医学界新聞

対談・座談会 酒井郁子,稲井久美子,鈴木靖子

2026.04.14 医学界新聞:第3584号より

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 看護師の特定行為研修制度は開始から約10年が経過し,修了者は全国でのべ1万3000人を超えました。本制度により育成される高度な看護人材は医療の質向上に資するだけでなく,医師のタスク・シフト/シェアや地域医療の推進においても重要な存在です。
 次の10年に向けて,修了者をさらに増加させ,特定看護師を広く現場に定着させていくために,どのような課題をクリアしていかなくてはならないのか。臨床現場,研修機関,基礎教育の各領域で本制度にかかわる3人が意見を交わしました。

酒井 私は2020年度から厚生労働省の地域医療基盤開発推進研究事業のもと,急性期病院における特定行為研修修了看護師(以下,特定看護師)の活用・配置ガイドの作成に携わりました1)。これが契機となり厚生労働省医道審議会のメンバーとして看護師の特定行為研修制度(以下,本制度)の検討・推進にかかわるようになったほか,千葉大学では附属病院の総合医療教育研修センターで21区分全ての特定行為研修の立ち上げ・管理運営にかかわりました。加えて,千葉大学大学院看護学研究科看護実践学コースの特定看護学プログラムを立ち上げ,大学院教育を行ってきました。現在はプライマリ・ケア領域での特定看護師活用に関するガイド2)の策定にも携わっており,大学院教育や制度的な枠組みの構築といった立場で本制度にかかわっています。

鈴木 地域医療振興協会(JADECOM)の鈴木と申します。当法人は地域・へき地医療の充実をミッションとしており,本制度施行の初年度から指定研修機関(JADECOM-NDC研修センター)を立ち上げ,運営を続けてきました。どこへ行っても柔軟に対応・活躍できる特定看護師の育成をめざし,21区分38行為全てを履修するコースを運用しています。

稲井 関西医科大学は2020年から法人内で特定行為の研修制度を立ち上げており,私は立ち上げ当初から管理者として運用に携わっています。現在勤務する総合医療センターには50人,法人全体としては200人を超える特定看護師が活躍しています。多くの人材を抱えるがゆえの課題もあり,本日はぜひ皆さまの知見を参考にさせていただきたいと考えています。

酒井 本制度に関する議論は2010年に始まりました。長い検討期間を経て2015年に制度が開始され,その後も約5年おきに見直しや改変が行われています。ちょうど先日,「看護師の特定行為研修制度見直しに係るワーキンググループ」(以下,WG)から2040年の地域医療体制構築を見据えた本制度の見直しに関する報告書が公表されました3)。WGに参加していた鈴木先生から,議論のポイントを共有していただけますか。

鈴木 WGでは大きく2つのテーマが扱われました。1つは効果的・効率的な研修についてです。基礎教育,新人教育,特定行為研修という流れの中で,看護師としての知識・技能を切れ目なく積み上げていく教育・研修づくりに向けた議論がなされました。特に共通科目は全ての看護師が身につけるべきベースとなる知識であり,基礎教育から組み込んでいくことが重要であるとの考えが示されています。また,区分別科目においてはシミュレーターの活用と患者に対する実技の必須化,研修生の習熟度に合わせた症例数の設定の必要性といった議論のほか,履修免除の在り方についても話が及びました。

酒井 もう1つのテーマは何でしょう。

鈴木 特定行為の内容そのものの見直しです。追加受講が必要となる大幅な変更ではなく,現行の特定行為について,現場のニーズを踏まえた見直しの議論が行われました。例えば「皮膚損傷に係る薬剤投与関連」におけるステロイドの局注については削除すべきとの意見もありましたが,抗がん薬でなくても知識としては輸液漏出時の対応などで役に立ったという実績報告があったり,化学療法領域からは何らかの形で残してほしいとの期待もあったりで,1年間の経過措置となりました。

酒井 共通科目を資格取得前の基礎教育へ移すというシームレスな教育・研修の構想は,看護基礎教育に携わる側にとってもインパクトの大きいものでした。特定行為自体の見直しに関する議論では,エビデンスを集積し,正確な実施状況を把握した上で次年度以降に検討するという,いわば特定行為研修の見直し・変更の方法について方向性が打ち出された点が特徴的ですね。

