを計画的に実施していくことが求められます。以下に,せん妄予防のための非薬物療法を実践した事例(個人が特定されないよう情報改変済み)を紹介します。
◆認知機能低下がある患者さんのせん妄予防
70代男性のAさんは,胃癌手術目的のために入院しました。Aさんは脳梗塞の影響から杖歩行で,外出はあまりせず,入院前は家にいることが多かったようです。入院中に病室がわからなくなることが頻繁に発生したために,入院を担当した看護師が認知機能低下を疑い,リエゾンチームにコンサルトしたところ,認知機能低下があることが確認されました。安全に周術期を過ごし早期退院ができるように,主治医,病棟看護師,理学療法士,管理栄養士,リエゾンチームによるカンファレンスが行われました。見当識の維持,記憶の保持ができるようなサポートが必要であることがリエゾンチームから共有され,次に示した介入を多職種で計画,カルテに記載し,ケアが統一できるようにしました。
わかりやすく簡潔なオリエンテーション
主治医からの説明や看護師によるオリエンテーションは,要点をまとめた紙を用いて行いました。病室には,Aさんが見える位置にカレンダーや時計を置き,禁食などAさんにしておいてほしいことを日ごとに貼って,すぐに確認できるようにしました。Aさんは混乱することもあったものの,その都度紙を用いて日付や予定などを伝えるようにすると落ち着きました。
症状コントロールし,本人の希望に沿った早期からのリハビリ
杖歩行であったことから,入院中にADLが低下しないように手術前からリハビリを実施することにしました。しかし,元々家でも横になって過ごすことが多く,リハビリが億劫に感じたようで,特に術後はリハビリの拒否がありました。
Aさんが体動時に苦痛表情を浮かべることに気づいた担当看護師は,主治医と相談し,定時で鎮痛剤を開始しました。またAさんとの対話の中で,術後なかなか体が思い通りにならないことをとても苦痛に感じていること,家族仲がよく,家族と過ごすことをとても楽しみにしていて「家に帰りたい」という強い思いを抱えていることがわかりました。これらの情報をチームで共有し,1日の計画を立て,Aさんの思い通りにならないもどかしさを受け止めながら,「家に帰るために今日は病棟を1周しましょう」と具体的な目標をAさんと共有するようにしました。Aさんはリハビリを拒否することはほとんどなくなり,リハビリが実施できるようになりました。
本人の興味に基づいた気分転換や認知活動
Aさんは野球と甘いものが好きであるという情報を担当看護師が家族から得ました。そこで,テレビで野球番組をつけるようにし,主治医や栄養士とも情報共有の上,家族の協力のもと,摂取可能なジュースや和菓子などを食事に取り入れるようにしたところ,Aさんが朗らかに過ごす時間が増えました。
*
患者さんの症状コントロール,治療や副作用の対応なども当然せん妄ケアに該当するものの,患者さんにする自己紹介や朝のあいさつ,患者さんの好きなことや家族のことについて話をするなど,日々の何気ないケアも大切です。これらが見当識の保持や患者さんの興味ある活動を促すこととなり,せん妄の発症予防に向けた非薬物療法と言えます。看護師が個々の努力で行っている何気ないケアがせん妄発症予防ケアとして認識され,継続的に実施できることが重要だと思っています。
今回のPOINT
・看護師はせん妄ケアのキーマン。
・せん妄の発症予防を目的とした非薬物療法は当たり前と思うケアだが,誰でも統一して実施できるように計画し,記録していく。
・患者さんの思いを大切に個別性に合わせたせん妄の発症予防をめざしたケアを実施する。
参考文献
1)日本サイコオンコロジー学会,日本がんサポーティブケア学会.がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版.金原出版;2025.
2)JAMA Intern Med. 2020[PMID:31633738]
3)佐々木千幸,他.がん専門病院におけるせん妄予防のための非薬物療法に関する看護師の知識・認識,実施状況についての実態調査.Palliat Care Res. 2025;20(Suppl.):341.
4)JAMA Intern Med. 2015[PMID:25642659]
佐々木 千幸 国立がん研究センター中央病院看護部
角甲 純 三重大学大学院医学系研究科看護学専攻生涯発達看護学講座 教授
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