酒井 特定「行為」という名前のためか,本制度は特別な手技ができる人材を育てていると誤解されがちです。しかし実際のところ制度のコアは手技ではなく,高度な臨床判断能力の育成にこそあります。この10年間は臨床推論をアセスメントにどう組み込み,適切なケアを看護計画にどう反映させるかを模索してきた期間だったと言えます。現場ではどのような変化や新たな価値が生まれていると感じていますか。

稲井 当院では看護職の働く姿勢にポジティブな変化が見られています。すでに特定行為を実践している先輩を見て,自分も研修を受けたいと主体的に希望する人が増えており,キャリア形成に良い影響を与えています。また,特定看護師が高い臨床推論能力を生かして日々のカンファレンスやスタッフ間の議論を牽引する場面も頻繁に見られ,頼もしく感じています。臨床においても,例えば中心静脈カテーテルの抜去を特定看護師が行うことで,医師を待たずに患者さんにシャワー浴をしてもらえるなど,患者さんの生活リズムやニーズに柔軟に対応したケアの提供がより可能になっており,患者さんのQOL向上にもつながっていると実感しています。

鈴木 当法人では特定行為の実施そのものよりも,特定行為を実施せずに済む患者管理や早期介入によって予期せぬ急変が減ったという報告を多く受けています。さらに医師への報告における質と精度が高くなったことで医師の判断が早まり,指示出しまでの時間が短縮されるなど,看護師の役割拡大が確実に進んでいます。臨床判断能力をはじめ,本制度によって看護師一人ひとりのジェネラルな能力の向上が進んできたからこその結果だと思います。

酒井 能力の高い特定看護師ほど特定行為が必要な状況に至らせないよう予防的に介入するため,特定行為の実施件数はそれほど増えないということも徐々に明らかになってきており,それを裏付けるようなお話だと感じました。特定看護師の活用や本制度の本来の目的に立ち返っても,特定行為の実施件数そのものはそこまで重視すべき指標ではなく,患者のアウトカムの改善がより重要な指標であるという点は押さえておきたいですね。

稲井 活動評価の一部を実施件数にしたことで件数にこだわってしまう部分があり,手技を行うために特定看護師として個別の活動日を求めてくる声も聞かれます。特定看護師は研修を経て高められた臨床推論能力を自然と日常業務の中で発揮しているはずなのですが,その認識はいまだ発展途上にあります。手技の実施にとらわれず,日々の看護実践に根差した視点をもっと教えていかなくてはならないと感じている次第です。

酒井 稲井先生の施設のように法人全体で200人規模の特定看護師がいる施設は,各現場の各勤務帯に特定看護師を安定して配置できていると思いますので,そのような悩みも生じてくるのでしょう。一方,特定行為研修の修了には時間がかかり,医師の指導リソースにも限界があるため,一部署に1人,あるいは病院全体で数人しかいないという状況の施設も全国的にはまだまだ多いです。そうした導入初期にある施設や部署は,特定看護師としての活動日を設けないと臨床判断・手技実施の機会が得られず実践能力の向上を図ることが難しくなる可能性もあるかもしれません。自組織が現在どの段階に...

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千葉大学大学院看護学研究院高度実践看護学講座 特任教授

1983年千葉大看護学部卒。97年東大大学院医学系研究科博士課程(保健学)修了。07年千葉大ケア施設看護システム管理学教授,15年同大大学院看護学研究科附属専門職連携教育研究センターのセンター長を経て,21年より同大大学院高度実践看護学・特定看護学プログラムの担当となる。26年4月より現職および同大名誉教授。

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公益社団法人地域医療振興協会NP・NDC研修センター 次長

1983年国立横須賀病院附属看護学校卒業後,母体病院へ入職。国立相模原病院,国立横須賀病院を経て,地域医療振興協会横須賀市立うわまち病院へ。2012年認定看護管理者取得。15年より法人本部へ異動。制度施行初年度から法人の特定行為研修に携わり,現在に至る。指定研修機関協議会理事,厚生労働省医道審議会専門委員を務める。

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関西医科大学総合医療センター 看護部長

1995年に関西医科大学附属看護専門学校卒業後,同大病院に入職。18年より業務・教育担当看護副部長に就任する。19年より看護師特定行為研修立ち上げに携わり,21年より同大学看護キャリア開発センター教育・研修・看護実践支援部門,看護師特定行為研修・実践支援部門副部門長兼務。24年認定看護管理者資格取得,25年より現職。

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